誕生日おめでとうvv ―若林編―
日本ではゴールデンウィークも最後になり、多くの人間が田舎や旅行から帰ってくる5月5日。 岬がいるここヨーロッパでは、特に何の変わりもなく人々は普通に時を過ごしていた。 しかし、普通でない時間を過ごそうと重いカバンを肩に抱えた男がひとり、あるアパートの前で立っていた。 「やっと、着いた・・・。ってたいして時間は経ってないんだがなぁ・・・。やっぱ飛行機っていいなぁ〜〜vv」 ニコニコ顔でアパートを見上げた。 「さて・・・と。岬よろこんでくれるかなぁ〜。俺からの誕生日プレゼント・・・・。」 そう独り言を呟くとヨイショとカバンを持ち直し、若林は目の前のアパートへ入っていった。 「いらっしゃい。思ったより早く着いたね。」 コポコポと音を立てて紅茶がカップに注がれた。 カタンと若林の目の前に出された紅茶は、よほど喉が渇いていたのか、あっという間に飲み干された。 「まぁな、実は駅から走ってきたものだからな。」 おかわりとカップを岬に差し出す。 「えええぇぇぇ〜〜〜。ほんとに!!」 差し出されたカップを受け取らずに驚いた岬に、若林はケラケラと笑った。 「んなわけ、ないだろっ。ちゃんとタクシー使ったさ。んもぅ、岬さんったらかわいいんだからぁ〜vv」 「あ〜〜〜!意地悪だなぁ。いいよ!だったら今日の夕食、腕によりをかけて若林くんの好きなものいっぱい作ろうと思ってたけど、やぁ〜めたっ!」 「あっあっ、ごめんなさいっ。みさきっ。いえ、岬さま〜〜っっ!!」 今度は岬の方がケラケラ笑う番だった。 「僕に逆らうと夕食抜きだからね!」 と、なる予定だったのだが・・・。 「いいぜ、別に〜♪」 岬の予想とは180度反転、面舵いっぱい〜。の答えが返ってきた。 若林は困るどころか、してやったりの顔をしている。 「えっ・・・???」 予想外の答えに岬が唖然としていると、今度は若林の方が意地悪の逆襲をしてきた。 「全然構わないぜ、俺は〜〜〜〜vv」 語尾にハートまで付くほどの余裕である。 「えっ、えっ、えっ〜〜〜〜〜〜〜っっっ・・・!!!!」 いつもの若林だったら、最初の岬の想像通り困って、あっという間に岬にひれ伏すはずなのだが、今回は一体どうしたというのか、逆に若林の方が『俺は亭主だ!』みたいな関白宣言でもしそうな態度のでかさだった。 この対応には岬の方が逆に困ってしまって・・・・。 「あ・・・あの・・・??わかばや・・・し・・・くん??」 若林の名前を呼んでみるが、その後をどう続けてよいのかわからなかった。 「え〜〜っと、・・・・そ・・その〜〜〜〜・・・。」 手をもじもじさせて、上目遣いに若林を見つめてみたり、わざと考え事をしているような表情をしてみたり。 岬のそのあまりのオロオロした様子に若林はクスッと笑うと、岬の頭をぽんぽんと撫でた。 「若林くん?」 岬が若林の表情をチロッ見ると、もう若林は先ほどの意地悪な顔をしていなかった。 それどころか、優しそうに笑っていた。 「あのな・・・岬・・。」 そっと岬の手を捕まえて若林は跪くようにして屈んだ。 その様子に岬はさらに戸惑う。 「今日一日、俺、お前の言うことを何でも聞こうと思うんだ。」 突然な若林の言葉にえ?と岬は声にならない声を上げてしまった。一体何を言い出したのか、岬の頭は理解不能になってしまった。 マジマジと若林の顔を眺めて見るが、その表情からはどうやら冗談ではないらしい事が伺えた。 どうして突然そんな事を言い出しのか、どういうつもりなのかまったくわからない岬は答えに窮してしまう。 暫くそのままにしていた若林は、やはりとため息を吐いて、立ち上がった。 そのまま、岬の腰を抱き寄せるようにして、一緒にソファに座った。 「あのさ・・・。」 若林はゆっくりと岬に言った。まるで語りかけるようにして。 「いつもいつも岬の誕生日、何が欲しいか俺が聞くと岬は『何もいらない。』って言うだろう。それで俺は岬に適当だと思う物をプレゼントする。だが、岬が心から本当に喜んでないの、知ってるから。」 「ちょっと、待って!!」 若林の言葉を岬は慌てて手で制した。 「僕、そんな・・・・喜んでないなんて!そんな事ないよ!!ちゃんと嬉しいって思ってる。」 岬の反対の声を優しい表情で諌めると、若林は岬の手をゆっくりと自分の膝の上に置いた。 「わかってる、ちゃんと・・・。岬はどんな物を渡しても凄く喜んでくれるし、大切にしてくれる。・・・でも、それじゃあないんだ。俺が岬にしてあげたい事は。」 岬はやはり、若林の言いたい事がわからなかった。 どう言えば自分が若林にどれだけ感謝してるか、どれだけ若林に貰った物を大事にしているか、どれだけ若林を大切に思っているか、わかってもらえるのだろうか?。岬は自分の思いが若林に伝わっていないような、そんな気がした。 しかし、岬は、若林の言葉に驚きで目を大きく見開いてしまうことになった。 「岬は自分でわからないんだろう?自分を抑えてることに。ありとあらゆることに我慢していることに。」 