薔薇の園の誘惑11
出された朝食をペロリと食べてルフィは腹をポンポン叩いて言った。 「じゃあ、また続きしよっか?食べたら元気になったぞ、俺!」 まるでこれから何かスポーツかゲームでもしようというように、あまりにも場違いな空気に女船長は声を上げて笑った。 「参ったね、ほんとに惚れちまいそうだ。いいね、あんた。」 女船長によればまだまだ相手をして欲しい女性はたくさんいるらしい。 ある程度納得がいったためか、昨日焚いた香とは違う香りが部屋に漂い始めた。これもまた媚薬効果があるらしいが、昨日ほど強いものではないらしい。 ゾロはうんざりとした顔を船長に向けた。 「俺は暫く寝る。気分が乗らん。」 ゾロは部下の者の案内で隣室へと行った。 「早くヤッちまった方が早く終わって、この部屋から出られるのに・・・。ゾロのやつ、バカだな。」 ルフィは苦笑した。 ゾロは休憩用にと案内された部屋でベッドに転がった。 逃げる算段がないと判断されたのか、はたまた、ルフィの言葉に信頼を得たのか、監視されている様子も見受けられなかった。 ここでも儀式が出来るようになっているのだろうか、普通のベッドよりもかなり大きい。所謂キングサイズというものだろう。儀式を大切に思っているからかはわからないが、かなり上質のシーツの上でゾロは大きく手足を伸ばした。 目を瞑り、改めて先ほどの食事の美味しさを思い出す。 ルフィの言うように、サンジの料理に間違いはなかったのだろう、サンジは何かを訴えたかったのだろう、メニューと味付けに、彼を本当にはわかっていなかったと自分を責めたい気分になった。 そりゃあ、気持ちを繋いだ関係じゃねぇもんな・・・。 そう言って誤魔化したかったが、全てを理解したルフィに負けたようで悔しさが込み上げる。 今も彼を思い出そうとして浮かぶその姿は、普段の料理をしている姿よりも、夜の濃厚な空間を一緒に過ごす姿態だけだ。 今は香の影響も受けずに収まったはずの自身が、自然と彼の姿を思い出しただけで重量を増すのに舌打する。 ルフィもサンジも性欲を溢れさせながらも、きちんと仲間のことを考えている。 それなのに、自分はただ単に欲を吐き出せばそれでいいのか、と説教を受けても仕方が無いほどにセックスだけにしか思考がいかない。 いや、ただ単に回りに煽られただけだ。そして、彼だからこそ、今、抱きたいと思っているのだ。 それだけ彼に溺れていると言う事なのか。 どちらにしてもまだまだ未熟者だし、このままでいて言いわけではないと内心叱咤した。 ルフィの言うようにさっさと用事をすませてしまった方がいいだろう。 そして・・・。 ルフィはナミに謝ると言っていた。 それは、同時に自分の気持ちをナミに告白する、という事でもあるのだ。 自分は・・・・。 改めて言葉にすることはないが、わかっている。 今回のことで彼に嫉妬したことでも更に自覚した。 自分の想い。 そして。 やはり言葉にされたことはないが、彼もまた同じ気持ちでいると思っている。 が、出された朝食で彼の懐の大きさに感動すると共に真逆の気持ちも湧き上がった。 アイツは俺のことを、俺同様に想ってくれていないのか?だからこそ、嫉妬もせずに、温かい食事を作ることができたのか? ちらりと浮かび上がった疑念が小さく萎ませることも大きく膨らむこともなく、ただジクジクとゾロの心の奥底で燻ったまま、ゾロは顔を上げた。 「何だ?」 目を向けると、一旦は引き下がったはずのワイルドストロベリーがそこに立っていた。 「貴方の様子が気になって・・・・。」 「別にもう、逃げも隠れもしねぇよ。」 ぷいと顔を逸らしたのを切欠に部屋の間切りの外にいたはずの彼女が中にずかずかと入ってきた。 