夜の対決!
彼は突然、目の前に現れた。しかも、タキシードを着て、手には抱えきれないほどのバラを持って・・・。
「岬、よければ今夜、俺の泊ってるホテルに来ないか?」
「えっ」
岬は困惑ぎみな表情を浮かべると同時に、チラッと隣の人物に目をやった。
隣の人物・・・。大空 翼は、一瞬、「ポカン」と口を開けたまま固まったかと思った次の瞬間には、ものすごい目つきで若林を睨んだ。
「どうして、若林くんがいるんだよ!」
(お前もだよ)と内心、若林は思っているのだが。
なんとなく話し方もきつさを感じる。
ここ・・・。ここは、フランスはボルドーにある、ピエールが住まいとして使っている古城の庭であった。
リーグ戦も終り、ちょっとしたホームパーティをしようと言うことになって、チームを問わず、サッカー仲間が集まったのだった。
その中に岬と――丁度電話を受けた時に岬の所へ遊びに来ていて一緒にいたものだから――翼も招待されたのだった。
翼が岬のおまけ同様、若林もシュナイダーのおまけで、
ついでに言うならカルツもおまけとして、シュナイダーの後ろにいたりして・・。
そして、ピエ―ルと岬達が楽しく歓談していた所へ、現れたのが若林だった。
ピエ―ルからすると、岬だけを招待したはずが、翼というおまけがついてがっかりした所にドイツ組まで・・・。
しかも、そのおまけ同士が騒ぎを起こそうとしている。
表面場は笑顔を保っているピエ―ルだったが、(う〜ん、おかしい。おかしすぎる。俺が岬と甘い時間を過ごしたかっただけなのに。なんでこーなるんだー。)と心の中で叫んでいた。
その、内心、頭をかかえたピエ―ルの横で岬が申し訳なさそうにつぶやいた。
「ごめんね、ピエール。あの2人、一体何考えてんだか・・・。」
若林にしても、翼・岬にしても、今はそれぞれ日本を離れ、みずからのサッカーを高めるべく孤軍奮闘しているのである。
岬との楽しい時間が、貴重で誰にも邪魔されたくないのはピエ―ルだけではない。若林も翼も同じである。
なかなかオフが岬とあわないのだから、この様な機会は、大事にしたい。そう思って、翼も若林も、お邪魔を承知の上で、このパーティに参加したのだ。そして、どうせなら思いきってアプローチをして、ここで一気に―――。と、思っていた若林だったが、岬が招待されるのはわかっていたのだが、翼が一緒というのは大きな誤算だった。
そして、当の2人は、岬と(俺の立場は?)と思うピエ―ルを差し置いて、妙に盛り上がってしまった。
「若林くん、岬くんは俺と一緒にここに来たんだよ。君の泊っているホテルに帰る理由なんてないよ。」
「翼、ここでお前に会うとはな・・・。しかし、俺も引き下がったりはしないぜ。」
「よし、若林くん。勝負だ!丁度向こうに、サッカーグラウンドがある。あそこで、1対1の真っ向勝負といこうぜ!」
「勝った方が、このパーティの後、岬を連れて帰れる訳だな。よし、受けてたとうじゃないか。俺は誰にも負けないぜ!!」
もう闘志むきだしの2人は、城の主を無視して、パーティ会場から隣の、ピエ―ル個人の練習場だろう、サッカーグラウンドへ歩いていった。
何故か、シュナイダー達も、おもしろうそうだと後についていってしまった。
「いいの?」
と、さりげなくピエ―ルを見る岬だったが、自分が何時の間にか商品と化した、この事態にどことなく顔が引き攣っていた。
ピエ―ルも、もう投げやりになって、
「あの2人の好きにさせるさ。下手に止めたら、後がこわい・・・。それより岬、俺達はもう後の事は考えずに、このパ―ティを楽しもう。君との甘い時間は今しかないのだから・・・。」
と、岬の手を取って、翼達とは反対の方へ向かった。(いいのかなぁ)なんて思いながらも(どうせ、僕の意思は最初から無視されてるし・・・。まあ、2人とも好きだし、まっ、いいかぁ・・・)と岬もピエ―ルについていった。
例の当事者2人は、事情を知ってる見物人、シュナイダーとカルツを従えて、サッカーグラウンドに来た。
「シュナイダー、いいのか?パーティの方は・・・」
