ウソップは見た!
「だからよぉ、ホントなんだって!!」 ウソップが大声にならないように注意しながらもそれなりにテンション高く訴える。 「・・・・・・。」 じとっとした目でウソップを睨むサンジにも怯まず、いつも以上に強気でいるウソップにサンジは改めてため息を吐いた。それを、どうとったのか、「もう一度聞け」と、ウソップは言う。 「だ〜か〜ら〜。ゾロとルフィは恋人同士なんだってぇ!!」 「どうして、そう言えるんだ?」 サンジの疑問にも当然答える気満々で、胸をポンと叩く。 「おれぁ、見ちまったんだよ!この間の不寝番の時に。」 サンジの目が細められた。 そんなはずはない。なんたってゾロとそういう仲なのは、何を隠そう自分なのだから。 とはいえ、この船の主要戦闘員のふたりが恋仲なのがばれるのはなんとなく憚れた。ので、隠れた仲で、誰にも気づかれていないはずだ。 それがどうしたことか、ゾロが仲間と恋仲になったという。 しかも、その相手が自分ではなくて、とうてい恋とか愛とかとは縁のなさそうな、この船の船長だという。 どうしてこうなったのか、わからない。 ウソップの言葉を否定したいが、そうすると自分とゾロとの仲を言わなくてはいけない。それはなんとなくだが避けたかったので、怒鳴りたいのを我慢してウソップの話に耳を傾けた。 「夜中によ、トイレに行きたかったから、見張り台から降りたんだ。まぁ、夜中だからあまり大きな音を立てると悪いと思ってなるべく音を立てないように降りたんだが、それがいけなかったんだろうなぁ〜。ラウンジの明かりが点いているから、オレァよ、お前がいると思って、ついでに何か温かいものを頼もうと思ったんだ。でよ、ドアを開けようとしたら、声が聞こえたんだ。」 なんだか違和感があるような・・・。そう首を傾げたが思い出せず、そのまま話を続けて聞く。 「でよ、なんか雰囲気がおかしくてさ、窓から中を覗いたんだ・・・・。そしらたよぉ、見ちまったんだ。」 「何を?」 一体ウソップは何を見たというのだろうか。 つい最近、ウソップが不寝番の時の夜中の出来事を、話を聞きながら思い出そうと唸っていたら、ハッとした。 あの夜、確かにゾロはラウンジにいた。ルフィもいたのを知っている。 なんていったって自分もそこにいたのだから。 いつもはサンジとゾロ、二人で飲むことが多いのだが、その日は珍しい事にルフィも一緒に飲んだ。たまには、色艶なしに、明るく飲む。そんなこともいいなと楽しく時間を過ごしていたはずだ。 でも、ウソップが言うには、ラウンジにはルフィとゾロがいたという。そこにサンジがいたと言わない。もし、自分がいたなら、それに気づくはずだし、雰囲気がおかしい、というはずはない。 もしかして、自分が寝た後で、また二人でラウンジで過したのか。 サンジがぶつぶつ言い出したのにも気づかずにウソップは自分に酔ったように話を続ける。 「ルフィとゾロが抱き合っているのを、俺ぁ見ちまったんだ・・・・。しかもよぉ・・・・・。」 声に詰まりごほっごほっと咳き込む。 サンジが慌ててトントンと背中を叩くと落ち着いたのか、涙目でサンジを見上げた。 「悪ぃ。つい、興奮しちまって・・・。」 「で・・・?」 ウソップが言うことが本当なら、これは黙ってはいられない。 自分という者がいながら、ゾロは船長にまで手を出していたのか。 これは浮気か不倫か! もしや、最初から、ゾロはルフィのことを・・・! と、改めて普段の二人を思い出す。 この中で一番最初に仲間になったというゾロ。 その経緯は簡単に聞きはしていたが、それだけで感じた二人の絆はかなり強いものだと思う。 お互いに信頼しあっていて、サンジとは違う意味で海賊船を支えているのも知っている。 