思い出の子守唄0




繁華街だろう大通りを一歩曲がると、そこはうらぶれた家屋が繋がっていた。いくつか店もあるが、それはどう見ても繁盛している様子はない。
この島は結構大きいため、こういった貧富の差が出てもしょうがないだろう。
ログは5日。島は大きく繁栄しているとナミが言っていた。
今日は買い物前の下見と来たのだが、どうやら道を間違えてしまったようだ。
どこにでもあるだろう、政治の歪みが目の前に現れた。

ちょっと予定外のところに来ちまったな、まるでどこかの迷子剣士だ。
と、煙草の煙を大きく吐いた。

道端で座り込む古びた布切れのような服を着た親子が物欲しそうにサンジを見つめていた。同情はしたいが、下手に干渉することは反ってよくない。

ちっ、と舌打ちして目線を変えたとたん、サンジの表情は固まった。
その先にあるのは、やはり営業しているのかどうかもわからない質屋らしき店。
ガラス窓越しにいくつか目ぼしい商品が置いてあるのだが、それのどれもが誰も流してしまうほどの品ばかりであった。よくいうブランド物などは1品もない。
しかし、そんな中にサンジを驚愕させる品が置いてあった。

間違いじゃないか?
いや、間違いであって欲しい。

複雑に絡む思考に囚われながらも何とか、希望的観測を持って商品が陳列されているガラスの前に立つ。
じいっ、とその対象であるギターを見つめる。
流行ものでも、高級品でもないそれに魅入られたように見つめた。

どれくらいの時間、そうしていたのだろう。
道路の反対側に座り込んでいた親子はいつの間にかいなくなっていた。サンジに何も期待出来ないと場所を移動したのか。

大きくため息をつくと諦めたように肩を落としながら、普通では入る事の無いその骨董屋のドアに手を掛けた。
ギイッ
今にもドアが外れてしまうのではと心配になってしまうほどの大きな音を伴ってドアが開いた。
サンジが中を見渡すと、やはり外から見た様子そのままにいかにも実は潰れていましたと云わんばかりの古ぼけた店だった。骨董屋なのだから元々商品自体が古いものだというのは、わかる。がどれも骨董という以前に埃だらけでもやはゴミ同然のシロモノばかりだった。
しかも、商品ばかりでなく、店の照明や壁、奥にあるはずのカウンターまでもが骨董と呼びたくなってしまう有様で。これまた剥がれ落ちそうな天井に穴のあいた壁。くもの巣はいうまでもない。商品以上に埃を被った陳列棚。
もちろん店員どころか、主人と呼べる人物もいない。
やっぱりこの店は潰れているのではないか?
そんな疑問を抱きつつもなんとか店の奥に声を掛ける。

「誰かいないのか?」

住人すらいないのか?

「客だぞ〜。」

呑気な声音だが、サンジは真剣に声を掛けた。どうしても確認したいことがあのギターにはある。
いっそのこと、勝手に持って行ってしまおうかとすら考えてしまう。いやいや、俺は海賊ではあるが泥棒ではない。
そんな暇つぶし的なことまで考えて困っていると、漸く奥からのっそりと熊が出てきた。いや、性格には熊ではなく、もちろん人間なのだが。

「いらっしゃい・・・。」

いかにも潰れる寸前の店の対応でもってサンジの前に現れた。

「何かお探しで?」

身体は熊のように大きいが、声はとことん小さく目の前にいるサンジに漸く届く程度の声量。もっと大きな声だせねぇのかよ、客商売だろうが!と半ば怒りに近いものを感じるがそんなことを言いたくてこの店に入ったのではないし、この店の行く先にももちろん興味はない。目的のことを聞きたいだけだった。

「あの・・・店先にある、ギター。あれ、いつからこの店にあるんだ?」
「・・・?お客さん。いったいあのギターがどうしたっていうんです。・・・いや、客じゃないのか、アンタ・・・・。」

