薔薇の園の誘惑15
ワイルドストロベリーに引っ張られるままにゾロはベッドに座った。勢い余ってドカリとベッドに沈んだが、呆然とした表情はそのままに・・・。 「どうしたの?顔色が悪いわよ。」 心配そうに覗く女の顔が鬱陶しい。 ゾロは一瞬横にいる女の顔に気が付いて、払いのけた。 パシッと避ける手に女の顔がプライドで歪む。 「何よ!その態度・・・。別に彼女に見られたわけじゃあるまいし・・・。男だし、ただの仲間じゃない。船長とだって平気で会話していたのに、あのコックと会ったからって何が困るっていうのよ?」 「・・・・・。」 そうだよな、ただの仲間だよな・・・。 声にならない声で呟いて自嘲した。それにはワイルドストロベリーは気づかず、更にいい募る。 「それとも何?彼、ライバルか何か?競争でもしてるのかしら?彼にも種が欲しいという女がいて悔しいの?だったら、大丈夫よ。彼にはベッドにいたアーモンドしか相手がいなかったんだから・・・。貴方と並んで人気があったのは、船長ぐらいよ?」 「・・・・・。」 「あぁ、そういえば、彼、確かナミって娘の恋人だったとか?もしかして、二人の仲を心配してるの?優しいのね、ゾロは。」 ゾロの表情に勝手に彼の内心を解釈して、ワイルドストロベリーは励ますようにもう一度ゾロの横に座った。慰めるべく、俯いてしまった肩に手を置く。 そっと抱きしめるように彼女はゾロの顔に顔を寄せ、囁いた。 「ほら、元気を出して。彼らのことなんて気にする必要ないじゃない。大丈夫よ、この島を出ればその二人もすぐに仲直りするわよ。」 そういうことじゃねぇ。 そう言いたいが、横にいる女にいろいろと説明するのも面倒くさかった。 ただ黙って内に湧き上がる怒りに身を震わす。 しかし、放かっておけばおくほどワイルドストロベリーは調子に乗ってゾロに体を添わせて。自分の行動がゾロへの慰めになっていると勘違いしたまま。 そうして、彼女から唇を合わせようとしたその時、ゾロの怒りが爆発したのか、勝手に自分の女を名乗る女への嫌悪感がそうさせたのか、ガバリと立ち上がって覆いかぶさろうとした女を払いのけた。 「キャッ!!」 バスンとベッドに投げ出されることよりも、ゾロの行動に驚き目を丸くした。 ワイルドストロベリーが呆然と見届けてままに、ゾロは立ち上がってそのまま一度は閉められたドアへとまた向かったのだ。 しかも、ドカドカと足音を響かせて。 ヤツとは確かに付き合ってるわけじゃねぇ。 だが。 だが、惚れてるんだ。 あいつに惚れてるんだ。 ゾロは、サンジに気持ちを伝える決心をしていたのは確かだが、それは事が全て終わってからになるだろうと考えていた。 が、この展開は予想外のことで。 ただの噂程度だったのと、ルフィの言葉にサンジはきっと自分を裏切っていないと勝手に考え直していた。彼を信じようとしていた。 しかし、お互いに女性と情を交わしていることをハッキリと確認してしまえば、「お互い様だ」の一言で終わってしまうような気がした。 ましてや、本心などなかなか明かさないサンジだ。 なんとなくだが、ゾロには気持ちを伝えるには今しかない、と思えた。 今、伝えないと自分の気持ちが正しく伝わらないような気がした。 バン 勢いよくもう一度先ほどのドアを開けた。 まだ事後の気だるい空気が部屋を包んでいる。 目の前にいる、眉間に皺を寄せてベッドに座って煙草を吸っている男を見つめた。 ふぅ、とゆっくりと煙草の煙を吐く男は、開いたドアに今更ながらにゾロに気づいたとばかりに苦虫を噛み潰した顔で見つめ返した。 ゾロはそのままずかずかと部屋に入り込んで行く。 「デリカシーのねぇ野郎だな、てめぇは・・・。」 アーモンドという女性は今だ気を失っているらしく、ベッドに横たわったままだったが、ゾロはサンジの言葉を理解しても遠慮なくそのままサンジの前に立った。 彼が、もうシャツは着ていたがまだボタンまで嵌めていないところを見ると、まだこの先、彼女とのしっとりとした時間を過ごそうというつもりなのだろう。 たった一人だけいた相手なのだから、それぐらい許してもいいことなのだろうが、それでもゾロにはやはりそれが許せなかった。 「話がある。」 「・・・・・・ちょっと待て。後じゃダメか?彼女が起きちまう。」 「今すぐ話がしてぇ。」 「わかったよ・・・。」 ふぅ、と今度はため息を吐く。 「アーモンド・・・。アーモンド、悪ぃ、起きてくれねぇか?」 「ぅ・・・・・ん。・・・・・・・サンジ?」 「起こしちゃってごめんよ。」 「あ・・・・・・・・。あたし、気を失って・・・・。」 途端、真っ赤になる顔はまだ儀式に慣れていないことを素直に伝えた。彼女にとってサンジが初めての相手だったのだ。そして相手の名前を遠慮なく呼び合う間柄。 ゾロは、二人の会話を聞いて思わずピキリと額の血管が浮き上がった。 しかし、ここでキレてはいけない。 