ヘタレゾロを目指したらこうなった
「悪いが、もうてめぇの好きなようにはさせねぇ・・・。」 後ろから吐かれた言葉に、ゾロは振りかえり片眉を跳ね上げた。言っている意味がわかない、という表情だ。 見張りと称して半ば居眠りもしていたが、それがわからないようにベンチに座り、窓の外に顔を向けていた。場所は見張りを行う為の展望室。サンジの言葉にゾロの頭は覚醒した。 その様子にサンジは、あからさまに肩を落として溜息を吐いた。さらにゾロの眉が動く。 「言っている意味がわからねぇ、って顔だな。まぁ、いい。てめぇに人語を理解しろってのが、無理な話だった。」 嫌みたっぷりなのはよくあることだ。だが、それでも、嫌みの中にも多少なりとも声音にサンジなりの愛情がいつもは含まれていた。ケンカですら、よくナミから「じゃれあい。」とからかわれるほどお互い嬉々とした表情でしていた。 ただ今回は、サンジの口調からは好意を滲ませたものはまったく感じられず、どちらかと言えば失笑を交えていた。失笑と言っても、表情はどちらかといえば自嘲に近い。 こんな表情のサンジを久しぶりに見た、とゾロは思った。ゾロはサンジに向き合うべく体の向きを変えた。 サンジは手にしている煙草を一旦口に持っていき、ふぅと煙を吐き出した。まるで自分を落ち着かせるために、という行動だ。 一体何が彼にそんな表情をさせているのか、ゾロには全くわからなかった。 「簡単な話だ・・・。もうてめぇの下の世話をしねぇってことだ。」 今度の声音は怒りが含まれているようにゾロは感じた。 言葉もなんとも下世話な表現だが、同じ男同士。元より見た目と違って口が悪いのは、ある意味この男の個性の一つだ。それはゾロにとっては魅力という言葉に返還される。 「何でだ?」 言っている意味は今度はわかったが、その言葉の真意が理解できない。ゾロは、不遜な態度でベンチに座ったままサンジを見上げた。 言いたいこと、聞きたいことは山ほどあるのだが、語録が少なく、己の感情の表し方が下手な男は、煙草を吸って睨みつけている男が満足するような言葉は返せなかった。 サンジもそれは承知しているのだろう。敢えて、その部分には突っ込みはなかった。 「いいかげん、うんざりなんだよ。ま、最初は海の上だし・・・?金もかかんねぇしな・・・。お互い気持よければそれでいいってのはわかるから、てめぇの提案を受け入れたが。・・・・・もう我慢の限界だ!」 サンジの眼が更に細くなってゾロを睨みつける。 「我慢の限界・・・?」 「あぁ、そうだ。我慢の限界だ。」 ゾロからすれば何が我慢なのかが、わからない。 恋人同士なら、お互い触れあって抱き締めあって、感情のままにお互いを求めるのは普通ではないだろうか。 意味がわからない、と腕組みをしながら首を傾げた。 「それだよ!その態度だよ!!何だよ!!まるで俺がてめぇのモノみたいなその態度!!俺はてめぇの玩具じゃねぇ!!」 やはりサンジの導火線は短かった。 がーっっと吠えたかと思うと煙草を足元に投げ捨て、ギリギリと踏みつぶした。そして、そのままもう何も言わずにガンガンと梯子を乱暴に降りて行ってしまった。 ゾロとの会話も捨て置いて。展望室に残ったゾロは一人ポツンと佇む。 ゾロは茫然とした。 何も言えなかった。いや、ゾロからすれば何も言わせてもらえなかったと言っていい。 弁解、いや反論になるのか?の余地なく、サンジは梯子の下へ消えて行ってしまった。会話を続ける猶予さえ与えられずに。 自分はサンジが何に怒っているのかがまったくわからない。だからサンジの怒りの理由を聞こうと思ったのだが、その言葉を発する前にサンジは勝手に爆発して展望室を降りて行ってしまったのだ。 