薔薇の園の誘惑13
「あっ・・・・。あああっっ!!」 部屋には鼻につく匂いと嬌声が充満している。 しかし、ゾロは、最初の晩のようには脳までが匂いに支配されることはなかった。それがワイルドストロベリーが言っていた媚薬の違いからなのだろうかどうかはわからなかったが、それでも脳まで媚薬に犯されてはたまらない、と冷える頭でそこだけは感謝した。 相変わらず身体はまるで自分のものではないと思うほどに、本能のまま動いている。 もう二度と抱きたくないと思ったワイルドストロベリー相手でさえ、己の砲身が喜んで吼えていた。 「畜生っっ!!」 自分の意思のまま動く事が出来ない体に怒りが湧くが、その怒りでさえセックスへの衝動になっているようで気に入らない。 「ステキよ。ゾロ・・・・。ああ・・・・・・・んっっ!!」 身体の下のワイルドストロベリーは単純にゾロが叱咤したと思って、さらに身体を開いてくる。 「こうなったら、さっさと済ませりゃすむことだ!!」と開き直って精子をぶちまけるしかないとゾロは身体を動かした。 それでも、一度吐精してもすぐにまた勃起し、次の女性がやってくる。 ある種、地獄だ。 ルフィはどうしてるのか、と心配になったが人の心配をする余裕すらない。 ともかくセックスを済ませ、この部屋から早くでるのだ。 そして・・・・。 そして・・・・? 脳裏を過ぎった顔にゾロは動きを止める。 「どうしたの?」 今は違う女がゾロの下で悶えていたが、動きを止めた彼に不思議そうな顔を向けた。 「いや・・・。」 そう答えるしかできなかった。 身体とは違ってハッキリとセックスと切り離された頭には、サンジの顔がすんなりと浮かんだ。 会いてぇな・・・。 それで、きちんと聞きてぇな。その女コックとはどういう関係かを・・・。 それから、伝えてぇ・・・・。 今まで何一つ告げたことのなかった言葉を告げてぇ・・・。 今、こんなことして俺の気持ちなんて信じてもらえねぇかもしれねぇが、それでも伝えてぇ・・・。 ゾロはただ只管身体を動かした。 早く彼に会いたいがために。 「今日の夕食メニューはこれで全部だ。」 「うん・・・。ありがとう、サンジ。勉強になるわ。」 最初の朝食はサンジが作ったものがルフィ達の口には入ったが、今はまた、この島のコック達の料理が彼らに届いている。 それは当然と言えば当然のことで、最初の朝食が特別ということなのだ。それだけ、この島のコック達にサンジの料理が認められたということではあるが、彼女らにもプライドはある。そうそう厨房を貸してもらえるはずもない。 今はメリー号で自分達の食事を作ることにしている。もちろん、材料は最初の約束通り食料補給が許されているため、島から調達している。 そして、まだ見習いということもあるのか、誤解とはいえサンジを種の提供者として周りに認められているからか、アーモンドが島の厨房よりもこのメリー号で過すこともまた、島の先輩コック達から許されていた。 アーモンドは毎日メリー号に通い、サンジに料理を教わっている。 今もまたラウンジで、作り終えた料理を前にアーモンドはため息を吐いた。 「どうしたんだい?」 「やっぱりサンジって凄いなぁって思って。」 「え?」 「だって、ずっと毎日一緒に過ごす仲間相手に料理を作るのに一切の手抜きがないわ。だからこそ美味しいのね。普通だったら馴れ合っちゃって手抜きを覚えてしまうもの・・・。今日の料理だって、一見簡単に見えるけど下拵えすらも一切手を抜かないし・・・。」 「あ〜、そのこと・・・。」 サンジが苦笑する。 「まぁ、今、君がいるってのもあるけどね。でも・・・毎日のこととはいえ、やっぱり美味しいものを食べてもらいたいし、海の上では手抜きをすればそれが瞬く間に仲間の体調に響くからね。彼らの命を預かっているんだよ、海のコックってのは。」 