薔薇の園の誘惑9
チチチと鳥のさえずりが耳に届いた。 どこにいるんだろう、と考えるが、ぼうっとした意識はなかなか浮上しない。 ぼんやりと頭が霞んでいるのは自覚したが、それを取り去ることはできないまま、ゾロはゆっくりと瞼を開けた。 「ここは・・・・どこだ・・・・?」 「ここは、宴の間よ。」 誰ともなしに呟いた声に返事があった。 ぼやけたままの視界を動かす。そこは記憶のない場所だった。 いや、そうじゃなくて・・・・。 ところどころ掠れてしまった記憶をなんとか呼び戻す。 あぁ、さっき聞いた鳥のさえずりは幻聴か。 漸く今いる場所を思い出して、内心笑った。 昨日、着いた島の名前は確かローズ島・・・・・。 アホコックが踊って喜びそうなほど女性が溢れている島だが、何か策略でもあるのか、自分達を「招待したい」と言いだした段階で怪しさを感じた。 それがどういった類の不審さかはまだわからないが、一介の海賊をただ何も裏も無しに招待するというのはありえない。 その証拠とばかりに、自分の夕べの記憶が途中で途切れている。 確か、覚えているのは・・・。 そう順番に思考がクリアになってきて、今頃、ハッとする。 慌てて立ち上がろうとするが身体がついてこないのか、グラリと傾いた。 「・・・・っっ!!」 「大丈夫、ゾロ?無理をしないで。かなり体力を使っているはずだから。」 「何っ!?」 すぐに立ち上がれない程、体力を使い果たすような戦闘でもあったのか、と唸るが暴れまわった記憶がない。 それより、他の仲間達はどこへいったのか?? 「ルフィは?!他の連中はどこだ!!」 掠れる声で怒鳴り、不本意ながらも隣で声を掛ける女性の肩に手を掛けて再度立ち上がる。今度はしっかりと足を地面につけることができた。 「ルフィはまだあちらで儀式の最中よ・・・・。」 返事は隣の女性からではなく、後ろから聞こえた。 「船長・・・。」 「儀式・・・?」 すぐに隣の女性が反応して振り返る。ゾロも釣られて声の主へと視線を向けた。そこには船長のメドゥウィートが立っていた。と、そこで漸く隣にいる女性が副船長のワイルドストロベリーなのにゾロは気づいた。 「一旦、体力を回復してもらおうと香を点てるのを止めたから・・・・貴方は目が覚めたのね・・・。でも、ルフィには良く効いてるらしいわ。若いのもあるのかしら、まだまだ性欲が止まらないって感じ。ステキね、彼。でも、そうね。一度休憩してもらった方がいいでしょうし・・・・すぐに食事を届けさせるわ。」 淡々と話す言葉に所々引っ掛かる部分があった。 「香・・・?・・・・・・性欲・・・?」 先ほどクリアになった意識を今度は記憶を蘇らせる努力をする。 自分が思い出せるのは、女だけの海賊船に遭遇し、彼女らの提案を受け、この島に着岸したこと。そして、アジトであるここ、洞窟に皆で降り立ち、宴と称して食事を頂いたこと。 そこまでしか、思い出せなかった。 やはり罠なのか?!と内心慌てるが、鎖に繋がれているわけでも檻に入れられているわけでもない。雰囲気は違うが、最初に宴の場所だと通された部屋なのは間違いなかった。 が、まわりを見た後、そのまま視線を下げれば、自分が全裸なのに驚いてしまう。 「な・・・・。俺は一体!!」 「ステキだったわよ、貴方・・・。あんなに燃える儀式は始めてだわ・・・。」 ゾロの足元でうっとりと微笑むワイルドストロベリーをゾロは驚いた顔のまま見つめた。 「儀式って・・・一体何をしたんだ?!」 「種の儀式・・・。セックスよ。」 艶やかに笑うその顔はまさに欲に濡れた女の顔だった。 「・・・・・!!」 