愛ではなく?8
汚れた体を洗うため、ゾロは着替えを持って風呂場に入る。ルフィは何の戸惑いもなく中にまでついてきた。 今は湯船に湯は張ってなかったが、シャワーでと考えていたので、気にもせずにゾロはそのまま洗い場でコックを捻ろうとしたら、ルフィが湯を張りだした。 「ルフィ。湯に浸かるつもりはないから・・。」 申し訳なさそうに言うゾロにルフィはニカリと笑う。 「体暖めなきゃダメだ!」 と言っても、湯船は広い。かなり時間がかかりそうだ。 そもそも、時間帯が時間帯だ。風呂場はかなり冷えていた。さっさとシャワーを浴びてここから出たかったのだが。 「その間に体洗っときゃいいだろ?」 「・・・・・。」 ルフィは、自分ばかり先に体を洗い出す。普段めったに風呂にも入らないのに、珍しい。 いや、先ほど、ゾロやサンジの傍に寄り臭いや汚れが移ってしまってたから、洗わないといけないのは一緒か。 と、サンジもまた汚れは取れていない。サンジも一緒に川で洗ったのだが、それだけではゾロ同様、臭いは取れていないし・・・それに・・・。 ゾロは頭をブンブン振って、ルフィの隣で石けんを泡だて始めた。 お互いに横に並びながら、体を洗っていく。頭を洗っている時は会話は無理だから無言で場も静かだったが、頭を流した後、ルフィは口を再度開いた。 風呂場の中も、蛇口から出てくる湯気で少しずつだが温度が上がり、ほっとするような空間になってきた。 「なぁ〜、ゾロ?お前・・・サンジの事、好きなのか?」 いきなりそこか!? ルフィの遠慮ない質問にゾロの手が止まる。 「ゾロ。正直に話せ。」 ルフィもゾロとサンジのことを気に掛けてるのがわかった。 「あぁ・・・船長。」 一旦言葉を切って、深呼吸をする。そして今度は、顔をルフィに向けた。ルフィもまたゾロを見つめている。 「俺はあいつが・・・・サンジが好きだ。」 いつも呼ばない名前を口にして、正直に己の気持ちを吐き出した。 途端、ルフィは「そっか」とニコリと笑った。安心したような笑顔を見せると、自分ばかりさっさとまた体を洗い始めた。 あっけにとられるゾロに「先に湯に浸かるぞ」と泡を流して立ち上がる。湯船に入る通り様にゾロの体に鼻を近づけてクンクンと臭いを嗅いだ。思わず怯むが仕方がない。好きなように臭いを嗅がせると、悪臭はほぼ取れたのか、「よし!」と頷いて先に湯に入った。 この船の大工は優秀なだけあって、湯もすぐに溜まるように作ってあるのだろう。すでにたっぷりの湯が張ってあり、ルフィは気持ちよさそうに体を湯に浸けていた。大量に湯を出していたコックももう止まっている。お風呂に浸かるということは、心も体も温まる。 ゾロもルフィに倣って泡を落とすと、ルフィの横に並んで入った。 「ゾロ。お前が元に戻れたのって、サンジのお陰だよな。」 何故か確信を持って言うルフィだが、間違ってはいない。その通りだ。 「あぁ。あいつのお陰で、俺は元の人間に戻ることができた。」 チャプと音を立てて腕を湯から出す。淵に腕組をしてその上に顔を乗せた。ゆったりと体を温める。気持ちがいい。 船長には何でも話そうとゾロは思った。 「サンジとセックスしたから元に戻れたのか?」 バシャン!! 思わず、滑って頭が落ちた。 ザバリと顔を上げて髪から滴る湯の間から船長を睨みつける。ルフィはキョトンとした顔をしてゾロを見つめていた。 「違ったのか?」 「な・・・・・・な・・・なんで・・わかった?」 「いや。・・・なんとなく?」 首を傾げて邪気のない表情でゾロを見るルフィ。恐るべし船長。 色恋沙汰には縁がない、知識がないように見えてたのに。