すれ違う思い 重なる思い After4
深い口付けの後、それでも今だどこかに戸惑いが多少残っているのか、ゾロが改めて口を開いた。 「本当に、このままてめぇを抱いてもいいのか?」 いつになくらしくない、ゾロの声音は弱かった。思わずサンジはクスリと笑う。 「あぁ、今日、このまま俺の気持ちと身体、全て受け取って欲しい。」 「・・・・コック・・・・。」 「もう、迷わねぇ。お前とずっと共に生きて行きたいんだ。」 真正面からゾロを見つめるサンジの瞳はそのまま、サンジは手探りで自分の着ているシャツのボタンを自ら外していく。 音もなく静かに露わになっていく白い肌にゾロは、思わず頬を染めた。パサリとシャツが床に落とされる。 「何純情きどってんだよ。」 「いや・・・・。」 キラリと光る、自分が買ったペンダントの下に見えてきた胸に、ゾロは固まったままだ。 「どうした?」 「あ・・・。いや。」 至近距離で不思議に首を傾げるサンジに、ゾロはどうしたのか、口をモゴモゴするばかりだ。 業を煮やしてサンジは、眉間に皺を寄せた。 「もしかして・・・・俺みたいな穢れた身体には用はないってか?目の前で肌を晒されて、気付いたのか?そりゃあ・・・・悪かったな・・・。」 自分の言葉に自分で傷つき、サンジは唇を噛みしめた。 一旦は脱いだシャツを着ようとサンジは屈む。そのまま、唇を噛みしめて掴んだシャツを握ったままゾロから視線を外して下を向いた。 手に取ったシャツを着なければ、とサンジの手が動いたかと思うと、その手は何かに掴まれて止まる。 俯いていたため、一瞬、何があったのかと、サンジが顔を上げると至近距離でゾロの顔がサンジを見つめていた。ゾロの手がサンジの手を押さえて動きを止めていた。 「ゾロ・・・・?」 「悪ぃ・・・。」 改めて見つめ合うと、先ほど交わされたキスを思い出す。あれだけ濃厚なキスをしておきながら、今は純情路線を自でいったような初心な顔をゾロは見せている。 一体どれだけ様々な表情を見せるのか、この男は。 「ずっと想い続けてきたのが、漸く叶うかと思ったら、なんか緊張しちまって・・・。」 「はぁ?」 あまりの予想外のセリフにサンジは目を丸くした。 らしくない。あまりにゾロらしくない。 さっきは、頭が熔けそうなほどの熱いキスをしておきながら。手慣れているような仕草でサンジを抱きしめておきながら。魔獣の呼び名は夜の呼び名でもあるのかと思うほどの獰猛な瞳を見せておきながら。 だが、それだけサンジへの想いが募っていたのかと思うと、目の前の純情な顔を見せているゾロもまたサンジには愛おしかった。 「ゾロ、もう一度言う。俺を抱いてくれ。俺をお前のものにしてくれ。」 「サンジ・・・・。」 サンジは自分の手を押さえこんでいるゾロの手を、もう片方の手で上から撫でながら、顔を寄せた。 改めてキスをする。 もう一度最初から、とでもいうように啄ばむ様なキス。 チュッ チュッ チュッ と軽い音を立てながら、それが徐々に重なる唇の角度が変わっていく。 「ふ・・・・ん。」 鼻から抜ける息が妙に艶を持ち、気がつけば、先ほど交わしたキスよりも濃度の濃い口付けに変わっていた。 「ん・・・・ぁ。」 いつの間にか、サンジはゾロの首にしがみつくように腕を首に絡ませ。ゾロもまたサンジの腰を強く抱きよせていた。一旦は手にしたシャツが二人の足元で、くしゃくしゃになっている。 そのまま、唇を重ねたまま、ゾロは本来の強引さと力強さを取り戻したかのようにサンジの身体を愛撫しだした。 激しくなっていく、二人の動きに、間に挟まれたネックレスが僅かな隙間を縫ってキラキラを光を反射させながら揺れている。 サンジの瞳をイメージしてゾロが選んだ石が青い光を放っている。丸く彩られたその宝石は、ゾロのなけなしの小遣いから出されたものだろうから高価なものではないのだが、それでも綺麗な色を保っている。 ゾロはそのネックレスも一緒くたにしてサンジの身体を愛撫した。耳たぶから下がっていき、ネックレスを絡めながら首筋を舐め、仰け反る喉元もまたチェーンを転がしながら舌を這わせた。 