驚きの余り、身じろぐこともできないゾロを後から近づいたメドゥスィートがそっと肩を押さえて座らせた。ゾロはされるがままその場に座り込む。隣にいたワイルドストロベリーはゾロに縋りつくように身体を擡げた。 「驚くのも無理はないわね・・・・、大抵の男は最初の香が効いてた間は何も覚えていないみたい。でも、心配ないわ。貴方を気持ちよくさせてただけ。貴方・・・・・、ものすごく力強くて雄雄しくて、多くの女性をうっとりさせてたわよ。私は、ルフィの子どもじみてるわりに逞しくて、そしてちょっと強引なセックスに酔ってしまったけど・・・貴方もルフィに負けていなかったわよ。ほら、この娘だってあなたの虜になったみたい。」 目線でワイルドストロベリーを指した。もはやまるで恋人のように隣に位置するワイルドストロベリーにゾロは顔を顰めた。 お互い裸のまま密着した体に居た堪れなくて何か纏うものをと考えたが、今更か。 ゾロはそのままメドゥスィートを睨みつけた。 「何が目的だ?」 真正面に立ったメドゥスィートを険しい目で見上げる。メドゥスィートはまるで慣れた仕草でそれを受け止めた。 「私達は子どもが欲しいの。だから、貴方達の精子をもらったの。」 「何だと?」 「この島では何故か男の子は生まれない。生まれてくる子はみな全て女の子ばかり。・・・・となるとこの島は子孫を残せない。女だけでは子どもは作れないもの・・・。でも、子孫を残さなければいけないわ。だから・・・・余所から男を招き寄せて精子を頂くの。その為に貴方達のように旅の者を迎え入れる。そうしてこの島は繁栄してきたわ。」 「なんだ、そりゃ?・・・・そんなことぜずに、他の島から婿をとりゃあいいじゃねぇか。」 「そんな時代もあったわ。だけれど、長続きしなかった。生まれてくる子も全て女。女性に支配された島だもの。どの男も長くはここにはいられない。男のプライドが女性に支配されたこの島での生活を許さないもの。」 「・・・・賞金首に拘るのは何でだ?」 「賞金首を特に歓待するのはできるだけ優秀な人材が欲しいから。賞金額はそのまま男の価値に繋がるもの。」 メドゥスィートは目を細めてほっそりと笑った。 それで賞金首のルフィと自分をやたらと意識していたのか、と今更ながらに納得した。 最初の話に出てきた香とは、きっと媚薬的なものだろう。 賞金首の二人が精子提供者として勝手に決められ、勝手に香とかで意識を飛ばされ、勝手にセックスをさせられた。ある種、強姦と言っても過言ではないかもしれない。 体力を奪われたというのは、セックスのしすぎで、ということなのか。一体、どれだけの女性をセックスをしたのか、ゾロには思い出せない。が、自分の意思を無視した行為など反って思いだしたくもなかった。 全てのことがわかった途端、嫌悪感が体中に広がった。 同時に鼻の置くにツンとつく匂いにも気が付いた。きっと媚薬である香の香りが身体に染み付いたのだろう。 その為か、ワイルドストロベリーがしな垂れかかってくると、気持ちとは裏腹に、自然、身体がそれに反応した。 「くそっ!」 舌打するが身体は正直だ。 彼女らの話によればかなり体力を使うほどにセックスをしてはずなのに、己の砲身は続けて行われるだろう行為に涎を垂らして喜んでいるように見えた。 ゾロの舌打ちで、身体がワイルドストロベリーに反応しているのをメドゥスィートも気が付く。 「あら、まだまだ体力が残っているようね。でも、やはり無理は禁物よ。貴方を待っている女性がまだ沢山いるわ。彼女らの相手をするにはそれなりに身体を休めてから相手をしてもらいたいわ。