薔薇の園の誘惑2




ログポースが指し示すことのなかった島に、メリー号は、白旗を上げて近づいてきた海賊船と一緒に停泊していた。
目的地に辿り着くには暗礁に乗り上げてもおかしくない岩場を通ったが、敵かと思っていた海賊船の先導とナミの航海士の手腕により、難なく進むことができた。

「ここは・・・・。」

2隻の船が、入り込んでも、余裕のある大きな洞窟。
潮の流れに任せるままに奥へと入り込むと、そこには先を行く船と同様の旗印のある船が数隻止まっていた。

「この島は私達の島。そして、この洞窟は私達のアジト。」
「どうして・・・。ここに私達を招き入れる理由は何なの?」
「降りたら教えるわ。」
「・・・・・・。」

メリー号を難なく着岸させて、ナミは、メリー号に乗船した”自分達の島に招待する”と言う海賊船の船長を名乗った女に視線を送る。















「私達は敵ではない。貴方達を私達の島に招待したい。ぜひ、ご同行願いたい。」

いつでも迎え撃つべく構えていたメンバーは、声高々に届いた言葉に首を傾げた。

「敵意のない証拠に私達の船長と副船長がそちらに向かう。もちろん、武器の所持もしない。捕虜として扱ってもらっても構わない。」

続いて届いた言葉と共に素早く小船が出てきて、メリー号に接船する。
降ろした縄梯子をするりと上ってきたのは、美しい女二人だった。


「うおおおっっ!!なんて美しい御姉さま方!!」
「ちっ、アホコックが・・・。」

とたんにサンジがメロリンするが、そんな彼を余所に誰もが警戒を解かずに彼女らの動向を伺う。
ゾロは刀に手を置いたまま視線を外さない。ナミも天候棒を握り、ウソップは照準を彼女らに合わせて構える。
チョッパーは如何したもんかとウロウロしているが、ロビンの横で必死に彼女らを見つめ、ロビンもまた静観している。
ルフィは相変わらず呑気な顔をしているが、それでも、いつになくその瞳の奥は彼女らの真意を探っていた。

海賊旗を掲げている以上、彼女らもかなりの修羅場を潜ってきているのだろう。
自分達に照準を合わせられていることに、チラリと一瞥するだけで動揺することもなく、自分達が武器を持っていないことを手を上げて改めて証明した。

「なんなら身体検査をしてもいいわよ・・・。できれば、そちらの色男さんにお願いしたい所だけど・・。」

恐れる事もなく妖艶な笑みをゾロに向ける、長い黒髪を靡かせる女は副船長だと名乗った。

「身体検査なら俺がやる〜〜〜〜〜!!!マリモなんかに任せられるか〜〜!!」

叫ぶサンジに誰もが「あぁ、病気が始まった」とため息を内心吐いたがそこは無視をする。
わめくサンジをウソップが押さえつけるのを気にせず、ルフィは、船長だと名乗ったもう一人の赤髪の女を真っ直ぐに見つめて答えた。

「身体検査をしなくても、別にお前らが武器を持ってないのは、わかる・・・。」
「そう?信用してもらえて嬉しいわ。」
「何が目的なんだ?」

腕組みをしながら首を傾げるルフィにナミが警戒を解かずに、ルフィの横に立つ。

「こんなちっぽけな海賊船にはお宝なんてないわよ!帰って頂戴!!」

目を細めて笑う女船長に嫌悪感を抱いたようだ。声音がいつも以上に荒い。


「私の名は、メドゥスィート。ローズ海賊団の船長をしているわ。となりの副船長の名はワイルドストロベリー。・・・・ここに来たのは他でもない、貴方達を招待したいの。私達の島に・・・。」
「招待?」

ナミの眉が跳ね上がる。

「ここ最近話題になっている麦わら海賊団、麦わらのルフィ・・・・・。そして、海賊狩りのロロノア・ゾロ・・・。貴方達二人に掛かっている懸賞金も一億に六千万・・・かなりの賞金額よね・・。」
「俺達の首が目的か?」

ゾロが目を細めて、鞘に手を掛ける。
後ろでサンジが「ちくしょーーーー!!!」と喚いているが、やはりこれも皆して無視だ。
女船長はニコリと笑って首を振った。

「違うわ・・・。貴方達は、私達にとって英雄なの。わかる?」
「は?」
「船長の私が、そして副船長も女であるということは、・・・・・・おかわりでしょう?私達は女性だけの海賊。」
「女だけの海賊・・・。」
「そして、女性だけの島が拠点。もちろん男などには負けるつもりはないけど、でも、強い男性に惹かれるのは女として自然よ。」
「・・・・・。」
「だから・・・。貴方方の船を見つけた時、咄嗟に思ったわ。貴方方と会えるチャンスは早々ない。こんなチャンスを逃したらもったいないって。」
「なんだ、そりゃ・・・?」
「貴方方とぜひお近づきになりたいの。私達のアジトになっている島はここから近いから、ぜひ、寄っていただきたいわ。」

真剣な表情から一遍、突如科をつくり近づく女船長に、ナミがルフィとの間に入る。

「ご遠慮するわ。私達からすれば、貴女達とお近づきになる理由はないわ。有名人だからちやほやしようってわけかもしれないけど、所詮はお尋ね者なのよ。」

ふんっと鼻息荒く答えるナミに、女船長は無視するかのように気にもせず、ルフィにさらに一歩近づいた。
ナミが拳を震わせるのをウソップが「落ち着けって!」と宥める。

「せっかく、ご馳走を用意して歓待しようと思ったのに・・・。ダメかしら。ねぇ、麦わらのルフィ・・・。貴方が船長なのでしょう?貴方が決めて!」

サラリと髪を流してルフィの胸を手に当てる。
媚をうつ目を向けてもこの少年船長には通じないのよ!とナミは内心憤る。

「こんな若い男の賞金額が一億って驚いたけど、年齢じゃないものね。雄雄しさを感じるわ。海賊って飲んで歌って・・・・でしょう?どう、一緒に飲み明かさない?」
「ルフィに色仕掛けなんて、無駄よ!!」