「あ・・・・ぁあ・・・・あん・・・・。」 力強い舌に、サンジの肌は敏感に跳ね上がる。上半身への愛撫だけでサンジの身体はピクピクと痙攣した。 純情な顔を晒しておきながら、今は野獣そのものの激しい愛撫にサンジは翻弄される。 本当に様々な顔を見せてくれる。 喘ぎ声を押さえることもできないまま、サンジは笑みを端に見せた。 サンジが船を降りる切欠になってしまったゾロの気持ちは、そのずっと前から温められてものだという話だが、サンジもまたゾロを意識しだした時期を思い出せば、実は、いつの頃かわからない時期からその想いは芽吹いていた。 ただはっきりと明確にしてなかっただけでずっとずっとゾロへの愛情はあったのだ。仲間以上の気持ちが。 ここまでくるのに、本当に大きな回り道だった。 それが漸くゴールすることができる。もちろん、これで終わりというわけではないが、それでも漸く・・・という気持ちが消えない。 だからこそ、必要以上に感じてしまうのかもしれない。 サンジが過去を脳内で振り返っているうちに、いつの間にか、ゾロの手は固くそそり立つサンジの中心へ伸びていた。 「はっ!」 反射的に身体が後へ引き下がるが、それも逃がさない勢いでゾロの手がサンジの身体を追ってきた。 強すぎず弱すぎず、適度に気持ちよさを引き出す力加減で、ゾロはサンジのモノを擦る。 「ん・・・・あぁ・・・・ゾロッ・・・・。」 ただでさえ相手がゾロということで必要以上に感じているサンジには、ゾロの手はもはや拷問に近い快感を引き出した。 「ゾロ・・・ダメだ・・・出ちまう。」 あまりの早さに顔を赤らめて訴えるが、サンジの言葉を聞いたゾロは、ニヤと笑うと手の動きを更に早めた。 「いい。テメェのイく顔が見てぇ。」 「はあっっ・・ああっ・・・・・・あああっっっ!!」 ゾロが耳元で囁いた声はサンジの脳髄を刺激した。 あっけなく頂点に達してしまった。 痙攣しながら白濁を飛ばしたサンジに、ゾロはまだ自分は少しも解放していないのに、まるで自分が絶頂を迎えたように快感を得た。 ずっと思い描いていたサンジとの濃密な時間。それ自体がゾロを快感に導いている。自分がイかなくともそれだけで幸せだ。 だが、それだけで終わるのはサンジの方が許さない。 今だ肩が上下するほど息の荒いサンジは、キッとゾロを睨みつける。 「俺ばっかじゃなくて、テメェもイけよ!」 真っ赤な顔は、過去、ゴクの船で何度となく男と関係を持って慣れた風には見えない。それは自分同様、相手が惚れた人間だからではないか、とゾロは思いたい。 お互いに惚れた相手との初めては、慣れとは関係なく、恥ずかしさを伴うものなのか。 ゾロはこれ以上ないくらいに嬉しさがこみ上げてきた。 期待に添えなければ。 そんなことを思ったわけではないが、自分もサンジでイきたいのは、当たり前で。しかも、サンジの中で。 更に声を上げて抗議をしかねないサンジに、ゾロは穏やかに笑みを向けると、改めてサンジと唇を合わせた。 もう一度始めから、といわんばかりの啄ばむような軽い口付けから、やはりそれが濃厚な激しいキスに変わるのはさほど時間が掛からなかった。 「あ・・・んぅ。・・・・・んふ。」 ゾロはサンジの口内を蹂躙しながら、白く濡れた手を後ろの方へ滑らせた。人差し指が小さく窄まった個所に辿りつくとビクリと身体を震わせるが、拒絶するではなく、更に先へと強請るようにサンジはゾロの首にしがみついた。 「あ・・・・ゾロ・・・はぁ・・・・あぁぁ。」 「コック・・・・・サンジ・・・・。」 ゾロの知らぬところでサンジは後ろで快感を得ることを覚えてしまっているのだろう。それ自体は癪に障るが、それでもゾロを求めて足を広げて強請るサンジに、ゾロも興奮が高まっていく。 太腿を広げながらも、足先はゾロの腕に絡まり、足の指はゾロの肌を滑らせる。その動きが厭らしく見えるのは、欲に塗れてしまったからだろうか。 その足先にもう片方の手を伸ばし、白く滑らかな肌を味わう。 はぁはぁとお互いの息が耳に煩いほど、欲が止まらない。