とカルツ。
「ああ、楽しそうじゃないか、この2人の対決なんて。早々見られる物じゃないぞ。」
「そうだな。シュナイダー、どっちが勝つと思う?」
「俺としては源三に勝ってほしいな。翼が勝つという事は、源三にいつもシュートを決められない俺の方が、翼より下という事になってしまう。」
「成るほど。シュナイダーにも、それなりのこだわりがあるってワケか。」
とニヤニヤして、カルツは2人を見つめた。
その2人は、
「いい、若林くん。俺は、君と岬くんのこと、認めないからね!」
「フッ、認めさせてやるさ、翼!岬だって、まんざら嫌そうじゃなかったぜ。」
瞬間、翼の頬が赤くなる。
どこから持ってきたのか、すでに足元にはボールがあった。
「1本勝負だよ、若林くん。俺がシュートを決めたら、岬くんは俺と帰る。」
「俺がシュートを止めたら、岬は俺と一緒に帰る。」
助走用に数歩下がると、翼は思いきり地面をけった。
「いくぞ!若林くん!」
「こいっ!翼!」
ボールに向かって走ったかと思うと、大きく右足を振り上げた。
「いっけえ―――っ」
ものすごいうなり音を上げて、ボールはゴールに向かって曲線を描く。
「まだまだ甘いゾッ、翼っ!!」
言うや否や若林は大きく、右手を振ったかと思うと、
ビィシイィッッ
そのまま、あの翼のシュートを着ていたタキシードを乱す事もなく右手1本で振り払ってしまった。
ボールは、はるか庭木の向こうに弾き飛ばされていった。
「ううっ、くっそうっ」
翼はガクッと膝を落とした。目元にはかすかに涙。
その前に、若林はゆっくりとやって来て、
「翼、約束どうり、岬は俺が連れて帰るからな・・・。」
頭の上からの声に翼がフッと顔を上げると、
ニヤ〜〜〜〜〜ッ
すでに、後の事を考えて、すっかり顔がニヤけて崩れている若林がいた。
(お・・・俺は、こんなヤツに負けたのか・・・)翼の思考は、すっかり闇の中だった。
(俺、昨日、岬くんに会って、そのまま2人でここに来て・・・。まだ何もしてないのにぃ〜〜〜っ。くっそ〜〜〜〜っっ。)
そんな2人の様子を見ていた、シュナイダーとカルツは、(この調子で試合にのぞまれたら・・・・、俺達は、勝てないだろう。若林はいつも以上の力を出していたし、翼のシュートもいつもより、威力があった・・・。しかし、それ程の気迫で勝負とは。恐るべし、岬 太郎の存在・・・。)などと、妙に感心していたのであった。
肝心の商品と化した岬の方は、自分が当事者の1人だということも忘れて、パーティを楽しんでいた。
「ねぇ、ピエ―ル。このワイン、おいしいねvv」
「あぁ、岬は口が肥えているね。そのワイン、今日のパーティの中でも1番上等なヤツだよ。もう1杯、どうだい?」
ピエ―ルは脇のテーブルに置いてある、ビンを手にとると、おもむろに岬の持っているグラスに、そのワインを注ぐ。とくとくといい音を出して、グラスが深い赤色に染まり、又、岬の頬もそれに合わせたように、少し赤みをおびていた。ちょっと酔ったか、とても気分がいい。
「ありがとう。それにしてもあの2人、遅いね。こんなに楽しいのに、パーティ、終っちゃうよ。ねぇ、ピエ―ル?」
(くっそ〜〜っ。ほんとはほんとは、俺が岬をこの城に泊めて、一緒に夜をすごすはずだったのにぃ)と、ピエ―ルは、内心こみ上げる怒りを押さていたのだったが、
「そうだね。」
岬の笑顔につられて、思わずピエ―ルもにっこりと笑顔を返してしまった。
実は、岬 太郎、かわいい顔をしているが、本当は、皆を惑わせる悪魔かもしれない。
パーティは、もう終ろうとしていた。
END
コメント:これ、昔々に千ちゃんに捧げたお話です。(サイト立ち上げ前はお互いに話を書いて押し売りしあって?ました。)彼女の許可を頂いて載せちゃいました。だって、まだまだレパートリー(って言うのか?)すくないんだもんっ。
う〜〜ん、源岬のようなようでないような・・。なんなんだ、一体?そういえば、そもそもの始まりは私の夢だったような・・・。タキシード源さまの夢〜vvドリームですうvv(←バカ)