サンジの言葉にアーモンドはさらに感嘆の息を吐いた。 「さぁ、ナミさん達を呼んで来てくれるかな?」 「えぇ、わかったわ。」 言われるままにアーモンドは船内に散らばっているナミ達を呼びに出、5分も経たないうちに全員が揃った。 最初の頃は島に降りていたウソップも今はメリー号に戻っていて、朝昼晩、全ての食事を船で取っている。 あれからすでに3日経ち、ルフィにもゾロにもセックスを強要する以外の害はないと判断され、残りのメンバーは心の内は別にして、のんびりと過していた。 ウソップは、島に降りて散策したり武器になりそうな材料を分けてもらったり。チョッパーは、匂いの届かない範囲で薬草を探して摘み取った。 ナミとロビンは相変わらず島には降りず、ずっとメリー号で過していた。 サンジは食料調達に島に降りたり、アーモンドへの料理指導でメリー号と島の厨房を行ったり来たりしている。 それぞれがそれぞれに過していた。 ただ、常にサンジの傍にはアーモンドが付き添っていた。 種を介した関係はないとはいえ、アーモンドのサンジへの好意は相当なものだと、ラウンジへと足を運んだナミは苦笑する。 他のメンバーもナミ同様に自分の指定席となった場所へと着く。 それを確認してサンジの指示により、アーモンドは料理をサーブしていった。 「今日のメニューは何?」 一目見ればわかるのだが、ナミはついアーモンドに聞いた。 「えっと、今日は鯛のあらを煮たものにわかめの酢の物、えび団子のおすましに漬物はキャベツを即席漬けしてみました。」 「今は大食いがいないし、ここ最近カロリーの高い料理が多かったから今日はわりとシンプルにしてみたよ。」 「煮物が苦手なので教えてもらいたかったのでお願いしたんです。ある材料でならってことでこの料理になりました。」 サンジの説明にアーモンドがペロっと舌を出す。 「おいしそうだ。」 チョッパーはニコニコとアーモンドに笑いかけた。 「あぁ、この島は魚の宝庫だからこれからもいろんな魚料理を作れると思うよ。」 ごくごく自然に会話が続いていく。 「そうなんです。すぐ近くの港に沢山の種類の魚が入ってくるんですけど、どれもおいしいですよ。あと、山の方にはきのこも豊富に取れますから、今度はきのこ料理にチャレンジしたいな、って思ってるんです。」 「ちょっと待てぇ!きのこ料理は俺はパスだ!!」 ガンッ 思わず叫ぶウソップの頭にサンジの足がのめり込む。 「そう言わずにきちんと食え!お前でも食えるような料理にしてやるから!」 「うぅ・・・痛ぇ、サンジ・・・。」 涙目のウソップにサンジが笑う。 「アーモンドが今日メインで作ったから、感想を言ってくれるときっと助かると思うぜ。」 その後もお互いの言葉を継ぎ足しながら順に料理の説明をしてくれた。 それを何の疑問もなく素直にきいているウソップやチョッパー。ロビンも微笑んで二人を見つめている。 師弟の関係を超えてはいないのだろうが、それでもゾロがこの様子を見たら何と言うだろう。と、ナミはつい想像して内心笑ってしまった。 誰もそのことには触れないが、恋人同士でないのが不思議なくらいだ。 不思議だが、納得できることでもある。サンジの心の内はナミにはわかっている。自分と同じだ。 今はここにはいなくて見知らぬ女達とセックスに明け暮れている彼の元に、心がある。 でも、やはり男としてはどうなんだろう。 ナミはチラリとアーモンドとサンジの様子を盗み見る。 いい笑顔で共同作業をしている。 一生懸命に料理の勉強をしていて、その情熱だって本物で、それでいてもちろん容姿も悪くない。本来の性格だって素直でいい娘だとわかる。 自分のことを師を仰いで慕ってくれている。 普通の男だったら心を奪われても仕方ない環境だ。 最初の頃はお互いの呼び方も遠慮していたが、今はその壁さえない。 ナミはサンジに自分はサンジの味方だと告げた。 