獣の処理のし方
その船は、賞金稼ぎ達で構成された船だった。 ルフィの首が船員達の目的なのは一目瞭然だった。しかし、麦わら海賊団は、賞金首のルフィだけでなく、他の船員も強さではそんじょそこらの輩には太刀打ちできないほどだ。 その中で、ゾロは特に戦闘員というだけあって、真っ先に賞金稼ぎの群れに向かって行く。 その様は喜々としていて、まるで体内に荒ぶる神が宿ったと誰もが震え上がったほどだ。 そして、ルフィに辿り着く前に闘神、ゾロによって多くの狩人は返り討ちにあったのだった。 「ゾロッ!・・・やめてっっ!!」 ドンと何かが壁にぶつかる音とともにナミの悲鳴が船内に響いた。 すでに「腹が減った!!」とテーブルの上で構えるルフィと、それに嫌な顔をしながらも楽しそうに鍋の中の黄金色に澄んだスープを混ぜていたサンジが何事か、と慌ててラウンジを飛び出した。 賞金稼ぎ達は全員片付いたはずだ。メリー号の上には、仲間以外、誰一人いないはずだ。 しかし、ルフィ達がドアを開けると共に、尋常ではない空気がラウンジに進入してきた。流れ込む黒い空気にウソップの震えた声も纏わりついてきた。 「止めろ!ゾロッ!!・・・お前、わかっているのか!!」 ゾロに何かあったのか。 慌ててドアから飛び出したルフィにサンジが続く。2人は慌てて手摺りから、下を見下ろした。 と、同時に2人の眼に入ったのは、唸り声をあげてナミを壁に押さえつけているゾロだった。 グルル まるで猛獣のような唸り声が、噛み締めた歯の隙間から蒸気と共に漏れている。 言葉を忘れてしまったのか、ただただ荒い息を吐くだけの獣。 あぁ、これか・・・。 と、サンジは思った。 ルフィも気が付いていたのだろうか。 戦闘が終わって一段落着いた今も、殺気に近い気配が回りにビンビン伝わっていたのを実は知っていた。 どうやらゾロは、戦闘からの興奮が醒めやらないのだろう。 人を殺した後の妙に昂ぶった心。刀を血で濡らした時の、高揚感。 どうやったら収まるのか。 今まで海賊狩りとして生きてきた頃はどうしていたのだろうか。 今いる海上と違って、陸では、問題なく処理できていたのだろうか。 獣と化したゾロを階下に見下ろしながら、サンジは、辺りに澱んでいる昂ぶった空気に反して冷えた頭でぼんやりと考える。 昂った興奮は、大抵の者はそのままセックスを捌け口にしていた。ルフィのように食欲に走る者はまず殆どいないと思っていいだろう。 サンジがいたバラティエにも、ゾロほどではないが、レストランを襲う海賊と戦った後、やたらと興奮して仕事にならない奴は多くいた。 過去、バラティエでは、海上ということで荒れた男を収める女性がいなかったのもあり、そういった獣達をセックスによって収めてきたのは、自分だった。あまりに仕事にならないために、ため息を吐きながら、自らそういった獣達に身体を差し出した。実際、興奮していたのは、サンジも同様だったのもあるが・・・。 ゼフは呆れた顔をしながらも、そのサンジの行為を黙認していた。高揚した気分をどうやったら落ち着かせる事が出来るのか、経験上、それを知っているからでもあるからだろうが。 今だ、グルルル、と唸り声をあげるゾロはナミの肩を掴んだまま離さない。その股間は大きく膨れ上がり、ゾロの行動に気が付いたナミは頬を赤く染めながらも、先の行為を予想し、額に汗を流している。 このままだとどうなるのか、一目瞭然だ。 もちろん、船長をはじめ、その後の行為は誰も許さないのは当然のことなのだが。 カツカツ、と足音を響かせてサンジが階段を降りた。 突然動き出したサンジに、ゾロを止めようと拳を握った船長が、訝しげに見つめている。何をしようとするのか、まだ良く分かっていないようだ。 ルフィは、獣の本能に過敏に反応している自分とは逆の、冷静な様子を見せるサンジの動きが読めないらしい。 同じ獣出身だからか、単純に力づくでゾロを止めようと拳を握っている船長はまだまだお子様だ、とサンジは内心苦笑してしまう。 「ナミさん、大丈夫?・・・おら、どけ、ケモノ!」 