ナミが叫ぶが無視だ。

「一緒に楽しみましょうよ!」

背の高さは僅かにメドゥスィートのが高いが、敢えて見上げる形で見つめる。
当のルフィはナミの思惑通りと言うべきだろうか、メドゥスィートの科にも特に反応するわけでもなかった。だが、逆にいつもの調子で別の意味でノリそうだ。

「宴かぁ〜。いいな、それ!!」

メドゥスィートの色仕掛け関係なく、ルフィが呟く。

「ルフィ!!」
「それによぉ・・・。」

怒るナミの後で別の意味でずっと叫んでいるサンジを向く。

「食料、もうねぇんだろ、サンジ・・・。」

突然振られた内容に、今まで「お姉さまに寄るな〜!」と叫んでいたサンジが「うっ!」と詰まる。途端、ナミが横で嫌な顔をする。

「本当なの?サンジくん・・。」
「・・・・・・・てめぇが悪いんだろうが・・・。」

苦虫を噛み潰した顔で唸るが事実は事実だ。

「食料の補給もしていいか?」
「もちろんよ。せっかくの私達の英雄が来てくれるんですもの。奮発するわよv」

ニコリと微笑むメドゥスィートに「じゃ、決定な!」と笑うルフィを見て、ナミは大きくため息を吐いた。

「なんだか、嫌な予感がする・・・・。」

がっくりと肩を落とす。

「悪ィ・・・・ナミさん。彼女らの真意がどうであれ、食糧補給は確かにしておきたいんだ・・・。」

美人に鼻の下を伸ばしていたはずが、今はすっかりとコックの顔に戻っているサンジにナミが顔を上げた。

「まぁ、仕方ないか・・・。例え罠だとしても・・・・・・・なんとかするしかないわね・・・・・?ゾロ、アンタなら大丈夫でしょう?」
「・・・・・まぁな。」

ずっとサンジの横で腕組みをして相手を睨みつけているゾロを頼りにしようとナミは考えたようだ。

「ひでぇ〜〜〜〜、ナミさん!俺だって大丈夫だよぉ!!」
「サンジくんは色仕掛けに真っ先に引っ掛かるじゃない!!」
「・・・・・ナミさん・・・。手厳しいナミさんもステキだぁ・・・・・うぅ・・・・・。」

ほろりと涙を流すサンジだったが、ナミは容赦なかった。

兎も角彼女らの島へ行くことには決定してしまったのだ。
メドゥスィートの指示により、舵を取った。
メドゥスィートがメリー号に乗船したまま、島に帰船するとわかったローズ海賊船の先導により、二隻の船は進みだした。

「ログポースが書き換えられてしまうわ・・・。悪いけどなるべく早く島を出させてもらうわ。」
「心配には及ばない。私たちの島は磁力が弱いの。ログが溜まるには半年もかかるから、ちょっとやそっとじゃ、ログは書き換えられないわ。」
「・・・・・。」

女海賊団は敵ではないと判断され、ウソップとチョッパーはこれから開かれるだろう宴に一瞬喜んだが、ナミの睨みつける顔に気づいてオロオロした。
サンジはと言えば、警戒心をすっかり解いたというわけではないのだろうが、メリー号に乗り込んだ女性陣にいつの間にかドリンクをサービスしていた。どこまでも、女に甘い男だ。これこそ、ため息を吐くしかない。

もっとシャキットしてよ!!

ナミの心の呟きが耳に届いたのだろうか。ゾロがナミに視線を投げる。

「ありゃあ、病気だ、仕方ねぇ・・。」
「彼女らが敵だとしたら、今回、サンジくんは使いものにならないわね・・・・・。」


女だけとはいえ、海賊は海賊だ。何か裏があるのかもしれない。いや、あると考えた方が妥当だろう。
我らの船長はいつもながら特に深く考えていないようだが、あれだけ科を作って寄ってくるのだ。油断は禁物だ。
ロビンもナミ同様に考えているのだろう。心なし、顔に緊張が走っているように思えた。

「ロビン・・・?」
「聞いた事があるの、女だけの島があるって。」
「え?」
「以前知り合った海賊から聞いた事があるの、女だけの島があるって。もし、今から向かう島が私が聞いた島なら、いきなり銃を突きつけられることはないと思う・・・。でも・・・。」
「でも?」

ナミがロビンを見つめる。
ロビンは、今は船首でルフィと並んで立っているメドゥスィートの方に視線を流す。

「噂話程度で詳細を聞いたわけじゃないから詳しいことは知らないけど・・・。彼は言ってたわ。強い男にとっては天国のような島だったって。」
「強い男だと天国なの?」
「えぇ。それがどういう意味かは・・・・・・。私の想像通りなら、ちょっとやっかいかも・・・。」

先ほどのメドゥスィートの態度を思い出す。
賞金首の二人を意識していたのと、「強い男に惹かれる」という言葉にそれに見合った態度。
そして、向かっている島が女だけの島。

















ナミは何だか嫌な予感がした。それは、多分ロビンが想像していたのと同じことなのだろう。





メリー号はメドゥスィートの指示により、洞窟最奥にある自然に作られた港に係留することになった。



07.12.27.




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だいたい先が読めたと思います・・・。