薔薇の園の誘惑14
奥深く腰を突き上げた。 「ひいぃぃっっ!!」 途端、乱れた身体を痙攣させ、女性は失神した。 ゾロも絶頂を向かえ、力の抜けた体に精子をぶちまける。 ぶるぶると身体を震わせて快感をやり過ごすと、ゾロは弛緩した肢体から離れた。 ふぅと息を吐くと、後ろから「お疲れ様」と声が掛かる。今まで行われていた事がただの仕事のように、淡々としたセリフだ。 「・・・・・・。」 直ぐ後ろにはワイルドストロベリーが腕を組んで見下ろしていた。彼女の存在に気づいてなかったわけではないが、今更見られているのは気にしない。気にしていたらセックスなどできない場所だ。ここは。 女性から僅かに離れた位置にドカリと座り込むのと同時にワイルドストロベリーが失神した彼女を見下ろした。そのまま、後ろに待機していた部下に声を掛ける。 「この娘を運んでちょうだい。もう、役目は終わったわ。」 指示に従い、数人の部下らしい女性が気を失っている女性を抱き上げて、隣室へと運んでいった。 「あと何人抱けばいい?」 抑揚のない声で聞いてくるゾロに、ワイルドストロベリーは妖艶に微笑んだ。 「貴方の相手は今の娘で終わりよ。」 ゾロの目が見開く。 では、この快楽地獄から逃れられるのか。 普段のゾロでは見せないだろう笑みをそっと表情に現した。 「じゃあ、俺はここから・・・。」 「出られるんだな?」そう言葉を続けようとして、突如口を塞がれた。ワイルドストロベリーの唇に。 思わずゾロがグッと彼女の肩を押し戻した。 「俺の役目は終わったんだろう?だったら、ここから出してもらおうじゃねぇか・・・。」 目を細めて目の前の女を睨みつけた。そのまま唇を腕でグイッと拭う。 それを難なくワイルドストロベリーは流した。 「船長の方はまだ終わっていないわ。どうせなら、彼が終わってから一緒にここから出ればいいじゃない?」 「別にヤツを待つ必要なんてないだろうが・・・。俺は先に帰らせてもらう。」 どれだけ睨もうが関係ないとばかりに目の前の女はただただ笑う。 「どうして?慌てて帰る理由でもあるの?」 「・・・。」 理由など、と言いたいが目を閉じれば浮かぶ人物のことなどこの目の前の女に告げたいとはゾロは思わなかった。 黙ったゾロにワイルドストロベリーは自信満々な顔を見せる。 「ほら、いいじゃない?今度は儀式としてじゃなく、本当の意味で快楽を味合わせてあげる。今までのどの女よりもずっといい気分にさせてあげるわ。」 ゾロの気持ちなど露知らずワイルドストロベリーはゾロの両肩に手を掛け膝に乗り上げる。別々にあった重みが一箇所に重なり、ベッドのスプリングが軋んだ。 「もうセックスは沢山だ。てめぇとだって終わってる。」 それよりも誰よりも抱きたい相手がいるのだ。 ここにはいない相手をこの手にしたいのだ。 「そんな釣れないこと言うもんじゃないわ。女に恥をかかせないで・・・。」 肩に掛けた手をさらに後ろに回して交差させ、女はさらにゾロに密着した。 ゾワリと鳥肌が立った。 瞬間立ち上がったゾロは、ワイルドストロベリーを突き飛ばし、もう自分には関係ないとばかりに嫌悪も露わにさっさとドアへと向かう。 やることはやったのだ。自分の責務は果たしたのだ。ルフィの方はどうなっていようと彼だって子どもじゃないのだ、自分でさっさと片を済ませたら船に戻ってくるだろう。 なにより自分はここにはもう一秒たりとも居たくない、とゾロは思った。 「ちょっと待って。そっちは違う・・・!」 ワイルドストロベリーが止めるのも構わず、ゾロはそのまま先ほど女が出て行ったのと別の、目に入ったドアを開けた。 「・・・・・・ッッ!!」 目の前に飛び込んできた光景に、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。 中に居た人物は、ドアが開く音で咄嗟に振り返り、ドアノブを手にして立ち止まった男に愕然とする。 