だが、お互いの気持ちを告白したときにサンジは確認したのだ。 本当に好きなのは、ルフィの方なのではないか?と。 だが、その言葉にゾロは笑って答えたはずだ。 ルフィには、男として信頼のおける意味で好きと聞かれれば好きなのだが、ヤツを抱きたいとは思えない。と。 その言葉を信じたからこそ、自分はゾロに抱かれるのを覚悟したのだ。 それを。 それを今更。 ふつふつと湧き上がる怒りにもウソップはやはり気づかずに、更に口を滑らせる。 「ゾロがよぉ、ルフィに言ったんだ。「好きだ。」って・・・。」 「え?」 「そしたらルフィも言ったんだ。しかも、満面の笑みで。「わかった。」って・・・・。俺はよぉ、びっくりしちまって、慌ててトイレに駆け込んだね。」 「そうか・・・。」 ポツリとサンジが溢した相槌は、ウソップの耳に届いた。 「だから、わかったか?ゾロとルフィは恋人同士になっちまったんだ。」 「あぁ・・・・。」 サンジの気のない返事にウソップはちょっと怒鳴り声になる。 「聞いてんのかよ、おい。」 「あぁ、聞いてるよ。ゾロとルフィは恋人なんだろう?」 「あぁ、そうだ。お前、どう思う。」 「どう思うって・・・・。」 「だってよ、男同士だろう。しかも、船長とそれを支える剣士。いや、俺はさぁ、別に本人がよければそれでいいけどよ、・・・なんというか、まぁ・・・・その・・・。」 「いいんじゃねぇの?周りに害がなければ。」 「反応薄いなぁ〜〜。驚かねぇのか?」 「あ〜〜〜。まぁ、海賊船ではよく聞く話だしなぁ・・・・。確かに顔ぶれを考えると驚きはするが、まぁ、そんなこともあるかな。」 「結構寛大だな、サンジ。」 「恋は自由だ。」 サンジのリアクションをかなり期待していたウソップとしては、予想外の反応にがっかりしたらし。肩を落として冷めたコーヒーを飲んだ。 ウソップの様子を見ながらずっと手にしていた煙草を咥えて、サンジは薄く笑った。それは、何だか見ていていつもと違う笑顔に見えて、ウソップは慌てた。 「おい、サンジ。どうした。お前、なんだか様子変だぞ?」 「そうか。いや、普通だぜ?」 そう答えるのが精一杯だった。 サンジは煙を吐き出すと、煙草をテーブルの上にある灰皿でもみ消し、ゆっくりと立ち上がった。 「さて、そろそろ夕飯の仕込みを始めるか。おい、ウソップ、悪いが、倉庫からじゃが芋を持ってきてくれるか?」 そう言って、ざるを手渡すサンジはなんだかいつもと違う空気を纏い始めて、ウソップは思わず素直に頷いてしまった。 結局、ウソップはその後、チョッパーにもナミやロビンにもその話をしたらしく、その日はウソップをはじめ、みんな、ゾロとルフィに対する目がいつもと違った。 だが、生暖かいような、咎めるような、不思議な顔をしたみんなは、それ以上、ゾロにもルフィにも何も聞く事ができなかった。 なんたってゾロもルフィもいつも通りなのだ。 もしかしたら、誰にも言いたくないのかもしれない。いや、そっとして欲しいのかもしない。 だったら、そっとしておこう。 誰もが、そう結論づけたのだろう。 それらの様子をさらに険しい目で見つめるサンジの、その日の様子がいつもと違うと感じたのは、ずっと寝ていたゾロ以外、やはりみんな気が付いた。 が、やはり、誰も何も言わなかった。 「おい、寝ぐされマリモ。飯だ!」 「ぐえっっ!!」 どかっと腹の衝撃を感じてゾロは目覚めた。 足跡のついた腹をさすり、サンジを見つめる。 上から見下す瞳は何だか頼りない。 「どうした。」 いつもと違う様子にゾロが眉を顰める。 「みんなもう、食べ終わっちまったぜ。後は、お前だけだ。」 気が付けば、空は真っ暗で、かなり遅い時間であることがわかる。 