「休ませてくれねぇのか?」 「心配なのよ、貴方のことが・・・・。」 ゾロは眉を潜めた。 「心配って何がだ?逃げも隠れもしねぇって言っただろうが。」 「そうじゃなくて・・・。」 ワイルドストロベリーはそのまますっとベッドの脇に座った。大きなベッドはスプリングがよく効いているようで、ワイルドストロベリーの体重に素直に従う。 「貴方、苦しそうな顔をしている。男なら快感を得るだけの行為なんだから素直に喜べばいいのに、貴方は苦しそうにしているわ?今までここに来たどの男もそんな顔はしなかった。」 「俺だけじゃねぇぜ?ルフィもあんなこと言ってるが、ナミに申し訳ないって思ってるんだ。素直に喜んじゃいねぇよ。」 「ナミ・・・・。あぁ、オレンジの髪の気の強い彼女のことね・・・。でも、ルフィは兎も角、彼女はどうかしら。さっきの様子を見る限りでは、ルフィのことを好きって素振りなど微塵もなかったわ。」 「さっきって・・・会ったのか?ナミに・・・。」 ゾロは彷徨わせていた視線をワイルドストロベリーに向けた。 「えぇ、さっき貴方達の様子を伝えに貴方達の船に行ったわ。もちろんルフィの気持ちなどは伝えないけどね。」 フフフと笑って答える。 いつの間にこの女もルフィのことを名前で呼ぶようになったのか。ずうずうしいと思うが、敢えてそこは何も言わなかった。名前のことはどうでもいい。 「彼女、何食わぬ顔で話を聞いていたわ。やはり船長の言う通り、話せばわかる方達ね。でも、やっぱり私達のことは気に入らないみたい。早くここを出たいと言ってた。」 「だろうな・・・。」 何でもないように返事を返すが、内心、ルフィもだがナミの強さにも敬服する。彼女はきっとこの島の連中の前では涙を見せないだろう。 「そういえば、貴方の船のコックさんも一緒にいたわ。」 「なに?」 条件反射のようにゾロは起き上がった。 「うちのアーモンドと一晩一緒に居たのは間違いないみたい。必死になってナミに謝っていたわ。もしかして、ルフィじゃなくて彼の方がナミの恋人じゃないの?」 まるで他人の恋愛情報に喜々として聞き耳を立てている噂好きの女のようだ。 たいていの女はこうなものかと、ゾロはそっとため息を吐いた。 きっとサンジが謝っていたのは、アーモンドと一晩過したのが原因というより、ルフィがこうなって一人苦しんでいるナミを慰めることができなかったからか、自分達の監視を約束していたのにそれが出来なかったからか、そのどちらかだろう。ただただ、自分がナミ達の役に立てなかったことを謝っているだろうことがゾロには容易に想像できた。 なぜならサンジとナミは恋人同士ではない。ワイルドストロベリーの観察眼も大した事無いな、とゾロは内心笑った。 一目見りゃあ、誰が誰を思っているのか、わかりそうなもんだが・・・。 誰が誰を思っているのかわかる・・・。 それは自分達も当てはまることができるのだろうか。 んなわけねぇか・・・。 誰にもわかんねぇよな、俺達の関係は。 一見わかりやすいアイツも、肝心な所じゃ隠し事は上手いもんな・・・。 ゾロは一旦は起きたが、また横になった。 それをワイルドストロベリーは何を勘違いしたのか、さらにゾロに近づいた。 「もし、彼女の恋人がコックさんが本当なら、私、アーモンドに進言してもいいわよ?なんせ、彼には賞金がついてないから別にそう執着する必要ないもの・・・。」 何も懸賞金の額がその男の強さを現しているとは限らないのに、このやたらと金額に拘る彼女らにゾロは閉口する。 ちらりと、それを理由にサンジとそのアーモンドという女の仲を裂いてもらうのもいい手だと頭を過ぎるが、自分にはそんな資格はない、と唇を結んだ。 