魔女のいる海域 3




ルフィ達が帰ってきてから、とりあえずと夕食を食べた。
久しぶりの食事にみんな喜んで取り合いだ。もちろんお腹を空かしていたから、島に下りた時に多少なりとも腹ごしらえはしていたが、食事はまた別物なのだろう。ナミの料理もサンジほどではないが、美味い。元々料理は上手なナミだ。誰もが喜んで腹を満たした。
どの皿も空になった頃、ナミが改めて話を切り出した。
「明日早朝より、街の裏にある山に登ってこの海を祀っているというお社に行ってみようと思うの。」
ナミの言葉にルフィをはじめ、みなナミに視線を向ける。
「ルフィにはまだ何も説明していなかったわよね。」
でも、とナミはルフィの顔を見て、続けようと思っていた言葉を取りやめた。
ルフィも分かっているのかニカリと笑うのみだ。
「あれこれ説明しても仕方ないわよね・・・。」
「おう。どうすればサンジが助けられるか、それだけわかればいい。」
「わかったわ。今のままだとサンジくんのいる海には戻れないの。だから、そのお社へ行ってサンジくんのいる海へ行く方法を見つける。」
「そこへ行けばサンジのいるところに行けるんだな。」
お社に行けばすぐにサンジの元へ辿りつけるわけではない。ルフィの言葉にう〜んと腕組みをするナミにロビンが代わりに頷いた。
「まだ確実じゃないけど、今はそれしか方法がないの・・・。」
「わかった。じゃあ、そうしよう。それからのことは行ってからだな。」
「まぁ、そういういことになると思うわ・・・。」
女性陣二人してルフィの言葉に頷く。今はそれだけしか言えないのだ。
「わかった、じゃあ、俺、寝る。」
ダンと両手をついて立ち上がると早々にダイニングを後にした。まったく彼らしい。
でもそれが彼なのだ。何も考えていない様に見えるし実際そうなのだろうが、それでもルフィが言えば、その通りになる。仲間を必ず助けられると信じられる。
苦笑して見つめるナミに他の面々も難しい話は分からない、すでに聞いているからとそれぞれが立ち上がった。
みんな明日に向けて準備がある者はその準備に取り掛かるだろうし、ルフィのように寝て体力を取り戻す者はそのまま寝るだろう。
気づけば最後に残ったのは、女性の二人とゾロのみだ。
「ゾロ・・・。」
「あぁ、俺は今夜も見張りをする。ま、この島じゃ必要ないだろうがな・・・。」
カタリと音を立てて、立て掛けてあった刀を手にする。そのまま刀を腰に差し、部屋を出て行こうと踵を返した。ドアノブに手を掛けて、一旦立ち止まる。
ナミもロビンもゾロをただ見つめるだけだ。
振りかえらずにゾロは己に言い聞かせるように呟いた。
「あいつは俺が必ず取り戻す。」
「・・・・えぇ。」
「そうね。」
返事を期待していたわけではないだろうが、ナミ達はそう答えるしかなかった。ナミ達の答えにゾロは頷いて部屋を出て行こうと足を踏み出したところにロビンが思い出したように、「ゾロ。」と改めて名前を呼んだ。
名を呼ばれて黙ったままドアの前で振り返るゾロに、ロビンは目を細めて口を開く。
「ルフィはもちろん、みんなサンジくんのこと、諦めたりはしない。でも・・・・。」
「なんだ?」
「サンジくんを本当に助けられるのは、ゾロ。貴方しかいないと思うの。」
「・・・・ロビン・・・。」
ロビンの言う意味にゾロは思わず眉を跳ね上げた。
「お前ら・・・・知ってたのか?」
それは暗に二人の関係を意味することは誰も説明しなくてもわかった。ゾロはナミとロビンを凝視する。
「わかるわよ。隠そうとしたって雰囲気が、もうダダ漏れなんだもの!私達だけじゃなく、たぶんみんなわかってると思うわよ。」
「っっ!!」
ナミが肩を竦めてクスリと笑えば、ゾロは怯むしかない。
先のことは兎も角、現段階では船の仲間には内緒にしておくということになっていたので、ナミを始め、仲間のみんなが二人の関係を知っていることには驚きだった。
「心配しないで。夜の営みを覗いたりはしていないから・・・。サンジくんが貴方の腕の中で息を殺して声を出すのを我慢していたとか・・・、それと・・・。」
「!!」
「ロビンっっ!!」
ロビンの茶化しっぷりに、思わずツッコむナミに、慌てるゾロ。ロビンはクスクス笑うのみだ。本当に覗いていないのか?
ここはもう開き直るしかなかった。
ロビンがひとしきり笑ってから、和んだ空気を払拭するように、口調が引き締まる。
「冗談は兎も角・・・。さっき言ったのは本当よ。サンジくんを助けられるのは、きっと貴方だけ。ルフィでも私達でもなく・・・。もちろん、私達だって彼を助けたいし、それはみんな同じで、彼を助けるのにみんなの力が必要なのには変わりない。でも。」
一旦、言葉を区切り、目を伏せる。
ゴクリとゾロの喉がなった。
「最後には、貴方達の愛情がものを言う。そんな気がするの。」
「ロビン・・・。」
何か知っているのだろうか、ナミがロビンの言葉の真意を探しだそうとする。
「私にもよくわからないし、昼間読んだ記録には詳細は載っていなかったけど・・・・お社を建てた人物とあのセレン。ただの関係じゃないような気がするの。なんとなくだけど・・・。」
「・・・・。」
ロビンの言いたいことがなんとなくわかってナミは口ごもる。それはもしかたしら・・・と考えなくはない。
しかし、ゾロにはそんな昔のお伽話のような過去は関係ない。
「俺は・・・・あいつをもう一度、取り戻すだけだ。」
それだけ呟くと、ゾロは今度は振りかえらずに部屋を出て行った。




