君といつまでも・・・



by モモさま


いきなりだが、本当にいきなりだが、

俺、若林源三(年齢不肖)は、本日をもって岬と結ばれた。

一体何が結ばれたのかは敢えて言わない。勝手に察し給へ。

今の俺たちが幸せの絶頂で心がディープピンク色なのは紛れもない事実。

ちなみにここは俺の自宅 IN ドイツ。

今日は半強制的に岬を我が家に招き、 俺の(一服盛った)家庭的な手料理でもてなした後、

勢いにまかせて岬まで食ったんだー!あっはっはー!!!こんな俺を笑いたいなら笑えよ!

この甘い蜜で満たされた夜の空間に俺と岬の2人っきりvv

今、可愛い岬は俺の腕の中。甘えん坊のポーズでゆったりと目を閉じている。

岬の睫毛のゆるやかなカーブまでもが神がかり的に美し過ぎて、俺様のアドレナリンの放出は

今宵も止まりそうにないぜ・・・

「岬・・・起きてるか?」

独り言のように俺はそっと呟いた。照れ隠しだ。

しかし、返事の代りに岬の口から発せられた思いがけない言葉に俺は少々とまどってしまった。

「ね、若林くん・・・何か歌って」

「歌!?」

「ボクね・・・こうやってベッドの中で好きな人に歌ってもらうのが夢だったんだ」

甘ったるい眼差しの岬は、人指し指で俺の硬い腕をウリウリと突つきながら 子猫のような声で

おねだりをする。

俺と岬の愛のメロディ、ふたりのビックショーを始めるべきなのだろうか?

「岬、リクエストしてくれ。何でも歌ってやるぞ・・・フッ」

なんて、俺は大人の男の余裕をブチかましてみた。音痴で流行りの歌もろくに知らないくせに。

岬へのとめどない愛情+欲望さえあればどんな試練も乗り越えられそうな気がしていたのだ。

しかし、岬の望んでいたのは意外な曲だった。

「『君といつまでも』・・・がいい」

「は!?」

「だから・・・加山雄三の」

確かこの曲は、見上さんが好んでよく口ずさんでいたあの歌・・・大丈夫だ!歌えそうだ!

「わかった、岬、歌ってやるよ。お前の夢を叶えてやる・・・」

俺は歌詞を思い出しながら岬の耳元で囁きかけるようにそっと歌い始めた。

「・・・ふたりを〜♪」

歌なんてご無沙汰だった。でも岬は再び目を閉じ、マタタビを得た猫のように幸せそうなオーラに

包まれている。岬、包容力溢れる俺の魅惑ボイスにもだえたかぁ〜〜〜〜!あっはっはー!

しかし、例の有名なセリフに差しかかった時だった。

「幸せだなぁ・・・ボクは君といる時が一番幸せなんだ・・・」

ほとんど加山雄三になりきっていた俺。若林雄三と呼んで欲しいくらいだった、のだが・・・

「違う!ヤメテ!!」

岬の突然のダメ出しで歌声は強制終了させられた。

「違う!『ボクは』って発音が違うの!『ボカァ』って感じで発音してよ。イメージは渋く優しくッ!」

もどかしそうな岬は、俺に向かって『ボカァ』のポイントをしつこくレクチャーし始めた。

岬の萌えポイントが加山雄三のセリフだったとは、意外な一面発見だ。

素直な俺は、岬の愛の琴線に触れる事ができるようにとその台詞を呪文のように繰り返す。

「ボカァ・・・」

「ボカァ幸せだなぁ」

「ボカァ〜、幸せだなァ・・・」

しかし元来サッカー以外は不器用なダサイこの俺。加山雄三には程遠いらしい。

不信感のつのる岬の顔。焦りを隠せない俺の声色。危機的状況だ。

何時の間にか岬のいらだちもピークに達していた。

「違う!根本的に声の質が違う!若林くんのソノ声じゃ中尾彬だよ!」

「・・・誰?」

「え?若林くん、中尾彬知らないのっ!?じゃあ池波志乃は?」

「・・・イケナミって?」

純白のシーツの中、素肌で密着したままの俺たち。

中尾彬について謎の質疑応答。

荒々しく乱れた声。

すれ違う心模様。

壊された甘いひととき。

たった今まで桃色に染められていたこの部屋が、どうやらドクダミ色へと変化したようだ。

俺のこの呪わしき無知さ加減が、岬のご機嫌を損ねる要因となってしまうとは!

