チラリズム



「ひゃ〜。暑〜い。」
ぱたぱたぱた。岬は手のひらで顔を扇いだ。まだ6月だというのに気温は30℃を指し、真夏日を思わせる。その上紅白試合は普段の練習より更に熱がこもり運動量も並ではない。
「ほんと。暑〜い。ね?こうした方が涼しいよ?」
ぱたぱたぱた。翼は服の裾を持ち、上下に扇いでいた。確かにその方が風が体に当たって涼しそうだ。岬も真似してシャツの裾を振った。
「あ〜♪ほんと。こっちの方が涼しいや♪」
「で、しょお〜♪」
ぱたぱたぱた。ふ、と視線を感じてそちらに目をやると翼は三杉と目が合った。三杉の顔が少し赤い?
「三杉君。どうしたの?」
ぱたぱたぱた。三杉の視線はどうやらシャツを仰いでいる辺りに注がれている。
「・・・おへそが・・・」
ぱたぱた・・ぴた。お・へ・そ?言われた意味を理解して、翼の顔も赤らんでくる。クールな顔して何考えてるんでしょうね?三杉君は?よくよく見れば口元を押さえているのも緩む顔つきを隠そうとしてのことらしい。
「・・・んもうv三杉君は・・・」
照れてしまって視線をそらした翼の目に岬の姿が写る。なるほど。ちらちらとおへその辺りが見え隠れする姿はなんだかそそるものがある。
「?どうしたの?翼君?」
ぱたぱたぱた。まだ気付かずシャツを振り続ける岬に今度は翼が問いただされてしまった。
「岬君♪お・へ・そ。可愛いよ♪・・・それからね。熊出没注意!くすっ♪」
ぱたぱた・・ぴた。お・へ・そ?言われた意味を理解して、岬の顔はみるみる赤くなった。可愛い顔して何考えてるんでしょうね?翼君は?なるほど向こうの方では熊さんが獣の目をしてこちらを見てる。
シャツの裾を下に引っ張り、もじもじしている岬の姿は可愛いことこの上ない。
「・・・んもうv何考えてるの?翼君は・・・。あっちもだけど・・・」
くすくすくす♪(こ〜ゆ〜ところが可愛いんだよなぁ。岬君は。)なんて思いながら翼はちょっと意地悪をしてみることにした。
ぱらり。もう少しで胸まで見えそうなくらいのところまでシャツを捲り上げ、ポーズを作って翼は聞いた。
「ね?どう?」
短パンは骨盤で引っかかっている状態なので、胸の下辺りからウエストへの腰のラインがきれいに見えている。
ムダのない体。腹筋は鍛え上げられ盛り上がりを見せているのに、その上を適度な脂肪が覆い柔らかそうな感じを与えている。
「いいカラダ?」
三杉はにっこり微笑んだ。花がほころぶように。
岬は赤くなった。目を見開いて。
「触りたい?」
三杉はますますの笑顔だ。周りに満開の花を背負っているかのようだ。
岬はますます真っ赤になった。もう目はふわふわと泳ぎっぱなしだ。
「かわい〜なぁ♪岬君は。」
『ぱっ』とシャツを落とし。『すっ』と近づいて。『ちゅっ』とキスを掠め取る。
「・・・今晩・・ね?」
翼は岬の耳元で囁いて練習再開の合図に駈けて行った。
「あぁ。残念。夜伽権を取り損ねた。今日は諦めるけど、明日の休みは譲ってくれるかい?」
三杉の言葉に岬はやっと正気に戻る。
「えっ?うん。あ!練習、練習!」
駆けていく足元は地についていない。(今からの練習、セーブしちゃおっかな〜?)なんて考えているのは三杉にはお見通しだ。
(岬君。今からの練習、1割・・いや!2割増し!大サービスだよ。ほんとは2倍にしても足りないくらいなんだからね。)手に持つ練習メニューに一筆加えながら三杉はにやりと笑った。


