恋してる?愛してる?2




結局、ケンカになったまま朝を迎えた。
二人の仲は良いのか悪いのか、わからないままだ。
ナミは、あのあと一人でそっと涙を拭いながらケンカしている二人を置いて部屋へ戻った。
兎も角、一晩泣きあかした。多少目が腫れぼったい気がするけど、気分はすっきりしていた。赤い目は知らぬ顔で過ごせばいい。

もう寝ることはできないから、甲板に出て朝日を拝んだ。と、朝日が見え始めた頃、慌ててサンジが「朝食っっ!?」と叫んでラウンジへと走って行ったのが足音と声でわかった。彼も寝坊したのだろう。ナミのことは気づかなかったようだ。
ナミの方は手摺に凭れて海を見ていたのだが、あまりの早さにサンジが駆けて行ったのは足音でしか確認していない。
と、隣にゾロがやってきた。
ゾロもまたほとんど寝ていないようだ。

「あ、ゾロ。寝ていないの?」
「俺ぁ、寝ずの番だ。」
「あ、そっか・・・。」

手摺に頬杖をついて海を見つめたまま、ナミは溜息を吐いた。

サンジの「朝食」の言葉にルフィが「めし〜〜〜!!」と寝ぼけ眼で起き上ったが、またバタンと寝てしまった。外で寝ていてよく風邪をひかないものだと感心する。
それよりも、今のは一体何だったんだろう。夢で食事でもしているのか、口がもぐもぐ動いている。二人してルフィを見て、苦笑した。
結局、夕べは話がついたというより、混乱して終わり。
ナミの告白は兎も角、肝心のゾロの告白は流された感じで終わってしまった。


サンジが消えたラウンジへの扉に視線を一旦流して、ナミはゾロに声を掛けた。

「ねぇ、ゾロ。」
「何だ。」

先を促すゾロにナミは一旦躊躇するが、意を決したようにゾロの名前を再度呼んだ。

「夕べって、結局サンジくんとはどうなったの?」
「どうもこうも、ケンカして終わった・・・。」

ゾロの方こそ溜息を吐きたいという表情だ。

「ねぇ、サンジくんのどこが気に入ったの?」
「あぁ?そのことか・・・。言ったろ。一目惚れのようなもんだって。」
「最初、あのレストラン入った時は、ケンカでもするんじゃないかって思ったほど、雰囲気悪かったのに・・・。ま、夕べもケンカになっちゃったから、一見、仲がいいようには思えないんだけど・・・。」
「俺も思った。こいつとは、ウマが合わねぇ、って・・・。だが、違ったんだ。そういうことじゃなかった。・・・アーロンパークで戦った時に気付いちまった。こいつの戦い方は危険だ、ってな。自分を犠牲にして戦うタイプだってすぐにわかった。だからってわけじゃねぇが、性格も捻くれてるってのがすぐにわかった。だいたいの奴は一介戦えばどういう奴かわかる。あいつのこともアーロンパークの戦いでわかった。」
「それがどうして惚れた脹れたになるのかが、わかんないんだけど・・・。」

ナミは今度は、手摺の上で組んだ腕に顔を乗せて、ゾロを見上げてた。
ゾロはふんぞり返った表情で、ナミをチラリと見る。

「俺もだ。」
「なに、それ!?」

「はぁ?」と崩れた姿勢を戻してゾロを見つめる。ゾロの不遜な態度は変わらずだ。

「だが、そんなもんだろ?人を好きになるって・・・。それにウマが合わないんじゃなくて、気になるからあいつの行動を見ていて歯がゆくてイライラするんだってわかっちまった。」
「え?それって、サンジくんの事が心配ってこと?」
「そうなのかもしれんな・・・。」
「そもそも、あんたのような唐変朴が人を好きになるってのが信じられない!」
「そう言うが、その唐変朴に惚れたんだろ?お前は。」
「ぐっ・・・。」

言葉に詰まるナミにゾロは軽く笑った。
と、その時、サンジがバンとラウンジの扉から姿を現した。

「朝メシできたぜ〜〜!!」

朝ごはんを食べる時間帯としては、少し早い気もしたが、そもそも自分達はもう起きていて、夕べあれだけごちそうを食べたのにお腹の空き具合がいつもより早い気がする。ルフィは、いつでもどこでもお腹を空かしているだろうが。
叫んだ後また寝てしまったルフィも、今度こそしっかりと目が覚めたらしい。素早くウソップの鼻を掴むと、「ウソップ、朝飯!」と悲鳴を上げているウソップを引き摺ってラウンジへと階段を上がっていった。
会話はなんとなく中途半端だが、今すぐ何らかの結論が出るようなことではないので、兎も角、一旦はその話題は持ち越しだ。
だが、ナミはゾロに新たに言っておかないと、と唇をキュッと結んだ。

