黄泉返りの島2
目を覚ませば、そこはいつもと変わらなず穏やかに青い色に包まれた空間、アクアリウムバーだった。 「そういえば、そうだったな・・・。」 一人呟いて納得する。 夕べはここでサンジと濃い時間を過ごし、そのまま寝て。 一旦は魘されてサンジに起こされたものの、彼を抱きしめてまた眠ってしまった。 あれはまだ深夜の時間帯だったが、今はもう朝日が昇っているのだろう。外窓から入ってくる光が水槽のガラスを反射していつも以上に綺麗な蒼を映し出していた。 彼を抱きしめたまま寝た時間はわずかとはいえ、睡眠不足の身体に休息を与えるかのごとく、よく寝れたと思った。 が、その代わりとばかりに、今まで覚えていなかった夢をしっかりと脳に記憶している。とはいえ、その今見た夢がそのまま今まで見ていた夢そのままとは思えないほど落ち着いていられた。 だったら今まで魘されていた夢は一体どんなものだったのだろうか。 やはり今もまだそこまではわからない。 が、内容は違えども、こんなに落ち着いて夢を覚えていられたことに多少の驚きを自覚する。 落ち着いた所為か、そういえば、今まで腕の中にいたはずだろう男の姿が見えない事に気づいた。 途端、夢の中で消えて行った彼の背中を思い出す。同時に落ち着いていた感情が突如、ただならない不安に苛まれる。これはやはり、今までの夢で感じた不安と変わらない不安。 「コック!!」 今だ裸のままだということも忘れて大声で大事な人を捜す。ゾロの声に驚いて、すでに起きている誰かがこの部屋に来ないとも限らないのに。 タイミングよく、ゾロの声にガチャリと甲板への扉が開かれた。 それが他の誰でもなく、捜していた人物その人とわかって、ゾロは安堵の息を吐いた。 が、入り口に立つ人物は呆れた顔をする。 「ゾロ・・・・。裸・・・・。」 「ぁ・・・・。悪ぃ・・・・。」 指摘されて漸く自分が真っ裸だったことを思い出す。 まぁそれでも、ここに来たのは他でもないサンジだったので、別に気にすることでもない。恥かしがるでもなく、立ち上がり服を着だした。 しかし、何故かサンジの方は、照れて赤い顔を手で覆い隠す。 「何恥かしいがってんだ?男同士だし、今更見慣れてるだろうが・・・。」 「あ・・・・。いや、その・・・。」 ごにょごにょと口篭るサンジに、ゾロはとりあえず着けた下着のままサンジに近づく。 「何だ?それともまたヤりたくなったとでも言うわけじゃねぇだろうな。」 「そんなんじゃ・・・・・!」 顔を上げ、否定しようとしたサンジの耳に齧り付く。 「でも、もうみんな起きてくるんだろう?もう、島に着くはずだから、続きは島に着いてから・・・・・。」 と、真っ赤になった彼の耳の傍で囁いて彼を辱める。 いつもなら、照れた時のクセとして蹴りが来るだろうが、しかし、それが来なかった。 よっぽどと思い、直ぐ横で赤くなっている顔を覗くと、なんだか違和感を感じた。 「・・・・・・・?」 「・・・・・ゾロ・・・・。」 間近でぶつかる瞳がいつもと違う色をしているようにゾロには感じられた。 まるで・・・。 「てめぇ・・・。誰だ?」 「ゾロ?」 途端、ゾロはサンジの腕を掴んで捻る上げる。 「うぅっっ。」 どこからどう見ても姿形はサンジなのに、ここにいる人物はサンジではない。まったく違うのだ、彼の纏っている空気が。 「ゾロっっ。腕っ!・・・・離してっ!」 サンジと同じように手を大事にしたいとでもいうのだろうか? だからといって、すぐさまこのサンジの姿をした誰かを解放するわけにはいかない。 「誰だ、てめぇ!コックをどこへやった!!」 低音で凄みを利かせるが、この誰かにゾロの睨みは効かなかった。が、元々抵抗するつもりはないらしい。 「待って!!手を離してっ。サンジさんの腕、大事でしょう!!話をするから!」 ゾロの方が優位なはずなのに、サンジの腕のことを出されるとつい力を緩めてしまいそうになる。しかも、敵意があるわけでもないらしい。 ゾロはもう一度、サンジになり変わった人物の瞳を覗いた。 確かに、敵意もごまかしもないようだ。殺意もまったく感じられない。どころか、どちらかといえば仲間だと言わんばかりの瞳を向けてくる。 ゾロはゆっくりと時間を掛けて掴んでいた腕を離した。 そのままくずれるようにしてサンジの姿をした者は座り込む。 「ゾロ・・・・、わからない?私が誰か・・・?」 座り込んだものの、ゾロを見上げて微笑む。 その顔は、やはりまぎれもなくサンジの顔だったが、何度探っても纏う空気が他人のものであることに変わりは無かった。その証拠とばかりに本人もサンジではないと訴えている。 しかも。 私・・・・? ゾロはじっとゾロを見上げる目を見つめた。 この感じ・・・・どこかで・・・・。 しかも、最近ではなくて・・・・・・・・。 はるかずっと昔・・・・・・? 「え?・・・・・・・お前・・・・・・・まさか・・・・・、いや、そんなことありえねぇ・・・・・。」 頭に浮かんだ名前にゾロは被りを振る。 「わかった?そうだよ、私だよ・・・・。」 ゾロに心当たりが浮かんだのが嬉しいのか、さらに笑みを向ける。 「ありえねぇ・・・・・だってお前は・・・。」 ゾロはただただその名前を口にすることができない。 だってありえないのだ。その名前の人物はずっと昔に亡くなったはずではないか。 が。 亡くなった人物が先ほどの夢に現れたことを思い出す。 サンジと入れ替わるように現れた人。 夢の中で彼の人はなんと言ってたか。 彼女は「お待たせ。」と言っていた。 「お待たせ。」とは、どういうことか。 頭の中がぐるぐるしているゾロにダメ押しとばかりに、本人の口から名前が零れた。 「くいなだよ・・・・・ゾロ。」 |
2008.10.11