が、そんなことより、ゾロの質問には答えず用件のみ伝えるサンジにゾロは何かあったと踏む。 そういえば、昼間、ウソップや、チョッパー達の視線もいつもと違ったようだ。 「何があった、お前・・・・。」 金色の髪に隠れて見えないがその瞳が揺れているように感じた。 「ウソップが関係しているのか。」 出てきた名前にサンジは俯いていた顔を上げる。 「あいつがよぉ、見たってよ、お前とルフィが抱き合っているのを。」 「は?」 「しかも、お前がルフィに「好きだ。」って・・・・。」 「そりゃあ・・・・。」 「お前、ルフィと恋仲だってな・・・・。」 「・・・・・・。」 サンジは肩を震わせている。 ゾロがサンジの肩に手を掛けるととうとう我慢できなくなったのか、ゾロに抱きついた。 大爆笑とともに! ひーひー笑って床を叩くサンジに、ゾロが変な表情で見つめる。 「おいおい・・・・。」 「だってよぉ・・・・。」 「あんまり笑うなよ。ウソップに悪いだろうが。」 「でもよぉ、あいつが悪いんだぜ?覗き見するから。」 「まぁ、そうだがよ。何でルフィと俺が恋仲だっていうのかが、わからねぇ・・・。」 「あの晩、ウソップの奴が不寝番だったろう?」 あの晩とは、ルフィと三人で飲んだ夜のことを指していた。 「おう。」 「で、よぉ、トイレに行く途中でラウンジに灯りが点いてるからってラウンジに向かったんだと。」 サンジは、ゾロに昼間にウソップから聞いた話をかいつまんで、説明した。 「それって。」 「あぁ。ルフィに「好き」の説明をした時の話だぜ。」 ゾロとサンジ、二人してその時のことを思い出す。 「ありゃあ、確かルフィが聞いてきたから始まったことだったよな。」 「そうそう、ルフィがナミさんへの「好き」と他の連中との「好き」が違うようなんだが、何が違うのかわからない。ってとこから始まったんだよな。」 「それで、俺が」 「ルフィを抱きしめて、「好きだ」って言ってみて、説明したんだよな。ナミさんにしたいことはこういうことだろうって。」 「でもあの時、お前ラウンジに居たじゃねぇか。」 「俺は壁に凭れてお前達見てたもん。だからウソップから俺が見えなかったんだよ、たぶん。」 「ウソップに言ってやりゃあよかったじゃねぇか。」 「悔しいじゃないか。酔ってたとはいえ、ウソップがいたことに気がつかなかったってことが!」 悲しそうな顔をしていたのは、単に悔しかったのか。 「まるでガキだな。」 「そういう、お前こそウソップに気が付かなかっただろう。」 「おりゃあ、てめぇの視線が気になってだな・・・。」 「はいはい、自惚れご苦労さん。」 サンジがポンポンと肩を叩くとゾロは、チッと舌打ちした。 が、表情がやんわりと穏やかなものになる。 「ウソップの奴も成長したな。理由はなんであれ、俺達に気配がわからなかった、ってのは。」 「まぁな。」 二人してそれなりに海の男として成長しているウソップに微笑む。 が。 「でも、どうするんだよ。ルフィ、今度の島に着いたらナミに告白するって言ってただろうが。」 「知らねぇよ。どうせ、いつものウソップのほらだった、で終わりだろう。」 「怒るナミが目に見えるようだ。」 「ま、し方ねぇだろ。確かにそりゃあ、嘘だからな。」 「まぁな。本当は違うのにな。」 笑って体を擦り付けてくるサンジの腰にゾロの手が回る。 「飯だって。」 「いや、こっちの方を先に喰う。」 「また、ウソップの奴が来るかもよ?」 「いや、残念。今日の不寝番は、俺だ。」 くすくすと笑うサンジにゾロは遠慮なく身体を重ねた。 本当の恋人達の上空には、高く星空が広がって・・・。 ウソップの成長(?)を祝って星は輝いていた。 END |
07.01.26
バカ話ですみません。でも、ウソップ好きです!!