でも、まぁいいか。とゾロは思った。 大抵は回りが呆れるほどの大ケンカをしても、次の日には、ころっとまではいかなくともサンジの機嫌は落ち着いているのだ。それでもって、「昨日は悪かった。」と殊勝に頭を下げることが多い。 もちろん、ケンカの理由はお互い様な部分があるから、ゾロから素直に頭を下げることも多々ある。 ようはお互いさまなのだ。 ゾロは、大きなため息を吐くと考えることを放棄し、思い出したように己の仕事に戻った。 今夜はゾロが見張りの当番だった。窓の外を見れば月夜が綺麗な空のため深夜の敵襲があるとは到底考えられなかったが、それでも何があるかがわからない世界だ。もしかしたら海王類に遭遇する可能性だってある。天候が急変することだってある。 目が覚めたのを幸いに、窓枠に腕を掛け頬杖をついた。 翌朝、見事な快晴がゾロを迎えた。 ふあぁぁぁ 大きな欠伸を噛み殺すこともせず、展望室からのそのそと降り、そのままキッチンへと向かった。 ゾロが夜番の時は、大抵は皆の朝食時間より早くに腹を空かせたゾロの為に、朝食をサンジが展望台まで持ってきてくれるのだが、今朝はなかった。 まぁ、夕べの今日だしな。とゾロは思う。 昨日は悪かったと素直に頭を下げるには、まだちょっと照れくさいのかもしれない、と思った。 が、ゾロのその考えが甘いことをダイニングに入った途端、思い知る。 サンジは予想通り、キッチンにはいた。 だが、バタンと扉を開けた途端、チラリと一瞥をくべたがすぐに逸らされた。もし怒りがまだ残っているのならば、ギロリと睨みつけるのが常だが、それすらない。どちらかと言えば、無視に近い。 が、そんなことでうろたえるゾロではない。 まだ、誰も起きていないのだろう。サンジしかいない空間に、ゾロはぼそりと呟くように声を掛けた。 「腹減った。」 またチラリと目を寄こす。が、そのまますぐに朝食の作業に戻る。 どうしたもんかと、ボリボリと後頭部を掻きながらカウンターテーブルの前に陣取ると、コツリと皿が無言で置かれた。 用意がまったくないわけではなかった。 そこの部分には、流石に頭が下がるほどにプロだと思う。 感謝の意を込めて素直に両手を合わせ、食事の挨拶をすます。そのまま目の前の皿に手を伸ばした。 正直、今朝は米の朝食ではなかったのでそこは残念に思ったが、それでもサンジの作る朝食は上手い。 軽くトーストして温かいロールパンにツナを和えたサラダ。カリカリに焼いたベーコンの横にはふんわりとした小型のプレーンオムレツ、その脇には小さなガラス器に盛られたヨーグルトが、ワンプレートに綺麗に盛り付けられていた。飲み物はこれから眠るためにホットミルクとなっていた。ありがたいことに少し離れた位置には追加のパンがカゴに山盛りになっていた。 サンジのメニューへの配慮は基本ナミやロビンを考えてのことだろうが。それでも、口に出さずとも仲間想いの彼は、それぞれの体力、体調、嗜好、諸々を考慮して決めてくれている。実際、ゾロのような体力が基本となる者には、軽食程度にしかならないが、夜番を終えて寝る前には丁度いい量だ。米の食事でなくとも満足できる内容だった。 まだ早朝のため、誰もこの場に来ないのをチャンスに、ある程度皿が空になる頃を目安に、ゾロは改めてサンジに声を掛けた。 「おい。」 「・・・・・。」 サンジは他の連中への食事の準備の手を止めない。背中を背けたままだ。 構わず、ゾロは声を出し続けた。 「夕べのことだが・・・。」 チロリと、サンジがやはり目だけを向けたが、すぐに戻された。 「てめぇが何に怒っているのか、わからねぇ。」 サンジの肩がピクリと動いたのが、作業をしている後姿からでもわかった。 