ショートショート
『春日』 05.05.02 んん〜〜〜〜〜。 と、おもいっきり伸びをした。 深呼吸も一緒にすると、とたんに気持ちの良い空気が浸透していく感触を身体中に感じる。 そんなことは気のせいといわれればそれまでだけれど、でも確かに気持ちがいい。 朝が早かった為、ちょっと眠気も混じっているかなと欠伸まじりにもう一度伸びをして、そういえば静かだなと思い隣を見る。 と。 ついついため息が漏れてしまった。 気持ちよさそうに寝ている君。 つい今しがたまで起きて向うにある池を眺めていたと思ったんだけど・・・。 たまには外で昼食でもと提案したのは君なのにその昼食を食べる前にそのまま睡眠ですか・・。 朝早く起きて弁当を作ったのは僕なのに。 ギリギリまで寝ていてしっかりと睡眠時間をとっているはずなのに。 確かにそのたくさんの弁当と大きな水筒を持ってくれたのは君だけれど、そんなに疲れるほどの量ではないし、そんなに疲れるほどの距離ではないはずなのに。 まぁ、確かに天気はいいし、気温も申し分ない。 気持ちはわかるよなぁ。 と、空を見上げて苦笑いをこぼしてしまった。 日本の風情を感じる場所がこんなところにあるんだと不思議に思いながらも感心してしまった小さな公園の、その日本を思い出す要因を作り出している桜の木の下で。 レジャーシート一杯に場所を取っている君の身体の大きさに邪魔だと思いながらもせっかくだからと。 まだ昼食までには余裕のある時間を指す時計を左手に見、僕も一緒になってそのシートを取り合うように身体を伸ばした。 あぁ、気持ちのいい春日だ。 |
『冷たい足』 05.02.02 リビングへ続くドアを開けると耳障りな音が飛び込んできた。 TVではニュースで遠い国での出来事を報じている。しかし、音があまりにも大きくてうるさい。つい顔を顰めてしまう。 頭の上に乗せたタオルでガシガシと髪を拭きながらTVのリモコンを捜して、本体の前に無造作に置かれているのに気が付く。間違えて踏んでしまったらどうするんだと少し頭にきたが、彼のいつもの行動だと思い出すとため息が漏れた。 あまり気にならない音量に調節し、リモコンをこたつの上に置くと、足先に何かが当たった。 どうやらこたつ布団の中に何かをリモコン同様、置き忘れているようだが、布団の中にあるからか、こたつ布団が盛り上がっているだけで何が置かれているのか分からなかった。 まったくもう! 何回言えばわかるんだと、同じ屋根の下の住人を睨みつけようとして、どうやら寝ていることに気が付く。こたつに入ったまま。 確か岬が風呂に入る前はこたつに入ってTVを見ていたはずと、彼がいるはずの場所を除いたら、そこにはこたつ布団からわずかに黒い髪の毛が覗いているだけだった。かなり潜ってしまっているらしい。 明日は試合が控えているのに、こんな所で寝てしまってプロサッカー選手としての体調管理はどうだよ! と、今度は違う怒りを覚えるが、すでに寝息を立てている相手に腹を立てても虚しいだけだと自分を慰める。 で、肝心の自分の足に当たったものが何だったのか確認しようと盛り上がっている布団を捲ると、それは僅か髪の毛だけしかこたつから出ていないほど潜っている若林の足だった。 大きな足裏が岬の目の前に現れる。綺麗なのか汚いのかわからない色をして、爪先で突付いてもまったく動く気配がない。 よほどしっかりと夢の中に入ってしまったようだ。 髪の毛と足先しか出ていない若林をこたつ布団の上から眺めるとなんだかなぁ〜と脱力してしまった。 しかし、気持ちよく寝ている若林になんとなく悔しい気もして、岬は若林の横からこたつに入る。 ごそごそと潜ると若林が煩そうに寝返りを打った。といってもあまり大きくないこたつだったので、腰が引っ掛かったようだ。途中で動きが止まり、その体勢のまま、またグースカ言い出した。 そんな若林の横にグイグイと入る。