身代わりという犠牲の先にあるもの(中編)




「俺が相手をしてやるよ!」


そう告げるサンジの顔はいつもの女性に向ける崩れた顔でも気障な顔でもなく、額に血管を浮かせた怒りを露わにした表情もなく、ただただ怪しげな笑みを溢していた。



どういうつもりだ!くそコック!!!

突然の言葉に相手の男達だけでなく、仲間まで驚きを隠せない。何か作戦でもあるのか。
いや、しかし、作戦というよりは今にもどうぞ、好きに抱いてください、と云わんばかりの様を作っている。

あまりのことに暫く静かな空気が流れたように感じられたが、それもつかの間だった。
この船の下っ端どもは、意外なセリフに驚いて一瞬きょとんとしたが、それもすぐに大笑いしだした。

「あほか!こいつは・・・!目の前に女がいるっていうのに、誰が男なんか相手にすると思っているのか?」
「あぁ、本当だ!大事な彼女が抱かれるのがそんなに嫌か?・・・それとも何だ?お前が、他の奴の女なのかぁ?誰だぁ?女がいるっていうのに、男なんかを抱くやつぁ?」

ゲヒゲヒと笑う腹の出た男にサンジが軽く息を吐く。これも所謂演技ということだろうが。

「まぁな〜。俺、この船ではいつの間にか、そういう役目になっちまったんだよ。悪かったな、こいつの女で・・・。元々はこいつが悪いんだぜ?このエロ剣豪が!」

突然、視線とともに話を振られてゾロはサンジを見つめてしまった。一体何を言い出すというのか?
ただでさえ驚きを隠せない展開になろうとしているのに、ここで話を振られてもどう答えていいかわからない。

「どうもさぁ〜、俺、女性よりいいらしいんだわ、あっちの方が・・・。見ての通り、船長さんやそこの長っぱなはまだ子どもだからシないけどな〜、そこの三刀流の剣豪さんは俺、抱いちまってからどうも女を抱く気にならなくなっちまったんだよ・・。どうやら俺、いいらしいぜ?」

下卑た笑いをしていた男達は、ゾロを凝視する。どうやらゾロの反応を見ているようだ。
挑発するようなセリフを吐くサンジの様子で、ゾロはサンジの思惑が徐々にわかってきた。しかし、ここでその話に乗れば確実にサンジはこの男供の捌け口になるだろう。
それは普段の彼から想像するにどれだけのプライドを捨てなければならないのか・・・・。仲間の前で、しかも、ナミ達の前で繰り広げられるシーンを考えると海に飛び込んで死んだ方がマシだと思うほどだろう。
だが、それさえも耐えて、あえて自分を犠牲にしてナミ達を守ろうとするサンジにゾロは乗らないわけにはいかなかった。
相変わらず他人の為になら自分を二の次にするこのコックには頭が下がると言うより、寧ろ腹立たしさしか湧かない。それを理解した船長もサンジを止めたいのに止められない悔しさから、力の出ないままただただ唇を噛み締め、口端から血を流していた。
ここでサンジを止めれば確実に女性達が犠牲になるのは明らかだった。
他に術はないかと考えるが、それよりも早く結ばれている縄を解く方が早いと考える。
多少時間稼ぎにはなるか・・・。
そうゾロは踏んで、とりあえずサンジの口車に乗ることにした。



「あほコック!んなこといって、お前、そいつらに抱かれてみろ!二度とテメェなんか抱いてやらねぇぞ!!」
「んあぁ?んなこと言って、いいのかよ。お前、俺から離れられるのかよ?」
「・・・・クソっ!」

まるで恋仲のようなやりとりをする2人に仲間は息を飲んでただただ見守るしかないようだ。船長はやはり我慢の限界のようで、「何言ってんだ!サンジ!」「どうしちまったんだ、ゾロっ!」と叫ぶが、頭の回った言葉が出てこないようだ。
笑いながらも驚きを隠せない連中は気が変わったのか、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「海賊狩り、ロロノア・ゾロのオンナか・・・・。確かにこりゃあ二度と味わえないかもしれねぇな・・・。」
「下手しりゃあ、女よりいいかもしんねぇぞ!どうせ慌てなくても女も逃げられねぇし〜、時間はまだまだあるんだ・・。それに・・・。」
「あぁ・・・。やっぱり、拙いか?」
「そうだな、お頭より先に女抱いたのが後でバレて怒りを買うよりよっぽどいいかもしれないな・・・。」

