いつか桜の木の下で10
「旦那・・・。久しぶりだな。何かいいことでもあったのか。機嫌が良さそうだ。」 とくとくと注いだ酒を一気に飲み干し、廻船問屋のクロコダイルは、傍らに座るサンジを引き寄せた。 「なぁに。ここ最近忙しかったが今卸している仕事が一段落ついたから、ゆっくりしようと思っただけだ。」 「店は順調って・・・。そりゃあ、景気がいいことで・・・・。だったら、こんなとこで俺なんて相手していないで、パアッと遊んでくりゃあいいじゃねぇか?」 到底遊女とはほど遠い、客相手とは思えない言葉使いにも気にせず、クロコダイルは、再度猪口に注がれた酒を呷ってからサンジの顎に手を掛けて自分の方を向かせた。 「だからこうして遊びに来たんじゃねぇか。そもそも表で派手に遊び回るのは俺の性分じゃねぇ。」 「んっ・・・。」 そのままサンジの首に舌を這わせた。 サンジは為すがまま体を仰け反らせ、腕をクロコダイルの背中に回した。 「そういやぁ・・・・クリークが心配してたぜ。・・・なんでも、旦那・・・・、最近、通り向こうの大見世でいい遊女を見つけたとか・・・。かなりの器量良しで、その太夫目当ての輩が引っ切り無しらしいじゃねぇか。こんなとこで時間潰してていいのか?」 「あぁ?」 「とはいえ、まぁ、俺にゃあ旦那がどっちに行っても構わねぇが、ここの楼主としちゃあ、旦那がここから離れちまうんじゃねぇかって気が気じゃないらしいがな。」 「・・・・あぁ。今話題のアマゾン屋か。あそこは確かに粒ぞろいだが、まぁ、派手で気位が高すぎる。奉行相手にその見世を使うのはいいが、俺一人が・・・。」 「・・・あっ。」 そのままクロコダイルは、サンジを床に引き倒した。その勢いにサンジは思わず足でクロコダイルの脇を蹴る。 「こういう生意気な猫を躾ける方が、俺には向いているな。てめぇ、足癖が悪いなぁ・・・。」 さほど威力はなかったのだろう。脇を蹴られても平然とした顔でクロコダイルはその足を掴み上げた。 サンジも負け時と目の上にある顔を睨みつける。 「それがあんたのお好みだろう?」 「よくわかってんじゃねぇか。生意気な小僧が・・。だが、それじゃあ、他の客に逃げられちまうぜ。」 「心配には及ばねぇよ。ちゃんと、相手を見てるぜ?俺も。しおらしいのがお好みの客にはちゃんとそれらしく大人しくしてるぜ?」 「ふん。テメェみたいのが大人しいって・・・?いっちょまえになったもんだな。」 「そう躾けたのはてめぇじゃねぇか!」 嘲るような笑みを見せたクロコダイルに、サンジは眉を寄せて声を荒げた。 「あぁ、そうだ。・・・・楼主にも言っておけ。俺はてめぇを手放すつもりはねえから安心しなって。」 「いっそのこと、手放してくれて構わねぇのによ・・・。」 睨む目は諦めを含んで、溜息を吐いた。 「残念だったな。どうせ、てめぇの借財はそうそう減らねぇよ。」 クロコダイルの言葉にサンジは眉を顰めた。コロコロと表情を変えるのに忙しい奴だと、クロコダイルは内心目の前の遊女に笑った。 会話を続けながらも愛撫は止めない。サンジの声が徐々に上擦っていく。 「どういう・・・ことだ?」 着物の下を這いだした手に、はぁはぁ、と息を荒げるがそのままクロコダイルに話の先を進める。 クロコダイルもまた、舌と手を使って白い肌を堪能しながら、会話を続けた。 「今でも、お前とあのゾロっていう小僧の二人の生活分、ほとんどてめぇが抱えてんだろうか。あの小僧、しょっちゅう着物をダメにしたり、やたらと金が掛かっているようじゃねぇか。元々の母親が残した借財。それに・・・他の遊女と同じ、これらも借金に入ってるんだろう?」 シャラとサンジの頭に刺さっている簪を撫でた。 「しょうがねぇだろうが。表に出なくとも客相手にゃ遊女としてきちんとしろ、ってクソ楼主が言うんだからな。まぁ、確かにこ汚ねぇ恰好で客を出迎えるわけにもいかねぇしな。」 「だろうな。この着物、確かにてめぇによく似合ってるぜ。」 蒼色の打ち掛けをゆっくりと肩から外す。黄色い蝶が舞っている模様は、言葉が悪くてもサンジの醸し出す雰囲気をいつもより妖艶に見せていた。もちろん言葉使いが悪いと言っても、部屋の雰囲気を壊すような声音ではなく、どこか艶を帯びていて、話の内容に関わらず何故か目の前の男の欲情を引き出してくれた。 「話を逸らすんじゃねぇよ。俺の借財がどうして減らねぇってわかるんだよ?」 「あぁ?そりゃあ・・・てめぇの性分考えたらわかることだ。」 「?」 「そのうち話してやるよ。まずは、こっちの続きをしようじゃねぇか・・・。」 クロコダイルは、サンジの喉元に吸いついた。途端、ビクリと体を震わせる。 「いい反応じゃねぇか。」 「クソッ・・・。」 緩く曲げた足を持ち上げたら、サラリと絹布が肌を滑り落ち、長くて白い脚がクロコダイルの目に入った。 