隙間なく重なる身体は、お互いの熱で熱い。 「あぁ・・・や・・・・ゾロ・・・・。うぁ・・・・ひ。」 気がつけば、サンジの秘所を辿っていた指は、その先に埋もれていた。2本入った指をそのままぐちょぐちょと掻きまわす。 ビクビクと震える身体は、全身朱色に染まって扇情的だ。やめろと言われても止まることができない自信がゾロにはあった。 縺れ合いながら、何度となく唇を食む。 「んん・・・・ゾロ・・・・ゾロッッ!」 舌を絡める合間に、ゾロの名を何度も呼ぶ。まるで、今抱いている相手を確認するように。 別にサンジが、自分を抱いている相手を今は亡き剣士と思っているわけではないだろうが、それでも何かしら思うところがあるのだろう。しきりにゾロの名を呼ぶ。 嫉妬と独占欲と歓喜と、様々な感情が胸の内に同居し、もはや彼をどうしたいのかわからないほどに感情が爆発した。 ズッと指を引き抜くと、これ以上ないほどに堅くそそり勃った己を取り出し、震える孔にあてがった。 グッと力を込めて、身体を進める。 「あっ・・・・・はっ・・・・あぁぁっっっ。」 「っっ・・・!!」 仰け反り、床から浮き上がった背中に腕を回す。 膝を入れ、腰から抱えるようにして、更に砲身を突きいれた。 すんなりとはいかないが、拒絶はしていない其処に力づくで入っていく。 「あっ・・・・ああっっ・・・・・・あああああああっっっ!!!」 大きく口を開けて悲鳴とも嬌声ともつかぬ声を上げるサンジに、ゾロは舌を差し入れた。 「んんっっ・・・・んふっ・・・んくっ。」 入ってきた舌にサンジも舌を絡める。 唾液がダラダラと零れ落ちて、サンジの喉元を濡らした。 下半身の方も全てが収まり、隙間なく繋がった。 はぁはぁとお互いの息も重なる。 これ以上ない喜びがゾロの中を満たす。 本当に、心も身体も、全て結ばれた。 確かにサンジの心の中に違う剣士の面影は残ってはいるのだろうが、それでもサンジは、以前はあれほど拒絶していたゾロの想いを受け入れてくれた。そして、表に出すことのなかった自分の想いも告げてくれた。 あぁ。 漸く手に入れることが出来た。 ゾロは暫く、サンジを抱きしめたまま動くことすらできなかった。 どれくらいそうしていたのだろう。 ふと、気付くとサンジの手がゾロの頬に添えられている。 「・・・?」 「ゾロ・・・・。」 うっすらと見せる笑みは、まるで今行われていることが何だかわからなくなるほどに穏やかだ。 「俺の中でイッてくれ。」 そう告げると、今度はサンジの方から舌を絡めた。ゾロの動きを促すように腰も揺する。 「あぁ。」 触発されたゾロは、遠慮なしにサンジの中を味わう。 「てめぇの中、温かくて気持ちいい。」 「俺もだ、ゾロ。・・・ぅんっ。・・・てめぇの・・・・を・・・っっ・・・感じる。俺の中で暴れる・・・・あぁっ・・・・てめぇ・・・すげぇ気持ちいい。・・・・あっ。」 段々と腰の動きが早まっていく。 「あっっ・・・・あぁぁっっ・・・・ああああっっっ。」 「っっ・・・・くっ・・・。」 肉のぶつかる音と濡れた音、サンジの嬌声と、ゾロの荒い息遣いが部屋を満たしていく。 サンジの背中が更に撓った。 「あっっ・・・・ああああっ・・・・ひっ・・・・イくっっ。・・・・ひいぃぃぃ!!・・・・・ゾロォォッッ!!」 「クッッ・・・。サンジッッッ!」 ドクドクと二人の腹の間をサンジの白いモノが放たれた。 快感にビクつく内壁に絞られ、ゾロもまた絶頂を迎える。ビクンビクンと震えながら精液をサンジの中に放出した。 どれくらいそうしていただろうか。 ずっとサンジの中に収まったままのゾロは、それでもまだまだ物足りないくらいだ。 一度イッただけでは収まらないゾロに、サンジもわかったのだろう。苦笑してゾロを見上げている。 「いいぜ。朝までつきあうぜ。」 口端を上げて笑う顔は、妖艶とは程遠い挑発するような笑みだ。だが、ゾロが腰を振ればすぐにその顔は男を惑わす艶やかな表情に変わるだろう。 その色香にゾロは抗えない。欲情が止まらない。 だが、経験があるとはいえ、結ばれていきなり一晩じゅうというのはいかがなものか。 