何かしら言葉が返されるだろうと期待する。それば罵倒でも構わないとゾロは思う。とりあえず、サンジの怒りの原因を知らなければ話は進まないのだ。謝る気は今のところないが、それでも原因が自分にあるのならば、頭を下げる必要はあるだろう。 一見この船に乗る仲間は、自己主張が強いが筋は通った連中ばかりだ。自分に非があれば、素直に頭を下げる潔さはある。ゾロも同様だ。 だが、頭を下げる事もサンジの怒りを納める事も何も出来なかった。そもそも原因がわからないのだ。 「別に何も怒ってねぇぜ?」 サンジの言葉にゾロはカチンと来る。 「だったら夕べのあれは何だ?てめぇ、怒ってたじゃねぇか?」 ゾロの眉間に大きな皺が寄る。思わず立ちあがってもしまった。 が、意に介さないとばかりにサンジは飄々とした態度でゾロに向き合った。まじめにゾロに向き合うのかと思えば、ただ単に目の前に綺麗に食べつくされた皿に手を伸ばしただけだった。 言葉は変わらず淡々としている。 「怒ったんじゃねぇよ。ただ単に撤回しただけだ。」 「撤回?」 夕べといい、まったく意味がわからない、とゾロはサンジの言葉を復唱することで聞いた。 「だから・・・てめぇの抱き人形は廃業だ。ってことだよ。わかったか?この脳味噌筋肉が・・・。」 「・・・・。」 サラリと連絡事項を告げるように答えると、サンジは一旦流しに置いた皿から手を離し、懐に入れていた煙草に手を伸ばした。軽い仕草で火をつけるとふぅと煙を吐き出し。作業を続ける。スポンジを泡立て皿を洗う。 それは、もう会話は終わりだと暗にゾロに告げていた。サンジの様子に、もはや何度サンジに声を掛けようと同じ事の繰り返しにしかならないことは、過去のケンカから学習済みだ。 ゾロは何も言えなくなり、黙ったままのそりと足を扉へ向けた。 幸いにも、まだ誰も起きだしていないようだ。もし、誰かが目を覚ましてダイニングに向かったならば、ゾロの呆然とした表情に目を丸くしただろう。ウソップあたりだったら、ナミに天候の確認をしたのかもしれない。 それほどに、ゾロの表情はいつになく呆然としていた。ただ、条件反射のように部屋を出て行く時に「ごちそうさん」と言えたのは自分でもわかった。 静かに男部屋へ向かい、そっと扉を開ける。 早朝の光がまだ届いていないそこは薄暗く、そのため誰もが鼾を掻きながら夢の中を漂っていた。 ゾロのいつもは遠慮のない足音も今は無く、静かに己のボンバックに向かう。刀を懐から抜き取り、壁に立て掛ける。そのまま、そっとシーツを捲りあげるといつになくコソコソという擬音が似合いの動作でシーツの中に潜り込んだ。 普段のゾロからは想像もつかないほどに、シーツの中で丸くなる。 食事の前までは気持ちよく訪れ掛かっていた眠気も今は吹き飛んでいたが、その理由は部屋に響き渡る鼾を理由にしておこうと思った。 とりあえず、目を瞑る。 と、夕べのサンジのセリフが頭を過った。 「もうてめぇの下の世話をしねぇってことだ。」「お互い気持よければそれでいいってのはわかるから、てめぇの提案を受け入れたが。・・・・・もう我慢の限界だ!」「俺はてめぇの玩具じゃねぇ!!」 どう考えても、恋人と言われる関係にある仲で言うセリフではない。 ってことは、ゾロはサンジのことを所謂恋人であると思っていたが、サンジはそうは思っていないと言う事か。いや、まぁ、表だっては仲間には宣言していないから誰も知らない事実ではあるが、その事実はサンジ本人も知らないってことか? ってことは、サンジはゾロのことをどう思っているのか・・・。あ、いや、あのセリフからすれば、サンジはゾロに玩具としてしか見られていないと思っていたのか。 