顔を見合わせて話は決まったようだった。

「じゃあ、てめぇを味あわせてもらおうか?」
「6000万の賞金首が病みつきになるぐらいだからな。楽しませてもらおうか?」
「あ〜〜ん。今度から俺達がお前を喜ばせてやるよ。」

そう笑いながらジリリとサンジの前に進んだ。
サンジはこれで大丈夫とナミ達の方を振り向いた。

「ごめんね、ナミさん、ロビンちゃん。ちょっとだけ、目、閉じててもらえるかな?」

いっそ清々しいほどの笑顔を向けるサンジにナミは顔を歪めた。

「サンジ君のバカッ!!」
「おい、ゾロ。レディ達を守れよ!」
「あほコック。人のことより自分の心配しろよ!」
「大丈夫だよ、俺は。強いもん。」

小さなやりとりは幸いに男達には聞こえなかったようだ。
だが、相手もただのバカではないようだ。

「ただし、下手なことは出来ないようにさせてもらおうか?」

そう1人が前に進み出ると懐から剣を抜いた。
鈍く光る剣をそのまま少し離れた位置にいたウソップの喉元に宛がう。

「誰も下手な真似はするなよ?ちょっとでも怪しい動きをしたらこの長い鼻がなくなるぜ?」

ブルブルと震えるウソップにサンジは笑った。

「そんなことしなくても、俺を骨抜きにしちまうんだろう?・・・心配ねぇよ。」

仲間に向けた笑みとは違う、先ほどの艶を篭めた笑みを男達に向ける。

「善くしてくれるんだろう?」

目を細めて誘う仕草はどこで習得したのか、普段そんな目で見た事の無いゾロでさえ惑わされそうになる。
男達がサンジを立たせて少し前に移動した。その度に肩の傷から血が零れるが、そんなことはお構いなしだ。

「ロロノアじゃあ、もう物足りないって言わせてやるよ。」
「大好きな彼の目の前で精一杯啼かせてやるぜ?」

身体の大きい男が乱暴にサンジの襟首を捕まえて少し離れた位置に投げつけた。
ズサッと身体を引きずって倒れるサンジを今度はもう1人の少し小柄な男が上から跨ぎシャツの前を乱暴に開いた。簡単にボタンを飛ばして開かれた身体に男達からホウゥと声が上がる。
色の白さがゾロの目にも飛び込んできた。思いのほか色白なのが、男達の欲情を誘ったようだ。ゲヘヘヘと笑う声に更に厭らしさが増した。

「こりゃあ〜〜。」
「結構いいんじゃねぇか?女の代わりに充分なるぜ・・・。」

言葉の端々に喜びが隠せないらしい。お互いに俺が先だと争わんばかりだ。

「おいおい、俺が先だぞ!」
「あぁ?待てよ。俺が先だろうが!」

男を抱くのに先を争うとはなんともみっともない話だが、それだけ見た目から読み取れるサンジの良さは格別らしい。

「おい、争っている場合じゃないだろうが!もたもたしていると交替時間になっちまうぞ!俺らの時間がなくなっちまう!!」
「おう、わかった。」

簡単に話はついたのか、大男の方が先にサンジの前に回った。

「良くしてやるよ。かわいこちゃんv」

ニヒヒと笑って下半身に手を伸ばす。少し小柄な男は後ろからまわり、サンジの首筋に噛み付く勢いで舌を這わした。
サンジがビクリと身体を震わすと、涎を垂らして喜んだ。

「いい反応だぜ?」

しつこいくらいに舌を這わしている男はそのままシャツを下げ、背中に舌を延ばす。傷口を舐めると滲みるのか、ヒクヒクするのがまた男達を喜ばせた。
大男はその間にサンジの下着まで全て脱がしてしまっていたが、足の鎖が邪魔なようで、多少苦戦していた。