ゾロが思案していると、サンジは、肩を竦めながら下から見上げてきた。 「俺は丈夫だ、気にするな。それに・・・。」 「それに・・・何だ?」 ゾロが先を促す。 「俺の方こそ、ゾロが欲しい。もっとてめぇを感じてぇ。」 「この・・・。」 ニヤと笑うとこれでもか、とゾロは再び腰を振りだした。 クゥクゥと海鳥の声が空から降ってくる。 すでに太陽は一番高い位置に上がっており、暖かい日差しを甲板に不利揃いでいる。 サンジはサニーの横で手摺に凭れながら煙草を吹かし、空を見上げた。 目の前に繋がる街並みは、今はのんびりとした時間帯からか人気が少ない。 穏やかだな、とサンジは笑みを溢した。 夕べは、ゾロと二人、濃密な時間を過ごした。 後悔はない。 それどころか、今は幸せいっぱいという言葉が似合うほどに満たされた気持ちだ。 身体だけの関係でもなく、言葉だけでもなく、・・・なんといったらいいのだろうか。でも、本当に幸せを感じることができていると実感している。 コツと後ろで足音が小さく耳に届いた。 「どうした?」 振り返らず、サンジは後の人物に声を掛けた。 「いや、その・・・・なんというか・・・・?」 ボリボリと頭を掻いているのが、空気でわかった。 照れているわけではないが、なんというのだろうか。でも、きっと今のサンジの感情と一緒なのだろう。 「ゾロ。」 「あ?」 やはり、振り返らずに呼ぶ。 ゾロもまたその位置から動かない。 「幸せか?」 「あぁ・・・・。」 「俺もだ。こんな満たされた気持ちは初めてかもしれねぇ。」 サンジの言葉を聞いてはじめて、ゾロが動いた。 コツコツと足音がすぐそばまでやってきた。 と、ふわり、とサンジの背後から温かな気が降ってきた。 ゾロの腕がサンジを包み込む。前に回された腕にサンジは、手を伸ばした。 「俺達は海賊だ。」 「あぁ。」 ゾロが、囁くほどの小さな声で話す。でも、サンジの耳にはしっかりとゾロの声が届いた。 「いつまた、何があるかわからん。」 「あぁ。」 「だが、何があろうと、俺は剣の道を突き進む。強くなる。それは変わらねぇ。」 「当然だ。」 「あの男のように、てめぇを置いて逝っちまう時がくるかもしれねぇ。てめぇが俺を置いて逝っちまうかもしれねぇ。」 「そうだな・・・。」 ゾロの言葉にサンジは瞳を伏せる。間違ってはいないだろう。 「どんな未来があるのかわからねぇ。」 「あぁ。」 「でも、それでも、俺はお前とずっと一緒に生きていきたい。」 ゾロの腕にギュッと力が入った。 サンジも掴む手に力を込める。 「俺もだ、ゾロ。この先何があろうと、もう自分の気持ちをごまかさない。ずっとてめぇと一緒に進んで生きていきたい。」 サンジはゾロの腕の中で、くるりと振り返った。 目の前のゾロの瞳と瞳がぶつかる。 「「ずっと一緒に生きることを誓う。」」 自然と声が揃った。 そのまま唇を重ねる。 と、遠くから耳に聞こえ慣れた声が段々と大きく近づいてきた。 「帰ってきたな。」 サンジが、すでに下拵えをしてある料理の仕上げをとばかりに、腕まくりを始めた。 「あいつ、いいもんたらふく食ってきてんじゃねぇのか?」 「それはそれ、これはこれだろ?ルフィは。」 「そりゃそうだ・・・。」 キッチンへ踵を返すサンジにゾロが思いだしたように声を掛けた。 「そういや、ナミ達に報告せんとな。」 顎を手にあて、にやにやとしている。 「何を!?」 キッとサンジが振り返った。 「いや、いろいろと心配かけただろ?ナミ達には。だからな・・・。」 何かを含んだ目でゾロはサンジを見つめた。目が笑っている。 「へんなこと言うなぁぁぁ〜〜〜!!」 ゴッとゾロの顎にサンジの靴底がヒットし、ゾロが倒れるのが船へと向かってきた面々に見えたのだろう。何かしら叫んでいるのが聞こえる。 ゾロは床に沈んだままだ。 あぁ、今日もいい出港日よりになりそうだ、とサンジは笑いながらキッチンへと向かった。 END |
11.01.12
新年最初の更新で終了って・・・。ここまで読んでくださって、ありがとうございました