「どうした、ナミ?飯、喰わねぇのか?」

先にラウンジへ向かおうと階段に足を掛けたゾロが不思議な顔でナミを振り返った。

「ゾロ。言っておきたいことがあるの。」

ナミの様子に、まだ話が終わっていないのか、と内心肩を落としたかったが、それでも真剣な様子にゾロもまた表情を締めた。

「ゾロ。あたし、夕べ一晩しっかり泣いたわ。」
「・・・・。」
「それでね・・・。」
「あぁ・・・。」
「あんたの恋、応援することにしたから。」
「は?」

予想外の言葉にゾロの顔が驚きで固まった。
その反応にナミは軽く笑って、「じゃ、朝ごはん朝ごはん。」と、ニコニコしながらゾロを追い越して先にラウンジへと入って行った。
バタンと扉が閉まる音でハッと意識が戻ったゾロは、ナミが消えた扉を見つめた。

「そうか・・・。」

そう呟くと扉の向こうからゾロの名を呼ぶ声が聞こえる。ウソップがどうやらゾロの分も食べようとしているルフィを押さえているようだ。その叫び声に笑い声が混ざっている。
いい船に乗ったな、とゾロは思った。














それから数日、穏やかな日が続いた。
ゾロもサンジもあの宴会での告白はまるでなかったかのように、普通に仲間として過ごしている。とはいえ、やはり基本はウマが合わないとでもいうように二人の接触はケンカがメインだった。

青空の下、怒鳴り声が船内に響く。

「どうしたらロープがそんな風になるんだよ!奇跡だ、奇跡っっ!!さすがマリモだけあるぜ!!」
「何言ってやがる!てめぇの教え方が悪いからだろうが!!眉毛がぐるぐるだけじゃなくて、てめぇの頭の中がぐるぐるだから上手く教えられねぇんだよ!!」

最初は口ケンカだけだったのに、いつの間にか、ゾロは刀を抜いてサンジは蹴りを繰り出している。

その少し後ろでウソップがオロオロと小さな声で二人を止めようとしている。

「お〜い。ゾロくん、サンジくん・・・・。お願いだから船を壊さないでくれぇ・・・・。カヤの大事な船・・・。」

天気を確認しようとしてラウンジから出てきたナミが甲板の様子に眉を顰めて、ウソップの隣にやってきた。

「どうしたの、ウソップ・・・。」
「あぁ・・・ナミ。それがよぉ・・・船乗りの基本だからって、ロープの結び方をサンジに教わってたんだが・・・。」

二人を見るとケンカしつつもお互いにロープを手にしている。ゾロも片方の手は剣を握っているが、もう片方の手はしっかりとロープを手にしている。が、そのロープがありもしないほど捻じれて、もう解けないのではないかと思えるほどだ。

「あぁ、ゾロのロープ酷いわね。どうしたらあんな風になるの・・・?」

ナミが呆れた顔をウソップに見せる。
ウソップもまた横目でハラハラ二人を見ながらも、自分が手にしているロープをナミに見せた。

「本当はこれをやってたんだがよぉ・・・。」
「ボートランドノット(もやい結び)じゃない・・・。基本中の基本だけど、今頃こんなことやってんの・・・?」
「恥ずかしながら、俺、船の扱い我流だったからよぉ・・・・。サンジが乗る前は航海士ってことでナミに頼りきりだったろ?今更だけど、きちんとやっておかなきゃって思って・・・。サンジに頼んだら快く引き受けてくれて・・・で、ルフィとゾロなんかはまるっきり素人同然だから一緒にやった方がいいからって話になってよ。じゃあ、ロープからやろうってなって・・・。」
「そういえば、きちんと教えたことなかったわね、私・・・。」

