ホワイトディ、それはめくるめく甘い夜のために?


ホワイトディには、翼と岬はそれぞれの恋人に手作りのクッキーを渡すことにした。

二人して『やっぱりシンプルに行こう!』ということになったのだ。そこでホワイトディ前日の3月13日、翼は岬の家に出向き、クッキーの作り方を教わった。型抜き、絞り出し、アイスボックスクッキー・・・、いろいろと迷ったが、結局ハート型でバニラとチョコの2種類の味のクッキーを送る事にした。
岬はというと、彼はやはり作りなれているので(笑)ちょっと凝って絞り出しクッキーにした。
ケーキなどと比べれば見た目には地味だけれど、それぞれ自分の手作りということで気持ちはかなりこもっているはずだ。(貰ったものはとんでもないものだったが)ラッピングだって、慣れないながらも自分達で用紙やリボンまで選んで包んだ。
「ありがとう、岬くん。岬くんのおかげで明日が楽しみだよ。喜んでくれるかな〜、三杉くん・・・。」
「大丈夫だよ。翼くん愛情たっぷりのクッキーだもん。三杉くんが喜ばないはずないよ。じゃぁ、気をつけて帰ってね。」
「うん。じゃぁねvv」
翼が岬の家を出た頃には空には星が輝いていた。

翼は胸に抱いた可愛らしい包装の箱の中から漏れ出す甘い香りと自分の胸の内の甘い想いに酔いながら、夜空の星を見上げて歩いた。
「♪星に〜願いを〜・・・ああ、きれい。明日はいいお天気になりそうだなぁ・・・」
ドガッ!べしゃっ!
「いっ!痛たったたた・・・!ああっ!クッキーッ!・・・だ、大丈夫みたい?」
何かにつまづいて転んでしまったものの、咄嗟の判断でクッキーの箱を守ることには成功したようだ。
「ひゃ〜、よかったぁ。も〜!!(怒)それにしても、何が置いてあったんだ!?」
大事にクッキーを抱えなおしながら自分の後ろにある物体を確かめると
「犬小屋・・?あ、違うか・・・」
それはダンボールで作られた家の形のオモチャだった。子供が作ったのであろうか?少し大きめの箱を土台に三角屋根がついている。
周り全体にはマジックで落書きが・・それでも窓や瓦にみたてたような模様が描かれていて、子供1人くらいなら縮まれば中に入って遊べそうである。
「む〜!捨てるんならちゃんと畳んで捨ててよね!それにしても俺もドジだよね〜?・・・」
誰に言うでもなく独り言をつぶやいて空を見上げれば、そこには満天の星。そして翼の頭の中にも☆マークが浮かんだ。
「そ〜だ!!いいこと思いついちゃった〜♪よいしょっと!」


ピピピ、ピピピ、ピピッ、ピピッ
「・・・ん、ん〜?・・ああっ!ヤバイ〜!!支度しなくっちゃ〜!きゃ〜!」
翼は慌てて飛び起きた。時刻は・・朝ではない。もう夕刻を示している。あれから翼は徹夜でクッキーを焼いていたのだった。
昨夜つまづいたダンボールのオモチャを家に持ち帰り、とりあえず一通り埃を払うと翼は猛烈な勢いで大量のクッキーを焼き始めた。
ほとんどが天板一面もあるような大きな四角のクッキーで形を作るのは楽だったが、なんと言っても枚数が半端じゃない。更に焼きあがったクッキーをダンボールに貼り付けるという作業もあった。
そう、翼は『お菓子の家』を作ったのだった。ダンボールで形作られた家に両面テープでクッキーの壁や瓦を貼り、所々に色とりどりの飴やチョコレートなどを飾りつけて完成させたもので、お菓子作り初心者の作品にしては上出来すぎるほどの出来だ。
と、翼は思った。リビングの真ん中にデン!と置かれたお菓子の家を満足げに眺める。
「えへへv初めてクッキーを焼いた日にここまでのものを作れるなんて、俺って天才?才能アリアリ?」
俺様王様な翼はすっかり自分に酔っていた。
お菓子の家づくりで結局当日の昼までかかってしまい、三杉との約束は夜の7時だからと仮眠を取ることにした。念のため目覚ましをかけて。
その目覚ましは約束の1時間前、6時にセットしてあったので目を醒ました今は急いで支度をしなければいけなかったにもかかわらず、つい、つい遊んでしまったのだ。
「・・・ちょっと中に入ってみようかな?」
シャワーを浴びようと用意した着替えをソファーに置くと、お菓子の家の扉を開けて中を覗き込む。
お菓子の家の扉は片方だけが残されたまま切り抜かれていたのでちゃんと開け閉めが出来るようになっている。中は翼が思っていたより広そうに見えた。
「なんとか体全部が入るくらいの大きさはあるかなぁ?・・ぃしょっと。」
犬のように四つんばいになりながらお菓子の家の中に入っていく。肘も曲げて、脚も折りたたんで・・なんとか家全体に入り込んだ感じがした。
「わ〜♪俺、今お菓子の家に入ってるんだ〜♪・・・でも中はやっぱりダンボールだよな・・つまんないの。中もクッキーとか貼ればよかった。ちぇ。」
外から見ればそれなりのお菓子の家も所詮ダンボールで形づくったものだ。当然と言えば当然の結果なのだが翼は幾分がっかりしながら溜息をついた。
そして外に出ようと後ずさりし始めたのだが・・・
「・・・!!!で、出られない!??・・・」
どうにもお尻がひっかかってしまって動けないのだ。ずいぶんいろいろサれてふくよかになったんだねぇ(笑)
無理に動けば動けなくもないのだろうが、そうすれば折角のお菓子の家も壊れてしまいそうだった。
「どおしよぉぉ〜〜・・・(T_T)」
翼が途方にくれていると遠くの方からガチャンと本物の扉が開閉する音がした。