狭くて苦しいなりにもなんとか上手くこたつに入ると若林の足先に自分の足が触れた。 もちろん体全体が密着している状態だし、岬は風呂から上がったばかり、そしてこたつという温かい暖房器具のおかげで暑いくらいに体は温かかったが、触れた若林の足先は何故か冷たかった。 あれ? と一瞬不思議に思ったが、よくよく考えてみれば、身長がかなりある若林が小さなこたつに全身すっぽりと収まるはずはなく、布団からは飛び出していないにしてもこたつの温もりからは遠くに位置した足先は冷たくなっていることに納得する。 仕方がないなぁ〜。 岬はまだ冷えていない自分の足先をぴったりと若林の足先に密着させて温めてやった。 |
『コマーシャル2』 05.01.16 TVを見ながら朝のコーヒーを飲んでいて、ブッと吹いてしまった。 TVの画面に驚いたからだ。 「なんだ〜〜〜〜!!」 突然の誰かさんのどアップにパジャマが茶色になってしまった・・・。 (まだパジャマでよかった・・・・) これがお気に入りのシャツだったらTVの向こうのヤツに損害賠償を請求するところだ! しかし、本当に以外だった・・・。 昔はどうかしらなが、今はプロ契約もしていて、しかも実力にともなった金額にもなっていて金に困っているという話は聞いたことがないが・・・。 あぁ、金というより趣味か? そうか、好きなのか、と何故か妙に納得してしまった。 そういえば、昔から外見とは裏腹に以外にも写真には絶対写っていたり、翼の取材中にそばを通ったり・・・。 過去を思い出しながら、テレビ画面の中で笑顔でスポーツドリンクを飲んでいる彼を見て、つい笑ってしまった。 今度一緒にCMに出てみるのも悪くなさそうだ。 彼には黙って契約しておいて、現場で突然出会うって寸法で。 そんな再会もいいかもしれない。 |
『コマーシャル1』 05.01.16 なんとなくTVを点けてて、ふと流れる音楽にカップを持つ手が止まった。 「あれ?この音楽・・・。」 なんだっけ?と思いながら耳を傾ける。 聴き覚えがあるメロディに笑みが零れた。 昔よく聞いた音楽だ。 子どもの頃、あちこちに引っ越してばかりで、それこそうちにはTVなんてなかったのだけれど、でもラジオはよく聞いてた。 その時によく流れていた曲。 あの頃流行ってて皆が口ずさんでいたのを思い出した。 皆で歌ったりしたこともある。楽しい思い出の曲。 しかし、画面の中で歌っている人物を見て、再度驚いた。 以外だ・・・。 普段、歌っているところを見たことがないのに。 今度会ったらいきなり傍でこの歌を歌ってみようかな? どんな顔をするだろう。 頭を過ぎる彼の表情についつい声を出して笑ってしまった。 |
『年賀状』 05.01.02 あけましておめでとうございます。 そう、言葉を書いて、手が止まってしまった。 どう書いたらいいだろう。 普通に友人として書けばいいのに。 でも、心の奥底でくすぶっている気持ちが続きを書こうとする手を止めてしまう。 『お元気ですか?子ども達も皆、大きくなったんだろうね?』 って書けばいいの? 『今年も貴方達家族が幸せでありますように。』? やっぱり書けない。 君が結婚してすでに5年も経過して。 子どもも2人恵まれて。 綺麗な奥さんとも仲良く、いつも皆から囃し立てられて。 僕は今だ君と過した日々から抜け出せなくて、一人悶々としているよ。 やはり、年賀状を出すのはやめよう。 そう決めて、一人で新しい年を迎える。 そして、君から届いた年賀状を見て、また一人涙を流した。 『また一緒にサッカーしような』 その言葉は僕を今だ過去の迷路に閉じ込めている。 |
