言葉にして 1




「明日、島に着くってナミさんが言ってただろうが・・・。今日は、別にしなくてもいいだろうに・・・。」
「うるせぇ・・・。さっさとしろ!」

深夜の展望室。
ゾロの眉間に皺が寄っているのは普段からだが、今日はさらに一本皺が多い。
ゾロが音量を落としながらも、脅す勢いでサンジに怒鳴る。
サンジははぁ、とため息を吐いた。

「まぁ、いいけどよ・・・・。」

ゆっくりとお互いに服を脱ぐ。
バサバサと乾いた空気を纏ったまま色気も何もない様でお互いに全裸になると、あぁ、と思い出したように脱ぎ捨てた腹巻から仕舞っていた香油を取り出した。

「・・・っ!」

「冷たいじゃねぇか!」と文句の一つも溢せば、「悪ぃ悪ぃ」とまったく悪気のない返事が返ってきた。
すでに臨戦態勢のゾロにサンジは苦笑するが、それでも自分もすぐにその気になった。
お互いの欲を開放しようと手を蠢かし、身体を捩る。

ハァハァと息が荒く室内に響くが、それでも艶のある雰囲気にはならずに淡々としているのは、最初に交わした契約の所為か。









「欲は溜まるし、船にいる女性陣を抱くのはまずいから、お互いで我慢しよう。」

そう言い出したのは、どちらだったのか・・・。
なんとなく、深夜に二人で飲んでた時に出た言葉だった。多少、酔いが回っていたのがあったのかもしれない。というよりも、話をする前に気が付いたらお互いに裸で絡んでいたと言った方が正解かもしれない。
どちらにしても、双方共納得済みということで、深夜の身体の関係は始まった。

ただ、それは男としての欲求を吐き出すためのものだから、勘違いしないようにと約束事ができた。

仲間に変に勘繰られては困るので、みんなには内緒。所謂キスはしない。行為が済んだら速やかに片付けて離れるなど、いろいろだ。
よくよく考えれば、ただ単に男同士だから当たり前と言えば当たり前のことなのもあるのだが・・・・。

とはいえ、実際には、二人とも、お互いのことが好きだったりする。
だからこそ、切欠が何であれ、男と関係を持つことができたのだ。本当に嫌いな奴なら、酒が入ったとしても、相手の体に触れることはないだろう。
ただ、始まった切欠が切欠だったし、「好きだ」と言うタイミングを外してしまったこともあり・・・・。況してや自分の気持ちを口にした途端、今の関係が終わってしまうかもしれないことを恐れた、お互いに。
結局そのまま想いを口にすることも出来ずに、ただただ身体の関係で我慢しているところもある。














「島が見えたぞぉぉ!」

朝食を食べ終えた頃、見張りを交代していたからウソップの声が拡声器から響いた。

「うおおおぉぉぉ!!」

興奮状態のルフィをナミが押さえて、島の様子を確認した。

「うん。結構、賑やかそうな街が見えるわね!」

早速、上陸の準備に取り掛かった。













ゾロは、街を歩きながらため息を吐いた。
また迷ってしまったから、ではなく、ついつい考えてしまうのだ。

サンジのことを・・・。

島に着いたら、お互いに一日好きに過ごす。

繋がりが強い麦わら海賊団といっても、一人一人互いの個人を尊重しているからこその行動として、みんなで島を回ったあと、それぞれが島では好きに過すことが多い。
ただ、だからと言ってまったくのバラバラが続くかといえば、そうでもない。
ならば、とゾロとサンジの二人の間にできた約束事の一つだった。

航海中は、その閉じられた環境の為にお互いだけを欲求の対象にしている。
が、男同士は不毛。
だから、島に着いたら一日、女性を相手にして過すのだ。
それは、商売をしている女性でもいいし、通りすがりに意気投合した女性でも構わない。
お互いの相手には口を挟まないし、島で会っても女性と一緒ならば、知らない者同士の振りをすることになっている。
が、その約束の一日が過ぎれば、お金がないのもあり、例え宿で泊まるとしても宿代も一部屋分で済むので、航海中と同様に互いを相手とすることになっている。
それがどれだけ長期の滞在になろうとも・・・だ。


そもそもよくよく考えれば、長期滞在であろうが、女性と過すのはたった一日と言う約束自体がおかしな話だが、まだお互いの気持ちを知らない。
相手はわからないが、自分は相手のことを好きだ。例え、言葉にできなくとも。
だからこそ、不自然なりにも出た結論だった。
そんな不思議なルールにもお互い異論はなかった。