いや、年齢からすれば知っているは当たり前だが。 しかし、純粋な目をしてゾロを見つめているあたり、本当にわかってるのだろうか心配になる。 「何だよ、ゾロ。そう睨むなよ。ちゃんとセックスが何だかわかってるって!」 屈託ない笑顔が言葉に似合わない。 ゾロは大きくため息を吐いた。 「別にそれ以上はいろいろ聞かねぇから、安心しろ。あ、ただこれだけは聞いていいか?」 「何だ?ルフィ。」 もう驚かないぞ、とゾロは顔から滴る滴を拭いながら固い決意でもってルフィを横目に見た。 「サンジとは夫婦になるのか?」 バシャン やっぱり湯の中に滑り落ちた。 ザバリともう一度復活して、ボタボタ落ちる湯の間からルフィを見た。ただし、今までになく真剣な瞳でもって。 「夫婦ってのとは、ちょっと違うが・・・。・・・・・一生あいつの傍にいたいと思う。お互いの夢をお互い見届けて、その先もずっと一緒にいたいと思ってる。俺達は海賊だ。この先どうなるかはわからないが、・・・・・それが正直な今の気持ちだ。」 「そうか。」 「ルフィ。・・・・お前は俺達の仲間として、この船の船長として、俺達の仲を認めてくれるか?」 じっとお互い真剣な瞳を向ける。 が、突然にっとルフィは笑った。 「お前らの気持ちが真剣でそうしたいってのなら、そんでいいんじゃねぇか?許可なんかいらねぇよ。」 「しかし・・・・一緒にこの船で旅をするんだ・・・。」 「好きにすればいいんじゃねぇか。もし、お前らの仲を反対するヤツがいるなら、そいつに納得してもらうまでとことん闘うまでだろ?」 闘うって・・・戦闘か? いや、そうじゃないのはわかる。相手が納得するまでとことん伝えるのみだ。 ゾロは預けていた顎を上げて、今度は後の方へ行き、壁に頭を凭れさせた。ルフィも同様に壁に凭れる。湯が心地よく、体もすっかり温まった。 「ま、いろいろ言うつもりもねぇし、お前は聞くつもりもないだろうが。これだけは、言っとく。」 「・・・なんだ。」 壁に頭を預けたままルフィがゾロを見た。ゾロは天井を見つめたまま。 「俺が人間に戻れたのは、セックスしたからっていうよりも・・・どんな状態の俺でもあいつが受け入れてくれたからだ。ま、その形がわかりやすく、・・・・たまたまセックスってことにはなったんだろうが・・・。あいつの愛情がなければ、元には戻らなかっただろうな。」 ゆっくりとゾロは目を瞑って今朝現れたサキュロスを思い出す。 サンジの体内に想いをぶちまけて、ゾロはゆっくりと体を離した。サンジは気を失ってしまったらしく、身動ぎしない。 はぁはぁと己の息使いだけが空気を震わせた。 それまで動物の本能に支配された状態と言えば良いのだろうか。化け物になった途端、性への衝動が止められなくなってしまた。 体が変化した最初にサンジを襲ってしまった時は、あまりの衝撃に、その場を逃げることで衝動を抑えたが、その後はどうしようもなかった。 自分が化け物になった自覚はあった。体から湧きあがる欲求が止められない。 誰でもいい。誰か、俺の心の、体の渇きを潤してくれ。誰かこの性への衝動を受け止めてくれ。 見る女性、見る女性、誰でもいいから、己を受け入れて欲しかった。 しかし、醜く、悪臭を放つ化け物を受け入れてくれる人間などいるはずがない。 もはや言葉もしゃべることが出来ずに、訴えようとする口からは咆哮しか出なかった。 誰か、わかってくれ。誰か、受けとめてくれ。俺を愛してくれ。 訴えれば訴えるほど、人々は逃げ惑い。または、武器を持って倒そうと追いかけてくる。