「ここが君の部屋だから。相部屋の子も今日の午前中に着くという話だし、、そのうち来るだろう。まぁ、昼食までまだ時間はあるから、ゆっくりしてくれ。」
「はい、ありがとうございます。」
案内係りの先輩が去り、部屋に入ると、岬は二段ベッドの下段の方に荷物を置いた。
「10時か。まだ割と静かだし、入寮した人、少ないのかなあ。」
3日後に入学式を控えた南葛学園。
全寮制の為、新顔がたくさんいるはずなのだが、ギリギリに入ってくる者が多いのか、まだ『1年生』という初々しさを感じる者は少なかった。
今、部屋に入った岬もその少ない者の1人である。
(相部屋の人も今日来るって言ってたけど、どんな人なのかなあ・・・。)
なんて思いながら、カバンを開ける。
とりあえず、着替えることにした。入寮ということで着て来た服は、なんとなく堅苦しい気がした。
岬は薄手のトレーナーとジーパンを出し、着ていたブレザーの釦に手をかける。
バサッバサッと着ていた服をベッドに投げ、トレーナーを着ようとした、その時。
ガチャ
ドアの開く音がして、自分より一回り大きな体の男と目が合った。
お互い見詰め合ったかと思うと。
「すみませんっっ!」
と、その男は、あわててドアを閉めた。
「え?」
一瞬の出来事に、岬は目をパチクリしていると、廊下で笑い声がし、又すぐにドアが開いた。
そこには、今あわててドアを閉めた男と、先程岬を部屋に案内した先輩が二人して立っていた。
「あ・・・あの、すいません。・・男子校っていうの忘れてて・・・、その、・・女の子と間違えてしまって・・・。」
その男は顔を赤くしながら、ボソボソと言う。
隣の先輩は苦笑いを浮かべながら、
「岬はかわいいからな。まぁ、ヤローばっかだと女に飢えててとち狂うヤツもいるが、初日からこんなヤツもいるとはな。せいぜい、気をつけることだな。」
と、無責任な一言を残して、さっさと行ってしまった。
「えっ、え〜〜〜っ!僕がかわいい〜〜〜??」
岬はいかにも心外だ!という顔付きで男を睨む。しかし、本気で怒った訳ではないのか、すぐに笑顔になった。
「そんなトコに立ってないで入ったら?ここが君の部屋になるなら、僕と同室ってことだよね。ヨロシク。僕は岬太郎。君は?」
その表情を見て安心したのか、男の方もドアを閉めながら、
「あ、俺、若林源三だ。・・もう、怒ってないのか?・・・その・・?」
「う〜〜ん、実は悔しいけど、時々言われるんだ。その、友達にも・・・。あ、友達っていっても、日本人じゃないから、ちょっと日本人のいう、『かわいい』とは意味が違う違うかもしれないけど・・・。でも、やっぱり、男がかわいいって言われてうれしい訳ないだろ?」
「まぁ、そうだな。」
と答えながら、若林は岬をチラッと見る。
(でも、やっぱりかわいいじゃ、ないか。俺の高校生活、案外HAPPYかも・・・)
そんな若林に気がついたのか、岬は脱ぎ捨ててあった制服の横にあった枕をつかむと、若林に向かって投げつける。
バフッ
「いってぇ」
みごと顔面に命中した枕をつかむと、岬に投げ返す。
岬はそれを上手く受け取る。
「何、するんだよ!」
「鼻の下のばしてるからだよ。男の着替えを見て、何が楽しいんだよ!」
「う〜〜ん、俺、岬くんに一目惚れかな?」
ニヤニヤと笑いながら、冗談とも本気ともわからない風に答えた。
「!!」
顔を赤くしながら岬は、カバンと制服を持って二段ベッドの階段を上がる。
「ベッド、僕が上、使うからね、いい?!絶対、上がってこないでよ。君、危なそうだから!!」
そう言って、ベッドの上に隠れてしまった。
「お〜い。ごめ〜〜ん、岬さ〜〜んvv仲良くしようよ〜〜っ。」
と、若林が下から見上げると、しばらくして、
「冗談、冗談。これから仲良くやろうね、若林くん。」
ニッコリとした顔がベッドの上から覗いた。
「こちらこそ、よろしく頼むよ。」
返事をしながら、若林は内心
(うんうん、何回見てもかわいい。マジで惚れちまうかも)
と、思っていた。
若林源三、15歳。青春まっただなか。
END
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