どころか、ぶっちゃけ言えば、ゾロとしてはその一日ですら、我慢するのが大変なのだ。それだけ、サンジに惚れている自覚はある。
ただ、やはり今更口にはできないのだ。
相手の気持ちはわからないが、何故だか、らしくはないが、言ったらこの関係が終わってしまうのではないか、という不安があった。しかも、何故だが、言ったら負けだと言う変な対抗心もあったりする。


夕べだって「島にもう着くからシなくてもいいだろう?」とサンジは言ってくる。
ゾロは島に着こうが着くまいがサンジを抱きたいのは変わらない。島は関係ないのだ。

が、相手はサンジだ。
どうしてそんなことが出来るのか不思議なほどナミ達の言いなりだし、女性を好きだと公言しているし、限りなく女尊男卑だ。
そんな男が、プライド高い者なら死んでしまった方がマシだろうほどの、男に抱かれるという行為を甘んじて受けている。
仲間だから、受け入れられているのだろうか。
サンジの思惑はわからないが、ゾロにとって見れば、こんな有難いことはない。
できれば、気持ちも受け入れてもらえれば一番なのだが・・・。が、そこまで考えて、いやいやと首を振る。
一見女噂男卑な男だが、口ではどう言おうとも、基本、男にも優しいことは知っている。
だから受け入れられているのかもしれない。
口はで、いろいろとお互い罵ることもあるが、サンジがゾロのことを仲間として、そして凄腕の剣士であることをきちんと認めて信用しているのを、ゾロは知っている。
お互いに負けられないといつも対抗心をむき出しにしているのに、そんなサンジが負けたくないだろう相手のゾロに抱かれている。本来ならば屈辱でしかない立場を受け入れている。
ならば、せめて島に着いた時ぐらい、男としての彼のプライドを保たせてやってもバチは当たらないだろう。


いかにも飲み屋と思える店でみんなで食事を取ったあと、解散の言葉と共に外へ走り去った後姿をゾロは思い出した。
大騒ぎで出て行ったルフィ達を苦笑しながらも、自分もウキウキとした足取りで出て行く黒いスーツ。
ゾロを振り返ることはまったくなかった。

「あんた達って本当に意地っ張りね・・・。」

テーブルで頬杖をついて、ナミがポツリと溢したのも耳に届いた。その言葉がどういう意味か、わからないまま、ゾロも早々に店を出た。
そして、ふと目に入ったネオン街に足を踏み入れた。
















「おう、おかえり。ゾロ!」

船にいたのは、意外にもルフィだけだった。芝生の上で意味もなくごろごろと転がっている。
昨日一日何をしていたのかはわからないが、今はつまらさそうに船で時間を潰しているという感じだ。
ゾロは、みんなと別れて一晩、商売女のところで時間を過ごした。でも、次の日になった今、早々に船に帰りたくなり、戻って来たところだ。
ルフィがいつ船に帰って来たのかわからないが、「腹が減った」という言葉が出て来ないところをみると食事はどうにかしたのだろう。
いや、既にサンジの方が船に戻っているのだろうか。
と、顔をラウンジの方へ向けるが気配はない。ルフィが一人で船にいたのだろうか。

「ルフィか・・・。めずらしいな、お前が船にいるなんて。一番に飛び出していったのは、ありゃあ、何だったんだ?」

甲板に降り立つゾロにルフィは転がっていた体を起した。

「それがよぉ・・・・街で遊び回っていたのはいいんだけどよぉ・・・。昨日、ある店でメシ喰ってたら、ちょっと騒ぎ過ぎちゃって、店の物壊しちまったんだ・・・。で、たまたまそれを通りかかったナミに見つかって・・・。」
「あぁ・・・、それで謹慎くらったんだな・・・。」

容易に想像できた内容にゾロは、「はぁ。」と溜息を吐いた。ルフィもなんだかばつが悪いようでしゅんとしている。ルフィもそれなりに悪いと思っているらしい。

「どうやら壊しちまったもんがよぉ、亡くなった旦那の形見だとか言って泣くもんだから。俺、ごめんって謝ったんだけど・・・。」
「そりゃあ、お前が悪いな・・・。」

全く困った船長だ。
だが、壊れてしまった物は仕方が無い。

「どうしたら、許してもらえるかなぁ・・・。」
「さぁな・・・。」

慰めの言葉すら出て来ないゾロに、ルフィはさらにがっかりしているが、仕方ないだろう。彼なりに何かしらお詫びする方法を見つけるしかないだろう。それまでは、謹慎は解けないだろうなとは思うが・・・。
だからこそ、食事をする元気もないのだろうか。とそこで、はた、とゾロは気づく。