展望室に上がり、閉じてあった窓を開けてゾロは空を見つめる。
見張りの意味もあるが、ゾロはここから空と海を見つめるのが好きだった。今は、来もしたくなかった島がその景色に含まれているが。
サンジがいなくなったあの日見た美しい月は、雲に覆われてその姿を見せることはない。星々の輝きも空から振って来ない。それどころか、今すぐにでも雨が降ってきそうだ。ナミは何も言っていなかったから振ることはないだろうが。
さっきまでは美しい赤い空をその情景に映していたのがまるで信じられないほどに暗く淀んだ空に変わっていた。
まるで今のゾロの心情を表しているようだ。
ぐっと拳を握った。
いつもならば、見張りと鍛錬を兼ねて手近にあるバーベルに手を伸ばすところだが、今はそんな気さえ起らない。サンジを捜していたあの海に漂っていた日々でさえ、気を紛らわせようと海に潜る以外の時間は鍛錬をしていたのに。
天候から言えば、敵襲がありそうな状況だが、この島の環境ではそれはないだろう。
ゾロは、大きくため息を吐くと、只管ぼんやりと暗い空を見つめた。












海賊だからと言っても特に襲撃もなく、穏やかな島のため、船番は必要ないと判断された。
朝食を簡単に済ませて、皆で船を下りる。
ルフィが先頭に立つのを拳で止めて、昨日手に入れた島の地図を頼りにナミが先頭に歩いた。
もちろん、時間がどれだけ掛かるか分からないので、お弁当持参だ。サンジじゃないので、簡単におにぎりだが。
「ナミぃ〜〜〜。まだかぁ?腹減ったぁぁ〜〜〜。もう弁当食っていいかぁ〜〜〜。」
ゴン
「いってぇ!!」
ナミの拳が振り下ろされた。
「まだ10時!!まだはや〜〜〜い!!」
本当に燃費の悪い体だ。
この船の連中は体力のある連中ばかりだが、それでもずっと船に閉じこもっていたと言って過言ではない環境にいたからだろうか。獣道ともいえる山道に、慣れない連中は少し息があがっている。
チラリと仲間に視線を移すと、ウソップやチョッパーは疲れを顔に見せていた。
そういえば、船に降りて歩きだしたのはまだ早朝だったから、結構な時間、休みなしで歩いていた。
仕方ない。一旦休憩を取ろうかと、足を止めようとする。
とそこにロビンがナミを呼ぶ。
「あれ、そうじゃないかしら・・・。」
ロビンが指差す先に何かしら石でできた塔のようなものが見える。いや、形状は何かしらの動物を模したものか。
それは獣道である自分達が歩いている道の両脇に構えられていた。
「辿りついた〜〜〜〜!!」
着いたら弁当だと言わんばかりの勢いでルフィが叫んだ。取り合えずという感じでその場にドスンと座り込んだ。
「べんとう〜〜〜!!」
時間からすれば、着いてもまだお弁当には早いのだが。
予想よりも早く着いたことで今は誰もいないが、このお社が単純に島を守っているということがわかった。
時々人が訪れるのだろう、思ったよりも荒れていないし、参拝した形跡も見えた。
こんなところに人々はよく訪れるのだろうかと首を傾げると、自分達が歩いてきた獣道ルートとは別に、整備された道が別方向にのびているのが視界に入った。
「あれ?」
看板も立っている。それによれば、正規のルートを辿れば街から1時間も掛からずにここへ辿りつけるようだ。
「え〜〜〜!!!」
仲間達のブーイングは、ナミは腕力で黙らせる。同時に可愛らしく「ごめんね。」と誤魔化した。
どうやら手に入れてた地図はかなり古いものだったらしい。
「ま、いいじゃない!!無事に辿りついたんだから。」
結果オーライとばかりに、休憩も兼ねて荷物を下ろす場所を捜しだした。
一旦は座りこんだルフィだが、改めて立ち上がり、真っ先に敷地に掛け込んだ。が、入った途端立ち止まる。
単純に入口に動物を模した塔のようなものと、奥に祠があるだけで何もないように見えた。ここの何処にあの海へ辿りつくヒントがあるのが、一見しただけではないように思えた。
「ナミぃぃ〜〜〜。」
ルフィが情けなく、ナミを振り返る。
敷地の隅で「疲れた」と座りこんだウソップ達の傍で荷物を下ろしたナミが、腰に手を当てて息を整えながらルフィの方に振り返る。
休憩をしているウソップとチョッパー以外は、荷物を下ろすと同時に回りを確認すべくキョロキョロと辺りを見回している。
「ルフィ、そんな情けない声を出さないの。これは想定内よ。そう簡単にヒントになるのが見つかったら、きっと今までの人たちだって助け出してたわよ、・・・きっと。」
