永遠の思いはあるのか1




「好きなの・・・・・。」


それは突然の告白だった。





























敵襲もなく海王類の出現もなく、静かな夜。
最近では習慣化した、ゾロとサンジの酒汲みが始まっていた。
ことのきっかけは何だったのか、それはもう思い出せないが、いつの間にか何も無い静かな夜に2人で酒を飲み交わす時間ができた。
昼はケンカが耐えないライバル視しているお互いだったが、もともと本当にウマが合わないわけではない。お互いを認めているため、必要以上にお互いに負けたくない気持ちから始まるケンカなのだから、仲間として、上手く話しをして楽しい時間が作れないわけではなかった。

少し辛めの酒を手に相槌を打ちながら、それでも時々は自分のことも話すゾロと。
ポツリと呟く「旨い。」の言葉を聞き逃さず、ついつい顔を赤らめながらも喜んでいそいそとつまみを作り、自分も少ないながらもアルコールを摂取するサンジ。
もっぱら話しをするのもサンジが多かった。
もちろん、内容は料理のことが多かったが、わからないまでも楽しそうに話すサンジの顔に、まぁいいかと嫌がらずに話を聞いていた。

そんなこんなで、お互いがお互いをもしかして、『ケンカするのは嫌いだからじゃなくて、必要以上に意識していたから?』と思い始めた頃。



いつもなら、『美容に良くないから』と、食後はあっさり部屋へ帰るナミがめずらしく酒盛りに参加した。

「いいわね〜。たまには、私も混ぜてvv」
「もっちろん〜、ナミさんvv」

サンジがいつもどおりにメロリン顔になり、グラスを差し出す。
まるでそれを受けるかのようにタイミングよくゾロは自分用にしていた酒をそのグラスに注いだ。
お酒を受けながらナミは2人にわからないようにため息を吐く。

まったく息があっているわね。
ちょっと憎らしいとナミは思ってしまう。

「珍しいな。お前がこんな時間まで起きているなんて・・・。」
「あら、そうでもないわよ。時々、部屋で海図を書いて起きていることがあるもの。ゾロ、知らなかった?サンジくんは知っているわよ。」
「んなのか?」

そうだったのか?とゾロはサンジを見た?あたかも知っていたぜ、とサンジはふふんと鼻を鳴らす。

もともと酒にはゾロに負けないくらいに強いし、女性ということを差し置いても、仲間としての好意はあるもの同士だから、ゾロもサンジもナミがいることには、多少の『2人きりにはなれない』残念さはあったものの、異論はなかった。
そして、会話は楽しく弾む。

ルフィはいつからゴムになったのか?とか、ウソップは生まれつき鼻が長かったのか?とか、取り留めの無い話だった。
それがどういうわけか、いつの間にか好きな人の話になってしまう。いや、話の最初はウソップからだったか・・・。
ウソップの村に残っている可愛らしい少女の話からか。
そこから幼い頃の初恋の話になり、いつの間にやら、今誰が好きかの話になった。

ゾロもサンジを『今現在』といわれ、口に出さずとも目が合ってしまった。
お互い、驚きながらも、目が笑っているのがわかってしまった。


ナミはそれを横目で見る。
やはり・・・、と思った。
でも、様子を見る限りだと、目は合うといってもお互いの気持ちをはっきりと伝えてわかっているわけではないようだと踏む。
だったら・・・、ともナミは思った。

先手必勝?
お互いの気持ちに気が付く前に。







「私が好きな人・・・知りたい?」

一瞬の間があったけど、それも気にならないタイミングですぐにサンジが反応した。

「はいはいっっ!!!知りたいですぅぅvv・・・てもちろん、ナミさんの好きなのって俺でしょう??いやだなぁ〜〜、もうっっvv」

クネクネしながら冗談とも本気とも取れない言葉にナミはクスリと笑ってしまう。
でも、ここできちんと釘をさしておかないと、お互いのことに気がついてしまったら。と、焦ってしまう。

「ざんね〜〜〜〜ん、サンジくんじゃないわvv」

ニコリと微笑んで交わすと、そんな冷たいナミさんも好きだぁ〜〜〜っ、とあまり残念がっている風ではない。どこかでナミの本当を知っているのだろうか?

