ホワイトディ1週間前
「で、どうしよう・・・。」 「どうしよう・・・って言ったって・・・。」 困っていた。 大空 翼は困っていた。 「だから、普通でいいじゃないか!クッキーでもキャンディでも。」 「岬くん、例えば若林くんに普通にクッキーを渡したとして、それで向こうは納得すると思う?」 「うっ・・・・・」 「「は〜〜〜〜〜〜っ」」 「後1週間・・・」 そう、ホワイトディまで後1週間だった。 先月のバレンタインディでは確かに三杉にチョコを渡したのだ。しかも、手作りを・・・。 わざわざ岬を呼び出し御教授までしていただいて作ったのに。 相手が悪いとでもいうか、上手だといえばいいのか。 こっちが手作りで攻めれば向こうは豪華なプレゼント攻撃を仕掛けてきたのだ。しかも、ホテルまで取って。 2月14日。 その日、翼は三杉にチョコを渡そうと待ち合わせをしていた。 愛情の篭った手作りチョコ。きっと喜んでくれると思っていたのだが・・・、向こうは翼からのチョコを貰う前にさっさと翼をホテルに連れて行き(しかも、予想どうりのスィートルーム)、部屋のベッドの上には溢れんばかりのチョコレートが置かれてあった。しかも、その真ん中にはオーダーメイドのサッカーシューズ・・・。(チョコとサッカーシューズという組み合わせもどうかと思うが) もちろんその後は甘〜〜〜〜〜〜いチョコの上でラッピングのリボンを体に巻きつけながら蕩ける様な(チョコも溶けたが)時間を過ごし、結局あんなにがんばって作った手作りチョコは当日には渡せずに次の日になってしまった・・・。 「やっぱ、チョコを渡したとはいえ、向こうもくれたことには違いないから・・・返さなきゃいけないよね。ホワイトディ・・・。」 「う〜〜〜〜ん・・・・。」 考えながら目の前でコーヒーを飲みながら一緒に考えてくれる岬を見てふと翼は気づいた。 「そういえば、岬くんのバレンタイン・・聞いてなかったけど、どうだったの?」 「えっ!!!」 突然の話の振りに岬は目の前にあったコーヒーカップを落としてしまう。 ガチャンという音に回りから一斉に注目される。かなり客が入っていて物静かとは言えないとはいえ、喫茶店の中で大きな音を出せば結構目だってしまう。 「ちょっと・・・岬くん!」 零れなくてよかったと内心思いながら、シ〜〜〜ッと指を口に当てて注意を促す。 「ごめん・・・。突然翼くんが変なこと聞くもんだから・・・。」 岬も体裁が悪いのか心なし声が小さい。 「ふ〜〜〜〜ん。変なこと・・なんだ。バレンタインでの出来事。」 「ち・・・違うよ!!三杉くんよりましだよ!!ホテルなんかじゃないし〜!」 真っ赤になって岬は抵抗するが翼はニヤッとしながら続ける。 「そういえば、岬くん。あの日、練習休んだよね?若林くんと一緒に。」 「そういう、翼くんだって三杉くんと一緒に休んだろ!僕、知ってるんだからね!!」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 「話してよ」 「・・・・・・。チョコを体に塗られた・・・///」 「・・・・・・・・似たようなもんだね。」 「「は〜〜〜〜〜〜っ」」 再びため息が漏れる。 「どうしよう・・・」 「いっそ、翼くんが今度それやったら?」 「いっ!?ホテル取って、ベッドに飴でもおくのぉ〜?」 思わない岬の提案に声が上ずる。 「そうだな〜、クッキーじゃつまんないから、キャンディ・・・はベトベトしそうだし〜。ホワイトチョコでいいか〜ぁ。」 「・・・・それ、マジにいってんの?」 楽しそうに言う岬に翼の目が半眼する。 「いいじゃん。目には目を、チョコにはチョコを!」 「それ、違うって!!」 「結局一緒だろ、最後は!」 ピシッ。翼の頭の中で何かが切れる音がした。 「そういう岬くんだってそうだろ!!あ、もしかして最初からそういう渡し方?僕を食べて〜〜〜んvvって」 ブチッ。今度は岬の頭の中からも音がした。 「あ〜〜〜〜〜っ。それは翼くんの方だろ!首にリボン巻いたんだろう??」 「そっちこそ!!俺は体をチョコでコーティングしたりしないよ!!」 ガタンッ お互い席を立ち、睨みあう。 「あの・・・・お客様。もう少しお静かにお願いします・・・。」 気が付けばウェイトレスが恐々と二人の横に立っていた。 「「す・・・・すみませんっ(汗)」」 「で・・・・でようか?」 「うん・・・・。」 そそくさと店を出て行く二人の遥か後ろとなった、先ほど翼と岬が座っていた席の横。妖しい格好をした男が二人、ボソボソと話していた。翼と岬は仕切りがあって気が付かなかったが。 「お前、ホテルなんか使ったのかよ・・・。」 「そういう君こそコーティングって・・・?」 「・・・・・」 「・・・・・」 暫く沈黙した後。 「今度、俺ホテル取っとこうかな・・。」 「ホワイトチョコ、大量に注文しとかなくては・・・。」 某喫茶店でそんな会話がなされているとは露知らず。 「ねぇ、岬くん。俺、やっぱりクッキーでも作るよ。教えてくれる?」 「うん、いいよ。僕も一緒につくろうかな〜。」 呑気な会話がなされていた。 空は青く気持ちのいい昼下がりだった。 END |