なんとか、怒りを拳を握り締める事で抑えた。 「ごめん。ちょっとこいつが話がしてぇっていうから・・・。部屋を出て行くけどいいかな?」 サンジの言葉に漸く第三者がいることに気が付いた。 「えっ?・・・!!えぇ・・・。わかったわ・・・。」 「すぐに戻ってくるから。」 「ぇ・・・・・・・ぇ。」 黙ったまま二人を見つめていたゾロの傍へサンジは近寄り、顎で外をしゃくった。 揃って部屋を出ようとして、後ろからアーモンドが声を掛ける。 「サンジ・・・・・。」 アーモンドの声にサンジが振り返る。 恥かしさのあまり、暫く口をもごもごしていたが、ゾロの苛立つ顔を見つけてアーモンドは漸く言葉を発した。 「あの・・・。ありがとう・・・・。」 「・・・・お礼を言う必要なんてないさ。」 軽く笑って一旦アーモンドの傍に戻ると、サンジはアーモンドの頭に手を添えて軽くチュッと額にキスを送った。 嬉しそうにはにかむアーモンドに思わずゾロは顔を背けた。 途端、ゾロの様子にアーモンドの方が痛い顔をする。 何か知っているのだろうか。 「とりあえずこの部屋から出るとしてもだ・・・。てめぇ、まだ終わってねぇのか?その儀式とやら・・・。だったら、外には出れねぇ、空いてる部屋を借りようか。」 「その必要はねぇ。俺はもう用済みだ!」 「そういう風には見えねぇが・・・。」 サンジの目線をそのまま辿れば、ゾロの後ろでワイルドストロベリーが二人を睨みつけていた。その表情はプライドを傷つけられた怒りを現している。 「ゾロ・・・。」 「てめぇにはもう用はねぇ!」 ハッキリと言葉を投げつけると、ゾロはサンジの腕を掴んで、今度は正しく外へ続くだろう扉へと向かった。 「おいっ!ちょっ・・・・!!彼女を置いてくな!腕をひっぱるな、痛ぇ!!」 サンジの苦情も耳に入れず、ゾロは出た通路をただただ闇雲に歩いた。 何を言っても耳を貸さないゾロにサンジも諦めたのか、文句もなしにゾロに付いて行った。 暫く歩くと、潮を強く感じだした。 ぱあっと広い空間に出る。 「あぁ、迷子のマリモにしちゃあ、よく道がわかったな・・・。いや、たまたまか・・・。」 サンジの言葉は確かだろう、ゾロ自身、出た場所に驚いていたが、そこは無視をする。 出た場所は岩場になっていた。足元の下はすぐに海へと繋がっていて、ザァザァと波が岩に当たる音が耳に届いてくる。波飛沫もほんの少しだが掛かるようで、僅かな水気が気持ちいい。 空を見上げれば真っ暗闇の中にキラキラと星が輝いていた。綺麗な星空を見上げて、今は夜だと、今更ながらに気づいた。 「いまはいつだ?」 ゾロの疑問にサンジが大きく肩を竦めた。 「あれから3日は経ってる。いや、もう4日になるか?・・・・いずれにしても、お前さん、その間ずっとただ只管腰を振ってただけだもんなぁ〜、今がいつかわかんなくなっちまって当たり前かもな・・・。」 皮肉っぽく言われてゾロは、顔を歪めた。 「ログはどうなってる・・・?」 聞きたいことはそんなことじゃない、と頭ではわかっているのに、大事な言葉が口から出てこない。 「あぁ?大丈夫だ。ここのログは半年ってことだから、そうそう書き換えられることもねぇ。だから俺達も静かにお前らが帰ってくるのを待ってるんだ。」 一旦は口から離れた煙草を改めて手にする。 ごく自然な仕草で煙草を取り出し、火をつけた。 サンジは避けたい話題がある時も煙草を吸うのをゾロは知っていた。 ふぅと煙を吐き出すのを見て、ゾロも釣られるように深呼吸する。 ゾロは、なんとか言いたい言葉を口にした。 「悪かった・・・・。」 サンジに対して勝手に怒るのは筋違いだ、と歩いている最中、何度も自分に言い聞かせ、漸く見つけた言葉がこれだ。 ゾロは自分の口の下手さに内心舌打した。 やはり、という感じでサンジは呆れ見た。ポケットに手を入れて、明らかにきちんと話し合おうという風体ではない。 「何を謝るんだ?」 そう出てくるだろうと思った。 「大勢の女とセックスしたこと・・・・。」 サンジは怠惰な姿勢のまま、すっと目を細めた。 「何で謝るんだ?」 「それは・・・・。」 もっとも大切な言葉を口にしなければ二人の関係はもしかしたらここで終わってしまうかもしれない。再度ゾロは深呼吸するべく目を瞑る。 ゾロが一番伝いたい、伝えなければいけない言葉を口に乗せる前にサンジは先に軽く笑った。 「てめぇが俺に謝る必要なんてねぇだろうが?俺だってアーモンドと寝たし、お互い様だ。それに、謝るような関係でもねぇだろう?」 しかし、その笑顔は歪んでいるようにゾロには見えた。 「俺はお前とは謝る関係だと思ってる。」 途端、サンジの態度が崩れた。真面目な顔が見え出した。 「何言ってやがる?俺達の関係はただのセフレじゃねぇか!?この島のレディ達よりもずっと軽い関係だ!謝るような関係じゃねぇ!!」 「俺はてめぇに惚れてる!」 |
08.09.20.