「そういえば、ルフィ。お前、いつ船に戻って来たんだ?メシはどうしたんだ?」
「あぁ、昨日の夜には謹慎だ〜〜!!ってナミに船に連れて来られたんだ。メシは、夕べはナミが冷蔵庫であるもので簡単なの作ってくれたから・・・。今朝は、まだ喰ってねぇ。・・・・そういやぁ、腹減ったなぁ〜〜〜。」

腹が空くのを忘れてるとはそうとうだな、とゾロは驚きを見せた。

「なんだよ、失敬だな!俺だった我慢できるぞ!!そういやぁ、サンジは戻ってこないんだよなぁ〜?戻ってきたら肉作ってもらいてぇ・・・。」
「なんだよ、肉を作るって・・・。」

腕組をしてチラリと陸に目をやる。
今日は、宿で会う約束はしていない。サンジも船に帰って来るはずだからこそ、ゾロも船に帰って来たのだ。が、、ルフィがこのまま謹慎として船に残っているのならば、二人でのゆっくりとした時間を過ごすことはできない。

「コックは帰って来てないな。腹減ってんなら、街に行ってメシ喰って来いよ。」
「でも、また街に降りたらナミに怒られるじゃねぇか・・・。」

なんともまぁ、めずらしほどの律儀さを見せている。それほどまでに、昨日のナミの怒りは相当だったのだろう。だが、ルフィは邪魔だ。

「んなの、黙ってりゃあわかんねぇよ。俺も言わねぇから、メシ喰ってこいよ。喰ったら戻ってくりゃいい。」

一旦外に出てしまえば、気まぐれな船長はそうすぐには戻ってこないだろう。いや、もし戻る気があったとしても、あれだけ料理を食べるルフィだ。すぐには戻ってこれないだろう。それまではサンジとゆっくりと過ごすことは出来るはずだとゾロは踏んだ。

「じゃあ、ちょっとだけ・・・。」

「よっこらせ」とルフィは立ち上がった。

「もし、ナミが戻ってきたら・・・。」
「適当にごまかしておいてやるから心配するな。」

心配そうにゾロを見るルフィにゾロは軽く笑って肩をポンと叩いた。
それにほっとしたのか、ルフィは「じゃあ・・・。」と言って船縁に足を掛ける。

「じゃあ、ちょっくら行ってくるな、留守番頼むな!」

ポンと勢いよくルフィは飛び出して行った。


「さてと・・・。」

手持無沙汰に鍛錬を始めた。自分も食事はとっていないが、できればサンジが戻ってきてから一緒に食べたいと思った。



どれくらい時間が経っただろう。まだサンジが戻って来る気配はない。いつもなら、もう戻って来て構わない頃だろうが。
もしかしたら、途中でルフィに会ってメシを作ってやる話になったとしたら・・・。そう、思いついて、いやいや、そうそうタイミングよく会えるはずがない、と嫌な想像を打ち消した。
もしかしたら、店で出会った娘と別れを惜しんでいるのだろうか。それはありうると唸った。
毎回毎回、島に着くたびに胃が痛くなるような思い。いや、実際には丈夫すぎて胃は痛くならないのだが・・・。
でも、この関係が始まってからいつも考えることだった。
いっそのこと、想いを告げてしまえば、この苦しい思いから抜け出せるだろうか。が、言ってしまうことの恐ろしさも想像する。
言ってしまうことで、なんとなくサンジに負けてしまうような悔しさ。それにより、サンジが優位に立ってしまうのではないかとか、逆にサンジの思いはゾロには向いていなく、告げてしまう事で関係が壊れてしまう恐ろしさ。

ルフィが船を出て行ってから、気分転換に振っていた錘もいつのまにか、動きが鈍くなっていた。
いかんいかん、と慌てて鍛錬を再開する。
ぶんぶんと風音を立てて振り下ろされる錘。まるで自分の気持ちのように重い。

他の事を考えて気を紛らわせようと夕べの女のことを思い出した。
確かに女を抱くことは、楽だ。特に商売女は何から何まで心得ているから、自分からどうこうする必要はない。悪い言い方をすれば寝っころがっていればそれで勝手に向こうが奉仕をしてくれて気持ち良くなる。出してすっきりするのだ。
夕べの女は金髪で、胸もあまりなかった。ゾロはいつもそんな女を選ぶ。
誰かをイメージして、というつもりはないのだが、気付けばいつもそんな女ばかりだった。