『緑の中で』 04.08.27 「あっちぃ〜〜〜〜。」 首に巻いたタオルで額に流れた汗を拭き、若林は呟いた。 その横で地図を見ていた岬は、これもまた額に汗を流しながら若林に声を掛ける。 「あと1つだからがんばろうよ!」 ガサゴソと膝丈程の小さな木々の中を掻き分け進むと地図では5番と書かれている空き缶で出来たポイントを見つけた。 「ほら、あった。これでポイント全部見つけたから、後はゴールするだけだよ。まだ時間も多少残っているし、僕達が優勝かな?」 合宿の合間にちょっとしたゲームをやらないかと始まったオリエンテーリング。 合宿裏にある山は元々地元の人達に人気があるようで、その為いくつかのイベントが行えるように施設も遊び場も充実していた。 時計を見ながら若林も答える。 「お、ほんとだ、まだ時間余裕があるじゃねぇか?」 ポイントを見つけた証拠として缶に書かれた暗号を地図に書き込むと、今まで上ってきた道とはいえない坂道を今度は下る。 「ねぇ、若林くん。昨日の雨で滑るから気をつけてね。」 と、声を掛けながらそのまま「うわっっ!」と岬の声が上がった。 先を歩いていた若林が何事かと後ろを振り返るとそこには泥だらけになって座り込んでいる岬がいた。 「滑ったのかよ。お前・・・。」 若林が見下ろせば、どう転んだのか、足元だけでなく何故か顔にも背中にも泥が付いていた。 「まったく、言ってた本人が先に転んでどうするんだよ。」 苦笑いを浮かべながら手を差し出す。 その手に縋りながら岬が起き上がろうとする。 足をふんばって岬を立たせようとして失敗し、今度は若林が「うわっ!」と声を上げた。 ずるっと足を滑らせて、一緒に泥だらけになる。 岬に覆いかぶさる形で膝をついた若林は自分まで泥だらけになったことに一瞬キョトンとしたが、思い立ったように声を立てて笑った。岬も釣られて笑い出す。 暫く笑いあっていると、上の方で緑の葉がカサカサっと音を立てた。暑いながらも、風が出てきたのだろうか。 お互いの目を見つめ、そっと口づける。 「帰ったら速攻でシャワーだね。」 泥だらけの指で若林の泥だらけの頬を突付いた。 「一緒に浴びるか?」 「シャワーだけね!」 「善処します。」 一緒に立ち上がると、泥も払わずに手を繋いだまま坂を下りていった。 |
『花菖蒲』 04.05.17 今日は雲一つない天気だった。所謂、快晴というやつか・・・。 しかし、空の平穏などまった関係ないらしく、廊下の向うではガヤガヤと人の出入りが激しい。 絶え間なく怒号も飛び交っている。 まるで俺が今立っているこの庭が別世界のようだ。 別世界。 確かにそうかもしれない。 あの喧騒絶えない屋敷の向こう側とはかなり離れている為か、この庭自体からは静かな空気が流れている。 それもこれも。 この花菖蒲のお陰だろう・・・。 その花菖蒲にそっと手を添えて屈む。 撫でるように花菖蒲を揺らすとまるで返事をしたような、微笑みかけてくれたような。 そんな錯覚を覚える。 「みさき・・・。」 俺はそっと呟いた。 もうすぐ戦が始まる。 我が若林家とあいつの生家であった岬家との戦・・・。 「待ってろ、岬。この戦が終わったら・・・、お前の元に行こう・・・。」 もう一度、花菖蒲を撫でて、俺は立ち上がる。 遠くから家臣が俺を呼ぶ声が聞こえた。 さっと踵を返すともはや振り向きもせずに俺は、あの喧騒の中に身を投じる。 はるか後ろで花菖蒲が揺れた気がした。 |
『スキンシップ魔? ―若林編―』 03.06.26 「はっ、はっ・・・」 よいしょ、よいしょと。 汗を掻きながら腕を上げたり下げたりしていた。 首にタオルを巻いていたのだが、そのタオルもすでに湿っていた。それだけもうかなりの運動を若林はしていた。 「・・・・99。・・・・100・・・と。よし、腕立て終わり!」 ふうっと息を吐きながら身体を起こす。 身体に滲み出ていた汗を拭いたことにより、さらにタオルは湿り気を帯びてもうその役目をほとんどなさない状態だった。 着ていたランニングシャツさえもタオル以上に湿っていた。 「さて・・・。今度は〜。