まるで自分では気が付いていない奥底の自分の姿を見透かしているような若林の言葉を、岬はもう一度頭の中で反芻した。 (自分を抑えてる?我慢している?) 「ま、サッカーに関してだけは、自分を出してると思うけどな・・・。」 そんなつもりはない。そう思った。抑えているのでも、我慢しているのでもなくて、どんな物でも嬉しいし、ありがとうって思ってた。 それを我慢してるだなんて・・・。 まるでパニックに陥ってどう動く事も出来ないような、そんな状態になってしまった岬に若林はゆっくり、ぎゅっと抱きしめながら一層優しさを込めて話しかけた。 「俺もそれに気が付いたのはつい最近なんだけどさ。」 何か思い出したのか、若林はクスッと笑った。 「ちょっと前、家族に呼び出されて日本に帰った時にさ、久しぶりにジョンとゆっくり時間を過ごしてたんだ。」 「ジョンってあの犬の?確か、若林くんの家で飼ってた白くて大きい・・・犬。」 「そう、あのジョン・・・。で、しばらくずっとジョンと一緒にいたら、なんとなく自分が家族や友人達に、遠慮ってわけじゃないんだけど、どこか気を使ってることに気が付いてさ。ほら、犬って無条件に飼い主に従うだろう?まぁ、兄貴に『家族と一緒にいる時と、ジョンと一緒にいる時の表情が違う』って言われて初めて気が付いたんだけどな。俺、小さい頃から、親父達が仕事で留守が多くて、子どもなりに我慢して過ごしてたことが多かったから、それの所為かなって思ったんだ。そしたら、急に岬のこと、思い出して・・・。ほら、岬も小さい頃から親父さんと二人であちこち回ってただろう?だから、自分の気が付かないところで我慢してるんだろうって思ったんだ。」 「我慢・・・。」 ポツリと岬は呟いた。 「岬は自分でも気が付いてないんだろうけど、同じなんだ。その家族と一緒にいる時の俺の顔と、いつも岬がしている表情が・・・。」 「そんな・・・。」 「わかるよ、環境は違うけど、同じだから・・。俺も岬も・・・・。」 「わか・・・ばやし・・くん・・。」 ポトと何かが膝に当たった感触がした。 え?と、岬は自分の顔に手を当ててみる。 つ・・と指を伝って何か暖かいものが感じられた。 それを若林は指でそっと拭った。 「何か、物じゃなくて、行動で伝えたいんだ。そして、岬の本当に望むものを与えたい。岬の欲しいものって、物じゃ、ないだろう?」 岬は黙ったまま、ゆっくりと首を縦に振った。まだ、涙は止まらなかった。 若林はゆっくりと顔を近づけると、今度は唇でその涙を拭った。 「・・・・ん・・・。」 そのままゆっくりと若林の唇が下がってきて、岬のそれと重なった。 そのまま暫く、時が過ぎて若林はそっと岬から離れた。ほんのりと赤く染まった岬の頬が目に入った。 「犬ってわけじゃあ、ないけどよ・・・。でも、俺にだけ曝け出して欲しいんだ。本当の岬を。」 真っ直ぐに岬の眼を見つめて、改めて若林は言った。 まだ、涙に潤んだその瞳は大きく揺らいではいたが、でも、そのまま若林の視線を外すことなく若林を見つめ返した。 そっと、湿った岬の唇から言葉が漏れた。 「まだ、・・・自分でもよくわからないけど・・・。でも・・・。」 「でも?」 「なんとなく若林くんが言いたい事、分かるような気がする。だから、少しづつでも思ったことをはっきりと言ってみようかな・・・って・・。」 「そうだな・・・。そこから始めればいいさ。」 「うんvv」 お互いニッコリと笑い合う。 「それにしても、若林くんって。」 「何だ?」 上目遣いで若林を窺う岬は意地悪そうな顔をしていた。 「自分でもキザだと思わなかった?」 涙が止まった瞳はちょっと子どもっぽく光った。 そっぽを向いて若林は答えた。 「ちぇっ。せっかく、格好よく決めたと思ったのに・・。」 ゆっくりと腕を絡ませながら、岬は若林の耳に囁くように話しかけた。 「これだけは分かったよ。」 「何だ?今日してもらいたい事でも思いついたか?」 「・・うんん。そうじゃ、なくて。・・・もっと若林くんの事が・・・好きになったってこと。」 カッと若林の顔が火照ったように赤くなった。 「・・・お・・おうっ。サンキュ〜な。」 若林はちょっと言葉につまりながら、それでも平然としている風を装った。 「だから、一緒に考えてね。今日の予定・・。」 「・・・・あぁぁ。わかった・・・。」 若林の顔は、まるで『お湯が沸かせます』状態だった。 そんな若林に岬は微笑んだ。 「ありがとう、若林くん・・・。」 岬にとって、今までで最高の誕生日が始まった。 END |
コメント:ようやくラスト!若林の登場っ!!待ってたぜ、大将〜v(いや、誰も待ってないって〜/笑)
う〜〜ん。最初、笑い(笑いか?)で最後はシリアス(これも、やや??)で決めた誕生日シリーズ。(いつ、シリーズになったんだ?)
『統一性がない!』と突っ込まないでください〜〜。(土下座)
どうせ、私の趣味ですから〜。(だって、井川でシリアスは・・・・汗)
でも、無事に終わってほっ。
ありがとうございました〜vv