実は好意すらなかったのか? なぜ? 「だから・・・てめぇの抱き人形は廃業だ。ってことだよ。わかったか?この脳味噌筋肉が・・・。」 先ほどサンジは自分のことを『抱き人形』と比喩した。 誰がそんなことを言ったのか、いや、・・・・サンジにそう思わせるようにしたのか。 二人の関係は誰も知らない。知っていたとしても、せいぜいナミやロビンだろう。が、知ってたらからかうだろうナミですら黙認して口を挟んでこなかった。それだけ、二人の関係を温かく見守っていたと言えるだろう。 そして、いつか二人して仲間に報告したのならば、誰もが微笑みを持って二人を受け入れてくれるだろうことが容易に想像できた。それだけ信頼のおける仲間だとゾロは思っている。 それなのに。 肝心のサンジがそうは思っていなかった。 それはショック以外の何物でもない。 いや、サンジがそう思う理由があるはずだ。 その理由を彼の口から聞くことは今はできなかったが、それはゾロに原因があるような気がしてならなかった。 冷静とはいえない、しかし、沸騰するようなパニックではなく、どこか頭の中がぐるぐるしているような混乱がゾロの中で渦巻いていた。 兎も角、落ち着いて考えないと。 それからでなければ、何も解決しない。 サンジの言葉を鵜呑みのして、関係を絶つつもりはゾロには毛頭ない。 何せ恋人なのだ。誰にも宣言してはいなかったが、ゾロにとってはサンジは恋人なのだ。どうやら、ゾロの独りよがりだったが。それでも、恋人なのだ。それだけは譲るつもりはなかった。 どうにかしないと! それには、サンジが自分を『抱き人形』と表現する原因を探さないと、と回らない頭で考え込むしかなかった。 慣れないけれど、まずは考えよう。何故、サンジが自分を貶める言い回しをするのか。その原因を見つけなければいけないが、そのためには自分の言動を思い出すことが最初だ。 慣れない頭を使って、う〜〜んと唸る。 結局、皆が起きだした頃には、ゾロのボンバックからは彼の鼾が部屋に響き渡っていた。 「敵襲だぁぁ!!」 ぼんやりとした頭で誰かが叫んだ声が聞こえた。 いつもなら気配だけで誰よりも早く敵襲を察知するゾロにしては、失態といえるタイミングだった。 何故、気づくのが遅かった。と考えるまでもなく、その自分の心理状態に内心ショックを受ける。どうやら、サンジの事を考え過ぎて、戦闘員として必要な意識が抜けていたらしい。寝ていたのにも関わらず。 自分の情けなさに叱咤して起き上がり、改めて刀を手に取った。 甲板に出れば、まだ敵船は波の向こうではあったが、船内はすでに戦闘態勢が整いつつあるところだった。 「ゾロ!遅ぇぞ・・・。」 注意するほどでもない声音で、ルフィが腕をグルグル回しながら、ゾロに話しかける。顔は敵船を見つめたままだが。 「悪ぃ。船長。ちょっと夢見が悪くてな・・・。」 「珍しいな、ゾロ。大丈夫か?」 「まぁ、そんな事もある。大丈夫だ。戦闘には問題ねぇ。」 カチリと刀を鞘から抜きとった。敵船から届く気配から察するに刀を3振抜くほどでもなさそうだった。 視線だけで後ろを探ると、サンジはゾロを睨みつけているのが気配でわかった。 どうやらゾロが男部屋から出てくるのが遅れた原因が、それとなくわかったのだろう。察しの良い男だ。 理由はどうであれ、戦闘で他に気を持っていけば命に関わる。それを言いたいのだろう。もちろん、言われなくてもわかってはいることだが。 チッと舌打ちし、サンジを振りかえった。が、今度は、きちんと戦闘へも気配を向けている。視線でだが、サンジに注意されることではない。 お互いに睨みあったまま、ウソップの「きたぞぉ!!」