誕生日おめでとうvv ―翼編―
「ねぇ、岬くん。この後ちょっと出かけようか?」 練習が終わり、皆が宿舎に向かって歩いている中。 翼は最後の片付けをしていた岬に後ろから声を掛けた。 くるっと踵をかえした岬は、眉間に皺を寄せながら翼の提案を簡単に却下した。 「え〜〜〜〜っ。どうして〜〜〜!!もう疲れてんだからやだよっ!!だいたい今、何時だと思ってんだよ!!もうすぐ夕食の時間だろっ!!それが終わったら今度はミーティングが入ってるだろう。忘れたの??」 たった一人のブーイングだが、それでも岬のブーイングは相手にかなりのダメージを与える。ましてや相手は翼だ。 「いや・・・忘れてる訳じゃないけど・・・。」 ゴモョゴモョと言葉を濁す翼に、さらに岬は追撃の手を休めない。 「時間だけでなく回りを見てみろよ!何にもない所だろう!近くの店まで一時間はかかるような所だし、車で出るにしたって許可なく勝手には外出はできないし。まったく無人島状態だよ。もうっ!!」 (そんなこといったって〜、俺のせいじゃないんだけど・・・。/涙) たしかに今回の合宿は、いつも使っている宿舎が改築工事の関係で初めて利用する所だったために今までとは勝手が違っていた。 他に適当な場所がなかった為仕方がないのだが、今回使っている合宿所はいつの時代に建てたものだ!!と、いうシロモノであった。 風呂は狭くてカビだらけだし、食堂もやはり狭く皆一緒に食べることが出来ない。しかも、厨房はなお一層狭く料理も大量に作ることができず、皆のお腹を満たすには量が足りなかった。ある意味早い者勝ち的な食事だった。 おまけに外に買出しに行こうにも岬の言う通り一番近くの店でも一時間はかかるような不便な場所であった。もちろん、部屋はもはや誰も何も言う気になれなかった。 お腹も満たされず、くつろぐこともできず、皆が皆そろそろ我慢の限界だったようで、試合形式の練習ではストレス発散!という状態でかなり白熱していた。 そんな中、岬は練習中はいつもどうりマイペースで。だから簡単に誘いに乗ってくれると踏んでいた翼だったが・・・やはり、岬も人間。例外なくキレていた。 (困ったな・・・。今日でないとダメなのに・・・。) ふぅ、とため息を吐いて考え込んでしまった。 岬はもくもくと片付けをしていて、その翼の様子にまったく気づかずにさっさと先に宿舎に戻ってしまった。 そのまま、夕食も終わり、ミーティングも終わり。 人気のないロビーで相変わらず翼はどうしようか、と考え込んでいた。 (岬くん、どうしたら機嫌直してくれるかな・・・。) もうすぐ”今日”が終わってしまう。 どうやったら岬と一緒に時間を過ごすことができるのか。しかし、先ほどの岬の剣幕ではやはり一緒に外出はしてくれそうもない。 ぼうっと窓から外を眺めていた。 すでに夜中で、まだまだ合宿が続くこともあって、皆はすでに寝てまわりは静かだった。 (静かだなぁ・・・。) 空を見上げてそんなことを思っていると。 「ごめん・・。言い過ぎた。翼くんは何にも悪いことしてないのに、八つ当たりしちゃったね。」 後ろから声が掛かった。 翼が振り返ると、練習後の翼の様子にさすがに悪いと思ったのか、岬がそろそろと翼の傍までやってきた。 「岬・・・くん。」 翼の腕をそっと握ってすまなそうに呟く。 「翼くんに付き合うよ、今からでもいい?」 岬がじっと顔を覗き込むように翼の様子を伺っていると、翼の腕を掴んでいた岬の手は逆に翼に握り返された。 「うん。じゃぁ、外に出ようか。」 二人はそっと音を立てないように合宿所を出て、練習場の横の林に入った。 「えっ、どこ行くの?」 ちょっと心配そうに岬は翼に聞いてみる。 「大丈夫だよ。そんな奥には行かないから・・・。」 手を繋ぎ、そう言いながらも翼は岬を林の奥に誘った。 しかし、ほどなく目的地に着いたのか翼の足が止まった。それにつられて岬も立ち止まる。 「ねぇ、岬くん。上を見て・・・。」 翼に言われるまま、空を見上げると。 木々が空を囲むように立っているように見え、その中には満天の星達が輝いていた。 この辺りは空気が綺麗なのだろう。そして、街頭もない為か、星がとてもよく見えた。 普段、街に住んでいれば見る事が出来ない星達・・・。 空から落ちてきそうなほど星が空一杯に広がっていた。 「綺麗・・・。」 「この間、夜眠れなくて散歩した時に気づいたんだ。この辺りって星が凄くよく見えるって・・・。どう?」 「うん・・。凄く素敵だね・・。」 岬が翼に顔を向けると、いつになく翼は真剣な表情をしていた。 「今日、岬くんの誕生日だろう・・・。昨日の休憩日に周りを探索して本当はもっといいポイントを見つけたんだけど、そこちょっと遠いから・・・。」 「あ・・・・。」 そこで岬は気が付いた。 翼が今日出かけようって言った訳を。 「ごめん。翼くんの気持ち、踏みにじっちゃったね。」 「ううん。こっちこそ、ごめんね。疲れてるのに・・・。」 翼は岬に優しく微笑んだ。 それに岬も微笑み返す。 「そんなことないよ。翼くん今日の練習セーブしてたでしょ?実は僕もだよ。練習に身が入らなかった訳じゃないけど・・・ね。なんとなく・・・。」 「あ・・・、僕が岬くんを誘おうって思ってたの、実は解かってたの?」 「う〜〜〜ん。解かってたっていうより、なんとなく・・・かな?”出かける”なんて思わなかったからあんな態度取っちゃったけど・・。」 「そっかぁ。じゃぁ、まだまだ修行が足りないなぁ。もうちょっと頑張れば岬くんに伝わったかなぁ、俺の気持ち。」 「そうだね。そしたら翼くんの言う”いいポイント”に連れて行ってもらえたのにね・・・。」 二人して、クスクスと笑い合った。 「ありがとう。翼くん。誕生日のこと、すっかり忘れてた。」 「本当はちゃんとプレゼント用意したかったんだけど合宿中だし、周りにはお店もないし〜。合宿が終わったらちゃんとプレゼント渡すからね。」 「ううん、いい。いらない。」 ゆっくりと首を振る岬に翼は何でと不満顔になる。 「だって、今度はちゃんと連れて行ってくれるんでしょ?もっと星がよく見える所に・・・。」 ニッコリとする岬に翼はその頬に手を延ばす。 「うん・・・。行こうね、一緒に。」 そのままゆっくりと翼の顔が岬に近づき・・・。 星達が見守る中、静かに二人は唇を重ねた。 「誕生日、おめでとう。岬くん。」 「ありがとう、翼くん・・・。」 END |