お互いにお互いを認めて固まってしまった。 扉を開けたゾロの前には、サンジが見知らぬ女性と一緒にいた。 しかも、サンジは下半身はいつものボトムを身につけているが、女性の方は全裸でベッドに横たわったまま。 部屋としてはゾロがいた部屋よりも格段に小さくこじんまりとしていて、儀式として使うのならば、それはただ一人を相手にするものだろうと想像がつくほどの、一見買春宿のような小さな部屋だった。 もちろん部屋にある家具はほとんどない。簡素なベッドが一つと行為に必要なものが仕舞われているだろう引き出しがあるだけだった。照明も元々の作りが暗くできているのだろう。ベッドサイドにランプさえ置いていなかった。 暗い部屋。 そう、暗い部屋なのにすぐにその存在がわかったのは、あの明るい金髪の所為だ。 いつも陽の光に反射して甲板でキラキラしている彼の髪は、今は薄暗い部屋に鈍く光っている。 多少乱れたそれが、すでに行為が済んだことを容易くわからせた。 もちろん、ベッドに横たわっている女性の様子でもそれは明らかで・・・。 どれぐらいの間、立ち尽くしていたのだろう。 後ろから掛かった声で漸く我に返った。 「ダメじゃないゾロ・・・。そっちの部屋は使っているから、別のドアからと思ったのに・・・。ここはいくつかの部屋が連なってるから出口が分かり難いのよ・・・。ごめんなさい、お邪魔して。」 何があったか聞くまでもないことで、ワイルドストロベリーが単純に行為の邪魔になったと詫びを入れた。 しかも、ゾロとはすでに只ならぬ関係と言わんばかりの言葉と行動。 そっとゾロに近づいて、彼の体に擦り寄った。 「ゾロ・・・・。」 お互いに呆然としていたのを、漸くサンジが声を出したことで我に返った。 途端、自分のことを棚に上げて、怒りで顔が真っ赤になる。 俺は。 俺は、早くあいつのところへ戻りたくて、したくもない女の相手をして、したくもないセックスをして、嫌な女の相手もして。 それなのに、こいつは。 こいつは、俺の苦痛も知らずに女とこんなところで・・・!! こんなところで・・・・・!! ブルブルと拳を震わせて今にも殴りかからんばかりに振り上げて、目の前のサンジに対峙した。 が。 彼の目を見て、改めて自分の様に気づく。 自分こそ。 それこそ全裸で、体中に白い精液を塗れさせ、後ろに女が縋りつき。 サンジからの言葉もまだ聞いてはいないが。 もし彼もまたゾロと同じような気持ちでいたのならば、自分こそ裏切り者と罵られても仕方がない状況ではないだろうか。 振り上げた拳は、ただブルブルと震えるだけで振り下ろすことができなかった。 サンジの目は悲しげに細められた。 わなわなと震える口からは、だがしかし、彼の瞳が物語っているものとは真逆だった。 「よぉ、クソ剣士。久し振りだな。いい思いはしてるか?その後ろにいるのは、確かワイルドストロベリーさんじゃなかったか?」 サンジからすれば初日に僅かな時間しか会っていないだろうに、よくもまぁしっかりと覚えているもんだと、頭の隅で感心する。 だが、自分が今言いたいことはそれではない。 伝えなければ、今、言わなければいけないことがある。 彼を殴るのではなく、言葉で伝えなければ。 サンジはゾロの様子など目に入らないとばかりに顔を背けて言葉を続けた。 「悪ぃが、こっちの部屋はお前さんが使っていい部屋じゃねぇよ。彼女の言う通りだ。邪魔だから出て行ってくれないか?」 ニコリとワイルドストロベリーに向けた笑みは、心なしか引き攣っているように見えた。 「こっちこそ悪かったね。いい雰囲気壊しちまったんじゃないか?でも、悪いけど、こっちも立て込んでいるんだ。その無頓着な木偶の坊、さっさと連れて行って欲しいんだけど・・・。」 「ごめんなさい。ほら、ゾロ・・・。こっちよ。」 何も言い返せないまま、ゾロはワイルドストロベリーに引っ張られて元の部屋へと戻っていった。 |
08.09.18.