そして休日。三杉は翼とのデート権を獲得し、嬉々として待ち合わせ場所に向かっていた。手にはプレゼントの入った紙袋を持って。
(昨日の事で思い付いたのでつい、買ってしまったけれど・・・翼君、怒るかな?)
怒るかな?などと心配している割には三杉の顔はだらしなく緩んでいた。
「あれ?翼君!・・・すまない。遅くなってしまったかい?」
待ち合わせの時間にはまだあと10分くらいあるのに、いつもなら遅れてくることの多い翼がすでに待っていた。
「ううん。今来たとこ〜♪」
噴水の淵に座りながらこちらに手を振って答える翼に駆け寄った三杉は彼の姿に絶句した。
丈の短いTシャツに思いっきり股上の浅いヒップハングのジーパンからは下着が覗いている。ゴムの部分にぐるりとロゴの入ったそれは『見せパン』ということか?翼のへそ出しルックに三杉はくらくらした。
「ね?どう?」
言いながら立ち上がる。(まただ。いたづらの続きなんだね?翼君。)
「似合う?」
(似合う!似合うよ!翼君♪僕はもうくらくらしてるよ。でも・・・)
「だめだ!」
「えっ?・・・」
いつになく語気の荒い三杉の言葉に翼はたじろいだ。シュンとして上目遣いに機嫌を伺っている。
「かわいい翼君のおへそを人目にさらすなんて僕には耐えられないよ。好きなのを買ってあげるからもっと丈の長いシャツを着てくれるかい?さぁ、買い物に行こう!」
座っていただけでもちらちらと翼へ向かう視線を感じられたのに、立ち上がってからはあからさまに周りから強い視線を向けられている。
それが嫌で早くこの場から立ち去ろうと三杉は翼の手を取って歩き出した。
「・・待って!」
「・・?・・」
制止の言葉にけげんな顔を向ける三杉の手を自分の腰に・・腰より前までくるように持ってきて、ぴたりと体を密着させながら翼は三杉の耳元に囁いた。
「人に見せるのが嫌なら、こうやって、三杉君が隠してて?」
「・・!翼く〜ん♪・・」
三杉はもうめろめろだ。メロンパンナのめろめろパ〜ンチvを喰らったように。目はハート。きっと腰にもきてるだろう。(笑)まんまと翼の術中にはまっていった。

「・・・あ、もしもし〜♪岬君?そっちどうだったぁ?」
本日の戦利品をがさがさと広げながら、同じ作戦を張った黄金のパートナーへ電話する。
「・・うん。欲しかったスパイクと〜あと、シャツとか〜、お揃いで着るんだってアルマーニのスーツ買ってくれた〜♪それから〜・・・あれ?そうだこれって最初から三杉君が持ってたやつだ。なんだろう?」
ばりばりばり。包み紙を豪快にやぶっているであろう音が聞こえる。岬はそういう物をきちんと丁寧に外していく性質なので(性格が現れているよなぁ)なんて思いながら受話器の向こうからの言葉を待った。
・・・が、沈黙が流れるばかりだ。不思議に思ってこちらから問い掛けてみる。
「翼君?どうしたの?何が入ってたの?」
「・・・チャイナドレス・・・」
「・・へ?・・」
ちゃいなどれす?耳慣れない言葉を聞いて理解ができない。チャイナ・ドレス・・・。ようやくそれの形が頭に浮かんできた。
「翼君・・・。チャイナドレスって聞こえたんだけど・・それって、僕の聞き間違い?」
しゅるしゅる。返事の代わりに衣擦れの音が聞こえた。
「ううん。聞き間違いじゃないよ。チャイナドレス。・・しかもサイズバッチリ。隙間もないくらいだ・・・。」
「・・さ、さすが三杉君・・だ・ね?」
なんと言っていいか?返事に困ってしまう。
(そうか〜。昨日おへそがちらちら見え隠れしてたの見て、今度は裾がちらちらするチャイナドレスを着せて見たくなったのか〜。)
返事には困ってもそれの意味するところは、はっきり分かった岬だった。
「いつの間にサイズ測ったんだろ〜?」
(そんなの、夜に決まってるじゃない。)と、思うが口には出せない。
「あぁ!着てみてくれたんだね!?似合うよ〜♪翼く〜ん♪」
嬉しそうな三杉の声が後ろから聞こえてきた。
「わ!三杉君。今電話中・・・・・・ま、またね。岬君!」
ぷつっ。つーつーつー。慌ただしく電話は切れた。
「翼君、ご愁傷さま〜。お支払いの時間だね。・・・チャイナドレスか〜。そんなのがいいのかな?」
ぶつぶつと独り言をつぶやいて考え込む岬はまだ気付いていなかった。彼の背後にはぐぐっとスリットの入ったピンクのチャイナドレスを持ってにやついている熊さんが迫ってきていることを。

ご愁傷さま〜。お支払いの時間ですよ〜。



END