南葛学園物語―3―   (告白)



一学期も無事に終わり夏休みに入った今、南葛学園の寮は自宅に帰った生徒達により、ガラン・・・・・としてはいなかった。
夏の大会に向けて、運動部に所属する者はほとんど寮に残っていたからだ。
その大会が終わって家に帰る者もいるのだが、やはりスポーツで有数な学校とあってまだまだ大勢の生徒が残っていた。
そして、サッカー部も例にもれず順調に勝ち進み、未だに残っている部の一つであった。




「ピーーーーッ。今日の練習は終わりだっ。一年共は後片付けをしろーーーーーーっ!!」
先生の笛の合図に、今までフィールドを走り回っていた先輩達がぞろぞろと部室へ戻る中、一年生達はガタガタとボールやネット等の器具を片付け始めた。
もちろん、やはりわきまえる所はわきまえるという事ですでにレギュラーを勝ち取っている翼、若林、岬も他の一年生と一緒に道具を器具庫へ運んでいた。
「今日も疲れたね。」
「うん。でも、翼くん、まだまだサッカーやり足りないって顔だよ。」
「あ、わかる?う〜〜〜ん。実はもうちょっとシュート練習したいな〜〜って・・・。ちょっとやっていこうかな。岬くんもちょっとだけ、付き合ってくれない?」
岬はいつも翼の練習に付き合ってくれていて、今日もそれが当然と翼は思っていたのだが。
「あ・・・・。ごめん。今日はちょっと・・・。」
「え、どうしたの?何で?」
まさか断られると思っていなかった翼は、以外な返事にちょっと声が大きくなる。
その声が少し離れた所にいた若林にも聞こえて、思わずネットを片付ける手が止まり、ついつい近くまで走ってきてしまった。
「どうした?何かあったのか?」
いつも気になって仕方がなかったのだが、あまり顔を突っ込んで岬の不評を買ってはいけないと思い、若林は気になる自分を抑えて二人のやりとりを聞き流していた。
しかし、翼の声についつい今回は声を掛けてしまった。
本来なら大騒ぎするほどの事ではないのだが、若林にまで出てこられて翼は思わずぶっきらぼうになってしまう。
「別にたいした事じゃないよ。若林くんには、関係ない。」
相もかわらず岬を挟むと、若林に対する態度が冷たくなってしまう。岬が間に入らなければ、結構ウマが合うのに。
「あぁ、ごめん、若林くん。ちょっとね、僕が自主練習に付き合えないって断っただけなんだ。」
岬のちょっとしたフォローに、彼の優しさを若林は感じた。
(ほんと、岬って気が回って・・・っていうか、優しいよな。ちょっとした事なんだろうけど。俺、増々岬が好きになっちまう。)
一つ一つは些細な事なのだろうが、そんな小さな事でも岬の行動や気配りに若林は心惹かれていくのが自分でもわかった。
と、同時にそれは翼にもいえることなのだが。
(岬くんって、本当に優しいな。俺、ついついムキになっちゃったりする事あるけど、それを上手くフォローしてくれて・・・。やっぱり岬くんて、俺のパートナーにぴったりだ。)
結局、岬のおかげで特にもめる事なくその場は終わり、そして岬は片付けが終わると同時に早々に姿を消してしまった。








若林は、自分の部屋で夏休みの課題である数学の問題集を解いていた・・・・つもりだったが、手は全然動いてなかった。
(岬、どうしたんだろう?たしかにいつも翼と練習してるのに今回はあわててどっかいっちまったな。・・・・でも、時々フッと消える事あるし。一度聞いてみようかなあ〜。でもなぁ、いくら同室ってもそこまでいろいろと聞いちゃまずよなぁ。あ〜〜〜〜っ、気になるっ!!)

