初戦
試合開始は今夜7時。
今から宿舎を出ると、いつもより1時間以上早くスタジアムに着いてしまうが、松山にはそれでも遅いような気がした。
今夜の対戦相手はジュビロ磐田。岬が無事、Jリーグにデビューして、まだ3度目の試合。
そして、松山と岬が戦う初めての試合。
もう、チームの中でも主要メンバーの一人として活躍し、プロというものにも慣れたハズなのに、松山はいつも以上に緊張していた。
―――岬と戦う。しかも不思議なことにこれが初めて―――
小学生以来、一緒のチームでサッカーをしたり、同じ大会に出たりしていたのに、何故か今まで戦った事がなかった。
翼や日向とは、さんざん戦ったのにな。
一度くらいあってもよさそうな高校時代ですらなかった。
だから、こんなにも緊張するのか?
なんとか理由を見つけて納得しようとするが、それでも落ち着かない。
兎に角、早くスタジアムに行ってコンデションを整えよう。こんなんじゃ、まともに試合ができねえ。
シューズやら何やら無造作にカバンに詰めると立ち上がり、机の上の携帯に手を伸ばす。
と、同時に突然、その携帯から松山の好きな曲のメロディが流れ出す。
「うわっ!」
思わずびっくりして手を引っ込めるが、ハッとして、あわてて電話に出る。
「もしもし・・」
「もしもし、松山? 久しぶりだね?」
以外にも、今、心の中に思いを巡らせていた人物の声に反応が遅れてしまう。
「もしもし?松山だよね。わかる?岬だけど・・・」
相手が心配そうに話しかけたので、あわててどもってしまった。
「み・・・・みさっき〜〜〜!!」
「ごめん。忙しかった?」
なんなら、すぐ切るよ?と言う岬の声に、松山は余計にあわててしまう。
「いっ!いいっっ!!切らなくていいっ!岬っっ!待てっっ!!」
クスクスと笑い声が聞こえた。
「ごめん・・・。まさか岬から電話をくれるなんて思ってなかったから・・・。だって、今日・・・・。」
「うん。会おうね、今夜」
「早く岬と会いたいと思ってたけど、わざわざ電話をくれるなんて思ってなくて・・・。」
「試合前じゃ、いくらなんでもゆっくり話ができないだろ?それになんか緊張しちゃって・・・。松山の声を聞いたら、落ち着くかと思って・・・。」
「今日の対戦相手なのにか?」
岬の言葉になんとなく、うれしくなってしまう。
「うん。対戦相手なのに・・・。初めてだよね、僕たち戦うのって。不思議と松山って戦う相手って感じがしないんだ。今日の試合相手なのにね。だからなのかな、声が聞きたくなるなんて。」
岬の緊張していると言う言葉が、うその様な穏やかな声だった。
その為か、不思議と松山の心も穏やかになっていく様な気がした。
「実は、俺も何かすごく緊張していて、いつもより早くスタジアムに行こうと思ってたんだ。」
「あっ、ごめん。出かけるところだったんだ。」
「ん〜、でも、こうやって岬の声を聞いていた方が、何か落ち着く。下手にスタジアムでそわそわしてるよりよっぽどいい。」
いつの間にか肩にかけていたカバンは床に置かれ、松山はどっかりと畳の上にあぐらをかく。
ちょうどそれをまるで見ていたかのように岬がクスッと笑う。
「どうだ、調子は?足は大丈夫なのか?」
「ありがとう、大丈夫だよ。今、絶好調だから。それより―――。」
話ながら緊張感が心地よいものに変わっていくのが松山にはわかった。
と同時に、岬にもそう感じているだろうと妙にわかってしまう。
そして、何故か今夜の試合はいつもより心身ともにワンランクUPした状態で望めそうな予感もする。
さっきまでイライラしていたのに・・・。
たった1つの電話でこうもかわるものだろうか?いや、それだけではないような気がする。
「松山もすっかりプロになったよね。」
話は切り変わっているのに、松山の今の心情を言い当てたかのように岬の言葉が聞こえた。
「あぁ、今まであまり意識したことがなかったんだけど、そうだよな。プロなんだよな。」
「うん・・・。僕も早く、翼くんや松山くん、皆に追いつくから・・・。今日は負けないよ!」
穏やかだが、ハッキリとその心の内を表すような声音に松山は気づく。
あぁ、そうか。岬は足をケガしたあの大会でフィールドにはあまり立てなかったけど、その分、サッカー選手としては俺たちよりも一歩成長してたんだな。
「俺も今日は負ける気がしねぇ。お互い、がんばろうな!」
とりとめもない話を少し交わし、後でスタジアムで会う事を約束してから、松山は携帯を切った。
先ほどとはうってかわって、とても良い気分で部屋のドアを開けた。
――――今日は負けないからな――――――
END
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コメント:松岬でございます。(誤解と招くような書き方するな〜!)
脳内腐敗中のささっこですが、やはり、松山は別のようです。イメージが”さわやか”だもんな〜。(いや、嫌味ではなく、純粋に好きですよvv)
そして、気が付いた。松山と岬って原作では1度も対戦してないんですねえ〜。
(まあ、高校3年間の間にはあったかもしれないけど〜)
で、むしょうに書きたくなったのがこれ。って結局話だけで試合してないじゃん!(ダメじゃん、私)
こんなんじゃ、いつかリベンジ・・・かな。
りえ様、こんなもので申し訳ないです。それでも受け取ってくださいますか?