の声に足を鳴らす。 ダンッ お互いに息のあったタイミングで跳躍した。 敵船は小舟を使って両側面から、中央の前面からは本船を使って乗り込んできた。 両側はサンジとゾロがそれぞれを担当し、前面はルフィが担当した。敵船が接近していたので船の舵をフランキーが扱ってかわし、他のメンバーはそれぞれ乗り込んでしまった敵と敵船に残る船員相手を中心に闘った。 実力はさほどなく、ただ只管数が多かった。というのは、前面にある本船の後にもう一隻大型の船が隠れていたのだ。後から後から降って湧いてくる敵にうんざりしてきていた。 倒しても倒しても後を絶たない。気づけば、幾人かは自船に敵が乗りこんでいた。 その何人かはそれなりに実力のある人間だったようで、チョッパーがかなり苦戦しているがゾロの目の端に見えた。 「あいつ、只者じゃねぇ!?」 どうやらチョッパーの相手をしているのは剣士のようだが、チョッパーとのやり取りだけでなく、そこから届いてくる気配からも相当な腕前だとわかった。どちらかといえば、チョッパーはただ只管相手の攻撃から逃げるだけで精一杯だった。 二人が対峙している中央に向けてゾロは駆けだした。 と、そこへ横槍のように人影が入ってくる。 「クソコック!!」 「マリモ!!」 お互いにチョッパーの手助けをしようと思ったらしい。思わぬタイミングに息が合っている様に感じてゾロはわずかに頬がつり上がる。 結局、剣士が相手と言う事で、サンジは早々に身を引いた。 む、とチョッパーと相手の間に割って入る。 今まで対峙していた相手との中に入って来た男に、目の前の剣士は眉を顰めるが、ゾロの只ならぬ気に思わず一歩足を引いた。 相当の手練れと思ったのだが、所詮ゾロの相手ではなかったか。 「なんだ・・・。」とがっかりしたその時、キィンと音がしてから目の前に何かが掠めた。ザンと掠めたものは、甲板に突き刺さる。ナイフだった。 チッと舌打ちして、すぐ横に立った男に目を細める。 「こんな格下相手に何油断してんだ!アホ剣士!!」 どうやらどこからかゾロを狙ったナイフをサンジが蹴り落としたらしい。鬼の形相とまではいかないが、ゾロの油断に腹を立てているのは顔を見なくてもわかった。そのナイフを投げた男は、遠くでロビンに倒されていた。 「悪ぃ・・・。」 油断したのは間違いはないので、素直に詫びの言葉を口にした。 が、単に油断しただけではない。先ほど、身を引いたと言ってもすぐ傍にサンジがいたことはわかっていた。何かあっても、この男が自分のフォローをしてくれるのはわかっていた。 だからこその油断と言ったら、隣に立つ男は更に腹を立てるだろか。 お互いの力量を知ってるからこそ、信頼している仲間だからこそ。だからこそ、背中を預けて闘えるのだ。 口に加えていた煙草をピンと手で弾いた。弧を描いて船の外へと落ちて行く。そのサンジの弾いた煙草が船の外へ消えて行く前に、ゾロと目の前の剣士の勝負はついていた。 チョッパーはずっとその様を呆然と見ていた。 と、感嘆の声を上げた。 「さすがだよ・・・。」 ニヤリとチョッパーに笑うと、チョッパーの頭をポンポンと叩く男が首を振った。 「まだまだだな・・・。」 「うるせぇ!お前が蹴らなくてもあんなナイフぐらい簡単に避けれるわ!!」 「ほ〜お。じゃあ、もう助太刀はしてやらねぇからな!!」 「何言ってやがる!!こっちがてめぇを助けてやるわ。」 「なんだとぉ!!」 戦闘中だというのにケンカが始まってしまった。 が、双方の繰り出す技は、お互いの後ろで構えていた敵に一つ残らずクリーンヒットしている。 それを見て、チョッパーは改めて感嘆の息を吐いた。 