めまい
3年ぶりだった。
こんな所で・・、異郷の地で会えるとは思っていなかった。
サッカー雑誌を手に尋ねてはみたものの、会える自信はなかった。
だって、前もって連絡していた訳じゃなかったから。サッカー付けの毎日っていうのはわかっていたけど・・ね。
さっきまで地元の人達と一緒になってボールを蹴っていた。
やはり、皆上手いものだから、ついつい力が入っちゃって汗だくだ。
若林くんも、結構汗を掻いていて、お互い、
「お前の方が汗くさーーい!」
なんて冗談を言いながら、・・今は、若林くんのアパートにいる。
「岬、シャワー、先に浴びてていいぞ。着替えぐらい持って来たろ?」
「うん、まあ日帰りは無理だから、一応は持って来たけど。・・・いいの?」
「遠慮する必要ないぜ。他には誰もいないし。見上さんも今、日本だしな。」
――え・・・独り暮し・・?――
「誰もいないって、家の事、誰にやってもらってるの?まさか、彼女?だったら悪いから帰るよ。」
あわてる僕に、若林くんは笑いながら冷蔵庫を開ける。
「そんなのいる訳ないだろー。第一そんな暇、ねぇよ。今はがんばってプロデビューする事で頭がいっぱいさ。
時々ヘルパーさんに来てもらってんだ。
何故だか、なんとなくホッとする。
「あ、うん・・。じゃあ、遠慮なくシャワー借りるね。」
着替えをバッグから出すと、僕はシャワールームに入った。
でも、そういえば部屋の中、チラッと見た限りでは綺麗なようで、やはり男の独り暮しって感じで雑然としていたなあ・・。
僕の部屋の方が整理されてるかなあ・・・。
なんて考えながら、シャワーを浴びた。とても気持ちいい。旅の疲れも流れていくようだった。
結局、その日はそのまま若林くんのアパートに泊ることになったのだが、せっかくドイツまで来たのだからと、
夕食は外食になり、若林くん行きつけのお店にいくことになった。
そこは老夫婦がやっている近所の小さなお店で、見上さんともよく行ったとかで事情を知っているせいか、まだ未成年の
僕達でも快くご馳走してくれた。
ちょっぴり内緒でワインまでいただいたりして・・・。
帰りはもうすっかり暗くなっていて空には満天の星。
パリの夜空も綺麗だけど、ここは、本当にたくさんの星が見える。
夏ということで薄着だったけど、さすがに夜は冷えて、少し肌寒いくらい。
さっきまでいろんな話をしてて、たくさんお喋りをして、・・・でも今は、僕も若林くんもだまって歩いていた。
街も静かだ。
風が僕の髪をなでていく。
なんだろう。
ふたりとも黙って歩いているせいか、何故だかわからないけど、急にむしょうに切なくなって・・・、心が痛くなった。
若林くんの方をチラッと見ると、彼は星空を見ながら、それでもゆっくりと歩いていた。
僕はふっと立ち止まってしまった。
それに気がついた若林くんは、ゆっくりと僕に振りかえり、
「どうした?」
と顔を覗きこむ。
その表情がまた、優しくて――――。気がついたら、僕は涙を流していた。
外套に照らされた僕の影まで震えているような、そんな錯覚まで感じてしまい・・・。
僕はどうしちゃったんだろう・・・。涙が止まらない。
若林くんもどうしていいかわからない様子で、僕を見ていたが、やがて、戸惑いながらも僕を優しく、
そっと包みこんでくれた。
その瞬間、僕はわかった。
あぁ、この人が好きなんだ――――と、
だから、ここまで来て見よう、と決心したんだと。
わかったとたん、僕は咄嗟に若林くんから離れた。
若林くんは、僕が急に突っぱねたのでびっくりした様子で、
「すまん・・・。大丈夫か?」
と聞いてきた。
「ごめん。僕、どうかしてたんだ。・・・大丈夫だよ。」
あわてて返事を返す。
僕の気持ちに彼を巻込んではいけない――。そう思った。思ったけど・・・。
でも、このまま彼のアパートに帰って、そして、明日にはフランスに帰って・・・。なんて、もうできない。
帰りたくない。
彼を好きだという気持ちと、それはダメだ、という気持ちが入り混じって、どうしていいかわからなくなってしまった。
涙はまだ止まらない。
若林くんは怪訝そうな顔をして少し戸惑った様子だったが、それでも、やがてゆっくりと両手で僕の頬を包むと、
そっと口付けた。
そして、今度はさっきよりも強い力で僕を抱きしめた。
頭の奥で「ダメだ。」って声が聞こえたけれど、もうその優しい腕を振り解くことはできなくて・・・。
いつのまにか僕も、背中にしがみついていた。
もう、このままフランスへ帰ることはできない。
END
HOME BACK
コメント:ぎゃ〜〜〜!!恥かしいほど、私としては(?)シリアスです。しかも、もう季節外れ(汗)
どうか、読み流して下さい。でも実はこれ、まだ続く予定・・・。できれば、このままふたりがしっかりと(笑)
くっつくとこまで書きたいです。
しかし、若林〜、いきなりちゅ〜かよ・・・。