女のようなふっくらとした曲線は持っていないのに、何故こうもそのラインに魅せられるのか。 「本当にてめぇは、この仕事が似合いだな・・・・。お前の才能を見出した俺に感謝してもらいたいものだ・・・。」 「ふん、そんな・・・・もの・・・・いらなか・・・・ったのによ・・・・。」 足先からその付け根に向けて這っていく舌に、サンジの息が上がっていく。 「ほら・・・・もうこんなになっちまって・・・・。どんな遊女よりも淫らな奴だな・・・。」 舌と同時に着物の奥に入ってきた右手が、その中で強く拳を作られた。 「あっ・・・・ひっ・・・。」 「もう、ダラダラと垂れてんぜ・・・。やっぱ、てめぇは、最高だよ・・・。」 強く握られて悲鳴を上げるサンジに、クロコダイルは気を良くして左手もその懐の中へと勧めた。 両手で攻められ、耳に熱い息を吹きかけられ、サンジは大きく背を撓らせた。 「あっ・・・・ああっっ・・・・旦那・・・・・っっっ・・・!!」 愛撫に翻弄されて、床を這う手に先ほど脱がされた打ち掛けが触れる。打ち掛けを引っ掛けたまま、サンジの手は布団からはみ出して畳みを彷徨う。 黄色い蝶が、部屋に咲き乱れる。 襦袢の中ですっかり解されたそこは、廻船問屋の進入を早く早くと、汁を滴らせて待ちわびていた。 クロコダイルは口端を緩く上げると、染みのついてしまった襦袢をバサリと捲りあげて、そのまま体を倒した。 そのままの勢いでぐぐっと進入してくる熱いモノに、サンジは大きく仰け反った。 「あああっっっ・・!!!」 遊女として仕込まれた体は、挿入だけでも大きな快感を呼ぶ。サンジの体が震え、つま先が布団に皺を作る。 「クッ・・・・。さすが表に出られないとはいえ、花魁と張るだけはある。てめぇ・・・・最高だぜ。なぁ・・・・サンジ。」 最奥まで進入してきたクロコダイルにサンジの足が痙攣する。 が、ただただされるがままでは意味がない。 サンジはこの見世の遊女なのだ。客を悦ばせるのが仕事。 サンジは突っ張る足をそのままクロコダイルの背中に絡ませた。途端、角度が変わり、自分も、そしてクロコダイルも新たな快感を拾った。 「・・・っあ・・・。はあっっっ・・・!」 「クッ・・・。」 背中に絡みつく足と摩羅に絡みつく内壁。 早々に達してしまいそうだった。 「この・・・淫乱がっ!!」 叫ぶや否や、クロコダイルは更に体を倒した。 「ひいっっ!!」 「どうだ!・・・いいだろうっっ!!」 「旦那っ・・・・ああっっ。いいっっ・・・。旦那ぁぁぁっっ!!」 クロコダイルの攻めにサンジの中心が爆ぜた。 ビクビクと背中を震わせて二人の間を白い液体が飛び散る。 と同時にクロコダイルを咥えている後蕾の収縮も激しくなり、クロコダイルを締めつけた。 「クソッッ・・!!」 いつになく容易く達する自分に舌打ちしながらクロコダイルもサンジの中に白濁を飛ばした。 「3回もイかされちゃあ、明日の仕事に影響するじゃねぇか・・。」 鉛管から煙を吐き出しながら、サンジは膝に頭を乗せて横になっている男に悪態を吐いた。 「なんなら明日も俺が買ってもいい。」 白い肌の膝枕の上で明後日の方向を見て、クロコダイルが呟いた。 その表情は、いつもと変わり映えがないように見えて、しかし内心、満足しているのがその表情でわかった。 そりゃあ、いつになく乱れて見せた。いつもと違う体位でも交わった。これでもか、と締めつけてやった。 「珍しいな、本当に機嫌がいい。仕事がいい具合に終わっただけじゃねぇな、こりゃあ・・・・。」 プカリと煙を吐き出してサンジが真下に視線を落とした。 クロコダイルの少し乱れた髪を撫で整えた。馴染みの上客だ。これぐらいはサービスしないといけないだろう。 と、まるで思い出したように情交を交わす前の話を再度持ち出した。今なら、話をしてくれそうだ。 「俺の借財の話だが・・・・。」 「あぁ、その話か。聞きたいか?」 「あんな含みを持たされちゃあ聞きたいに決まってる。」 口を僅かに尖らせて拗ねて見せる。 一見、何にも動かされないように見せて、時折サンジが見せる科に反応を見せる事があるのがこの男の面白いところでもある。 案の定、機嫌のいい男は、クククと含み笑いを見せたが、話す気はあるようだ。 ゆっくりと体を起こし、サンジから鉛管を奪って一口吸った。 じっとサンジは、改めて真正面にきたクロコダイルの表情を見つめた。 「ちょっとわけありで懇意にしている奉行がいるんだが・・・。そこで面白い話を聞いちまったんだ。まぁ、向こうは単なる噂程度のつもりで話をしたんだろうがな・・・。」 「・・・?」 「てめぇが大事にしている緑の小僧。ゾロと言ったよな、あの男はな・・・・。」 「ゾロ・・・・が?」 「あいつはここを出て行くよ。お前を残してな。」 「な!?」 クロコダイルの言葉に、再度、クロコダイルから奪い返した鉛管をサンジはポトリと落とした。 |
11.06.11