うっかりバレンタイン・ディ 〜岬くん編〜
『うわあぁあぁああぁぁあぁ・・・・』 うっかりすっかり忘れていたが、今日はSt.バレンタイン・ディvだった。 いくら海外暮らしが長いとはいえ、日本の悪しき(?)風習を忘れるほど年ではない。 お菓子メーカーの策略にまんまと乗せられているのだが、日本の男共はこれに命をかけている風さえある。 ましてや、この手のイベントごとをかかすことのないあの男が、今日の日を忘れているとは思えない。 『ど、どどどどどどどうしよおぉ〜〜〜・・・・・・(滝汗)』 岬は背中を滝のように流れ落ちる嫌な汗を拭うこともできずにいた。 「おはよ♪」 『ひいぃいいぃぃいぃいぃぃ・・・・』 ベッドに座ったまま呆然と考えこんでいた岬はその声に心臓が口から25Mほど飛び出しそうになった。 「お、おはよぉ〜♪」 なんとか挨拶を返したものの、心臓は火事を警告する早鐘のように脈打っていたし、笑顔は口の端が引きつっているのが自分でも分かる。 「今、朝ご飯の支度するねっ!」 自分を奮い立たせ、さっさとこの場を離れようとしたのだが・・ 「なぁ?今日はバレンタイン・ディだよなvチョコ頂戴?枕もとに置いてあるのか?・・ってそれはクリスマスか?」 「あはは♪」といつものようにご陽気に笑い、両手を差し出してチョコを催促する若林。 今日こそこの天真爛漫な笑顔が憎いと思ったことはない。 「あ、あはは♪それは帰ってきてからのお楽しみだよvすっごく手の込んだチョコ作っちゃうんだからぁ〜んvv」 「ぁ〜んvv」などと可愛くポーズをつくってみたりした。 駄菓子菓子(だがしかし) 「ふぅ〜ん?今年は用意してないんだ?今までは朝一番でくれてたのに?それに今日の練習はどうするんだ?」 若林は笑顔のままだったが、周囲の空気が一気に凍った。 『ひょえぇええぇえぇぇええぇ・・・・』 予想をはるかに上回る怒りに、岬はシベリアのド真ん中に置き去りにされたような心地になった。 これはもう、素直に謝っておいた方がいいだろう。もう、今日は練習は休みだ! そして誠心誠意、今日一日をかけて手の込んだチョコレートを作って帰りを待とう!と即座に判断した。 「ご、ごめんね!どんなチョコを作ろうか?いろいろ迷ってるうちについ・・うっかり・・・今日は練習休むよ!それでチョコ作って待ってるから・・・」 目線を明後日の方へ向けて少し考えているような若林だったが突然立ち上がると静かに寝室を出て行った。 『ああぁあぁ〜〜・・・めちゃくちゃ怒ってるのぉおぉ〜〜?(T_T)』 がくり。とうな垂れていた岬の元に以外にあっさりと若林が戻って来た。 「岬、今日、チョコ作んなくていいぞ。」 「え?」 それはもう、チョコなんていらないということなのか?と岬はとても悲しく思った。 「俺が作るからな。」 「え?」 「とりあえず、俺からだ。受け取ってくれv」 若林が抱えてきたのは巨大な熊の形のチョコレートだった。ご丁寧に若林とおそろいの帽子まで被っている。 『どうしてこう、始末に困るようなモノばかり持ち込むんだ?・・・』 唖然とする岬をよそに、若林はそのチョコ熊をベッドに寝かせた。 そしてそのチョコ熊の上に岬を跨がせると、引きちぎるように岬のパジャマを脱がせ始めた。 「な!?何するんだよっ!」 「チョコレートを作るんじゃないか。」 「え?」 「こうして二人の熱でチョコを溶かしてぇ〜、岬くんをコーティングするのさ〜vv」 「れ!練習はっ!?」 「今日は『気分が悪いから休み』!」 『怒ってるぅうぅぅ〜〜・・・うっ・・・うえぇえぇぇええぇぇ〜〜ん・・・・』 いつもは塩っぱい涙の味も、今日は甘いココアの味だった。 END |