グイッ と、今度は、サンジがゾロの肩を押さえる形になる。 反動でゾロの手がナミから離れた瞬間、ナミは震えている足を叱咤しながらなんとかゾロの懐から逃げ出した。 が、部屋にまで逃げる事も叶わないので、ルフィの後ろまで走る。ここなら安全と踏んだのだろう。ただ、それ以上は、サンジがどうするのかわからないのもあり、ただただ震えながらルフィの肩にしがみ付いている。 ウソップは、やはりガタガタ体を震わせながらも、サンジの動向を図りかねているようだ。 「船長。」 ゾロに手を掛けたまま、サンジはルフィを振り返った。 「・・・・何だ?」 眉を寄せてルフィはサンジの言葉を待った。 「暫く・・・。俺が戻るまで誰も格納庫には近づかせないでくれ・・・。」 それと。 「あぁ、ナミさん、ごめん。料理、ほとんどできているから、悪いんだけど皿に盛って、ルフィに食べさせてくれる?」 「・・・・え・・・・・えぇ・・・・。でも・・・・・・サンジくんっ!!」 まだ多少震えの残る声音でなんとか返事を返すが、サンジのことも心配なのだろう。 「大丈夫だよ。」 ニコリとナミに笑いかける。 女性対象の暖かい笑みの中に、艶を一瞬見せたその笑顔で、サンジが何をしようとするのか、ナミは瞬時に理解した。 「ゾロは・・・・!」 「わかっているよ、大丈夫、ナミさんに手を出させることはさせないからvv」 「そういうことじゃなくて・・・・、サンジくんっ!」 「俺、そういうの慣れているから・・・。」 「慣れている・・・・って!!」 2人のやりとりに事の先を船長もわかったようだ。みるみる眉が跳ね上がり、眉間に皺がよる。が、なんとか怒りを堪えているのか、震える拳同様に声音を押さえてサンジの名を呼ぶ。 「船長、この役目は俺が引き受ける。いくら海賊船だからといって、この船では、レディには獣を宥める役目はさせられない・・・・。」 「しかし、こんなのは!!他に方法があるはずだ!」 「無理だよ・・・・、時間が経つまでゾロを押さえつけとこう、って考えているだろうけど、ここまで昂ぶっていちゃあ、そうそう静まんねぇよ。それにずっと押さえつけるだけでいたら、そのうち行き着くとこまでイっちまうぜ、この野獣は。発散させてやるのが、一番だ。」 「発散させるっていっても・・・!!」 「必要なんだよ。魔獣には、こういう事も・・・。お前も、いつか判る時が来るさ。」 サンジはニヤリと口端をあげる。 「サンジ!!」 「大丈夫だ。何も殺しあうわけじゃないからな・・・。」 「・・・・サンジ。」 「心配するな、船長。喰いたい奴には喰わせてやるのがコックの仕事・・・。これもその一つさ。」 そう、軽く手を振ると、サンジはゾロに向き直った。 「ゾロ、おらっ。ここに入れ。」 押さえていた肩から手を外し、今度はゾロの腕を掴み、サンジは格納庫のドアを開けた。 今だグルルルと唸っているゾロにまるで本当の獣だな、とサンジは薄く笑う。 後ろ手で格納庫のドアをパタンと閉めた。 チラリ、と閉めるドアの隙間から仲間達の心配気な顔を、サンジは見てしまった。 大丈夫だよ。 と心の中で答える。 と、同時に本当に自分がこの海賊団に入る前はどうしていたのか不思議に思う。 ウソップの話だと、それなりに戦闘をこなして来たというのだが。 今だ人間の言葉を発しない、人間の形をした獣を見つめる。 それは、まるでサンジが傍に来るのを待っているようで、従順ぶりが不思議だ。 ゾロという名の獣の眼を見つめた。 確かに今は人間からかけ離れたただの野生の生き物なのに、その瞳はギラリと輝き、暗く濁っているわけではなかった。心までが殺戮者になったわけではない。ただただ興奮冷めやらぬだけだ。 だからなのか。 一度はナミに手を掛けようとしたが、それは踏みとどまり、今はサンジが来るのを体中から蒸気を発しながらも大人しく待っている。 そのあまりの素直さにサンジは改めて笑みを溢す。 やっぱり・・・。 大丈夫じゃねぇか。 ゾロは大丈夫だ・・・。心まで狂っちゃいねぇ。 だったら、やはりこの昂った精神と身体を鎮めてやるだけだ。 