と、その前にシャツを脱ぐか!」 ベタベタで気持ち悪いなとそのシャツに手を掛けてガバッと脱いだ。 その瞬間、窓から入ってきた風で身体が一瞬スッとする。しかし、寒くはなく、心地よい気分だった。 その気持ち良さに身体を伸ばして、う〜〜んと唸ると後ろからギィと音が聞こえた。 と、同時に「ただいま」の声が聞こえる。 お?と若林は後ろを振り返ると。 両手一杯の荷物を抱えた岬がそこに立っていた。 買い物に行っていた岬が帰ってきたのだった。 入って来るなりいきなり若林の身体が目に付いたのか、一瞬岬は驚いた様子だった。 その後、すぐに複雑そうな顔をする。 その様子に若林はどうしたんだろうと声を掛けようとしたが、掛けることが出来なくなってしまった。 岬がコト。とテーブルに荷物を置くと静かに若林の傍に寄ってきたのだ。 (・・・・???) 何をするんだろうと岬の様子を観察してると、つ、と若林の胸に手を添わせた。 (どうしたんだ??) どう対応してよいかわからない若林を余所に、岬はその手を後ろに回すとギュッと腕に力を入れた。 (・・・えぇ??) 思わず抱き返そうかどうしようかと思案していたら、ポロリと岬が呟いた。 「若林くんの身体って・・・、逞しくて、胸板が厚くて・・・、筋肉が綺麗についていて・・・、気持ちいい・・・vv」 目を瞑って自分が今抱きしめているその筋肉の感触を確かめているようだった。 いや、確かめているというより、その感触を楽しんでいるようにも見えた。 岬の様子があまりにも愛しくなって若林は自分より一回り小さいその身体を抱きしめ返そうとした、その時。 スルッ 岬を抱きしめようとした若林の両腕は空を切り、行き場をなくしてしまった。 ふっと今まで胸を圧迫していた重みも消え。 (・・・あれ???) 今までの事はまるで夢だったかのようにあっさりと岬はその場を離れてしまった。 「いっけな〜〜〜い。アイスが溶けるとこだった!」 あっという間に今買ってきたばかりの物をキッチンへ運んでいた。 (岬・・・・・・。俺の心の方が溶けそうだ・・・。涙) |
『スキンシップ魔? ―翼編―』 03.06.26 「ねぇ、岬くん。どうしたの?」 床に寝転がりながらTVを見ていた翼は、ふといつの間にかすぐ横に一緒に転がっている岬に気が付いた。 「ん〜〜〜〜。べつにぃ〜。ただTV見てるだけだよぉ〜。」 返事もなんとなく覇気がないが、別に具合が悪いというわけではなさそうだ。 どうしたんだろう?と岬にもう一度話しかけようとしたら、岬にそれを阻止された。 翼の身体はあっという間に岬の枕と化したのだ。 (み・・・・・みさきくんっ!!) いつもは翼が寄って来るのをうっとおしそうに払っている岬が、『今日はなんだかいつもと立場が逆だよvv』とでもいうように翼にくっ付いて来た。 お腹の辺りに岬の頭が乗っかっている。 (岬くんっ。想い・・・じゃなくて重い・・・。汗) その頭が乗っかっている位置のせいか、翼が重いと抗議しようと腹筋に力を入れて顔を上げると岬と目があった。 クリクリとした目をパチパチとさせて翼の顔を見つめていた。 ちょっと手を延ばしてくすぐるとゴロゴロと喉をならしそうな可愛らしさ。 そのあまりの可愛らしさに翼は開きかけた口を閉ざしてしまった。 (まぁ、いっかぁ〜〜〜〜vvかわいいし〜〜〜〜〜vv) 結局、何も言えなくなった翼はそのまま岬が起きるまでまったく動けなくなってしまい、お腹が重いというより岬の腕が乗っかっていた為に足まで痺れが切れて涙を流すハメになってしまった。 (みさきく〜〜〜〜〜〜んvv嬉しいけど、悲しい〜〜〜〜〜。涙) |