「ちっ、この鎖が邪魔でしょうがねぇ・・・。」
「だったら、うつ伏せにしたらどうだ?」

グルンとサンジの身体を反転させると腕を後ろでで縛られているために身体を支えられないサンジは倒れた。ガツンと頬を打ちつける。

「ぐっ!」

そんなことなどお構いなしに男達は、先を争うようにサンジに手を延ばす。
大男は露わになった蕾にいきなり指を突き立てた。

「うわっ!!」

瞳を見開いてサンジが呻くと、んんっ?と男は顔を覗きこんだ。

「こりゃあ結構キツイな・・・。まるで処女だぜ?」
「ロロノアのオンナをやってるにしちゃあ、締めがいいのか?そりゃあ楽しみだぜ・・・。」

性急な動きにサンジが眉を顰める。艶もなにもあったもんじゃないが、サンジにしてみれば、強引なそれは、ただただ苦痛のみを伴うものだったのだから仕方がない。

「くっ!」

苦悩の表情を浮かべるだけでなく、冷や汗を流すサンジにも気が付かず男達は自分達の欲求を満たす事しか頭になかった。
半ば捻じ込むいきおいで指を突き入れる。ぐいぐいと差し込まれる指は、そのままサンジの苦痛を引き出すが、男達も予想以上に締め付けるキツさに目を丸くする。

「こりゃあ、思った以上にキツいな・・・。・・・・・最近、ご無沙汰してるのか?」
「魔獣と言われた男にしちゃあ、こりゃあ結構、弱いんじゃねぇのか?あっちの方は・・・!」

ゲヒゲヒと笑う男達を睨みつけるが、指を動かされて眉を顰めてしまい、男達には効果はなかった。

このままでは、なかなか本番に辿り着けないと、男達はさらに強引に指を増やしていく。2本、・・・・・そして3本と増えていく指はそのまま後孔を広げるためにぐいぐいと動き回る。
なんとか息を吐いて、苦痛を逃がすサンジも、漸く痛みをさほど感じなくなったと思えた頃、今度は指とは比べ物にならないぐらいに重量を増した圧迫を同じところに感じた。

「ああああっっ!!」

まだしっかりとは解れていなかったが、焦れてきたのか、指を起てて喜んでいた男は、いきなり膨張している男根を突き入れた。
サンジは、悲鳴に近い叫び声を上げそうになり、あわてて唇を噛み締める。女性達にこんな声を聞かせてはいけないと咄嗟に我慢するが、どうしても声が漏れてしまう。

どうか、この行為がナミさんや、ロビンちゃんの心の傷になりませんように。

サンジは祈るしかなかった。

「う・・・・キツイな。」

腰を進める男も多少辛そうな表情をするが、構わずにそのままグイグイと腰を進める。
力を入れれば入れるほど辛いので、サンジも痛みをやり過ごそうと、はっはっ、と犬のように息を吐いた。
多少の効果はあったのか、痛みが徐々に引いた気がするサンジに、同様に感じたのか大男は一度深く挿した怒張したものをゆっくりと、そして少しずつスピードをつけて、前後に出し入れしだした。

「はあっはあっはあっ・・・・。」

両手で痕がつく付くくらいの力で腰を掴まれ、パンパンと音がするほどに腰を振られ、サンジの目には生理的な涙が零れ落ちた。
前後に揺すれられ、ときにはぐるりと廻され、男が溢している液が動きに合わせてすでに赤く色づいた蕾から溢れんばかりに垂れてくる。そのころには、サンジもすっかりいいところを見つけられたようで、気が付けばサンジ自身そのものも萎えていたのが、反応を返すようになっていた。

「まったく、いいぜ?こいつは・・・。最初は処女かとおもうほどキツかったが、どうしてどうして!いい締め付けをしてくるじゃないか?・・・・なぁ、ロロノア?こりゃあ、止められないなぁ〜。」

前後の動きを止めないままに、大男はゾロを振り返った。もちろん、ゾロには、そんな男に返事をするでもなく、ただ目を細めて睨むだけだった。
ここで目を逸らしてはいけない。そんな気がしてそのまま睨みつけるが、そんなゾロにも頓着しない風で、大男は大きく腰を廻した。