人を殺める衝動が湧き上がっていたわけではないので、なんとか人を殺さずに逃げることが出来たのは幸いだった。血を求めるような衝動が湧きあがっていたら島はとてつもない惨状になっていただろう。それだけ、己の中の理性が本能に勝てなかったということだ。 それならば、と森へ逃げた。誰も受けとめてくれる人間もいない。ただ化け物と追いかけられるだけ。 森の奥には己と同じ化け物がいるのだろうか。なんだかひどく懐かしささえ感じるような気がする。 仲間がそこにいるのだろうか。心のどこかで呼ばれているような気もして森を彷徨った。 そして、見つけた。 自分を受けとめてくれる存在を。 本能に支配された中でも、どこからか湧き上がった感情が目に入った男を求めた。結局、それは最初に襲ったサンジだったのだが。 あぁ、こいつなら俺を受け入れてくれる。満たしてくれる。何故か、今さらそう思った。 いきなり攻撃はされたが、上から押さえつけた時、自分を見つめる瞳に何かが訴えてきた。 好きだ。 愛してる。 心の奥底から湧きあがって来る感情が、本能で支配された欲求と相まって、目の前の男を抱き締めた。 その男もまた、自分と同じ感情を向けてくれたのが、何故だかわかった。 毛で覆われていてどこに肌があるのかわからないだろう頬に、そっと手を添えて、見つめる瞳が優しさと愛しさに満ちていたと言っていいだろう。 あぁ、俺は受け入れてもらえるんだ。 後は欲の赴くまま、男を抱いた。しかし、ただ本能に翻弄されるだけの勢いだけでなく、優しく、彼もまた幸せを感じてもらえるような、そんな抱き方をするように努めた。それは、彼に伝わったのだろう。絶頂を迎える瞬間の彼の顔は怪物に抱かれる苦しさの中にも、溢れんばかりの快楽と幸せを感じた表情をしていた。 幸せだった。己がどんな生き物だろうが、これからどうなるのかわからなかろうが、ただただ幸せだった。 ずっとこうしていたかったが、気を失った彼をこのままにできなくて、抱き上げようとした瞬間。 体がドクンと波打った。 なんだ、これは!? ドクドクと血が逆流するような興奮、熱さ。 死んでしまうのかと思うほどの苦しさが身体中を襲う。 「ぎゃ・・・・あ・・・ぁぁぁぁ・・・・・・・。」 彼を抱き上げる前で良かった。抱き上げていたら落としていたかもしれな程に耐えられない苦痛。 「ぎゃああああああああっっっ!!!!」 気を失ったままだった彼の瞼が、あまりの絶叫にピクリと動いた。 パチパチと目を数度瞬かせてゆっくりと頭を上げる。 苦しみのた打つ自分に気付いたのだろう。精液で汚れた体のまま、傍に寄ってきた。 「大丈夫か!ゾロっ?どうしたっっ!?」 一生懸命介抱しようとするが、どうしていいのかわからないのだろう。オロオロするばかりだ。 ガクガクと震える腕に力が入って、傍に寄って来た彼の腕を掴んだがそれがあまりの強さだったのだろう。彼もまた呻いた。 強い力で抱き潰されるのも厭わず、彼は苦しむ自分を抱きしめて体の震えを押さえてくれた。 はぁはぁと息が荒い。どうしたら、この苦しみが収まるのだろうか。このまま死んでしまうのかとさえ思った。 お互いに抱き締めあうしか術がなかった。 が、更に苦しさが増した。あまりの苦痛に、抱きしめていた彼を投げ飛ばしてしまった。 「うわぁっ。」 ドカァンと木々の中に飛ばされた彼の方を目掛けて自分は苦痛から逃れるために暴れた。 ガァン、ドカァンと木々をなぎ倒す。枝をへし折る。石を投げ飛ばす。 それを彼は体を張って抑えようとした。 「ゾロっ!落ち着け、ゾロ!!」 