ネタばれ(YJ46号)を含むので、ご注意。





知らぬが・・・仏?




「何だと!!」

つい声を荒げてしまった。回りの視線が一斉に若林に集中するのを見て、慌てて受話器を押さえながら幾分かボリュームを下げて話す。

「だから〜。もう一回言うからよく聞けって。今回の召集はなしだ!アジア予選前の親善試合は国内組だけで行うって・・・。吉良監督から直々に聞いたんだよ。わかったか!バカ林!!」
「なんだと!この鎖マゾが!俺は知ってるんだぞ、お前が特訓と称して鎖を身体に巻いて喜んでるってこと!!!」
「違うわっ!アホ林!!誰が喜ぶか、んなもん!!大体、今関係ないだろうが!!・・・いいな、わかったら電話、切るぞ。」

待てっ、の声も虚しく耳に入るプツリの音とともに日向の声は途絶えた。
今回の代表監督が日向の恩師である吉良監督と知り、いつ合宿の召集が掛かるか一番情報のありそうな日向に電話をしたのだが。

予想外だった。
まさか、海外組に召集が掛からないとは・・・。
一体どういうことだ?

腕を組み、考える若林の後ろからお先にと声をかけ、次々とチームメイトがロッカールームを出て行く。
今日の練習が終わってからかなり時間が経っていたため、部屋にはほとんど誰もいなくなり、「あと、よろしく」のセリフとともに、ついに最後の1人が出て行った。
「あぁ」と手を振り、最後の1人が出ていってから、ドカリと隅にある簡易ソファに座る。
ロッカールームの照明は煌々とついているが、最後の者がスイッチを切ったのだろう、廊下はすでに半分明りが落とされていて暗くなっていた。

チッ

と舌打ちするが、どうにもならない。
じゃあ、と若林は、今度は違う相手に電話を掛ける。

2番目に登録されているのその相手からは、まるで若林が電話を掛けてくるのを見越していたのか、すぐに通じた。

「やっぱり・・。」

第一声までもが、予想通りでしたと言いたげだ。

「翼・・・。なんだ、その声は・・・。」

しょっぱなからあんまりな反応に、またまた声を荒げてしまう。いや、今度の相手は日向じゃないんだからと、深呼吸をしてみた。

「だって、日向くんの言った通りだもん。若林くんからきっと電話来るって・・。」

ちくしょう!日向のヤツめ。
俺が誰に電話しようがいいじゃないか、と怒りたいのを押さえて若林はすぐに本題に入った。

「日向から聞いたのなら、話は早い。翼、お前納得できるか?今回の召集見合わせ。」
「ん〜〜〜〜。仕方ないんじゃない?吉良監督がそう決めたのなら、いいじゃない。別に合宿だし、試合には声掛かるんじゃない?」

呑気な声が遠くに聞こえるのは気のせいか。まったく他人事のようだ。

「めずらしいじゃないか、翼。お前がそんな反応するなんて・・・。」
「まぁね。今、国内リーグの方が忙しいから、俺・・・。」

確かにすでに始まっている各国内リーグの方も重要ではあるが、今の若林にはそれ以上に合宿の方が重要だった。試合ではなく、合宿が。

「逆に若林くんの方がおかしいんじゃない?いつもは『合宿なんて国内組だけでやればいいだろう』なんて余裕をかましているはずなのに・・・。」

うっ、と声に詰まる。顔は見えなくてもそれは向うの翼にもわかったようで、クスクスと笑い声が聞こえてきた。
チクショウ!と聞こえないように悪態をつく。

「それは・・・・。つまりだなぁ〜・・・。」

どう答えていいのかわからずにしどろもどろになる若林にフォローにならないフォローが翼から入った。

「別に隠さなくていいよ・・・。心配なんだろう?岬くんのことが・・・。」
「・・・!」

声にもならずにまた詰まった。
さすが日本のエース。とわけのわからない賞賛の声を内心上げてしまう。いや、そうじゃなくて・・・。
と1人突っ込みを入れるが誰も合いの手を入れてくれるわけでもない。う〜〜、と唸るしかなかった。

「まぁね〜。そうだね〜、心配だね〜〜。」

この翼め!今度あったら、お前のシュートは全部片手一本で返してやる!!
腹立だしいヤツめ。マジに他人事なんだろうな、お前には。
いや、他人事ならまだいいか。半分楽しんでいるだろう!