「ああぁぁぁぁっっっ!!」

何も答えず行為を睨むしかないゾロに、サンジが大きく仰け反る様を咋に見せ付けて喜ぶ下種な男は、厭らしい笑いを止められない。
さらに大きく腰を振りだした。もはや絶頂寸前といったところだ。

「うおおっっ!!」

雄たけびを上げて大男が大きく身体を振るわせた。ブルブルと痙攣する太腿を、やはりゾロは鬼の形相で見つめるしかなかった。
男の下では、サンジもまたいつの間にかいいところを衝かれて、身体を震わせていた。








入れ替わり立ち代り。
次々とサンジは男達にそのままいいように揺さぶられた。
床に手を着けないため、肩を支えにしていたサンジは今だ腰を高く上げたまま肩で息をしていた。傷口も塞がることなくずっと血が溢れて床に大きな滲みを作っているが、誰もそれに気を止めない。
はぁはぁ、とすでに声も出ない様子のサンジの空を見つめていると思われたその目は、今だ死んではいなかったが、あまり力のないもので、ゾロは遠めに焦れったさを隠すのに必死だった。

ずっとずっと、犯されるサンジと犯す男達を睨んだまま、後ろの手では、なんとかして縄をほどこうと熱い火に腕を焼きそうになりながら、ジッポを握り締めていた。ジジジと、本来ならその縄の燃える音と匂いで、簡単にバレそうなそれも、男達はサンジに夢中で気が付かない。
ウソップを人質代わりに、剣を手にしている男も、行為の最中に唾をゴクリと飲み込みながらも、剣を離さないので手一杯だった。隙はありそうなのに、そのタイミングが掴めない。
ある程度のところまで焼いてしまえば、後は力任せに引きちぎっていまえばいいと思っていた。その縄もかなり焼けて残り僅かになっている。
グリグリと腕を捻ってみる。手首が擦れて血が滲んでいるような気もするが、そんなことに構っていられない。厭らしい男達の相手をしているコックは気が滲むなんてものではすまない状態なのだ。
抵抗する事すら出来ずに喘いでいるとはいえ、望んで行為に溺れているわけではない。身体が本能的に反応するとはいえ、本心ではない。仰け反る喉のその奥に寄せられた眉は苦痛に歪められている。


男だったら・・・・。仲間の、ましてや常に大切に思っているナミ達の前で・・・。
自分だったら、こんな展開になる前に舌を噛んで死んでしまうだろう。
それを目を瞑ってと言っても耳を塞ぐ事もできないし、例え彼女達の目も耳も塞ごうとも一緒の部屋にいるというだけでもかなりの屈辱だ。
それを、このクソコックは・・・。
そう思うと一時でも早く、彼をこの地獄の空間から解放してやりたかった。
しかし、慌ててばれてしまっては元も子もない。
慎重に、だが急いでゾロは縄を捻っていた。

が、同時に・・・。

なんとか縄を・・・、と思いながらもゾロの目はサンジとその上に蠢く男から離れられなかった。
わかっている。
サンジが喜ぶどころか嫌悪しながら抱かれていることを。淫靡な顔をしたその奥には苦痛と苦悩で歪められていることを。
わかっているのだが。
表向きとはいえ、妖艶な表情を。喘ぐその声を。淡く色づく太腿を。
ゾロの目はサンジに囚われて離れることが出来なかった。
頭の中では言葉でサンジの為、仲間の為と言いながらも、本能では猥らに肢体を曝すサンジに囚われる前にこの陳腐な芝居を終わらせたかった。でなければ、今度はここにいる男達だけでなく、自分までサンジに囚われてしまう。


そうなる前に。
自分がサンジの囚われる前に。
早く早く!!