きっと今までの戦闘では、どこかの娼婦なり、道すがらの女性で気を発散させていたに違いない。 確かウソップがいろいろと話してくれたのは、今までは全て陸の上での戦闘だったはずだ。 サンジはゾロの眼を見ながらそんなことまで思い出した。 今回は、海の上だもんな・・・。 「発散させてくれるレディはいねぇもんな、・・・・・やっぱ俺が発散させてやるしかないだろう。」 サンジの言葉を理解しているのか、ゾロはサンジが近づくのをただ只管待つ。 ニヤリと笑うとサンジはゾロにゆっくりと近づき、その熱を持った腕に手を伸ばした。 ゾロは静かにサンジの手の動きを目で追っていたのだが、自分に触れたとたん、瞬発力をもって逆にその手を取った。 バッ と踵を返す間もなくドンと床に倒れこむ。 ゾロに押し倒されたのだ。 「・・・・てぇ!・・・アホ、てめぇ!」 打ち付けた後頭部を摩る事も出来ず、そう怒鳴りつけようとした瞬間、ビリッと首筋に痛みを感じた。 プチ と、軽く皮膚の破れる音が聞こえた。 噛み付きやがったな、こいつ。 多少の怒りをもって、ゾロの目を睨みつけた。 ギラギラと輝きを消す事のないその瞳は、多少血走っているのか、赤くも見える。先ほどは感じなかったが近くで見れば見るほど、眼の色が赤く燃え盛っているように見える。 サンジは、肉食動物に今から喰われる瞬間の射すくめられた草食動物のように、震えているのが自分でもわかった。 肉食動物に喰われる生き物達は、肉を噛み千切られ、骨を噛み砕かれる瞬間、陶酔にも似た興奮を覚えるものなのだろうか。 この震えは、今から行われる儀式に対する恐怖からくるものだけではなく、陶酔にも似た感情からくるものだと理解してしまった。だからなのか、興奮し、震える体を押さえることもなく、ただただゾロを見つめた。 過去、何度と無く、今と似た状況を経験した事があるはずなのに、こんなに震えたことは、ない。 そう思い返すと、自分の口端が上がっているのに、気が付いて、「あぁ、自分も興奮しているんだな。」と改めて自覚した。 それもそのはずだ。 よくよく考えれば、自分だって、先ほどまで、戦闘の真っ只中にいたのだ。血を流し、相手の身体を叩き潰していたのだ。 先ほどの戦闘を思い出し、新たに興奮を高めるサンジの様子に釣られたのか、ゾロの手が遠慮なしにサンジの胸を弄る。 僅かにできた隙間から入れていた手の邪魔になるのか、思い切りシャツの下から手を上げたため、嵌めていた釦が弾けとんだ。 あぁ〜ぁ、とサンジは思う。 このシャツどうすんだよ、とため息を漏らした。 そんなのんびりとした思考を攻め立てるゾロの手の動きにサンジがビクリと身体を振るわせた。 遠慮もなにもない動きは、興奮の中にもあった余裕をサンジの中から打ち消していく。 嘗め回す舌は、最初に噛み破った皮膚から流れる血を全身に拡げ、酷くは無いが最初から充満していた血の匂いをさらに濃いものにした。 そんなに血ぃ、出てんのか?とサンジが自分の首筋を確認しようと首を持ち上げるのを力強い掌に押し留められる。 どうした、と目線だけで掌を辿るとそのままゾロの視線とかち合った。 最初は、ただただ本能のみだと思われた獣の視線に徐々に人間としての色欲の色が強くなっていく。 どういったもんんだよ、この魔獣はよ・・・。 今だ冷静に戻ったわけではないが、それでも己の行動を自覚しているのか、戸惑いとそれでも消せぬ性欲に対する素直な欲求を見せていた。 「・・・・・・・。」 何か発しようとして、言葉が見つからないのだろう。 隠しようの無い己の様子に、今さら恥かしがることもないだろうに、どうにかして言葉でこの空気を少しでも穏やかなものにしたいのだろうか・・・。 今更だ。 お互い獣になってやろうじゃないか。 「ゾロ・・・。遠慮はいらねぇ。好きにしな!」 挑発とまではいかないまでも、サンジはゾロを煽る。 その言葉に安心したのか、一度は止まってしまった動きを再開して、ゾロはサンジを堪能した。 「・・・・・んあっ!」 噛み千切る勢いで、乳首に噛み付かれサンジが仰け反る。 悲鳴とも喘ぎ声とも取れる声にゾロは、喘ぎ声と判断したのか、調子づいて動きを荒くしていく。 