あのセレンの口調では、過去仲間を助け出した者など一人もいないように受け取れた。
それだけを考えればサンジを助け出すのは不可能に思えたが、いつも不可能と思えたことを可能にしたのがこの男だ。今回も必ず自分達の目的を達成できると思っている。サンジを必ず助けだせると。
少し落ち着いたのか、祠を見た途端ウソップが怯えだした。
「そう言えばよお、これって神様を祀ったものだよな・・・・なぁ・・・なんかバチ当たんねぇかなぁ・・・・。」
不安そうに尋ねるウソップにナミが眉を顰める。「いい加減に・・・」と口にしそうになったその時、ウソップの横にゾロが立っていた。
「俺は神は信じねぇ!」
「お前はそうかもしんねぇけどよぉ!!」
腕組をしてふんぞり返るゾロの言葉に、ウソップは怒鳴り返す。
勢いよくゾロには反論するが、体はガタガタと震えだすウソップにいつものごとくチョッパーも引き摺られる。
「バチ当たんのか!?」
「そうだろうよぉ。だって神様だぜ、相手は!!」
全くと言ってナミは額に手を充てて、はぁと溜息を吐いた。そして、仁王立ちだ。こちらの方がよっぽど怖いような気がしないでもないが、と内心考えている連中もいたりして。
それに気づいたのか気づいていないのか、ロビンが先にフォローのごとく、口を開いた。
「あのセレンを祀ったものかわからないけど・・・・。それでもこの島の住民の感情を考えると無闇に漁るのは確かに良くないわね。ここは、私に任せてもらえないかしら・・・。」
「おう、そうだ!!ロビンがいい。ロビンに任せようぜ!」
「そんなまだるっこしいことしねぇで、さっさとそれ切っちまった方が早いんじゃねぇか?」
ゾロが刀を一振り、スラリと鞘から出した。途端、ウソップとチョッパーが慌ててゾロに抱きついて止める。
「やめろぉぉ!!ゾロっ。お前。祟られるぞ!!」
「そうだぞ、ゾロ!!ここはロビンに任せよう!!」
涙を流して止める二人にゾロは大きくため息を吐いて、刀を仕舞った。
「わかったから、さっさとしてくれ・・・。」
「えぇ。ちょっと待ってて・・・。」
いつの間にかルフィは、ここは自分の出る幕ではないとばかりに我先にと弁当を漁っていた。全く油断も隙もない。が、その方が静かで作業が進むからそのままにしておく。
ロビンは荷物から、関連するだろう資料を取りだし手にする。そのまま、祠に近づくと手にした資料と目の前の祠を見比べ出した。
一体何が書かれているのか、本人以外にはわからないので、ただただロビンに任せるしかない。
そもそも目の前にある祠は、今まで巡って来た島々を思い出しても、同様のものがなかったと言えるほど一味には馴染みがなかった。唯一、ゾロの出身地であるシモツキ村であったとの話だ。
最初、ナミが島の住民に説明を受けた時に聞いた『お社』の言葉の意味さえわからなかったのだが、博識なロビンのお陰でその意味がわかった。
もちろん、ここに辿りついてそれが目的地とわかったのも、出発前にロビンの説明を受けていたからだ。でなければ、「なんだろう。この小さな建物は?」で終わっていたかもしれない。
祠という建物は、まるでお人形さん用サイズで。
セレンはごく普通に自分達と同じサイズの女神ならば、ここに住んでいるとは到底思えない。とウソップ達は首を捻るばかりだったが、そもそもセレンは海の底にいると言っていたのだから、ここにいないのは当然といえば当然なのだが。
軽く回りを一周して、ロビンはみんなの元に戻って来た。それに合せてルフィの食事も終わる。なんというタイミングか、とナミは立腹中だ。
が、今度は怒りよりも落胆に苛まれる。
「今、一通り見たけど、ヒントになるようなものがなかったわ・・・。ただの、島民が祈りの対象にしている神様を祀った物にすぎない。」
「え!?」
「でも・・・!!」
ここに何かしらヒントがあるだろう、と言ったのはロビンではなかったか。それが、この態では納得できるはずもなく。
舌打ちしたのはゾロだったか。
すっと立ち上がった。
「ゾロ?」
無言でスラリと刀を一刀、鞘から引き抜いた。途端、慌てて止めるウソップとチョッパー。
「待てっっ!!ゾロ、早まるなぁぁ!!」
両脇から腕を抑えられ、ゾロが顔を顰める。
「これぐらいしなきゃ、あいつは戻ってこれねぇだろうが!!」
「やめろよ、ゾロ!!神様を祀ってるんだろ。祟られるって!!」
「俺はあのセレンって奴を神様だとは認めねぇ!!」
「ぞろぉぉ!!」
収集がつかなくなる前になんとかしないと、とナミとロビンが肩を竦めた途端。