トントン

どきっ!
「若林くん、いる?」
一瞬、岬かと思った若林だったが、以外にもそれは恋のライバル(?)である大空翼の声だった。
「おうっ、あいてるぜ。」
静かにドアが開くと、翼はゆっくりと中に入ってきた。
「話があるんだ。岬くんについて・・・。ちょっといい?」
岬という名前に思わずドキリとする若林だったが、平静を装いながら答える。
「あぁ、適当に座ってくれ。何だ?話って。」
「うん。・・・・あ、岬くんのイスってこっちだったよね。」
さも当然のように岬の使っている椅子に座るのに内心、ムッとする。
「で、何だよ。話って。」
無意識に刺があるような言葉使いになってしまう。
「岬くん、よく手紙貰ってるの、知ってる?」
「手紙?」
「俗に言うラブレターってヤツだよ。」
若林には初耳だった。
(ラブレター??岬に?一体どこから??ここは男子高で寮生活で、外で女の子と接する機会もなければ、そんな女の子が手紙を岬に渡す事なんてできないハズだろ?俺は見た事ないぞ!!)
若林の驚きに翼は呆れたような、それでいて優越感を感じているような、そんな表情をする。
「同室なのにそんな事も知らなかったの?のんびりしてるねェ。俺、前から知ってたよ。」
(翼は知ってた??一体どういう事なんだよ!)
「何が言いたいんだよ。翼」
頭に血が上るのを感じながらも、若林はそれを悟られないようになんとか普通に会話をしようとする。しかし、隠したつもりでも翼にはわかってしまうのだが、それはあえて言わないで話を続ける。そんな事を言わなくても話の内容によって、益々若林が興奮するのはわかるから。
「岬くん、若林くんに何も言わないってことは、関係ないと思っているんだね、きっと。」
「だから、何だよ?」
「今日もね、多分呼び出されてるんだよ。誰かに・・・。結構あるみたいだよ、こういうの。俺、前に相談受けたんだよ。よく呼び出されて告白されるって・・・。三年生が多いみたいだけど・・・。多分、あれかなぁ、卒業すると寮から出なきゃいけないだろ。だから、遠くに離れちゃう前にって。」
若林は自分でも気がつかずに翼を睨んでいた。
そして、翼もそれをしっかりと受け止めるようにして、言葉を続ける。
「で、岬くんに聞いたんだ。岬くんの本心ってどうなの?って。そしたら、別に好きな人がいるって・・・。誰にも言ってないみたいだし、その人にも告白するつもりはないみたいだけど。それがどうやらクラスメイトらしいんだよねぇ。名前言わなかったからはっきりとはわからないし、俺の推測だけどね。多分、俺の思うに、岬くんが好きなの、俺か若林くんのどちらかだと思う。」
「何でそう思うんだ?」
「しっかり聞いた訳じゃないしそれ以上言わないからわかんないけど、何かにとまどってるような感じなんだ。俺、何も気にしないのに。岬くんだから好きなのに。」
キィと翼が座っている椅子が軋む。
翼は撫でるようにして、岬の机を触った。
「俺が思うに岬くん、きっと悩んでて、自分から直接言えないから相談って事で俺の気持ち聞きたかったんじゃないかな・・・って。でも、やっぱりまだ悩んでて。俺、待つつもりだけど。岬くんが、いつか自分の気持ちに正直になれる日を・・・。」
「待てよ、翼!」
半ば独り言のようになっていた翼の言葉を遮る。
「まだ、お前と決まった訳じゃないだろ?」
「でもさぁ、若林くんには何も言わなかったんだろ、こういう事。だったら―――――。」
「岬がはっきりお前が好きだ、って言った訳じゃないんだろ?」
「でも――――――。」
「俺は自分から言う。それでふられたら、お前の言う事を認める。」
「若林くん・・・・。」
翼はしばらく俯いていたが、ふっと顔を上げると若林と目を合わせる。
若林は真っ直ぐに翼の瞳を射抜くように見つめる。
翼も又、その若林の目を逸らすことなく受け止める。
「俺、若林くんの事、たしかに岬くんを巡っての・・・・そして、サッカーでもポジションが違ってもライバルだと思ってる。でも、男として若林くんの事、嫌いじゃないよ。むしろ好きな方だと思う。たしかに岬くんと一緒にいる所を見るとムッとしちゃうけどね。」
「俺もだよ、翼。」
若林の威勢の良さに妙なさっぱり感を感じた翼は、ニコッと笑って部屋を後にした。
「岬くんがどっちを好きでも、恨みっこなしだよ。」






しばらく待ってても岬は帰ってこない為、若林は一人で夕食を摂った。
(遅いなぁ、岬のヤツ)
しかし、さすがに若林が食堂から戻ってきた頃には岬も部屋にいて・・・・。
「あ、若林くん。お帰りなさい。」
そう言葉にしたものの、どことなく元気がなかった。
「あ、お前いなかったから、先にメシ食っちまったけど・・・。食べに行かないのか?」
「うん・・・。なんとなく食べたくないんだ。今日はいい・・・。」
表情もどこか暗い。それを何とか明るくしようと若林は、言葉を発する。
「ダメだぞ!!スポーツ選手は体は資本なんだから!」
「スポーツ選手って・・・、僕達まだ高校生だよ。」
「そうそう、その高校生ってのは成長期なんだから、たくさん食べないと大きくなれないんだぞ!岬は体細いんだから、もっと食べないと!!まぁ、食べ過ぎて俺みたいにパンパンになっても困るけどな。」
と、若林は今食べてきて大きくなったお腹をポンと叩く。
それを見て岬はニコリと笑った。
「やっぱ、岬は笑顔が一番いいよ。」
「そ・・・・そう?」