すでに、化け物との戦闘と情交で体力を使い果たし、今も強い力で抱きしめられて自分も辛いだろうに、それでも彼は自分を落ち着かせようと、暴れるのを抑えようと抱きしめてくれた。 彼を抱きしめたまま、木々にぶつかっていく。地面に倒れ伏す。それでも彼は自分を抱きしめている腕を離すことはなかった。 どれくらいそうしていただろうか。 徐々に痛みが和らいでいく。と、同時に体から生えていた毛がポロポロと抜け落ちて行く。滑った体液が流れるのと並行して毛が体から滑り落ちて行った。 それに合わせて、徐々にだが意識がはっきりしてきた。 自分が誰かも、目の前にいる男が誰かもわかってきた。 それまでも意識がなかったわけではないが、本能が大半を締めていた今までとは比べようがないほどにはっきりとしてくる。 己が何者で、どうやって生まれぞ立ち、どのような過去何があり、どうやってここまで来て。そして、どうしてこの目の前の男に惹かれ想いを募らせていったのか。 人としての記憶と理性と感情を全て思い出した。 俺は・・・・。 はぁはぁはぁはぁ 荒い呼吸を少しずつ深呼吸に変えて、痛みを逃していく。そして最後の一本の毛が抜けたのだろうと思われる頃に、痛みは漸く収まった。 「はぁはぁ・・・・・こ・・・・・っく・・・?」 未だ名前を呼ぶことができずに呼ぶいつもの呼び名で、目の前の男を呼んだ。 彼はまた、自分を抱き締めたまま意識を飛ばしたかと思ったが、なんとか意識はあるようだった。 「よぉ・・・・クソ・・・・剣士・・・。ひさし・・・ぶり・・・だな・・・。」 ゾロが自分を取り戻したのがわかったのだろう。サンジもまたいつもの呼び名で、怪物だった、そして人間に戻った男を呼んだ。 「・・っ。」 抱き上げようとしたら呻いた。 苦しみのたうつゾロを抑えようとしていた際に、あちこちに体をぶつけられていたから、体中が傷だらけだ。 「大丈夫か・・・。今すぐ船に!」 最早自力で立つことはできないだろう、サンジを抱きあげて、気付く。彼の服はボロボロでほぼ全裸に近い状態だった。腕に絡まったシャツが残っているだけだ。 「くっ。」 ゾロに怪物だった時の記憶は残っている。 怪物に変化してしまった時のこと、衝動が抑えられずに、島で女性達を襲おうとして、自警団だろう連中に追われたこと。目の前にサンジが現れて抱いてしまったこと。苦痛に耐えられず、サンジを抱いたまま暴れてしまったこと。 悔やんでも悔やみきれない事ばかりだ。 その時。 「人間に戻れるヤツがいるとはな・・・。」 上から降って来た声に思わず顔を上げた。その声には聞きおぼえがあった。 サンジを抱いたままギッと声の方を睨みつける。 「お前・・・・確か、サキュロスとかいう・・・。」 「あぁ、森の精霊だ。」 「俺を化け物にしてよく精霊と言えるな・・・。」 声が低くなるのは仕方がないだろう。完全な敵とゾロは見なした。 と、サンジがゾロの腕を掴む。 「やめろ・・・・・。争うな・・・・。」 どうして止めるのかゾロにはわからない。が、サンジの言葉にサキュロスは「ほぉ」と感心した。 「この島の生態系に干渉するな・・・とか・・・・正論を翳すつもり・・・はねぇ・・・。だが、あいつは敵じゃねぇ・・・。それだけは・・・・わかる。」 「コック・・・。」 「その金髪の方がよくわかってるようだな。」 二人の会話に割り込んでくる声に再度ゾロは顔を上げて睨んだ。 四足なのに器用に大木の枝の上に立っている。 「俺はお前の欲を増大させたたけだ。お前の薄暗い思いがお前を化け物にしたのだ。」 「てめぇ!何を言う!てめぇが俺を化け物にしたんだろうが!!」 ぐっと拳を握った。 「それは違う。