HAPPY BIRTHDAY FROM・・・
めずらしくいつもより早く目が覚めて、ゾロは男部屋を出た。 ちょっと頭が痛い。これまた珍しく二日酔いか、と思った。 が、さほど気にするほどの痛みではなかったのでそのままラウンジへと向かう。 扉を開けると先ほどまでは微かにしか感じられなかった匂いがしっかと鼻孔に届いてきて朝食のメニューを知らせる。 今日は、焼きたてパンとコーンスープ、ベーコンエッグもあるのか、と視線をやる。サラダは盛られている皿を見てわかった。二日酔いにはちょっと辛いメニューかもしれないが、それでも腹が空いているらしく、ぐぅと腹が鳴った。 「今日は、パンか?」 「おう、ナミさんのリクエストで、クロワッサンを焼いたからな。」 相変わらずのナミ崇拝のコックは顔を向けずに返事を返す。誰が入ってきたのかもわかっているのだろう。反応が、淡々としている。 すでにテーブルに並べられている人数分の皿の脇にふ、と見慣れないものを発見した。 「なんだ、こりゃ・・・?メニューでも書いたのか?」 仲間内で、朝食のメニューをわざわざ書くこともあるまい。が、とりあえず、先にこの部屋にいる人間に聞いてみた。 「あ〜〜〜〜〜。そりゃ・・・・・。俺が来たときから置いてあったんだわ・・・・・。」 コックの顔が歪んでいるのがわかったので、何かしら意図があるのかと眉を顰めるが、とりあえずテーブルの上にあるカードになっている紙を手に取ってみた。 二つ折りになっているそれは、多少よれよれだが、大事そうにテーブルの上にあった。 そっと手にとり、中を開けて見て、驚いた。 「・・・・・・・・・。」 驚きのあまり固まってしまった。 いつの間にか横に来ていたコックがクックックッと笑っている。 「なんだ、こりゃ・・・・。」 「なんだ・・・・て誕生日カードだろう?・・・・たぶん。」 「って、誰がこれを・・・?」 「さぁ、さっきも言ったろ。俺が来たときには、すでにあったんだ・・・。」 「本当か・・・?まさか、てめぇが・・・。」 じろり、と睨むが、サンジは口にしている煙草の煙をゾロに掛ける向きでふぅ、と吐いた。 「いくらなんでも、そんな稚拙な字じゃねぇよ。俺が書いたなら、もっとセンスがにじみ出ているカードになるね。それに・・・・俺が誕生日カードを送るような可愛らしい人間に見えるか?っていうか、お前、今日、誕生日だったんだな・・・。おめでとさん。」 「・・・・・。」 ニッと笑う顔は嫌味ではなく、サンジの明るさを素直に表していた。 確かに、ケンカが中心ではあるが本心から嫌っているわけではなくライバル心からきているのは、お互い承知の上だ。時と場合によっては、きちんといい仲間でいられる間柄であるのは言葉にするまでもない。 とはいえ、いくら誕生日とはいえ、カードを送るほどの可愛い間柄でもない。ましてや、彼なら料理でそれを祝うだろう。 う〜〜〜ん、とゾロがカードを前に唸っていると、そこへ、いつも最初に起きてくるナミが部屋へと入ってきた。 「おはよう〜〜〜〜vvナミさんvv」 朝一からよくもまぁ、そんなネコ撫で声が出るもんだと、横目で見やる。 ナミの方も慣れたもので、軽くかわすとゾロの前に座った。と、同時に机の上にあるカードに目がいく。 「あら、それ、何?」 ピラリと摘むと自分の前に、それを持って来て見つめる。 と、とたんに。 「ぶ〜〜〜〜〜〜っ!!」 噴出するナミにゾロの眉間に皺が寄った。 「何これ〜〜〜〜!!」 ピラピラと紙がナミの指の下で揺れている。 そこから見えるは赤、青、黄色〜と歌いたくなるようなカラフルな彩りで作られた誕生日カードだ。絵が描かれているのだが、花?それとも赤っ鼻?青っ鼻?の世界だったりする。いや、もしかしてリボンを装っているのかもしれない。ウソップはこれを見たら「俺の負けだ!」というかもしれない具合だ。そして、上方にはHAPPY BIRTHDAYの文字もあるのだが、それもよれよれしていて、誰も読めないのではないか?と思えるほどだ。しかも、後に続くTOの後のゾロの綴りが間違っているとナミが指摘する。 「ZORO・・・の最後のOが、Uに見えるわ!ゾル・・・・って誰よ〜〜〜〜〜!!」 お腹を抱えて笑いが止まらないナミに、サンジがまぁまぁ、と嗜める。 「じゃあ、これ書いたのお前じゃ、ない・・・・よな。そんだけ笑うっちゅうことは・・・。」 「当たり前じゃない〜〜〜〜、そんなお花だか何だかわからない絵は書かないわ!どう見ても斬新さを超えているわねぇ。」 ひーひー、と今だ笑いの止まらないナミに諦めたのか、ゾロはそっぽを向く。 だったら誰だ?