――よく呼び出されて告白されるって・・・―――

さっきの翼の言葉が頭を過ぎる。
(何かあったのか?断って何か言われたのか?)
「さっきまで、どこ行ってたんだよ?」
咄嗟に若林は先程の翼の言葉が気になって岬に聞いてしまった。
岬はビクッとする。
「うん、ちょっと・・・。」
口ごもる岬に思わず若林は声を上げてしまった。ほんの少しだが・・・。
「告白されたのか??誰かに呼び出しくらって・・・。」
瞬間、岬は「え?」という顔をして、若林を見る。
「どうして・・・それを?」
「俺だってバカじゃないさ。わかるよ、岬のことぐらい。」
「翼くんだね。」
せっかく岬にはだまっておこうと思ったのに、あっけなくばれてしまう。どうやら若林はウソが下手なようだ。しかし、そこが若林のいい所だと岬は思う。
ふうと岬はため息をつく。
「まったくもう、翼くんは・・・。人には話さないでって言ったのに。」
「あ・・・でも、翼には翼の考えがあって―――――。」
「うん、怒ってる訳じゃないから。わかってるよ。」
「俺には話してくれないのか?」
普段はどちらかと言うとふざけている事の方が多い若林がいつになく真剣に話をしてくれてる。
(翼くんが話したならある程度ばれちゃってるな・・・)
俯きながらポツリポツリ話し出した。
「うん・・・。実は手紙を貰って、さっき話してきたんだ。相手の名前は言えないけど、三年生で・・・。僕と付き合って欲しいって・・・。でも僕、そういう同性で付き合うってどうしていいかわからないし・・・。お断りしたんだ。そしたら、ちょっと・・・。」
「何か言われたのか?」
思わず顔を上げ、又静かに俯く。
「うん・・・。八方美人だって。そんなつもりないんだけど。」
(「俺は自分から言う。」・・・今言うしかないよな!)
「岬は好きなヤツ、いないのか?俺はいるぞ!」
「え?」
「言っちまえよ、好きなヤツがいるなら。同性とか、そんなの関係ない。俺はいるゾ!好きなヤツは同性だがそんな事気にしたってしょうがない。好きなものは好きなんだ。」
「若林くん・・。」
岬は、突然の言葉に思わず若林を見つめたまま動けないでいた。
「俺は岬が好きだ。男だろうが女だろうが関係ない。岬 太郎が好きなんだ。」
岬の目は一層見開かれた。どう反応していいか、わからないでいる。
「言ってくれ。岬は誰が好きなんだ?翼か?俺か?もちろん、俺だとうれしいが、そんなことより何より岬の気持ちが知りたい。どんな答えだろうとかまわない。正直に言ってくれ。」
岬はしばらく固まったまま動けないでいた。
翼のように遠まわしに『いつか話せる時がきたら』ではなく、ストレートに『今、本音を聞きたい』というのだ。
何て真っ直ぐで、何てはっきりしているんだろう。
若林のこのストレートな性格が岬にはうらやましくて、又、好きでもあるのだ。


(やっぱりちゃんと言わなきゃ若林くんに申し訳ないよな。)
そう決めると岬は一呼吸おいて、ゆっくりと言葉を発する。
「僕が好きなのは、―――――――君だよ。若林くん・・・・。本当は言うつもりなかったし知られたくなかったから、よく手紙をもらったり告白されてるのは黙ってるつもりだったけど・・・。それに正直、僕は自分自身の気持ちにとまどってたんだ。どうしていいかわからない。でも君が好きな事にうそはないよ。」
「み・・・岬・・・。」
若林は、岬の言葉にうれしくてうれしくて、抱きしめたい衝動にかられた。
しかし、ここで自分の気持ちをぶつけるだけで、岬の気持ちを無視するような事は出来なかった。そして、岬の続く言葉に又、その衝動は押さえ込まれる。
「そして・・・翼くん。」
「翼・・・?」
「翼くんは君みたいにハッキリとは言わなかったけど、僕に好意を持ってるくれてるのは少なからずわかってるつもりだよ。その気持ちも僕は正直にうれしいし、たしかに翼くんの事、嫌いじゃない。だから人からみればたしかに八方美人なんだよ、僕は。」
今度は若林の方が動けなくなっていた。
(俺の事好きだけど、翼の事も好き?)
しかし――――と若林は思う。
(それが今の岬の本当の気持ちなんだ。どんな答えでもいいと言ったのは俺だ。そして、これが岬が出した答えならそれを受け止めるしかない。)
「岬・・・。俺は・・・・、正直、岬が俺だけを好きでいてくれるとうれしい。けどそれが今、岬の本当の気持ちなら、俺は素直にそれを受け止める。翼じゃないけど、俺は待ってるよ。岬が自分の気持ちに整理がついて、俺だけを思ってくれる日が来るのを・・・。」
「若林くん・・・。ごめん。」
俯いて静かに謝る岬に、若林は頭をポンポンとなでる。
「明日、その岬の正直な気持ちを翼にも話してくれないか・・・。」
「うん・・・・。」


時刻は消灯時間になろうとしていた。



END










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コメント:久しぶりの続きです。(遅くなりました〜)
少しは進展・・・と思いきや、いきなりかっとんで進んでしまったような気が〜。(汗)
でも三角関係にかわりなし!(源岬ファンの方、すみません)
早々に決着つけてもつまんないしね〜。(と、いうことは寝返り有り??いや、そんなことはないでしょう・・・。多分)
それにしても、ほんとに支離滅裂な話だ・・・・。すみません。出直してきます。