客だと思っていた人間がいきなり質問をすれば誰でも訝しむだろう。咄嗟に主人の態度が変わったことにサンジも、いや、怪しい者ではないと慌てる。

「あぁ、ギターはもちろんいい値で買わせてもらうけが、この前の持ち主について知りたいんだ。知っていることがあったら教えてくれないか?」

主人の眉が跳ねる。これは、ギターをいい値で買うことに反応したのか、それとも持ち主について知りたいというサンジの言葉に反応したのかはわからないが、それでもこの大きな熊がまるで小さなねずみかりすにでも変身したように背を丸めた。サンジの声に反応した太て毛の長い眉は段々に下がり、今にも泣きそうな顔になった。
このギターの持ち主に関わる事で何か悲しいことでもあったのだろうか。こちらまで眉尻が下がってくる。

「あんた、このギターの持ち主とどういう関係だ?」

目的のギターを指差して主人は質問する。
値段のことには触れず、いきなり核心的な内容に話が進む。

「このギターの持ち主には、昔、俺が子どもの頃、お世話になったんだ。俺にとってはとてつもなく大事な人だ。家族ではないが、家族同様に大切な人だ。この人は旅をしているって言ってたから、ほんの数ヶ月で別れちまったがそれでも俺には一生忘れられない恩がある。」

過大広告のような言葉ばかりが飛び交ってしまったが、それでもサンジにとっては嘘ではなかった。
まだ、料理も作らせてもらえなかった小さな頃、バラティエに来た歌うたい。

「あんた・・・もしかして、イーストブルーの料理人の・・・?」
「あぁ、そうだ。イーストブルーから来たし、料理人でもあるが・・・?」
「サンジっていうんじゃないか?」

グランドラインのこの島には初めて来るし、もちろんこの骨董屋の熊のような主人とは初見である。それがその相手より名前を言われてサンジは驚きを隠せなかった。
ずっと咥えていた煙草をポトリと落とし、あわててそれを足でもみ消した。

「なんで俺の名前を知っているんだ?」
「知ってるも何も、サリーがよくアンタの話をしていたからなぁ〜。雑誌に載ったこともあるだろろう?この島にもその雑誌があってな、そりゃあ喜んでたよ。りっぱな料理人になったって!」

ギターの持ち主の名前がスルリと主人の口から出てきたことにサンジはくいついた。自分のことなどどうでもよかった。

「サリーはどうしてるんだ?何でここでサリーのギターを打っているんだ!!」

もはや襟首を掴みかからんとする勢いでサンジは詰め寄った。もしかして多少のことなら教えてもらえるとは期待したが、そこまで詳しくサリーのことを知っているとはサンジも思わなかった。

「教えてくれ、おっさん!!」

そんなつもりはないのに、殴りかかられるのでは思われたのか、主人が少し後ずさる。いや、殴られると思ったからではなく、言いにくいことなのだろう、その顔はさっきよりも悲しみを含んで俯いてしまった。

「死んだよ・・・。2年前にね・・・。」

簡単に言ってくれるな。
とサンジは思った。
そんなことを簡単にさらっと溢してくれるなと、さらに詳しい話を聞く前に先に怒りが込み上げてきた。

「どういうことだ!」
「言葉通りだよ・・・。もう、いないよ。だからギターも彼女の希望通りに欲しい人に売ってくれって・・・。」

今度こそサンジは主人の襟首を持ちドン!と後ろにあるカウンターに押し付けた。

「このギターはサリーが何よりも大切にしているものだぞ!それをあんな何の価値もない品と一緒に売るなんて!!」

この店を半ば侮辱した内容にさえ気づかないままサンジは止まらない。

「何で死んだんだよ!どうして!!まだサリーは若いし、元気もあったし、強いし!!それがどうして!?」
「それがこのグランドラインだよ・・・。アンタもここまで旅をしてきたならわかるだろう?どんな屈強な男でもコロッといっちまうことが多いんだ。気候、荒れた海、病気、海賊の襲撃。何でもアリだ。強いっていってもか弱い女性が1人旅をするには酷な所だよ。このグランドラインは。」

主人から手を離し、ゆらゆらと下がるサンジに、まぁ座れと主人は先ほどのサンジの態度を責めるでもなく、椅子を勧めた。これもまた埃を被っていたが、そんなことはどうでもよかった。

「聞きたいか?この島に来た頃の彼女を・・。」

サンジは声を出すでもなく、コクリと頷くだけだった。






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ついにOPを・・・。あ〜、でもゾロサンじゃなかった。(爆)しかも、続いてすみません。

2005.09.16