番長




正月というのになぜかその日、全日本のメンバーは合宿の宿舎に集まっていた。(天○杯とかはこの際無視して)
「「「はっはっはっはっは〜〜〜〜」」」
そして普段の合宿同様、宿舎の玄関横、かなり広さのある談話室でメンバー全員で盛り上がっていた。ただ、いつもとちょっと違うのは談話室にいたメンバー全員がそろって大声を出して笑っていることだった。

その原因は皆の前にドンと設置されているTV。
そのTV画面に映し出されているのは、毎年恒例とでもいえる正月のスポーツ番組。
大概、野球選手がゲストに呼ばれるのだが、ここ最近はサッカーもかなりの人気を博しているようで、現在談話室にいない数人がそのTVに写っている。と、いうことは生番組である。
今画面に写っているのは、翼、岬、若林、日向、に三杉と5人だった。
せっかく翼達がそろって生放送で出るのだから皆で見ようということになり、他のメンバーはわざわざ合宿所に集まったのだ。




「しっかし、翼や岬はわかるけど、日向とかTVって大丈夫かよ。」
誰かが囃し立てるように言った。
それをすかさずタケシが庇うように答える。
「大丈夫ですよ。最近はコマーシャルだって出てるんですから!CMの数だったら、翼さんより多いぐらいですよ!」
「なんたって『男を磨け。日向のように!』だもんな〜。」
「「「ははははははは〜〜〜〜〜!!」」」
「おいっ、そこ。うるさいぞ!」
翼達がなにやら話している。どうやら内容は試合やサッカーについてというより仲間内のことについてのようだ。
皆、一斉に静まり返る。


司会をやっている看板美人女子アナと言われる女子アナウンサーが質問をしていた。
『では、野球界の番長が清○選手ならサッカー界の番長って、どなたかしら?』
画面には翼が真っ先に映し出された。
しかし、その翼が向けた視線のその先には・・・。
翼からターンされた画面の中では何故か日向が固まっていた。
『お・・・・俺〜〜〜〜??』
思わず自分を指さして裏返った声をあげていた。
そこにすかさず翼が説明(?)をする。
『そんな〜、当たり前じゃないか、日向くん!!だって、舎弟もいるしぃv』
続けて岬がフォロー(?)をする。
『そうだよ!後輩連中、結構皆、小次郎のところにあまり近寄らないし・・・』
『っていうか、最初から近くを通らないし〜。』
ここでゴールデンコンビのパワーが炸裂した。二人がケラケラと笑いながら一気にまくし立てる。
『あ、ただ舎弟2号の沢田は別だよね。』


「舎弟2号・・・。」
談話室の皆がタケシに目を向ける。日向が写ったことで緩んでいたタケシの笑顔は、もちろん・・・引き攣っていた。


『そうそう、他の後輩連中はタケシと話してても小次郎が来ると一斉にサ〜〜ッと消えてくよね。』
『もう、中学時代の東邦組がしっかりそのまま幅きかせてるからねぇ。』
『パシリは誰だっけぇ?』
『時々、東邦組じゃないのに何故か井沢達が使われてるよぉ。まぁ、なんったって虎の番長に空手有段者の舎弟がいるからねぇ。』


「舎弟1号は若島津か・・・。」
「俺達はパシリか・・・。」
井沢と来生がポツリと呟いた。


『かわいそうだねぇ。僕、小次郎にモノ頼まれた事ないし〜、怒られた事もないよぉ。』
『あ、俺も俺も〜。皆ダメだな〜。』
ふたりして、楽しくケラケラと笑っている。
その横では、固まったままの日向に、ふたりの会話をどう止めたらいいのかわからずにオロオロしている若林と三杉が写っていた。


「誰か、あの二人を止めないのか?」
「ムリだろ?若林も三杉もオロオロしてるだけだぜ・・・・。」
「言われてる本人も固まったままだしな・・。」
どうしたもんかと腕を組んでいる松山。うんうんと唸っている早田や次籐。
それに引き攣った笑いをしていた南葛メンバーが横を見て、さらに顔を引き攣らせていた。
そこには、いつの間にか壁に穴をあけて、尚且つテーブルを叩き割った若島津がいた。
(サッカー協会もなかなか予算が厳しいのにまた備品代がかかるな)とは、誰もが思ったことだろう。
「でもさぁ、日向って番長っていうのと違うよな。」
とは誰が言ったのか。
すかさず、拳を震わせていた若島津がドカドカと皆の輪の中に入ってくる。
「そうだよな、そうだよな!日向さんってやさしい人だよな。な!!」
「いや〜。そういうことじゃ、なくて・・・。」
松山が考えながら言う。
「なんていうか〜、上には上がいるっていうか・・・。」
そこへ石崎が言葉を繋ぐ。
「翼には勝てないじゃん!」
一瞬、グッと喉をつまらす若島津。他の皆も思い立ったように石崎に続く。
「そうそう、三杉にも岬にも勝てないじゃん!!」
「あ、どっちかっていうと若林とも対等だよなぁ〜。」
「って、ことはこの画面の中の誰が1番だ?」
皆、一斉に腕を組んでう〜〜〜〜んとうなる。
「若林も三杉も翼には勝てないぜ。」
「じゃぁ、岬は?」
「ん〜〜〜〜。どっちもどっちかな〜〜〜?」
「やっぱ、岬も翼には勝てないんじゃないか?この間なんて、翼に『食べた〜〜いvv』って言われたからって岬、ケーキ作ってたぜ。」
「あ、それ、俺も見た!岬、文句いいながら・・・・作ってたぜ。でも、顔笑ってたもんな〜。」
「岬って、翼に甘いよな〜。」
うんうんとうなっている一群の端で、別の意見が飛び出した。
「あ、でも俺、昨日翼が岬をおんぶしてるのを見たぜ。」
「そういえば、岬が足捻ったとか言って翼におんぶ強請ってたんだよな。」
「そうそう!『たいした事ないのに翼くんも甘いなぁ〜っ』て、三杉が怒ってたもんな〜。」
「翼って、岬に甘いよな〜。」
うんうんと一同うなずく。
なんとなく話がずれているにもかかわらず、結局皆悩んでいた。
(で、一体どっちが相手に甘いんだ?)


そこにTVから綺麗な女子アナの声が流れてきた。
『野球界の清○さんに対して、サッカー界の番長は日向さんなんですねv』
TVを見ているメンバーとどこか考えていることが同じなのか、若林、三杉、日向の張り付いたような笑顔の横で、明るく答えるふたりの声がはもった。
『そうで〜〜〜す!!』

(うそだ〜〜〜〜〜〜〜!!!)
全員の心の声が談話室に木霊した。

その中で、ただ2人タケシと若島津は皆に聞こえない心の叫びを叫んでいた・・・。
(日向さんっていうのも、違うけど・・・それも違うだろ!!!)






END