チッと舌打ちする。
でも、夕べの女は良かった。商売柄傷んでそうなのに思ったより髪がサラサラしていて触り心地は良く、表情はつんけんしていて口も悪いが、見た目よりも優しくゾロを包み込んでくれた。感度も良く、締まりも良かった。もう一晩あったなら、もう一度彼女を選ぼうと思うぐらいには。
が、それよりも手にしたい肌がある。抱きしめたい体がある。

ゴトリ

錘を置いて、空を見上げた。

早く帰ってこい。

空は青く雲ひとつない。気持ちのいい風が吹いていた。







錘を1000回振り、その後、腹筋や腕立ても1000回やった。次は何をしようかと言う前に空を見上げると、いつの間にか太陽は水平線の向こうへと消えかかっていた。もうすぐ夜が来る。

結局、ルフィは帰ってこない。たまたまなのか、別のメンバーも帰ってこない。
ナミが戻ってこなくてよかったと思うと同時に、サンジのことが気になった。

今日が約束の日なのに、サンジが戻ってこない。
いつもなら午前中には戻ってきて、または街で出会って、昼食は二人で食べることが多い。もちろん、食事の前に行為になだれ込むこともあるが、大抵は、「すっきりしたんだから慌てるな。」と蹴りを入れらる。
夕飯時にすら間に合わないことはないはずだ。とはいえ、いくらなんでも遅すぎる。
何かトラブルでもあったのではないか、と急に不安が過った。
海軍に見つかれば、まず島が騒然としてすぐにわかる。下手な海賊やチンピラに絡まれたとしても、そうそうやられるような弱さではない。返り討ちにするのみだ。

だが、女を使われたら。

相手がどんな敵だろうと女であったならば、傷つけることを恐れて闘うことをしないコック。
司法の島では、そのために敵に技を掛けられてしまったのをナミから聞いている。「死んでも女は蹴らない」彼のポリシーは、甘いと感じるがそれでも奴らしいと苦笑したことも覚えている。
それでなくとも、見た目よりも情に脆く、優しい。
そこを突かれたら、やはりサンジでも相手の思うつぼに嵌ってしまうだろう。

考え出したら、嫌な気分が身体中に拡がっていく。

いやいや、大丈夫だ!

不安になる己を叱咤した。
どうせ、そのうちヘラヘラと帰ってくるのだ。「今日の娘はとびきり可愛かったな〜vv」と聞きたくない感想まで口にして。
その様子も容易に想像できて、さらに気分が悪くなる。


集中しよう!
こんなに雑念だらけでは目指す最強の剣士にはなれない。

ゾロは頭をブンブンふると、もう一度床に転がしていた錘に手を掛けた。








結局、日が落ちてもサンジは戻ってこなかった。
ゾロのイライラは頂点に達そうとしていた。
サンジ自身以外にもいつもならば楽しみであるはずの食事ですら取れないまま。
結局朝から何も食べておらず、そのまま鍛錬とばかりに体をずっと動かしていたから空腹まで頂点だ。
眉間の皺はいつもより5割増しだろう。

「クソコックはまだか!!」

誰ともなく叫びそうになったその時、コトンと後ろから足音が聞こえた。と、同時にぎゃあぎゃあと喚く声がゾロの耳に届いた。
耳に入った声で、一瞬で膨らんだ期待が大きな音を立てて弾けた。

「だからルフィ!あんたはもう島を出るまでここから出ちゃダメ!!」
「なんでだよぉ・・・。ちゃんと反省したじゃないかぁ〜〜!!」
「それでもダメッッ!!また同じことされちゃかなわないわ!!今回は、ずっとここで反省してなさいっ!!」

声は今朝出て行ったルフィとルフィを街で見つけたのだろうナミだった。声のトーンからナミの怒りもまた頂点に達していると思われる。

サンジどころではない。あの怒りの火の粉がこちらに飛んで来ない内に退散だ。
ゾロは二人に気付かれないようにそっと男部屋へ移動しようとしたが、部屋の扉を開けようとした瞬間をナミに見つかった。

「ゾロ・・・・。あんたがルフィの下船を許可したようね・・。いつからそんなに偉くなったのかしら・・・?」

ゴゴゴゴと後ろに噴火火山のオーラを背負ってナミがゾロに声を掛ける。
そもそもナミがこの一味で一番偉いのかといえば、違うと言いたいが別の部分であっている気もするが・・・。
兎も角、面倒がやって来た・・・と、ぼりぼりと頭を掻いて、しかしそれを表情に出さないようにしながら振り返った。