「ほんとうにさすがだよ・・・・二人とも。」 結局、数が多くても麦わらの一味を落とすのは容易ではないことが、また一つ証明された戦闘だった。 ざざ・・・・・ん。 と波の音が聞こえる。どこか近くに岩礁群があるのだろうが、ナミの指示が無いところをみると、今、停泊しているところは影響のない場所らしい。 船は、碇を下ろして停まっている。ちゃんと考えての行動らしい。船は波に揺られるだけだ。ゆらゆら揺れるのは、航行している揺れとは違い、心地よい。 あぁ、波の音っていいよな。と改めて耳にできる瞬間だ。 と、波の音に割って入ってコツコツと足音が響いた。梯子を登る音には気づかなかった。別に気配を消してきたわけではないようだが、元々気配は薄い男だし、それだけ他のことに気を取られていたのだろう。 今夜も当番はゾロで。窓から入る月明かりの所為で、ベンチに座るゾロから近づいてきた者の姿が良く見えた。 逆に相手からは、ゾロの表情は影になって見えないだろう。それがなんとなくゾロの頬を緩ませる。 「ほれ。夜食だ。」 つい、と差し出されたトレーにはおにぎりと味噌汁が乗っているのだろう。少し大きめなお椀から湯気がたっていた。 有難くゾロはトレーを受け取った。 と、サンジは横にストンと座るが、いつもより若干二人の間に隙間があるのは敢えてのことだろう。 指を指されいろいろ言われたのはまだ昨日の今日だ。 連続して夜の当番に関しては、戦闘があったために皆疲れがあるだろうからとゾロになったのは別に異論はない。 そして、昨日のサンジの宣言があったから夜食もないかと思っていた。が、そこはやはり、職業意識の高さからくるのだろう。それには素直に感謝だ。が、渡す物を渡したら、早々に立ち去ると思っていたら間があるとはいえ、隣に座る。 今までだったら、戦闘から来る高揚感から、夜お互いを求めることが多かった。 ゾロとしては、ただ単に欲を吐き出すだけのつもりではなく、改めて好きなヤツをこの手に感じたいという思いがあったのだが、サンジはそこまで考えていなかったのだろう。 今日は、もちろん死に至るような戦闘ではなかったし、一瞬気を抜いたことで危うい部分もあったが、結局それもサンジの機転で何もなかったと言ってもいいぐらいで終わった。 強いと言っても所詮、そこまでのレベルという言葉に値するだけの相手だった。 だから、特に感情を高ぶらせるようなシーンもなかった。 なかったのだが・・・。 なんで、今頃気づく? 膝の上のトレーを見つめたまま、ゾロは茫然としてしまった。 一人勝手に呆然とするゾロ。 それに気づいているのかいないのか、サンジは一人、窓から月を見上げる姿勢で口を開いた。 「あのよ・・・。昨日は・・・・悪かったな・・・。少し、言い過ぎた。」 ゾロの返事がないことをいいことに、更に言葉は続いた。 「それでよ・・・・。今日の戦闘で、気づいちまったことがあってよ・・・・。その・・・。」 今度は俯いてしまうが、ゾロの方が見れないのだろう。 ゾロは茫然としながらも、視線をぎこちなくサンジに向けるがサンジはそれに気付かない。 「今日・・・、てめぇに向けてナイフが飛んできた時・・・・・あぁ、もちろん命に関わるようなレベルの得物じゃねぇし・・・俺が蹴り落とさなかったところで、てめぇで何とかするだろことはわかってんだが・・・。後で、そのナイフ見て、毒が塗ってあることがわかってよ。確かに強さや運もそうだろうが、俺達がルフィを海賊王にする前に命を落とすことが絶対ないだろうことは信じてるが。それでもいつかどこかで・・・・何かがあるかもしれねぇ、ってふっと思っちまってよ・・・。」 はぁ、とサンジは一呼吸息を吐いた。 