ゾワリ

一瞬にしてまるで急に冷凍庫に入ったような冷気が辺り一面に広がった。
「なんだぁ!!」
誰もが辺りの変わりように身震いする。回りをキョロキョロする者もいる。
気温が下がっただけとしか言いようがない状態だ。しかし、その気温の変化はナミからすれば異常と断言できるだろう。
どうしたものか、とみなで回りの様子を見ながら一か所に塊る。
と、ルフィが祠の方に向かって身構える。続いてゾロもやはり鞘に手を置き、いつでも抜刀できるように体勢を整える。が、他の者が目をどれだけ凝らそうと何も異変はない。
覇気を使える二人だけに感じる何かがあるのだろうか。
しかし、ルフィとゾロが身構えた瞬間、さらに冷気が辺り一帯を覆い尽くす。尋常ならぬ寒さだ。まるで冬島の中でも特に冬の季節を迎えたようだと、チョッパーが小さく溢した。
この名もない島が、そもそもどういった気温変化を迎えるのかはわからないが、しかし、この急激な下がりようはありえない、とナミも体を震わせながら訴える。
ルフィとゾロは身構えたままだ。

が。

ふっと突然、何事もなかったように寒さが消えうせた。
と思ったら、今度はまるで今すぐに帰れと言わんばかりに空一体が雲で覆われながらも、帰り途にあたる場所にだけ光が当たっている。
寒さはもはや感じないが、暗くなった空から一筋の光が祠から街へと降りる道を照らしていた。
「これは・・・。」
誰もが首を傾げたくなるような出来事に、ロビンがぼそりと呟く。
「私達に街に帰れと言っているようね・・・。」
「一瞬のこの寒さは脅しってことかしら・・・。」
ロビンに続いてナミも腕を擦りながら光さす山道を見て、ほぅと息を吐く。寒さはもはや感じないがまだ皮膚にその感触は残っているようだ。
「気象をも操るってか?」
フランキーの言葉に、ウソップやチョッパー、ブルックまでがまだ体を震わせている。
「もうあの女は神様だよぉぉ。逆らっちゃダメだぁ!」
「恐いよぉ〜。一旦、船に戻ろうよぉぉ。」
弱気な発言に、ルフィが低音で呟く。
「だったらサンジを置いていくのか?」
「っっ!!」
ここを下りて船に戻るということは、サンジを諦めるということだ。彼をあのセレンのいる海から救い出すことができないまま、船旅を続けるということだ。
「それは・・・。」
モゴモゴと口ごもるウソップとチョッパーにナミがポンと肩を叩く。
「私達は仲間を見捨てない。そうでしょ?」
「あ・・・あぁ。」
「でもどうしたらいいんでしょうね。こんなことができるセレンは恐ろしいし〜。」
ブルックはまだ体を震わせながらも言葉は呑気だ。
後ろでやりとりしているウソップ達を余所に、一旦は叱責したルフィと、そしてゾロはまだ祠を睨んだままだった。
「ルフィ・・・?」
二人の様子にロビンが声を掛ける。
「何かいる・・・。わかんねぇけど・・・。姿は見えないけど・・・気配だけは感じるんだ。」
「だが、このままあの祠に突っ込んでも意味がねぇことだけはわかる。」