と、カードの出来はさておき、ゾロはまたまた腕組みをした。 と、そこへウソップがチョッパーと一緒に入ってきた。 「おおっす!」 「おはよう、ナミ、ゾロ、サンジ・・・。ってナミ、どうしたんだ?そんなに笑って。」 笑い転げているナミに目を丸くしているチョッパーを無視してゾロはウソップを見る。 が、違うだろう、とため息を吐く。 「お前じゃないよな・・・・これ書いたの。」 独り言に「ん?」と顔を向けるウソップにナミがこれこれ、とカードを見せた。 とたんに、ウソップは「負けた!」宣言を出した。 「こんな斬新な絵・・・俺には描けねぇ!」 違う意味での負け宣言に、思わず、皆が「お!」と声を揃えた。 チョッパーも自分ではないと、すぐに答えたとたんにある人物の画力を思い出す。 「そういえば・・・・・。やりそうだよな・・・。」 「あぁ、その線のよたよたさ、とか似てるよな。」 「そうね、何ですぐにわからなかったのかしら・・・。」 「すげぇな、さすが船長だな。」 「まぁ、出来はさておき、やっぱり気持ちとしてはうれしいんじゃないの?ゾロ・・・。」 「・・・・気持ちだけはな・・・。」 今日はタイミングがいいらしく、みんながウンウンと頷いていると、噂の主の船長とこの船の最年長のロビンが一緒に入ってきた。 「腹減った〜〜〜〜〜〜。サンジィ〜〜〜〜〜〜〜、めしぃぃぃ〜〜〜〜〜〜!!」 「おはよう。」 お腹を摩り、まだ、眠気が取れないのか、欠伸を噛み殺しながら入ってくる船長にみんな一斉に注目する。 「「「「「・・・・・・・・・・。」」」」」 突然の注目にキョトンとこの船の船長、ルフィがみんなを見回す。 「どうしたんだ??」 ピラリと今だ手にしていたカードをナミがルフィの顔面に差し出した。 「画力はともかく、忘れていなかったのはさすがね。船長〜vv」 「ルフィ、さすが船長だな。」 「かっこいいな、ルフィ!でも、今度、俺、お前に字、教えてあげるよ。」 「俺は、お前の絵は俺様と違う意味ですごいと思うぜ!」 ゾロは席を立ち、カツカツとルフィの前に来て、立ち止まった。 「船長・・・・。出来栄えは別にして、気持ちはうれしいぜ、ありがとな。」 ゾロがポンとルフィの肩を叩こうとして、その手が止まった。 「俺、知らねぇぞ、それ・・・・。ゾロ、お前が書いたのか?」 「んな?」 固まったゾロの硬度をロビンのひと言がさらに固くさせる。 「あぁ、それだったのね。」 頬に手を添えて、呟いた言葉に皆がロビンを見る。 「夕べ、剣士さん、一人で飲んでたでしょう?私がここに忘れた本を取りに来ても全然気づかない様子で何か書いてたけど、それだったのね?」 「「「「「は?」」」」」 今度はみんな一斉にゾロを見る。 「俺ぁ・・・夕べ、飲んで・・・・。」 ゾロは思い出すように、顎に手を当てた。 そこへサンジが「あ〜〜〜〜〜〜っっ!!」と声を上げる。その視線の先には、隠したつもりの酒瓶がたんまりと山になっていた。部屋の隅にあった空樽の中に隠してあったと見えて今まで気がつかなかったらしい。 「てめぇ・・・・。(怒)」 それを無視して、ゾロは首を捻りながら独り言を呟いた。 「確かに、夕べ、いつもに比べてかなり飲んで、珍しく酔って・・・・。」 確かに夕べ、皆が寝静まってからこっそりと起きて、ラウンジで一人で飲みだしたのだ。 で、言葉通り、珍しく酔っていた。 「ちくしょう〜〜〜〜!!ルフィの時は、前祝とか言って、誕生日前日から騒いでいたじゃねぇか!!それがどうだ!明日は俺の誕生日だってのに、誰もそれを覚えてやしねぇ!!」 グズリと鼻を啜る。 「こんな俺だってなぁ、子どもの頃はローソクを消して・・・・、ケーキを食べて、みんなから祝ってもらってたんだ!」 グビリとまた一本酒瓶をあけてから、突然、ポンと手を叩いた。 「誰も覚えていないなら・・・仕方ねぇ、自分で自分を祝うか・・・。」 そう思いつき、立ち上がり、ウソップ愛用のマジックと画用紙を手にした。 そこまでの記憶が蘇り、ゾロはサァ―――――ッと青くなった。 「へぇ、ゾロって結構寂しがり屋だったんだな・・。」 「そんなに祝ってもらいたかったら、祝ってあげるわよ、有料で!」 「ケーキを作ってやるさ、緑の・・・。」 「俺様がアーティスティックなカードを作ってやる!」 「おめでとう、剣士さん。」 「めでたいな、ゾロ!!・・・・じゃあ、サンジ、肉な!!!」 ゾロの誕生日に、寂しがりやという、新たなゾロの一面を知った麦わら海賊団だった。 END |
07.05.18
今頃ですが、ゾロ誕投稿作品・・・。くだらな話ですみませんでした。