『キス魔? ―ピエール編―』 03.05.03 パタン ロッカーの閉める音が部屋の中に響いた。 と、同時にギィというドアの開く音も一緒に耳に入った。 岬がふと振り返ると入り口にピエールがまるで部屋の中の住人を外に出すものかと立ちはだかっているようだった。 口元も微かに引き攣っているように見える。 「どうしたのさ?」 ピエール?と彼の様子のおかしさを心配したその瞬間。 当のピエールは怒っていると思われるほど声が荒かった。 「みさきっ!さっきのあれは何だ!!」 さっきのあれ。 と言われて一体何のことだかわからないと首を傾げてみる。 その岬の反応に業を煮やすとズカズカと部屋の中に入ってきた。 ロッカー室は今、岬とピエールの二人だけ。 あまりのピエールの態度に岬は少し後ずさった。 「あ・・・あれ・・っていわれても・・。」 どう答えて良いかわからない、と岬は答えに困った。 岬のあまりの鈍さにピエールはさらに声を大きくする。 「最後のあのフリーキックの後だよ!!あんな・・・・あんな皆にいっぱい・・・!!!!」 最後のフリーキックで漸くピエールの言わんとすることがわかった。 さっきまでこのロッカーの上のフィールドで白熱していた試合。 これを逃すと国内優勝のチャンスがなくなってしまう、大事な一戦。 1対1で試合が動かずにいて、もう優勝は夢になってしまうかと思われたその時。 相手のファウルによるフリーキック。しかもペナルティエリアのすぐ外。 残り時間を考えたら最後のチャンスだった。 それを岬が見事きめて、その後すぐにタイムアップ。 皆にもみくちゃにされ皆からキスの嵐を受け。 それがどうやらピエールには気に入らなかったらしい。 「そう言われても・・・・」 自分が悪い事をしたわけではないし、ただ単にシュートを決めて皆から祝福されただけなのだから・・。 岬は余計答えに困ってしまった。 しかし、ピエールの次の言葉には困るどころか固まってしまった。 「俺はあの時岬にキスしてないから、今からキスさせてくれ!」 (は????今頃???) 岬が真っ白になった頭で何か考えようとしたその時。 「チュッ」 軽いキスだったがそれでも満足したのか、ニコニコ顔でさっさと着替えたピエールは先にロッカー室を出て行ってしまった。 後に取り残された岬は今だロッカーにもたれたままだった。 (やっぱりピエールってわかんない・・・・。) |
『キス魔? ―若林編―』 03.05.03 日差しの暖かい午後、岬はリビングのソファに横になっていた。 すーすーと聞こえる微かな寝息は、岬がとても気持ちよい睡眠をとっているをこと表していた。 そのすぐ近くにある窓からは心地よい風が入り込んで、カーテンに綺麗な波を作っていた。 「おいっ、コーヒー入ったぞ。」 ソファから少し離れた位置にあるキッチンから、何も知らずに呼びかける若林の声が聞こえた。 あまり大きくない呼びかけだったので、岬は気づかずにそのまま夢心地にいた。 いつもならよく響く少しハイトーンの声が返ってこないのに若林は不思議に思い、ひょいとリビングを覗いた。 岬が座っているはずのソファからは何も動きが見られなかった。 「あ・・・れ?」 ついさっきまで一緒に雑誌を見ながら笑いあっていたはずなのに・・・。 おかしいな・・・と、若林はソファに近づいた。 ソファに手を掛け、もう一度声を掛けようとしたところで若林はふっと笑みを浮かべた。 (かわいいっvv) あどけない表情で気持ちよさそうに眠っている岬。 その手にはさっきまで読んでいた雑誌が今にも落ちそうな危うさで握られていた。 岬のすぐ上を流れる風が彼の茶色の髪をなでる。 若林にはその様子にさらさらと音が聞こえたような気がした。 折角のコーヒーだがそんなものより、今のこの岬の寝顔を見つめていた方が若林には貴重に思えた。 いや、それよりも・・・。 ソファの前に回るとそのまま膝をつき。 「・・・・・んっ・・・。」 岬が身動ぎして、若林は慌てて離れた。 そのまま起きるかと思ったが。 手から雑誌を落として、そのまま体の向きを変えてしまった。 (あ・・・・残念。折角の岬のかわいい顔が拝めなくなっちまった。) チッと思いながらも、しかし。 (でも、もっといい思いしたから、まぁいっかぁ〜vv) そのままソファに背中を預け、若林はしばらくの間、春の風をその身に感じていた。 |