そうだろう。それで仲間が戻るのならば、過去すでに仲間を取り戻した船だってきっとあるはずだ。だが、島で得た情報ではそんな話は一つもなかった。
それどころか。先ほどの、急激な気温の変化と空を覆う雲に一筋に照らす帰り道。
それらを見ただけで、きっと叶わないと仲間を諦めて去っていく者達がほとんどだっただろう。それだけ、神の所業と言っても過言ではない出来事なのだから。
しかし、自分達は諦めない。きっとサンジを取り戻す。相手が誰だろうと関係ない。
餓死寸前の仲間を思い、自らセレンの元に留まることを決心したサンジの為にも。

と。

ハラリ

紙切れが一枚、空から舞い降りてきた。まるで羽が天から落ちてきたように。
それはヒラヒラとゾロの目の前を漂う。
思わず手を伸ばし、ゾロは舞い降りてきた紙切れを掴んだ。
何かが書いてあるようで、紙切れを凝視する。
「っっ!!」

『鳥居』

そこには、一言だけ書かれていた。

鳥居?

今まで歩いてきた道程には何もなかった。入口は動物を模した塔みたいなものと、目の前も祠があるのみで、鳥居などは見当たらない。
ゾロの手にする紙に、ルフィを始めナミ達がゾロゾロと集まった。
「何それ?」
ナミが覗いて、そこに記されている言葉に首を傾げる。
「鳥居?」
「鳥居って何だ?」
意味がわからずにお互いに首を振る者達にロビンが簡単に説明をする。
それを無視する形で、ゾロは鳥居を捜すべく、祠に向かって走り出した。
ずっと空を覆っていた雲は一層濃くなり、ルフィ達の背後で帰り途を照らしていた一筋の光はいつの間にか消えうせていた。それは神がさらに機嫌を悪くしたのを意味しているのだろうか。
しかしゾロは構わずに、鳥居を捜すべく辺りをキョロキョロする。ルフィも鳥居がわからないままに、ゾロについて行く形で動き出す。
いや、鳥居がわからないでも残っている気配でそれが何かしらの意味を含んでいるのはわかったのだろう。
「どこだ?どこにあるんだ?」
ただただ鳥居を捜すべく辺りをうろつくゾロにナミ達が迷子を心配するが、その必要はなかった。
「あった!!」
祠の真後ろに回ったゾロが大声を上げた。
「見つけたぞ!!」
ゾロの叫びに、誰もがゾロの後を追うべく走り出した。
「どういうこと・・・。」
それは先ほどロビンが祠の周りを見たのにも関わらず見つけることがなかったらしく、ロビンは目を大きく見開いて驚いていた。
降って来た紙切れが鳥居を導いたのだろうか。何故だかはわからないが、目の前に存在することには変わりなかった。
それにしても、祠の裏ということで距離はまったくないのにも関わらず、まるで長距離を全力疾走したように息が切れる。これもまたセレンの力によるものだろうか。
が、兎に角、みんなの眼にそれは映った。

鳥居は祠の裏にひっそりと存在していた。


13.06.02




               




     
     1ヶ月以上あいたのに、やっぱり進展なし・・・。そして、睡魔と闘いながらなのでところどころボロがありそう・・・。本当にすみません。