舌だけでなく、掌でもゾロはサンジを煽り立てた。 久しぶりなのに・・・これだけ激しいヤツ、やられちゃあ、俺の身体、持たないかもしれねぇな・・・。 覚悟を決めて、サンジはゾロの背中に腕を廻した。 そのまま足も絡めて、ゾロに答える。 気が付けばお互いの唇は、相手の口唇を求め、舌はさらにその奥までを求めていた。 ただの身体の欲求を満たす為だけの関係にキスまでしている自分にサンジは驚く。 それでも欲は止まらず、先へ先へと手が伸び、舌も伸びていく。 絡み合う舌に翻弄されて頭の中が痺れていく中、サンジは無意識にゾロの砲身を求めていた。 グリグリと腰を押し付けて、先を強請る娼婦に成り下がっていた。 ゾロに中てられたのか、ここまで自分が相手に強請るのは初めてだった。 「あぁ・・・・。んっ・・・。はあぁ・・・。」 止まらない声に、ゾロのはぁはぁという荒い息まで絡み合う。 「サンジッ・・・。」 麻痺した脳にゾロがサンジの名前を呼ぶ声が届いた。 一瞬名前を呼ばれたことがわからなかったが、戦闘後に始めて発した言葉が自分の名前だということに、瞬間驚く。 そして同時に、そのまま突き上げられる感覚に翻弄された。 「あああぁぁぁぁっっっ!!」 ブれる景色の中、サンジの視界にはっきりと入ってきたのは、汗を流して必死に己の快楽を求める中にもほんのちょっとだけれど、幸福感を匂わすゾロの顔だった。 気がつけば、あたりは血の海と見紛う状態だった。 己も相手も血だらけで。 しかし、それは殆ど、自分達の血ではなかった。戦闘の時に着けた返り血だった。 ほんのちょっと、噛み破られたところから流れ出た血と、結合時に流れた血はあったのだが。 お互いに今だ整わない息に相手を見る。 サンジが気を失っていたのは、ほんの僅かの時間だったらしく、ゾロもまだ整わない息をゆっくりと吐き出していた。 サンジの視線に気が付いたゾロは、サンジを見返した。 返す視線はすでに獣のそれではなく、普段のゾロ、いや、それよりも穏やかな眼をしていた。 だが、眼は穏やかでも、心は落ち着かないのだろう、口元が歪んでいた。どう、対応していいのかわからない様子だ。 暫くお互いに見つめあっていたが、ゾロが何かを発しようとした言葉をサンジが先に絶った。 「謝ったら蹴り殺すからな!」 「・・・・・・・・・。」 「俺は男だ。孕むこともないし、こんな事は初めてでもねぇ・・・。また、今回のように収まりがつかなくなったら、いつでも相手してやる。だがな、これだけは言っておく・・・。ナミさんをそういった対象にするな。惚れているんだったら、俺の出る幕はねぇが、ただ単に処理の相手にするんだったら俺が許さねぇ。処理なら俺がしてやる。」 「・・・・・・・。」 「わかったな!」 「・・・・・あぁ。」 ゾロの返事を聞いて満足したのか、サンジはゆっくりと身体を起こした。 多少乱暴に扱ったせいか、それほどでもないが、太腿からまだ血が流れていた。 「・・・・っっ。」 「おい・・。」 「大したことねぇよ。」 そうニヤリと笑うとゆっくりとした動作でシャツを羽織り、ボトムを穿いた。 「人間に戻ったなら、後片付けはお前がしろ。俺は、皆の食事の片付けをしなけりゃなんねぇし、テメェは食事、取るだろう?・・・わかったな。」 後ろ手にドアを閉めると裸足のままのぺたりぺたりと足音が遠のいていった。 ゾロはサンジの足音が聞こえなくなるまで、静かに座っていた。 その顔には、喜びとも、悲しみともつかないまま、ただ暗く染みのついた壁を見つめていた。 「処理に惚れた相手を使うなっていうなら・・・どうすんだよ、今度から・・・。両思いで処理じゃなけりゃあ、いいのか?」 サンジの気持ちがわからないゾロにはどうすることもできない。 これからも、ただの処理の相手として、自分の気持ちを押し殺して、戦闘後の収まりがつかない時しかサンジを抱けないのだろうか。 クソッ ポツリと吐いたゾロの言葉と舌打ちは誰にも届かなかった。 END |
06.06.02
尻切れトンボですみません。(土下座)