『キス魔? ―翼編―』 03.05.03 「ちょっと舌出してみて?」 練習の合間のちょっとした休憩時間。 岬は木陰の下で横になって体を休めていた。 その横に翼がやって来て、チョコンと座って言った。 「・・・なんで?」 キョトンとした表情で岬が聞く。うとうとしだした所で目を瞑りながらぼーっとしながら聞く。 岬の様子に構わずに、ニコニコしながら翼は答えにならない答えを返した。 「いいから、いいから〜vvほらっ、ペロッっとしてみて〜vv」 (翼の言う意味がよくわからない。一体どうするんだろう?よく、舌で体調を診るっていうけど、そういうことかな?) 働かない頭でそんな事を考え、不思議に首をかしげながらも岬は舌をちょこっと出してみた。 (岬くんvvかわいい〜〜〜〜vv) 翼はうんうん、と覗き込むように岬に顔を近づけた。 ぺろっ 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」 突然の出来事にあわてて両手で口を押さえて、後ずさった。 (いいいいいいい・・・一体!!!) 岬は思考回路も表情も固まってしまった。 と、いうより一瞬にして目が覚めてしまった。 そんなことはまったく意に介さない様子で翼は相変わらずニコニコしていた。 「おいしかったよ、、岬くんの舌vvご馳走様vv」 (ごちそうさま・・・・・って・・・。) 今だ動けない岬をよそに翼は立ち上がりパンパンとユニフォームについた草を払った。 「さぁ、もうすぐ練習再開だよvv」 (僕・・・・翼くんのこと、また一層わからなくなっちゃった・・・・。) しばらく固まっていた岬は練習に遅刻しました。 |
『電話』 03.04.09 どうしよう・・・ かけようかな でも・・・ 目の前の電話を見て、今日何度目かのため息をつく たしかに僕のわがままだけど でも・・・ 君だって悪いんだよ ちょっとしか時間がなかったに・・・ 次にいつ会えるかわからないのに・・・ ケンカなんかするんじゃなかった は〜あ またため息が漏れた やっぱり電話しよ・・・・ 「ごめんね」・・・って そう思って受話器を手にとろうとした時 トゥルルルルル・・・・ 電話がなった やっぱり謝らないどこっと |
『別れ』 03.04.09 卒業式に君はいなかったね 皆に黙って言ってしまった君 いつもいつも別れというものを体験していたはずなのにショックだった 小学生の夏、僕がしてしまった事を思い出した 初めてわかったよ 置いていかれることがこんなにつらいことなんて でも、文句は言えないよね 僕だって同じことをしたんだから あの夏の日のことを思い出すたびに胸が痛むよ 君も同じ想いをしてると思っていい? 僕もつらいけど・・・ 君もつらいんだよね 信じてるよ 次に会う時、また笑って会えるって |
『青い空』 03.02.14 ひょんなことから見つけた小さな一枚の絵。 「これって、親父さんが描いたのか?」 若林が手にしていたのは、その大きな手に収まってしまいそうな程の小さな絵だった。 中に描かれていたのは、かわいいかわいい小さな子どもの絵。 両手を空いっぱいに広げて、その顔は幸せそうに笑っていて。広げた両手のその上には一面に広がった空をイメージさせるような青色。 まるで野原で楽しそうに蝶でも追いかけているような、そんな絵だった。 「あ・・・それ・・・。///」 「何だ?」 絵を見たとたん真っ赤になった岬を不思議そうに若林は見つめた。 顔に手を当て、若林を見ないようにして岬は答える。 「それ・・・この間部屋を整理していた時に出てきたやつだ。