「私が好きなのは・・・。」


コックのメロリン姿を、アホだな・・・と呟いて眺めながらも、相変わらずグラスを傾ける手を休めないで飲み続けているこの船の剣士に視線を向けた。
一瞬、ナミの視線に気が付き、ゾロはナミに向き直った。一体今から何を言おうとしているのか・・・。
今まで座っていた席を立ち、コツコツを足音を響かせてゾロの横に歩んだ。
すぃ、と立ち止まると、そのままゾロの視線を受けながら、真剣な目を向ける。ゾロもサンジもナミの突然の行動にどう対応してよいかわからないようで固まってしまった。

「好きなの・・・・。ゾロ。」



暫く静かな時間が流れた。
とても静かだった。波も穏やかなのだろう。いつもなら騒がしい事が多いラウンジの為、聞こえることがめったにない小さな波の音が、外から誰の耳にも聞こえるくらいに静かだった。
その静寂を堪能していると勘違いしてしまうほど、暫くその沈黙は続いた。


漸く、空気を動かしたのは、やはりサンジだった。

「ナ・・・・ナミさんっっっ!!!冗談っ!!・・・マリモだよ!藻類なんだよ、人間じゃないんだよぉぉ??本気ぃぃ!!」
「本気よ、私・・・。」

ワタワタするサンジにまたもニコリと笑顔でもって対応するナミに、サンジは今度こそ本当に撃沈した。
当のゾロはといえば、静けさから開放された安心感からか、ゆっくりとまた酒を飲みだした。ナミはそのゾロの不変の様子に内心舌打ちしたい気分になった。

ゾロの心が見えない。自分が気が付いているゾロの心にもやはりゾロは自分で知っているのだろうか?と不安になる。だったら、この告白は意味のないものではないか?

「ゾロ・・・はどうなの?誰が好き・・・・?」



ナミは声が震えているのが自分でもわかった。
先の告白は、ある意味自信があった。ゾロが今は自分に惚れていないにしても、そのうち自分に惚れるように仕向けて、そして、自分に惚れさせる自信があった。ゾロがゾロ自身の気持ちに気が付いていなければの話だが。

しかし、もしかして、ゾロはゾロ自身の気持ちがわかっているのだろうか?
ナミの告白を受けても、表情は何も変わらない。せめて驚くくらいしてもいいだろうに。
もしかして、人を好きになるって感情を持ち合わせていないのだろうか?
そんな疑問ですら湧いてくる。
世界一の剣豪になると決めているぐらいだから、そんな感情はとっくに捨ててしまったとか?
在りうる。ゾロなら在りうる。
今だ横で大騒ぎしているサンジとは対象に、ゾロは何に対してもクールだ。
あの、砂漠の国の王女との別れですら簡単に受け止めてしまった。皆が、船長のルフィですら、悲しみに暮れたのに。

でも、やはり。
と、ナミは思う。
人を好きになる感情を無くしてしまっているだけなら、やはり、私がその感情をゾロに取り戻させる。その自信も無いわけではない。多少、ただゾロに好きになってもらうだけよりは骨が折れるかもしれないが、それでもずっと一緒にこの船で旅をしている仲間でもあるのだ。情が移らないわけではないはずだ。
それ以外に。
それ以外に、ゾロの好きなのが他にいるのなら、ナミにはどうしようもない。いや、ゾロの好きな人が、例えばウソップのように村に残してきた少女などだったら、勝ち目は自分にはあるだろうと思うが。
ゾロの好きな人がこの船の中にいるのなら、自分の勝利は壊滅的だ。

やっぱり。

ナミは震える声の原因がわかっているだけに押さえるのに必死だった。ゾロにもこの声の振るえがバレたかもしれない。
目の前の剣士の眉が多少動いたのを見つけた。

やっぱり、ゾロはわかっている。とナミは思った。
動いた眉から今度はゾロの目線までも動いた。
それはナミの予想通りの先へと移動した。
その先には、相手が立っている。
先ほどから、わぁわぁとそれでも他に寝ている連中を起こさない程度には声を押さえている、この船の仲間が立っている。
そう、常は女性には優しくてて男性には口が悪い、それでも誰よりも仲間思いのこの船のコック。

ナミはため息を吐いた。

この告白の意味、ないじゃん。






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06.06.28

コメント:いきなりドロドロ?