ウソップの言葉に再度二人の方に視線を移すと、ルフィは端の方で自分がロープでぐるぐるになってた。

「ルフィのあれって・・・。」
「あぁ、なんでかわからんが、ロープが絡まって取ろうとしたら自分が絡まった結果だ・・・・。」

どうしたらできるのか不思議な状態で、船長は体にロープを巻きつけて床に倒れていた。その横でケンカは続行されている。そのため、ルフィは放置プレイ状態だ。本人もどうしたもんかと、腕を組んで唸っている。
ナミは呆れた顔でルフィの様子には無視を決め込んだ。暫くそうしておけばいい。

「でも、サンジくん、そんなに教え方下手なの?」

ゾロの怒鳴り声だとサンジの教え方がよほど悪いらしいが。

「そんなことないぞ。わかりやすいし、丁寧に教えてくれたぜ?ロープ結びは俺は基本のはわかるけど、あぁ、そういう覚え方をすればいいのか、って目から鱗だったぜ?」
「ってことはルフィだけじゃなく、ゾロも相当不器用なのね・・・。」

ナミはがっくり肩を落とすと、今だ続いているケンカに終止符を打とうと、ダン!と足を踏みならした。
と、今までわぁわぁ暴れていた二人の動きが、途端ビシリと止まった。

「いい加減にして!!船の扱いを覚える前に船が壊れるわ!」

腕を組んで睨みつけるナミに早々に反応したのはサンジだった。

「だってよぉ、ナミさんっ!このマリモってきたらよぉ、どうしたらロープがあんな風になんのか・・・・。」
「そりゃあ、さっきからてめぇの教え方が悪いからだって言ってんじゃねぇか!!」

くねくねナミに媚びるサンジにゾロがぼそりと呟いた。すぐに反応するサンジ。

「んだと、こら!!てめぇの頭にゃ葉緑素しかねぇからじゃねぇか!」
「んだと、このグルグル!!」

またまたお互いの胸倉を掴む勢いで睨みあう。

「ハイハイ!もういいから・・・。使えるロープがなくなっちゃうから、捻じれたのちゃんと戻しておいてよ!」

二人の間に入って睨みつける顔を遠ざけた。

これで惚れてるってんだから、ゾロも変わってるわよねぇ・・・。

ナミは内心、溜息を吐いた。

サンジくんも結構、ゾロのこといい感じに思っているように見えるんだけど・・・・違うのかなぁ?

結局、サンジがゾロのロープを受け取り固く捻じれてしまったのを解こうとその場に座り込んでしまった。ルフィの解放はその後だろう。「ちょっと待ってろ。」と声を掛けていた。

ただ面倒見がいいだけかしら?

一見サンジは、分かりやすいようでその実、コロコロ変わる表情からは内心が読み取れないような様子だ。
兎も角、ケンカは終わりだ。

「たずけてぇ〜〜〜〜。」

ロープでぐるぐるになって未だに身動きが取れないルフィが、情けない声で助けを求めていた。サンジは「チッ」と舌打ちしたのをウソップが「俺がやるよ。」と声を掛けた。
ウソップもケンカが終わったことにホッとしているようで、多少気が落ち着いたのか、ルフィの方に手を貸しだした。
ゾロは手を出そうとして、まわりに止められた。さらにルフィが絡まりそうだと言われて、拗ねている。
「私も手伝うわ。」とナミもウソップに倣ってルフィの方へ向かう前に、ふと思いついたことを口にした。

「ねぇ、サンジくん。私はルフィの方を指導するから、ゾロの指導をお願い。マンツーマンだったらなんとかなるでしょ?」

振り向きざまににっこりと笑って言うナミに、サンジは眉を思いっきり下げた。

「え〜〜〜〜!!そりゃあ、いろいろ教えるっつったけど、マンツーマン!?」

サンジの不満そうな顔にゾロが「ケッ。」と横を向く。

「え〜。俺は?」

ウソップが仲間はずれになった気分らしく、ウソップからも不満の声が上がった。

「ウソップは基本はできるんでしょ?自主練習よ!基本が終わって次の段階になったら呼んであげるから。」

ナミの取り決めに不満はあるものの、あまりに覚えの悪い二人を見て諦めたのか、ウソップは「わかりました・・・。」と元気ない声で手を上げた。

「船を動かすっていろいろやることがあるんだから!!基本の結びは今日中に覚えるわよ!」
「え〜〜〜〜!!おにぃぃ!!」

ナミのことを鬼と呼んだのは誰だったのか・・・。




11.09.5




         




なんだかわけがわからない話になってすみません〜〜〜。