・・・・俺の術に嵌っても化け物にならない奴もいる。化け物になってしまう人間のが多いがな・・・。それだけ欲深で醜悪な人間が多いということだ。俺はお前達の欲望にほんのちょっと手を貸しただけだ。」 ぐっと言葉を飲み込む。 自分はどうだったかと聞かれたら、否定できない。剣士としては、誰にも負けるつもりはないしストイックに生きていると言われるほどの生活をしている。が、その実、心の中でサンジへの気持ちが溜まりにたまっていただろう自覚はある。 「ここに迷ってくるのは、大抵が愛に枯れている、または愛を欲している人間ばかりだ。それが、俺の術に嵌り欲を増大させたらどうなると思う。大抵の人間は性の衝動が止められなくて女を襲う。幸せに満たされている、欲望の薄い人間はここには辿りつけない。この島では、有名なことだ。」 「・・・・。」 「お前も心当たりがあるだろうが。」 ニヤニヤ笑う精霊と言う名の化け物に舌打ちする。 「そして化け物になった人間は、誰もが愛する人ですら愛想を尽かされて元に戻れなくなる。化け物になった者が元に戻るにはそいつが求めていた愛が満たされた時のみ。本当の愛があれば、元に戻れる。お前のようにな・・・。流石にここまでは島の人間は知らないが・・・。それにしても・・・。」 チロリとゾロの腕の中にいるサンジをサキュロスは見つめる。 「今まで、そんな者に会ったことはなかった。すでに愛を見つけているはずだろう、どんな恋人同士でも夫婦でも化け物になった相手を見ると恐怖し、慄き、逃げ惑った。結局、人間とは愛する相手を見つけたと言っても所詮上辺だけの者が多いのだ。化け物になった相手を受け入れて愛情を注いだ者は今まで誰一人いなかったのだが・・・。」 サキュロスの声は驚きを隠していなかった。 「その男の内を見ると、一見愛情とは程遠い言動が多いのに、その奥底は、・・・見えない部分が愛情に溢れているのか・・・。不思議な男だ。」 「だからこそ、惚れた。」 「そうか・・・。」 サキュロスは納得したかのように頷くと、「楽しませてもらった。」と笑いながら姿を消した。もはや、追いかけようという気はゾロには起きなかった。 そもそもが、自分の邪な想いが発端のようなものだ。あいつはただの切欠に過ぎないと反省しきりだ。 しかし、とゾロは思う。 サキュロスのかなり後方で、いくつかの気配があった。それは、先ほど己が発していただろう化け物としての気配。 あれらは、きっと愛を得ることができずに化け物になったまま、森で生きていくことになった人間達のなれの果てだろうか。一歩間違えば、自分もそうなっていたのだろうか。 そう思うとぞっとしないが、いや、と内心で頭を振る。 サンジを始め、自分達には夢があり、先に進むことしかできない仲間達だ。だから、きっとどんな方法でも仲間達の愛情によって自分は人間に戻れたのではないだろうか、という気がする。 実際は、己の欲から始まったことで、サンジへの愛情、そしてサンジからの愛情で人間に戻れたのだが。 「一体何がしたかったんだ。あの精霊ってやつは・・・。」 「精霊ってのは、どこの世界でも悪戯好きなんだよ。どうみても可愛げない悪戯だがな・・・・。てて・・・。」 ゾロの独り言にサンジが答え軽く笑うが、傷が痛むのだろう。眉を顰めるサンジにゾロは慌てる。 「すまなかった・・・・。詫びても取り返しつかねぇが・・・・。どこが痛い。」 ゾロの申し訳なさそうな顔にサンジは苦笑した。 「どこもかしこも痛ぇよ。ってか、あそこが一番痛ぇ・・・。」 「あそこ?」 「鈍いやつだなぁ・・・・。あそこって言ったらあそこだよ!!