父さんが昔描いた絵・・・。その子、僕なんだ・・・。」 「・・・岬の小さい頃か?」 若林はちょっと驚いた風に絵をもう一度見る。 「うん。父さん風景画家としてやってるから、人物を描いたものはほとんどないんだけれど、それは成長記録みたいなものも兼ねてて・・・」 「成長記録?」 「うん。父さんあんなだから写真とかまったく撮らないんだ。写真を撮るぐらいだったら絵で残そうっていうか・・・。写真の表面での思い出よりも絵や心の中にしっかりと思い出として刻んでおこうっていう・・・。ちょっとキザだけど、そういう人だから・・・。」 岬は自分の言葉に照れながら、ぽつりぽつりと話す。 そんなに照れなくてもいいのに、と若林は思いながら続きを促す。 視線の先には、先ほどから手の内にある小さな絵。 「それ、たしか4〜5才の頃だったと思う。絵を描いている父さんの横で遊んでて、急に思い立ったように描いていた絵を止めてそれを描き出して。僕それを見た時は、すごくうれしかったんだ。あぁ、ちゃんと僕のことを見てくれているんだなって。」 「わかる気がする。なんかこの絵見てると、すごく暖かい感じが伝わってくる・・・」 改めて若林は、まじまじとその絵を見た。 その絵の人物が岬だからだろうか、いつまで見てても飽きない。 「もう、いつまで見てるのさっ!紅茶、冷めちゃったじゃないか。今夜1泊しかできないんだろう?だったら、今現在の僕との時間を大切にしてよ!」 岬が声を掛けるまで若林は、その絵から目を離さなかった。 小さな小さな岬を見守るようにして・・・。 |
『遠くいる君に』 03.02.14 夢を見た 俺と一緒にボールを蹴っている君の夢 その夢の中で俺と君は笑ったいた 楽しくパスを出し合っていた しかし、夢の中の俺はすでに大きく成長しているのに 君は三年前のままの姿 今、君はどこにいるの? どれだけ成長した? 俺と君とどちらが背が高くなっている? そして・・・ 誰とボールを蹴りあっているんだろう? 君の出すパスを受けているのは誰なんだろう? 会いたいよ とても会いたいよ この想いが君に届くように手紙を書くよ でもその手紙は、君に出せずに机の中にしまっておく いつか会った時に渡せるように そして今夜もまた、君の夢をみる |
『こたつ 〜若林編〜』 02.11.20 「ちらかってて申し訳ないけど、どうぞ」 彼を部屋に通すとちょっと驚いたように声を上げる。 「おおっ。こたつがあるじゃないか!」 普段、僕にとっては何気ない光景だが、ず〜〜っと外国暮らしの彼にとっては懐かしいのだろう。 しみじみと眺めながら、でもなんとなく恥かしそうにして聞いてきた。 「入っていいか?」 「どうぞvv」 僕はニッコリと笑って答えた。 「あ〜〜〜〜〜っっ!!もうっ。狭いじゃないか!もうちょっとそっちつめてっ!!」 「そんなこと言ったって・・・・。こっちだってもういっぱいいっぱいなんだから。」 隣に入ることもできないから向かい合って座ったのだが、これも思ったより狭い。 「ほらっ、脚ひろげないでっっ!!ちょっと曲げて!!」 「岬の方こそ。俺は一応、お客なんだぞ。」 「お客でも限度があるだろうっっ!!大体でかすぎんだよっ!!若林くんはっっ!!いくら何でももうちょっと痩せたらどうだ〜〜〜っっ!!」 最初はほのぼのと一緒に入っていたこたつだったが・・・・やはり若林と一緒というのには無理があった。 なぜかこたつがミシミシと・・・・。そして二人の仲もミシミシと・・・・。 合掌。 |
