ホワイトディ、それは朝から甘いささやき声で?
ホワイトディには、翼と岬はそれぞれの恋人に手作りのクッキーを渡すことにした。 前日、翼は岬の家に出向き、クッキーの作り方を教わった。型抜き、絞り出し、アイスボックスクッキー・・・、いろいろと迷ったが、結局ハート型でバニラとチョコの2種類の味のクッキーを送る事にした。 岬はというと、彼はやはり作りなれているので(笑)ちょっと凝って絞り出しクッキーにした。 二人して『やっぱりシンプルで行こう!』ということでクッキーとなった。ケーキなどと比べれば見た目には地味だけれど、それぞれ自分の手作りということで気持ちはかなりこもっているはずだ。(貰ったものはとんでもないものだったが)ラッピングだって、慣れないながらも自分達で用紙やリボンまで選んで包んだ。 「ありがとう、岬くん。岬くんのおかげで明日が楽しみだよ。喜んでくれるかな〜、三杉くん・・・。」 「大丈夫だよ。翼くん愛情たっぷりのクッキーだもん。三杉くんが喜ばないはずないよ。じゃぁ、気をつけて帰ってね。」 「うん。じゃぁねvv」 翼が岬の家を出た頃には空には星が輝いていた。 ホワイトディ当日、岬は若林の家を訪れようと仕度をしていた。もうすぐ10時になる。そろそろ起きているはずだ。特に約束はしていなかったがバレンタインの後、若林はず〜〜っとこの日のアピールをしていたから出かけてないはずだ。 「さて、どうやって渡そうかな〜。」 テーブルの上には小さな紙袋が1つ。昨日、翼と一緒に作ったクッキーだ。小さな頃からやっているので元々料理は出来る方だと自分でも思うのだが、甘いもの好きの若林のおかげでお菓子作りも結構得意分野の1つになってしまった。 (まぁ、いいんだけどね。何でも作れた方が・・・) クスっと笑いながら家の鍵に手をかける。 そこへ鍵の横に置いてあった携帯が鳴った。 (もしかして・・・) そのまま鍵と一緒に携帯を取ると岬の予想どうり若林からだった。 「よぉ、おはよ〜さん。元気かぁ〜。」 語尾にハートマークが付きそうなほどの甘い声が聞こえてきた。もうこれから先の出来事を予想して、すでにメロメロなのだろう。 「・・・・おはよう・・。なんか元気だねぇ。どうしたのさ。」 若林の様子が目に見えるようでなんだか体が脱力する。もうちょっと普通に出来ないものか、と岬は返事を素っ気無く返した。 「そりゃ〜、お前・・。ふふっvv今日、何の日か知ってるよな〜〜vv今、家かぁ?」 (ふふっ・・・って気持ち悪いなぁ。もう、なんかやだな・・。) 岬が心の中で引いている事など知らずに若林はさらに1人で突っ走る。 「なぁ、岬〜、今日・・・ホワイトディだろう?実は俺に会いたいだろう!お返し俺に渡したいだろう!今すぐ俺に会いたいだろう!な、なvvどうだ?俺、今暇だからそっち行ってやろうか?」 (・・・・・怒!!) あまりの若林の暴走ぶりにせっかく作ったクッキーも渡す気が失せてしまった。 (なんで、こんなヤツに僕の愛情いっぱいの手作りクッキーを上げなきゃいけないんだ!貰って当たり前って態度じゃないか!1人で勝手に言ってろ!!) 「あいにくだったね、若林くん。僕、今日忙しいんだ。先月、いろいろ皆からチョコもらったからね。チームの事務の女の子や妹とか。だから、今日は会えないんだ。悪いね。」 「・・・・え??」 ピッ!! そのまま携帯のスイッチを切ってしまった。 「ばかばやしっ!」 すでに着ていたコートを乱暴に脱ぐと、どかっとすぐ横にあった椅子に座る。 「なんだよ。あの、貰ってやるっていう態度・・・。」 急に暇が出来てしまい、顎に手をあててしばらくぼーーっとしていた。 カチカチと掛け時計の音が部屋に響いていた。 (でも、・・・・まぁ、わかってたはずだよな〜。若林くんのあーゆーとこ・・・。いつもだったらそんな頭に来ないんだけどな〜。) 自分で何を今更。と考えはじめた。 (そうだよなぁ。僕の方が久しぶりにお菓子を手作りしたもんだから上げてやる。って思っちゃって・・・。若林くんに悪いことしたかな〜、いきなり電話きっちゃって・・・。) そう思うとばっと立ち上がり、薄手のコートをもう一度手に取りながら携帯に手を伸ばした。 ピンポーン そこへ玄関から明るい音がした。 もうっ。折角出かけようとした時に限って誰かが来たりするんだよなぁ、と思いながらもそのままコートを着ながら玄関に出向く。 「は〜い。どちらさま・・・、若林くん!」 岬がドアを開けると、先ほど電話の向こうで1人で騒いでいた盛り上がり男が立っていた。 「岬、ごめんな。1人で勝手に盛り上がって・・・。。」 若林はすまなそうに体に似合わず小さな声で謝った。 しかし、岬自身それはもうたいした事ではなくどうでも良いという気になっていた。反って若林に心配を掛けて申し訳ないと思った。 と、同時に若林があの後あわてて自分の家にダッシュしてきたのかと思うと、岬にはそれがおかしいようなうれしいようななんともいえない気分になった。 実際、若林も岬もお互いバレンタインには義理も含めかなりの数のチョコを貰っているのはわかっていることで、それらのチョコに関しては何らかの理由をつけて前日までにお返しをしていた。だからホワイトディ当日は若林と岬、二人だけで会うことが前々から当たり前のようになっていて、他の予定が入ってないこともわかっているはずなのに、でも、こうして若林はあわてて岬の家にまで飛んできた。 そのことがくすぐったいような、恥かしいような・・・。正直に言えば、やはりうれしいのかなと岬は思った。 若林の表情がなんとなくだが強張ってるように岬には見えた。あの・・・と岬は声を掛ける。 「こっちこそごめん。たいして怒ってる訳じゃなかったけど、ちょっとね・・・あの日かな〜。」 雰囲気を変えよう、とわざと顎に指を当て空を仰ぐようにして明るく答えた。 (何訳わかんないこと言ってるんだ。僕は・・・) あっけに取られた表情の若林はそのまま暫くボー然としいたが、やがてニタッと妙に厭らしいという言葉が似合う笑みを浮かべると岬の腕を取り、勝手に家の奥へと入って行った。 「そうか〜。岬、あの日かぁ〜vじゃあさ、折角家まで来たんだ、このまま調べさせてもらおうかなぁ〜?そうか〜。あの日かぁ〜vv」 ニヤニヤ。ズルズル。 そんな音が聞こえるような風に自分を奥へと連れて行く若林の横顔を見て、岬は自分の愚かさに今更ながらに気が付いた。 (墓穴を掘った〜〜〜!!!しかもさらにスコップで掘られてる感じ?やっぱり若林くんは若林くんだった〜!!) どこまでもどんなことでも突っ走る若林。 それでも若林を嫌いになれない自分を呪いながら、岬はやっぱりどうやってクッキーを渡そうか考えていた。 END |