てめぇ、元々が結構デカイだろうが、化け物になったらさらにすげぇのな・・・。っっ。」 サンジの意味する事がわかって思わず赤面する。 「何今更恥ずかしがってんだよ!!どっちにしても全身汚ねぇし・・・。向こうに確か小川があったからそこで体洗って・・・・みんなが待ってるから船に戻ろうぜ。朝には戻るって言ってあるんだ。・・・・みんな待ってる。」 「あぁ・・・。」 立ち上がろうとして、サンジの足元が崩れた。1人で立つことも儘ならないらしい。口はよく動くが空元気か、無理をしているのか・・・。兎も角、体は正直で自ら動くことはできないようだ。 ゾロがひょいとサンジを抱きあげた。 「てめっ!恥ずかしいだろうが。」 鈍くても恥ずかしさが上回るのだろう。バタバタと暴れるサンジを押さえつけ、ゾロは抱き上げたままサンジを小川まで連れて行った。 ゾロはすでに先ほどの苦痛もなく、化け物だった時の苦しさも何もない。逆になんだかすっきりして体が軽いくらいだ。 「そりゃあ、出してスッキリしたからだろうが。 ちっと舌打ちして、「せめておんぶにしてくれ・・・。いたたまれねぇ・・・。」とぼそりと呟いた。 それは、船に帰る時でいいだろう、とゾロはサンジのセリフを無視して抱きあげたまま、小川の方までのしのしと歩いた。 ゾロの手を借りて、サンジも体を洗い。ゾロもまた、怪物の時に覆われていた体液を洗い流した。 せっけんがあるわけではないので、綺麗になったとはいえないし、臭いもまだまだ残ってはいたが、それでも多少はすっきりしたようで、漸く二人の顔から穏やかな笑みが零れた。 そして今度は、サンジの指示にしたがい、船に向かって戻る。さすがに今度はおんぶだ。 帰りの道中はほとんど無言で、時々、サンジが進路の指示をしただけで会話はなかった。サンジの状態を考えると一刻も船に戻るのが先だと思われたのだ。 「先、上がるぞ。」 ゾロは、ザバリと湯船から出て、さっさと脱衣所まで移動した。ルフィは、風呂嫌いな割には入ると長い。やはり気持ちがいいのだろう。そのうち、鼻歌が聞こえてきた。ゾロも戻って来たことだし、と機嫌がいいのだろう。 ゾロは手早く、体を拭いて着替えた。 サンジは、歩けないほどのケガではあるが命に別条はない。元々は丈夫な男だ。どちらかと言えば、ゾロとの情交による体の疲労は負担の方が大きかったのだろうとゾロには推測できた。 綺麗さっぱりしたところで、もう一度、サンジの顔を見たく、医務室へと足を向けた。 途中、ダイニングで朝食を食べずに街から戻って来た連中がナミの作った朝食を食べているのに遭遇した。 「ゾロ・・・。ルフィは?朝食、あんたも食べる?」 聞きたいことはいくらでもあるのだろうが、まだチョッパーが医務室から出て来ない。サンジのケガの状態がわかってから、そしてみんなが揃ってから話しを聞くつもりなのだろう。多少は固いが攻める口調ではなく、ごく普通に朝食をどうするか、尋ねてきた。 「ルフィはまだ風呂だ。」 「あいつ・・・・ご飯だからって慌てて出てくることもないなんて、めずらしいわね・・・。なんか、話したの?」 「あぁ・・・。まぁな。」 内容については言うつもりはなかった。皆に迷惑を掛けてしまったのだから、改めて説明をする必要はあるだろうが、今はサンジの方が気になった。 「あいつの容態を聞いてくる。メシは後で貰うから、悪ぃがそこに置いといてくれ・・・。」 言い方は不遜だが口調は申し訳なさが滲んでいるので、ナミは溜息を吐きながら、ゾロの言う通りにした。 パタンとなるべく大きな音を立てないようにして医務室に入った。 |
12.10.29