バレンタインディに連れて行かれたホテルで散々な目にあわされた翼は「ホワイトディには絶対どこにも行かないから!」と三杉を自分の家に呼ぶことにしたのだ。合鍵を持っている三杉が翼の部屋に入ってくるのは当然だろう。
「いや〜〜!!三杉くん、もう来ちゃったの!?早すぎるよ〜!約束は7時のハズだろう?気が利かないんだから〜!バカ〜〜!!」
行き場のない怒りを三杉にぶつけながら、ジタバタしてみるが、やはり動けない。困った翼は取りあえずこのまま隠れていることにした。
お菓子の家には扉がついているし、身体全体は中に入り込んでいるので見えないだろう。三杉がリビングに入れば嫌でもお菓子の家は目に入る。その後姿の見えない翼を捜しに三杉がリビングから出た隙にここから出ればいい。
その時にお菓子の家を壊してしまっても、三杉は一度は完成品を目にしているはずだから良しとしよう。そう考えたのだ。
いわれのない八つ当たりをされているとも知らずリビングに踏み込んだ三杉が目にしたものは、クッキーや飴、チョコに飾られた小さなお家。
と、その扉から覗く翼の可愛いお尻v
『・・・翼くん・・・イキナリ誘っているのかい?そりゃあ僕は君とならいつでも準備OKだけど?でも・・・』
どう反応していいかわからず、しばらくその美味しそうな光景を眺めていたが、翼は動かず、一言も発しない。
『もしかして、翼くん。隠れてるつもり?』
思わず吹き出してしまいそうになるのをこらえながら三杉はわざと少し大きめの声でしゃべった。
「やぁ、可愛らしいお家が作ってあるなぁ。素晴らしい出来だ。翼くんが僕のために作ってくれたのかな?」
『えへvそうだよ〜♪俺が作ったんだ〜。三杉くんのた・め・にvやっぱ料理は愛情だよね〜v』
やはり動かず、言葉もない。これは自分がどこかに行った隙に出てくるつもりなのだと勘のいい三杉はすぐに察した。
「ところで、翼くんはどこにいるのかなぁ?あ、ソファーに着替えが置いてあるぞ。きっとバスルームに違いない。ちょっと見て来ようかな?」
芝居がかったセリフを言いながら、足音もわざと大きくたててリビングを出て行く。『少しゆっくり目に戻ってあげよう。』緩む口元を押さえながら三杉はバスルームで時間を潰した。