その方が彼女らも喜ぶわよ?もう食事も届くと思うわ。」 勝手に話を進める目の前の女船長にゾロは眉間に皺を寄せた。 「俺はもうこんな相手はごめんだ!!」 大声で拒絶する男に、女船長はゾロの下半身に手を伸ばしながら不思議な顔をする。 「何故?身体はこんなに正直になっているのに・・・?こんな酒池肉林な体験をすることは一生にそうないわ。せっかくだもの。セックスを楽しめばいいじゃない。今までの男は誰もみな、ことの真相をわかっても拒絶しなかったわ。それどころか、幸運とばかりに飽きるまでセックスを楽しんだわ。なんせ相手はいくらでもいるんですもの。」 「・・・・・・。今までの連中がどうだったかなんてことは、どうでもいい。俺はもうこんな相手はしねぇ!!」 「バカね・・・。」 メドゥスィートの言葉には虫唾が走ったが無視をした。 「ルフィはどうした?」 「さっきも言った通り、まだ儀式の最中よ。彼、かなり燃える性質ね。あぁ、もうすぐ休憩させてあげるから邪魔はしないでね。」 「ちっ!」 メドゥスィートの視線を辿ると広い部屋の反対側の隅の方で、女性達があられもない狂声をあげているのに気が付いた。 自分には関係のないことだと勝手に判断して耳に入れていなかったのだが、あれがルフィによるものならば、そうはいかないだろう。 「ルフィ!!」 再度立ち上がり、大声で女性達に埋もれた男の名前を呼ぶが返事はなかった。どころか、それを目の前の女船長に咎められる。 「止めないで!!」 「てめぇ!!」 掴みかからんばかりに睨みつけるが伊達に海賊をやっているわけではない。全く怯まない女にゾロはさらに怒りを露わにする。 「貴方が強硬手段に出るのなら、私もそれなりの対処をするわ。仲間が乗っている貴方方の船の周りには大勢の私の部下がいる。そして、今、船には女性二人とトナカイが乗ったまま・・・。」 「何が言いてぇ・・・。」 「彼女らを人質として扱ってもいいのよ?」 「何!!」 ギリリと歯がなった。 「素直に私達の歓待を受ければいいだけの話じゃない?今までの海賊は誰もが喜んでいたわ。何も悪いことはしないし、貴方達も気持ちいい思いができるもの?何が不服なの。」 口端を上げて笑う顔は海賊そのものだった。 手を出せないことに身体が怒りに震えるが、とりあえず何をしているかは別にしても船長は無事なのだ、と己を治めるよう深呼吸をした。 じゃあ、他の連中はどうしたのか・・・。 「ほかの連中はどうした?」 「さっきも言った通り、女性陣とトナカイさんは船にいるわ。夕べ、私達の気持ちを理解してくれなかったみたいで早々に船に帰ったの。オレンジの彼女は特に機嫌が悪かったけど、でも彼女、誰かの恋人ってわけじゃないから、私達が咎めれれる理由はないはずよ。」 「てめぇ!」 メドゥスィートの言い分は一見間違っていないように思えたが、そういう問題ではないだろう。ナミの気持ちは口には出さずとも誰もが知っていることである。まだ実らない恋ではあるが大切にしている仲間の想いを考えると新たに怒りが湧いてくる。ゾロは喉を唸らした。 「長鼻くんは隣のお部屋でゆっくりとご休憩よ。賞金首でない彼には相手はいなかったみたい。でも・・・・・そういえば、コックの彼は相手が見つかったみたい。珍しいわ、彼もまた賞金首ではないのだけれど・・・・・・そういうモノ好きもいるものね。うちのコック見習いのアーモンドと二人でいるのを警備の者が見かけているわ。」 「何?!」 くそコックが!? 遠く部屋の隅で行為をしているルフィに驚く以上に、ゾロは驚きを隠せなかった。 |
08.05.25.