「昨日は、もうお前とセックスしねぇって言ったけど、お前が良ければ・・・・撤回させてくれねぇか?」 「・・・・・。」 「俺よぉ・・・わかっちまったんだよ。いや・・・まだ、感情の全部がわかったわけじゃねぇけど・・・。昨日で終わっちまってそのまま別れてもいいわけじゃねぇほどに・・・てめぇのことがどうやら・・・好きらしい。」 「え?」 「昨日の今日で言う事コロコロ変わっちまって・・・・悪ぃ・・・。でも、なんだか、このままてめぇと・・・もちろんただの・・・ってわけじゃなくてだな!みんな、大事な仲間だってのはわかってる!わかってるが、それだけじゃ嫌だと思ったんだよ!!仲間ってだけの括りじゃ嫌なんだよ!!」 自分の言葉が恥ずかしいのか興奮してきたのかわからないが、段々とサンジの声が大きく荒くなってきた。 なんだか声音だけで聞けば怒られているような気分だ。 よくよく見ればサンジの顔は真っ赤だった。やはりこれも、恥ずかしいのか興奮しているのかわからないが。 でも、悪い気はしない。怒られているようだが、それでも気分は悪くない。 そして。 サンジにだけ言わせるわけにはいかなかった。というか、言わなければいけない言葉がゾロにはあった。 今気付いたばかりだが。 「あのよ・・・。」 はぁはぁと半ば息の切れているサンジに、ゾロは改めて向き合った。 「俺よ・・・・てめぇに言わないといけない事があった。」 「・・・・・え?」 自分の今言った言葉はスルーなのかどうなのか、それすらわからない返事にサンジの首は素直に傾げた。 「てめぇが好きだ!!」 「は!?」 突然のゾロの言葉にサンジは素っ頓狂な声を上げた。 返事にしては、唐突な展開な気がするが。 「俺は今までお前に告白して、それを受け取ってもらえて・・・・だから抱き合っていたと思っていた。」 「・・・・・そんな言葉、・・・・聞いたことねぇぞ。」 「あぁ・・・・。俺はてめぇに告白したつもりで『抱きたい』って言ったんだが、それがどうやら違ったらしいな。てめぇにとっちゃあそりゃあ、ただ単にセックスしたいだけって受け取られていたって、今気付いた。」 「いまぁ!?」 サンジの反応にゾロは思わずボリボリと後頭を掻いた。なんだかバツが悪い。 「そのよ・・・・。飯受け取って・・・あぁ、てめぇに触れたいっていうか、抱きしめたいっていうか、そんなのを思ってな・・・で、それだけでもダメかなって思ったら、そういえば、最初からいきなりシてたなって思って・・・・で、そういえば、最初いきなり『抱きたい』って言っちまったな、って思って・・・で、ようやく言葉の綾に気づいた。」 「な・・・・な・・・・。」 ワナワナと震えるサンジにゾロは「悪ぃ・・・。」と上目遣いにサンジを見上げた。 かわいくねぇ!かわいくねぇぞ、そんな顔しても!! 途端、サンジはばっと立ち上がった。 見上げるゾロに向き合い、そっと懐から煙草を取り出す。火をつけて、ふぅと一息、煙を吐き出してゾロを見下ろした。 一体どうするのかと、ずっとサンジを見つめていたゾロに・・・・。 ガツン!! 思わず踵を振り下ろしていた。 「クソゾロ!!!てめぇ、俺が散々悩んだこの数週間を返しやがれ!!」 床に陥没する頭を余所にサンジは梯子に向かってガンガンと歩いて行った。 「明日から仕切り直しだ!!明日の晩、てめぇもう一回夜番だ!!」 サンジの声が届いたのかいないのか、気を失いながらもゾロの顔は満面の笑みを浮かべていた。 そして、床に埋もれた頭とは別に、トレーは味噌汁も零れずにゾロの手に残っていた。 |
13.01.07
う〜ん、これが私の限界?・・・すみません。これも87778様に捧げます。