誕生日おめでとうvv ―井川編―
岬がJリーグから離れて、初めての誕生日。 井川はどうやって彼の誕生日をお祝いをしようか、考えていた。 「う〜〜〜〜〜ん。どうしようか・・・。」 レッズの宿舎のロビーで一人唸りだしてすでに二時間が経過していた。 何を唸っているのかわからないチームメイトはあまりの様子に誰も声を掛けることが出来ないでいた。 ただ遠巻きに見守るしかない。そして井川のその表情に恐ろしさを感じる事もあって近くを通れないほどだった。 しかし・・・。 ついに痺れを切らしたある者が、自分の横で井川を見守っていたタケシにこう告げた。 「おいっ。タケシ!井川さんのあの状態をなんとかしたい。何を悩んでいるのか、お前聞いて来いっ!!」 ビクッとタケシの体が震える。 「ええっ、僕ですかぁ???」 「そうだ、お前しかおらんだろう!!」 「そんなぁ〜〜〜〜〜。(涙)」 小学校以来ずっと指導(笑)されてきたこともあって、回りの先輩に逆らえないのは後輩の性である。 しぶしぶタケシは井川の傍に近づいた。 そろ〜り、そろ〜り。抜き足差し足・・・。 しかし、瞬時に殺気(?)に気が付いた井川にギロッと睨まれる。 ビクビクしながらもタケシは『ずっと猛獣と付き合ってきたんだ、大丈夫!』と自分を奮い立たせて聞いてみた。 「あの・・・井川さん・・・。一体何を悩んでいるんですか?」 キラーンと井川の鋭い眼光が光る。 タケシは硬直してしまった。 が、そんなことはお構いなしに井川は今までの殺気は何処へやら、タケシの肩をポンと叩いた。 「そうか、お前なら小さい頃から知っているからお前に聞けばいいんだな!あのな・・・・実はな。」 一体何を知ってるんというんだ。 タケシに今までとはまた違う緊張が走った。 「タケシ・・・。お前、岬がどんな花が好きか、知ってるか?」 (ええええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!!) タケシはそこで何故、岬の名前が出てくるのかまったくわからなかった。 って、いうかずっとそんなことで悩んで、宿舎を恐怖の館にしていたのか!! あまりの井川の質問ににタケシは言葉を失った。 当の井川といえば、やっと悩みを相談できて少し心が軽くなった高校生のような表情をしていた。 (いくらなんでも僕が岬さんの好きな花なんて知ってる訳、ないだろうが!!) そう答えたかったが、『さぁ、どんな答えが返ってくるだろう?』と興味津々にタケシの顔を覗き込んでいる井川を見ると、とてもそんなことは言えなかった。 (どうしよう・・・。) どう答えてよいものかわからないタケシは引き攣った笑いを顔に貼り付け、心の中で頭を抱えていた。 しかし、待てよ!と、心の中で腕を組む。 どうして、井川がいきなり岬の好きな花が知りたいのか。そこから話をしていこうと思った。 「あの・・・。井川さん。どうして、岬さんの好きな花が知りたいんですか?」 勇気を持って質問してみた。 「いやぁ、実は今度、5月5日は岬の誕生日だろう?で、何かお祝いを、と思っているのだが何を上げたらいいかわからないし・・・フランスまでの宅配代もばかにならんからなぁ。でも、俺の真心を伝えたいし・・・。で、辿り着いた結果が花束を贈る。と・・・。どうだ、タケシ、岬の好きな花ってなんだろうな?」 タケシは脳内爆発寸前だった。 (岬さんの誕生日に花束を贈るのか?!って、どうして井川さんが岬さんの誕生日を〜。選手名鑑でも見たのか!!選手名鑑に好きな花は書いてなかったのか!!怒) ぐるぐるぐる・・・。 目が回りそうなのをグッと堪えてタケシは井川に提案した。 「あの・・・、井川さん。僕は岬さんなら、きっとどんな花でも気に入ってくれると思いますよ。だって井川さんからの贈り物ですから・・・。どうですか、いっそのこと井川さんの伝えたい言葉を花に託したら・・・・。」 その言葉を聞いて井川の目が一層輝いた。 「そうだな!そうだな、タケシ!!!それがいい!!」 そう大声で叫ぶと立ち上がった。 「さっそく、花言葉が書いてある本を見てこよう!!!」 それこそまるで周りに花が飛び散っているような勢いで井川は本屋へGO!とダッシュしていった。 後には、一体二人にどんな会話が交わされたのかわからないままそれでも宿舎に平和が訪れたことを喜ぶ選手達と、汗が未だに引かないタケシが残された。 (井川さん・・・・。その花束、某御方達に握りつぶされずに岬さんに届くことをお祈りしています・・・・。) END |