黙ってしまったゾロにワイルドストロベリーは不思議な顔をする。 が、ゾロは一旦閉じた口を開いた。 「お前ら、やたらと賞金額に拘るが何もそれがその男の価値とは限んねぇぞ?なんせ、そのコックも俺達と同等に強ぇからな・・・。」 ニヤリと笑うゾロにワイルドストロベリーは「それはない。」と首を振った。 「そんなに強いのなら、賞金首になるはずよ?ありえないわ。ましてやコックじゃない。彼と勝負したらきっと私の方が勝つわ。」 まるですでに勝ちを得た顔でワイルドストロベリーは笑った。 「そんなら戦ってみりゃいいだろう?」そう言い出そうとして、ゾロはハッとする。彼はきっとワイルドストロベリーとは戦わないだろう。それがきっと彼の価値を下げることになったとしても。何に措いても女性を蹴らないのは周知の事実だ。 ゾロの内心を知らず、答えないゾロにワイルドストロベリーは「ほらごらんなさい。」と微笑む。 笑みを溢すワイルドストロベリーにゾロはなんとか反論しようと言葉を捜した。 「奴の獲物は足だ。だが、奴は死んでも女は蹴らんと公言している。弱ぇわけじゃねぇ。」 「でも、だったらやはり私には勝てないわ。」 なんだか自分が負けたようでゾロは唇を噛んだ。こんなに彼が侮辱されているのが許せない。だが、ワイルドストロベリーはそんなゾロの心情など気づかず言葉を続けた。 「でも、貴方は本当に強いわ。私、貴方のように強くてワイルドな男性が好きなの。できれば、儀式が終わった後もずっとここに残ってもらいたいぐらいよ?」 「俺はごめんだ!」 刹那、拒否するゾロだが、ワイルドストロベリーは怯む様子は微塵もなかった。なかなか彼女も海賊だけある。欲しいものは奪い取れということか。 「ねぇ、そろそろ・・・もう始めてもいいんじゃないかしら?ずい分と休憩もしたじゃない。」 「・・・・・・。」 ゾロの足元ににじり寄ってくるワイルドストロベリーにゾロは舌打した。 今しがたサンジをバカにした口はもう次のセックスを思ってか、濡れていた。が、ゾロとしては大事な仲間を侮辱された怒りが収まらない。 彼女とはもう触れたくないと思う。 しかし。 「フフフ?気が付いた?いい香りでしょう?」 顔を近づけられて気が付いた。彼女の身体から纏わりついてくる香りが香水だとはすぐわかった。が、そのつけている香水が媚薬としての役割を果たしているのに気づくのが遅れた。 いい香りといえばそうなのだろうが、香水になれていないゾロはただ香水というだけで、ワイルドストロベリーから漂ってくる匂いに酔いそうだった。しかも、媚薬効果があるとすれば尚更だ。 「さっきまで使っていたのとはまた違うものなの。体臭と交わることによってこれも媚薬になるの・・・。フフフ、いろいろな媚薬があって面白いでしょう?この島に暮らす女達が男達を手に入れるために、古くから開発されてきたの。だからいろいろあるわよ。結構いろいろ試すのも燃えるわよ?どう?」 ワイルドストロベリーが自慢するだけあって、効果満点だ。 今までのやりとりで嫌悪感が湧き出した相手だけあって頭では拒否したいと思っている。なのに、身体は気持ちに反して素直に反応してしまう。 むくむくと己の砲身が勃ち上がるのがわかった。それだけでなく、下半身全体が疼きだしている。 「さぁ、宴を再開しましょう?貴方を待っている女性はいっぱいいるけど・・・・・。でも、その前にもう一度、私を喜ばせて頂戴!」 ペロリと紅い舌で唇を舐める女の顔に、ゾロは欲情を止められなかった。 ただただ本能のままに、重ねられる唇に己のそれを重ね、猥らなラインを大きな掌でなぞった。 |
08.08.30.