フツフツと怒りが湧くがぶつけるわけにはいかない今に若林はイライラするが、なんとか押さえる。

「そういえばね〜、この間ね〜。石崎くんからね〜・・・。聞きたい??」
「あ〜、別に石崎なんかどうでもいいよ。」

とそっけなく返してみる。聞きたいのはサルのことなんかじゃねぇ。どちらかといえば、・・・何だ?すばしっこいウサギか?それとも一見懐かないように見えて、懐くととことん甘えてくるネコか。いやいや、それとも、バンビちゃんか。あ〜、リスも捨てがたいvv
って、そんなことじゃないだろうが、俺!!
って、翼がまた笑っていやがる。何がいいたい。このムササビが!(鷲とかだと、腹が立つので。)
1人ボケ1人突っ込みが止まらない。

「岬くんのことだよ。」
「・・・・・何だよ・・・。」

努めて冷静に冷静に・・・。

「先日試合したときに、リアルジャパンの弓倉が岬くんと挨拶してたって。『合宿、お互いにがんばろうvv』って・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「若林・・・・くん?」
「・・・・・んなぁにぃぃぃ!!!」

翼、今度会ったときは、お前のシュートは全て指一本で止めてやる。
石崎は、ゴールキックを後ろからお見舞いしてやる。
弓倉、お前には世界屈指のSGGKというものを教えてやろう!
だいたい、合宿がんばろう、でなんでvvって付くんだよ!!vvって!!!

ワナワナと手を震わせて若林は、考えた。

国内戦の方も試合は明後日だ。それまでに日本へ行って、トンボ帰りすりゃあ、どうってことない。と、スケジュールをすぐさま組み立てる。

「もしもし・・・。わか・・・ばやし・・・」

翼の声はバキッという携帯の折れた音で消えた。

行ってやる!日本へ行ってやる!!
岬〜〜〜、待っていろ〜〜〜!俺がお前を弓倉の魔手から救ってやる!!

声にならない雄たけびを上げて若林はダッシュした。
ロッカールームの電灯を切る事も忘れて。









それからわずか数時間後。

サングラスをした謎の記者が、全日本の合宿を取材する取材陣の中にいた。
その謎の記者が、特に岬を集中してカメラを廻しメモを取り、何か普通の記者と動きが違うのに気が付いたのは、翼から『若林がそっちに行っていないか?』と聞いていた石崎と、取材とは思えないほどの強い視線で見られていた弓倉だけであった。



END













おまけ


「なんか変な記者がいるよな・・。」

ポツリと呟いた弓倉の声に石崎はビクリとする。
あわてて岬のいる位置を確認した。ここで、怪しいサングラスの記者の話を岬の耳には入れてはいけない。

「あ〜〜〜。あ?そうか?そんなヤツいたか?」

しらばっくれてみるが弓倉にはそれは通用しなかった。

「気がつかないか?なんか、やたらと俺に敵意を向けているような視線で見るし。岬にはイヤらしい目で見ているような感じだし・・。新手の変質者か?」

変質者の方がよっぽどいいじゃないか、と石崎は思うがそれは黙っておく。知らない振りをしておきたいと、見えない涙を流した。

「まぁよぉ、特に何か仕掛けてくるようなら、問題だろうが、別に何もしてこないんだろう?ほっとけよ。そのうち消えるだろう?」

とりあえず、笑って弓倉に言う。
その通りだ。次の日は、確か試合があるはずだ。ここでいつまでも時間を過ごすわけにはいかないだろうと、石崎はブンデスリーグのスケジュールを頭の中で組み立てる。

「あぁ・・・・・。そうだな。そうだ、岬にも忠告しておこうか。」

石崎は慌ててブンブンと首を振る。

「いや、いいっ!」
「え?何でだ?」
「あっ・・・・。お・・・・俺が言っとく。岬に言っとく。だから、お前はだまっておけ!!!」

お前も変だな。と笑う弓倉に石崎は再度笑おうとしたが、それは引き攣ったものでしかなかった。
汗をダラダラと流しながら、『くそ、このバカ林!今度会った時はわざと自殺点入れてやる!!!』と激怒した。


しばらくして、時間がなくなったのか、大きなため息を吐いて、怪しい記者は消えた。
遠くで談笑している岬を見て石崎はそれ以上に大きなため息を吐いた。

翼の話だと、「リアルジャパンの弓倉が岬くんと『合宿、お互いにがんばろうvv』って挨拶したって〜、と話したとたんに電話が切れた」ということだが、ちょっと違うんだよな。と思う。
リアルジャパンの弓倉に岬から挨拶したんだ。『合宿、お互いがんばろう』って。もちろん、vvはついていなかったけど・・。
真実を知ったら、怪しい記者だけですまなかった若林。突然やってきた若林に、たぶん激怒する岬。(だって若林は国内リーグまっただ中だからな。)

真実を知らない若林。突然やってきた若林に気づいていない岬。



知らないって幸せだな・・・。



再度石崎が大きなため息を吐いた頃、若林は未練を残したまま機上の人になっていた。



今度こそEND




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コメント:すみません。つまらない〜。(涙)シリアス書きすぎてお笑い系が書けなくなった・・。(滝涙)
それに弓倉v岬って・・・。(爆)
でも、祝・新連載vv

ところで、背中へのゴールキックと確信犯自殺点とどちらが強い?