「若林くんって・・・結構視野の狭いつまんない男だったんだね・・・」

「・・・岬?」

明らかに岬は、俺に向かって侮蔑信号を出している。さっきまでの愛くるしい岬は何処へ!?

「もうボク帰る!帰るから自転車貸してよねっ!」←岬は自転車で帰れる場所に住んでます

がびーーーーーん!

これは痛い。後頭部にファイヤーショットが直撃したくらいの鋭い波動。

部屋にこっそりと飾ってある身長5メートル&ココア色のデディベアさえ

「お前アホかープププ」と俺を小馬鹿にしているような気がしてやるせない。

くぅぅ、たかがぬいぐるみのくせに!この繊維野郎!明後日、漂白剤に浸けてやるぞ!

あ!

気がつくと、冷めた表情の岬は既にベッドから抜けだしている。

そして脱ぎ捨てていた(いや、俺が脱がした)下着にも手をかけているじゃないか!

窓から俺たちをうっすらと照らしているあの青白い月光の様に、岬の瞳も冷たそうな輝きを帯びて

いた。破局の予感!?

「あああああ!岬〜!帰るでない!おぬし、しばし待たれぃよ!」

動揺という名の波で溺れかけていた俺は、何故だかインチキ臭い侍口調となってしまった。

岬を引き止めなければならぬ・・・拙者が引きとめるでござる。

俺は、パンツを太腿まで履きかけた岬から力づくで(でも心は込めて)パンツをモリョリと剥ぎ取り、

もう一度岬をベッドへ押し入れた。

「岬、待ってろ。お前への愛が本物だと証明してやる。1週間待ってくれ!」

はだかんぼうの俺はスタスタ歩き、電話機の前で仁王立ちした。

そして受話器に手をかけ、慣れ親しんだ番号をグイグイと押す。

「もしもし?かあさん?俺、源三。あのさぁ、お願いがあるんだけど・・・」

俺はドイツに来てから口から出任せがかなり上達した方だと思う。

「チームメイトのカルツがさぁ、日本の歌に興味を持ってて。もうすぐカルツの誕生日だから邦楽の

CDをプレゼントしたいんだ。悪いんだけど速達で送ってくれる?天童よしみと、氷川きよしと・・・

ついでに加山雄三も・・・」

さすがに加山CDのみを注文するのは恥ずかしいので、カモフラージュに別の歌手名も入れる。

果たしてこのカモフラージュ法で正しかったのだろうか・・・(汗)



3日後、日本からCDが届いた。

それから4日間、加山雄三のCDを終日聴きまくり、雄三の呼吸までをもマスターした俺。

(天童よしみのCDはカルツに渡し、氷川きよしのCDはマリーに贈った)

体内の85%以上が加山雄三化していた俺の立ち振舞いに、岬は小躍りしながら泣いて喜び、

俺たちは1週間ぶりに愛し合ったのだ。




そして岬はまた俺の腕の中。カワイ子ちゃんポーズでまどろんでいる。

「岬、起きてるか・・・?」

「ね、若林くん・・・若林くんもいつか死んじゃうのかな?ボクを残して死んじゃうのかな・・・」

「死なないよ・・・」

「ね、若林くん、『ボクは死にましぇん!』って叫んでみてよ」

「それ何・・・?」

「え!知らないの?武田鉄矢じゃない!」

「知らない・・・(汗)」

「若林くんのバカー!!!」

「待てッ!岬!1週間待て!」

その後、俺は日本から『101回目のプロポーズ』のビデオを全巻お取り寄せして、

ひたすら武田鉄矢のモノマネに励んでいた・・・


こんな俺と岬のあやういけれどロマンちっくなカンケイ。

俺は辛さなんて全く感じてはいない。寧ろハッピー&エンジョイだ。

岬太郎の為なら俺は悪魔に性感帯・・・いや声帯を売る覚悟完了なのだ。

岬を愛している証に俺はドイツのいっこく堂となろう。

お前がどんな我侭ボーイでも俺はお前を離さないぞ、岬!いいだろう?

俺は岬を愛し抜く!いろんな意味で抜くぞー!ワァオー(気合)!←バカ

ボクは、ボカァ、幸せだなァ・・・




〜終〜






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コメント:前回に引き続きありがとうございます〜vv
もう、モモさんのその感覚大好きです。しかし、何故に加山雄三??そして、中尾彬??
でも、源三、歳取ると中尾彬みたいに渋いおじさんになるのでは〜。
・・・・・。すみませんでした。