過去と今と未来と2−1




結局、ロイとサンジがどの島へ向かったのか誰にも解らずじまいだった。

ロイがエターナルポースを買ったという店の店主は、「本来なら教えるわけにはいかない。」と言ったが、JJのことをよく知っていたのもあり、買ったエターナルポース全部の指針先の島を教えてくれた。
10個もあるエターナルポース。それら全ての島を回るのはそうとう骨が折れたが、それでも全ての島を回った。その都度、大きな街を中心に皆で2人の行方を聞きまわった。
新しいレストラン、店構えは古いが味がよく評判になっている食堂、いつも必ずサンジが喜んでまわっていた市場。
ありとあらゆ所を捜したが、誰も2人の行方を知る者はいなくて。


あまりの島と街の多さに絶望を感じ、途中、ナミやウソップはやはりサンジは自分の意思で消えたのだからもはや捜す必要はないと何度もルフィに掛け合ったのだが。
それは船長の「絶対にサンジを捜す」のひとことに、ため息を吐くばかりだった。
ゾロはそんな船長に感謝もすれば、しかし、恨みもした。





やはり、サンジは自分の意思で消えたのだろうか。
あんなにロイとのことは否定していたのだが、やはりどこかで忘れられなかったのだろうか。


サンジが信じられない。
見つからない2人に、心の何処かにそんな思いがまったく無かったわけではなく。
ましてやロイに裏切られたと公言するJJに引き摺られるように、信じていた自分の気持ちまでもが徐々に揺らぎ始めた。
どこかでサンジを信じる気持ちと、サンジを忘れようとする気持ちに己の心がわからなくなり。





そして、時折寂しそうに船首に立っているJJの後姿に、誰かを重ねてしまう自分がいて。
これでは、あのロイと同じだ。そんなことにも気づきもせず。
最初は怒りの矛先にさえなっていた相手だったのに。




気が付けばゾロはJJを抱きしめていた。





















船は新たな仲間、JJを乗せて、新たな旅に出ていた。








































「もう、すっかり春季候ね・・・。」



ん〜〜〜〜〜っ、と伸びをするナミの前に冷たいコーヒーが差し出された。


「はい、お待たせ。」

リクエストしていた飲み物が出されたことに、「ありがとう。」と笑顔を向けるその先には、にこやかにトレーを手にする金色の髪の少年が立っていた。

「JJもすっかりと板についたわね。夕べのクリームコロッケ美味しかったわよ。」
「ありがとう、ナミさん。良かった、口にあって・・・。」

カランと氷の溶ける音がした。
どうぞ、とナミがテーブルの反対側の席をを勧めた。いつもは一緒にくつろいでいるロビンは今日はいなかった。部屋にでもいるのだろうか。
ナミは前甲板で読書をしていたらしく、手元には本が広げられていた。覗き込むようにして顔を本に近づけるとJJはもう一度、「ありがとう。」と言ってナミに対面した形で椅子に座る。

「邪魔にならない?」
「大丈夫よ、ちょっと休憩。」

言葉とは裏腹に一緒にティータイムを予定していたのか、自分用のアイスコーヒーもしっかりと持ってきていたようだ。それでも多少なりとも遠慮はあるのか、小さくなっているJJにナミはクスリと笑う。
JJはクルリとストローを廻してナミの本を見つめている。

「どう、慣れた?この船・・・・。」
「あ・・・・うん・・・・。本当に感謝してる。行くところのなかった僕を船に乗せてくれて・・・。」

本当にナミの本を読んでいたわけではないだろうが、多少気が逸れていたようだ。

「一緒にサンジくん達を捜す約束したじゃない。」
「でも、結局、ロイ達は見つからなくて・・・・。新しく旅に出るって時、僕を船から降ろさなかったでしょ?」
「だって、仕方ないじゃない。付いて行くってきかなかったのは貴方だし、この船にはコックがいなかったし・・・・なによりアイツがねぇ〜〜〜〜。」

そう言って、ナミは後甲板をチラリと見た。
その先には誰がいるのか、見えないが誰もが知っていた。
姿は見えないが、空を切る音が風に乗って聞こえてくる。

ブンッ  ブンッ  ブンッ

錘を振っているのだろう。

あ、とJJが立ち上がった。

「どうしたの?」

とナミが見上げる。

「ゾロにも飲み物を差し入れするのを忘れてた!」

そう言って慌ててトレーを手にすると、バタバタと階段を降りていった。
ナミが頬杖をつくと、今度は階段を上がる音がし、ラウンジへのドアが閉まった。

はぁ、とため息を吐いてラウンジのドアを見やる。
すぐさま、ドアが開いて、新たな飲み物を持ったJJが急いで後甲板へ向かった。
自分のところに持ってきたJJのアイスコーヒーは一体何だったんだろう、と思うとナミは笑ってしまう。JJなりに今だ気になるのだろうか、ゾロ以外の人間の自分に対する気持ちが・・・。すでに仲間として認めたはずなのに。
ナミは前に広がる海に目をやり、そしてすぐ前の羊頭に座るルフィに声を掛けた。

「ルフィ、アイスコーヒー飲もう?JJ、自分の分、飲まずにゾロのとこ行っちゃったからきっとこのコーヒーのこと、忘れちゃってるわ。飲んでいいわよ、きっと。」

ナミの声にくるりと振り向く船長の顔に苦笑する。
JJが気にしているのは、きっとこの船長のことだろう。自分の本を読む振りをして船首を気にしていたといえば、そうかもしれない。

「JJのこと、嫌いなの?」
「そういうわけじゃねぇけど・・・。」

麦藁帽子に手をあてて、トン、と羊頭からルフィが降りてきた。
カタンと先ほどJJがちょっとの間だけ座った椅子に今度はルフィが座る。

「こんなのが、いいわけねぇ・・・。」
「ルフィ・・・・。」

ナミが眉を顰めた。

「ゾロもJJも自分の本当の気持ちを騙してて・・・・こんなのよくねぇ・・・。」
「でも・・・・サンジくんも、ロイも見つからなかったのよ・・・。あの2人は諦めるしかないわ。」
「だからって、自分の気持ちに嘘ついていいわけねぇ・・・。」
「どうして、そう言えるの?ちゃんとみんなに言ったじゃない、ゾロ。本気でJJのこと、好きだって・・・。確かに、その前のサンジくんとのことも、今回のJJとのことも、私には信じられない話だったけど・・・。でも、それがゾロの気持ちだって本人が言うのなら、仕方が無いわ。」

ナミの言葉にルフィは苦しい顔をする。

「でも、・・・・よくねぇ。」
「それでも、ちゃんとJJの作った料理は美味しいって食べるのね、貴方は。」
「別にJJのことを嫌いっていわけじゃないし、上手いものは、上手い・・・・。でも・・・・・・・・サンジの作ったメシ、喰いたいなぁ〜〜〜〜。」
「そうね・・・・。どこにいるのかしら・・・・サンジくん・・・。」

2人して空を仰いだ。






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いきなりこんな展開ですみません、すみません、すみません・・・・・∞。

2006.10.10.