今はまだ確かに恋人同士ではないが、この環境が続けば恋人同士に変わる可能性だってある。 例えサンジが今後一時でもアーモンドに心移りしたとしても、ナミはサンジの味方でいるつもりでいた。 味方で在り続けることは変わらないけど、どこかで心配の気持ちはあった。 早く帰って来て・・・二人とも。 ナミは回りにわからないようにため息を吐いた。 食事が終わると、またそれぞれ思い思いに過す。 片付けに関しては、料理を教わる代わりにアーモンドが殆ど行っていたが、船を降りてからも料理の勉強を続けて疲れるだろう彼女を気遣って、サンジはよく手伝いをした。 「よし、これで終了!」 最後の皿を棚に収めるとサンジは当たり前のように煙草を口に咥えた。 それをジッとアーモンドは見つめた。 今はこの空間には二人しかいない。 「何?」 アーモンドが不思議な顔をしてサンジを見つめる。 「ん〜〜〜。やっぱり、サンジって凄いなって思って・・・。だって普通そんなにヘビースモーカーだったら舌がバカになりそうだけど、そんな様子微塵も感じられないんだもの・・・。努力したって言うけれど、やっぱりサンジには天賦の才能があるのね・・・。」 「んなことねぇって・・・。」 サンジは苦笑するしかない。バラティエで過した10年間はサンジにはひたすら修行の日々だったので、やはり努力と環境のおかげだど思っている。しかし、アーモンドが言う事は、ことの真偽は別にしてもその時代からよく言われていることも確かだった。 「羨ましいわ・・・。」 「アーモンド・・・。君だって一流の料理人になれるよ。そう言ったろ?」 落ち込むというほどではないだろうが、俯いてしまった彼女にサンジは簡単な言葉しか見つからなかった。 ポンと肩を叩いて彼女に最初に伝えた言葉を再度、口にする。 サンジの言葉に多少明るくなったのか、アーモンドが顔を上げた。 しかし、その表情は単純に気が晴れたという感じではない。何かしら言いたげだ。 「?」 何が言いたいのか、口をぱくぱくと動かすアーモンドにサンジは首を傾げて言葉を待った。 「私も・・・・。」 「何?」 「私も欲しい・・・・・・・。」 途端、顔を真っ赤にしてまた俯いてしまった。 「え?・・・・・何が欲しいって・・・?」 サンジが使っている料理道具だろうか?それとも、なにかレシピだろうか? 考えあぐねてサンジは俯いてしまったアーモンドの顔を上げさせる。その顔は茹蛸のように赤い。 「・・・・・・・。」 「何だい?聞こえないよ。」 煙草を咥えたままだったが、笑みを浮かべてサンジは静かにアーモンドの答えを待った。 「サンジの・・・・・。」 「俺の・・・何?レシピ帳か、道具か?」 一旦言葉を切って、まるで深呼吸するかのように、ゆっくりと息を吐くと、アーモンドはチラリとサンジを見て、勇気を振り絞って答えた。とはいえ、とても小さな声でなんとかサンジに届くかどうかの声量だったが、それでもサンジの耳には届いたようだ。 「サンジの・・・・・精子が・・・・欲しい・・・・。」 思わぬ言葉にポロリとサンジが煙草を落としてしまった。 それは、己の右手を掠めたようだったが、そんなことにも気づかずにサンジはポカンとした顔をしたままだ。逆にアーモンドの方が、慌ててサンジの右手を見て、煙草を拾い上げる。すぐにシンクに捨てられた煙草はジュッと音を立てて火が消えた。 「大丈夫!?やけどしていない?」 「あ・・・・・あぁ・・・・。」 今だサンジは呆然としたままだ。 運良くやけどしなかったからか、ほっとすると、アーモンドは、意を決して再度、先ほどの言葉を口にした。 「サンジの・・・・。貴方の精子が欲しいの!お願い、私を抱いて!!」 ナミの心配はただの心配に終わるはずだったのに、アーモンドが口にした言葉が二人の関係を変えてしまった。 |
08.09.13.