「あぁ?そりゃあ、ルフィが昨日迷惑かけた店に謝りに行きたいってんだから・・・。詫びるのは悪いことじゃねぇだろ?だったら、止める理由はねぇし。」
「で、結局、さらにその店に迷惑を掛けるハメになったのよ?そんなこと、あんただってすぐに想像できるでしょうが・・。」
「はぁ??」

ナミの言葉にゾロは、目を丸くした。

さらに迷惑を掛けるハメって・・・・。

ゾロの表情にナミは、はぁ〜〜、と大げさに肩を落とす。

「私が気づいたのは、問題の後だったからもうどうしようもなくて・・・。結局、お詫びとしてサンジくんがその店で働いてるわ・・・。」
「何?クソコックが・・・?」

話が見えない。どうしてサンジがこの問題に関わっているのか?つか、いつからその店にいるのか?

「そのルフィが壊したモノってのは、その店秘伝のタレが入っていた壺でね・・・。店のご主人が苦労に苦労を重ねて作ったタレが入っていたのよ。」

ナミの説明によるとルフィが入った店は所謂小さな食堂だが地元民には人気の店で、焼きとりや魚の照り焼きなどが売りだという。しかも、人気メニューのほとんどにはその店の主人がずっと使い込んでたタレを隠し味として使っていたと言い、さらにそのタレは10年以上の歳月を掛けて継ぎ足し継ぎ足しで作られて今の味を作ったというものだった。しかも、今はそのタレを作りだしたご主人は亡くなっていて、今店を切り盛りしているおかみさんはタレを一から作ることはできないという。

「多少、壺にタレがまだ残っていたからなんとかいいようなものの、店で料理を出せるほどにはタレが残っていないくて・・・しかも、タレを作りなおすためのレシピもなし・・・。」
「あ〜〜〜〜、そりゃあ・・・・まずいな。」
「そのおかみさんからすれば、命よりも大切なタレなのよ!今日も結局、商売の邪魔をしただけだし・・・。」

ナミが頭を抱えて俯いた。
ルフィを挟んで3人、移動したラウンジの椅子に深く座り込み、溜息を吐く。

「だから、ごめんって・・・。」
「ごめんで済めば、海軍はいらないわよ!」

きっとサンジは、詫びをして、そのタレの再生に関わっているのだろう。10年の月日を掛けて作られたものを完全に再現するのは無理だろうが、それでもきっとその亡くなった主人の考えたレシピを再生してなんとか元の味に戻せるような努力を今しているに違いない。

「ともかく、あんたはもうあの店に行っちゃダメ!!ここで反省しなさい!!」
「でも、ナミ・・・・。」

ルフィの表情は、申し訳なさがありありとわかる。だが、ナミの言い分もわかる。
こりゃあ、とゾロは椅子から立ち上がった。

「ルフィは詫びとして店に何かしたいんだな。」
「そうだ!!」

自信満々に言う事ではないが。
ゾロは大きく息を吐いた。ナミが不審気にゾロを見上げる。

「ゾロ?」
「俺がついていく。ルフィは危ない行動をしたら止めりゃいいだろうが。」
「でも、店の方には変わりにサンジくんがお詫びにタレを作りなおしてるのよ、これ以上何かできるとは思わないけど・・・。」

眉を顰めてナミは言葉を濁した。

「その店、もうおかみさんが仕切ってるってことは、男手はないんだろ?」
「えぇ。おかみさんとその娘さんの二人で店を切り盛りしているわ。」

娘という言葉にゾロは片眉をピクリと跳ね上げた。

きっと年頃の可愛らしい娘なのだろう。
そりゃあ、ルフィの詫びと称してがんばって店に手を貸すわけだ。船にも戻らないのも頷ける。
やっぱ、店には行くか。

「ルフィ、道を案内しろ。店に行く。」
「わかった!!」

行く気満々な二人にナミは大きく肩を竦めると「わかったわ。」と立ちあげた腰を下ろした。

「幸い、店の方も私達の素性を知っても海軍には連絡しないでくれているんだから・・・・。お願いだからこれ以上、トラブルはおこさないでよ!!」
「わかった。」

二人して外へ足を向けると、ナミは手を振った。

「他のメンバーは私が会った時に事情を話しているからこのことは分かってるわ。・・・・・みんな宿にいるから、船番は私がするわ。」
「頼む・・・。」

ゾロはルフィと連れだって、問題の店に向かった。


11.10.06




        




いつもと変わらず・・・。すみません。