10分ほどもたってからリビングに戻った三杉が目にしたのは今だお菓子の家から抜け出せず悪戦苦闘している翼の姿だった。
翼はお尻はなんとか抜け出したものの、今度は肩のあたりが引っかかってしまって、頭を抜くことが出来ないでいた。
「もうやだ〜〜!!三杉くぅ〜ん!ふぇえ〜〜ん・・・」
三杉は笑いをこらえながら黙ってお菓子の家を押さえてやった。お菓子の家は軽くて身体と一緒に動いてしまうから上手く抜け出せないのであって、固定してやればすんなりと抜け出すことができた。
「ぷは!はぁ〜〜・・・っあ!」
やっとの思いで箱の中から抜け出すと、その向こうからにこりと微笑み見下ろしている三杉と目があった。
翼はみるみる真っ赤になって目には涙がじわじわと盛り上がっていく。なんとも情けない姿を見られたうえに、今の自分はと言えば狭い箱の中でもがいたために髪の毛はぼさぼさ、クッキー作りのなごりで頭の上から体中粉で真っ白。
頭の中も真っ白になっていくようだった。
粉だらけのエプロンの端を握り絞めながら涙をこらえ、ふるふると震える翼に三杉はそっと触れるだけの優しいキスをした。
「僕のためにがんばってくれたんだね?すごいね、翼くん。可愛らしいお家が出来たね。こんなにがんばってくれた君もすごく可愛いよv」
小さくなっている翼を包み込むように抱きしめると背中に回された手がしがみついてきた。
「俺っ・・俺ね、がんばったの。昨日は寝ないで今日の昼までかかって作ったの。三杉くんに喜んで欲しいからっ・・・」
えぐえぐと嗚咽しながら自分にしがみついてくる翼が心から愛しいと三杉は思った。子供をあやすようにぽんぽんと背中を叩いてやっていると少しは落ち着いてきたようだ。
「よしよし。翼くん、バニラの甘い香りがするね?でも、お風呂に入る途中じゃなかったの?お湯を張って用意してあるんだけどな。」
「えへへvそうだね。なんか甘い香りがするね?でも、そうなの。シャワーでも浴びようと思ってたんだ。お湯の用意をしてくれてあるならちょっと入ってきてもいい?」
照れ笑いをしながら返事をする。確かに甘い香りがするものの、風呂にも入らず作業をしていたのでなんだか身体が気持ち悪い。
「もちろんだよ。って言うか、僕も一緒に入っていい?」

『えっ!?』
翼はなんとな〜く嫌な予感がしたが、先ほど助けてもらったのであまり強く言えなかった。
「う・・うん!もちろんだよ!三杉くんがそうしたいんなら・・・あ、でも夕食の支度とか先にしておいてもらえるとありがたいんだけどなぁ〜?作ってくれるって言ってたよね?」
なんとか一緒にお風呂vを回避しようと提案してみるが三杉の切り返しはさすがだった。
「今日の夕食はね『チーズフォンデュ』にしたんだ。材料は切って用意したのを持ってきたし、チーズは直前に溶かした方がいいよ。」
「あ・・・っそ。そうだ!あのね、ほんとはね、こっちがメインのクッキーなの!ハイ!!どうぞ!受け取って♪」
翼は可愛らしく包装した包みを差し出す。
「これはね、昨日岬くんに教えてもらって作ったクッキーなの。だから絶対おいしいよ!ね?食べてみて?」
三杉がリボンを解き、包装を開けている間にも翼は少しずつジリジリと後退して行った。
「やぁ、これまた可愛らしいね。・・・うん、美味しいよvさすがは翼くんだ♪」
「でしょう!?それ食べて、紅茶でも飲んでて!俺その間にちょっと入ってくるから〜〜・・・」
ダッシュでバスルームに駆け込むのももどかしく服を脱ぎ捨て、勢い良く浴室のドアを開けると、むせ返る程の強い甘い香り。そして湯船に張られたお湯は何故か真っ白だった。
「な、なに?これ?・・・・」
唖然として立ち尽くしていると腰のあたりを捕まえられ、うなじに息が掛かる距離から囁きかけられた。
「翼くん。『チョコレートフォンデュ』って知ってる?本当は食事の後のデザートに、って思ってたんだけど、君がお風呂に入りたそうだったからちょっと計画変更してみました。僕のホワイトディのメインはね、こっちなんだv」
くるりと向きを変えられる。真正面には満面の笑みの愛しい恋人の顔。

「ハイ!どうぞ、受け取って♪」



END




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言い訳v
ほら、どぉ?オモシロ可笑しいでしょう?エロくないでしょう?千ちゃんお笑いだもんね〜?
本当にチョコフォンデュができるほどお風呂にチョコ溶かしたら風呂釜が壊れちゃう!とかそういうツッコミはなしで(笑)
まぁ、そんなに大量のチョコの中に入ると気持ち悪くなっちゃうので、ホットチョコレートぐらいの濃度って〜ことで?
それでも充分気持ち悪そうですね(笑)
ところで、『ココア』と『ホットチョコレート』の違いを誰か教えてください。何が違うんだよぉ〜?(千ちゃん味オンチ?)



コメント:いつもありがとう〜。そして、ごめんね。14日にUPできなくて。(まじ、忙しかったものだから〜)
オモシロ可笑しい・・・。オモシロ怪しいの違いでは?やっぱエロだよ、君は!!(断言!)
ささっこは千ちゃんにはかないませんので〜。(ホントだってば!!)
『ココア』と『ホットチョコレート』の違いってそのまんまじゃないの???ココアかチョコドリンクのホットか。あれ?違うの?