『こたつ 〜ピエール編〜』 02.11.20 「ちらかってて申し訳ないけど、どうぞ」 彼を部屋に通すとちょっと驚いたように声を上げる。 「おおっ。こたつがあるじゃないか!」 普段、僕にとっては何気ない光景だが、ず〜〜っとフランス育ちの彼にとっては珍しい物だろう。 しみじみと眺めながら、でもなんとなく恥かしそうにして聞いてきた。 「入っていいか?」 「どうぞvv」 僕はニッコリと笑って答えようとしたら・・・・・。 「って、言う前に、ピエールっっ!!君、靴履いたままじゃないか〜〜〜っっ!!」 「???何か問題でも??」 「うちに遊びに来る前に少しは日本の事、勉強してこ〜〜〜〜いっっ!!日本語話せるだけじゃ、ダメだ〜〜〜〜〜〜っっ!!」 バタ――――――ンンッッ!! 気が付いたらピエールは外に出されていた・・・・。 いと哀れ・・・・。 |
『こたつ 〜翼編〜』 02.11.20 「ちらかってて申し訳ないけど、どうぞ」 彼を部屋に通すとちょっと驚いたように声を上げる。 「ああっ。こたつがあるんだね!」 普段、僕にとっては何気ない光景だが、ず〜〜っと外国暮らしの彼にとっては懐かしいのだろう。 しみじみと眺めながら、でもなんとなく恥かしそうにして聞いてきた。 「入っていい?」 「どうぞvv」 僕はニッコリと笑って答えた。 「う〜〜〜〜ん、暖かくていい気持ちvv」 すっかりご機嫌の彼の様子にうれしくなって僕も一緒になってこたつに入り、中で手を繋ぐ。 「ふふっ、岬くんとこたつでらぶらぶ〜vv」 「ふふっ、翼くんと手を繋いでらぶらぶ〜vv」 そして段々と眠気が二人を襲い・・・。 気が付けば二人一緒に風邪を引いていた。 やっぱりらぶらぶ? |
『こたつ 〜千ちゃんの井川編〜』 02.11.20 「ちらかってて申し訳ないですけど、どうぞ」 俺は部屋に通されるとちょっと驚いて声を上げた。 「おおっ。こたつがあるじゃないか!」 普段、俺にとっても何気ない光景だが、岬の部屋のこたつとなれば話は別だ。 しみじみと眺めながら、でもなんとなく恥ずかしくて(下心アリアリなので)聞いてみた。 「入っていいか?」 「どうぞvv」 岬はニッコリと笑って答えた。 二人で向かい合ってこたつに入る。 正面には可愛い岬のニッコリ笑った顔、そしてこたつの中は・・・狭いので足が触れ合っている〜〜v ああ!小さいこたつさん、ありがとう!! ニッコリ笑い返すとなぜか岬は心配顔だ。 「あの・・井川さん。暑いんですか?暑かったらこたつから出たほうが・・・」 なんてこと言うんだ!こんな幸せな場所から出ろだなんて! でもそういえば、ちょっとばかり暑いかな?それはきっと俺の燃える想いのせいだぜ!ベイベーvv ああv幸せすぎて目眩がするぜ。岬〜〜vv バタ――――――ンンッッ!! 井川はすっかりのぼせてしまったために笑顔のまま鼻血を出して倒れてしまった。 いと哀れ・・・? ※千ちゃん〜。ありがとうvv |
『お米』 02.11.12 |
『花占い』 02.11.12 好き・・・嫌い・・・好き・・・嫌い・・・ 女の子がよく花を見つけては一生懸命に願いながら花びらを摘み取っていくあの。 僕はグランド脇に咲いていた花を見つけて思わず立ち止まって・・・、ついつい花を手に採ってしまった。 でも、それ以上は手が動かなくって、ただただ花を見つめるだけ。 「おい、岬。どうした?」 「あ・・・なんでもない。」 「もうすぐ紅白戦始まるゾ。今日もばっちり決めるから、いいパス頼むゼ。」 「うん。まかしといて!」 手に取った花はもう枯れるしかないけど、それでも、そっと咲いていた元の場所に置いた。 そして僕は、先に行く彼に向かって走り出す。 |
『視線』 02.11.12 風呂から上がり、髪を拭きながら歩いていると談話室から笑い声が聞こえてきた。 何だろうとふと覗いて目に写ったのは、皆の輪の中で楽しそうに話している彼の姿。 俺がここにいるのに気が付かないの? 皆といて楽しい? フッと芽生えた嫉妬心のせいか、ついつい彼を見つめてしまった。 「あ―――――。」 俺の視線に気が付いた。 俺の気持ちに気が付いた。 さっきの嫉妬心は何処へやら明るい声で彼は俺の名を呼ぶ。 「翼くん――――。」 |