焦るゾロを尻目に男達はゲヒゲヒと笑っている。




しかし、やはりセックスにのめり込んでいく男達は、結局はただの下種な男で。
最初にサンジを犯した男が人質の見張りをしている時にそれはできた。


やはり邪魔なようだったらしく、サンジの足枷はいつの間にか外されていて。
ウソップに剣を突き立てていた男も、もう一度犯ろうと考えているのか、目がサンジとそれに覆いかぶさっている男を凝視して止まらないらしい。
いつの間にか、手にしていた剣がウソップの喉元から離れ、ただ下にぶら下がっている状態だ。







気が付いた瞬間、ブチッと後手を上げて縄を引きちぎった。

グワッと音がしそうな勢いで立ち上がる。
その様子にウソップの元にいた男が剣を握り直した。
が、それを振り下ろす時間も与えず殴り飛ばす。

バキッ

鈍い音を立てて体の大きな男はその体重に見合わない勢いで後ろの壁へとふっとんだ。

「な・・・・・何だ?!」
「どうしたっ!!」

サンジの上に乗っかっている男と前で下半身を曝している男が同時に顔を上げる。
その隙をサンジも見逃さなかった。
グイと一旦身体を引くと、無理な体勢のまま足を振り上げた。とたんに1人の男が天井を突き破る。
前で膝立ちになっていた男は、体制を整える間もなく、駆け寄ったゾロにやはり吹っ飛ばされた。

「・・・・・ぅうっ・・・。」

大丈夫か、コック。と言う前にサンジがゾロを睨み上げる。

「・・・・は・・・やくっ!・・・皆の縄を・・・・。」

その声を無視してサンジを介抱しようとしたゾロを一喝する。

「先に縄を解くんだ!新たに来るぞ!!」

さらに厳しい口調でゾロの手を拒否するサンジにゾロは奥歯を噛み締める。
踵を返すゾロにサンジはニヤリと笑みを溢した。その顔は口にはしなかったが、ゾロに大丈夫だと告げていた。
そう言われるともはや先にルフィ達を解放するしかなく。
ゾロは何かを言い澱んだがそれも飲み込み、ルフィ達の下へと駆け寄った。
へにゃへにゃと力なく倒れているルフィや、今だ涙を溢しているウソップやチョッパー。顔を顰めたまま何も言わないナミとロビンの縄を解いて、壁に立てかけてあった刀を腰に携える。
そうして、漸く再度サンジを振り返った。

そこには、気丈にも汚れ、破れた服を着たルフィ海賊団のコックが立って後ろを向いていた。
女性を助ける為とはいえ、皆に会わせる顔がないのだろうか。

漸く力を取り戻した船長が、ゆっくりとサンジに歩み寄る。

ポン

と軽く肩を叩いてそのまま牢となっているこの部屋の扉に向かった。
ゾロとサンジが吹っ飛ばした男達は伸されたままだった。
が、ただ事でない様子に気が付いたのだろう。バタバタと走り寄っている多数の足音が聞こえてきた。

「行くぞ!みんな俺の後に続け。・・・ゾロ・・・。」

ルフィはゾロの名を呼ぶと一呼吸置いた。

「サンジを頼む。」

その言葉の咄嗟に反応したのは、サンジの方だった。

「俺は大丈夫だ、ルフィ!!闘えるっ!!!」

力がまだ残っているという口調とは裏腹に、気丈にしてはいるが、ふらふらしているのは誰が見ても明らかだった。
が、サンジはゾロが手を伸ばそうとしたのを叩き返した。

「・・・・・サンジ・・・くん・・・。」

ナミに名前を呼ばれてサンジはビクリとした。

「・・・ルフィの・・・・船長の言う事を聞いて・・・。」
「・・・・・。」

サンジはナミの名前さえ呼ぶことをためらったようで、大きく息を吐いた。
今度はゾロが手を伸ばしても何も言わなかった。
ゾロは、ゆっくりと腕を伸ばし、肩を貸した。あくまでサンジの意思を少しでも考慮しようというのか、担いだり負ぶったりはしなかったが、それでもサンジにしてみればゾロに肩を貸されるのは、男としてのプライドが泣いた。
それでも、船長命令に背く事も出来ず。一緒に歩き出した。


敵の声が近づいてきて。ルフィは大きく拳を振るい、扉を壊す。
船長を始め、皆は一斉に走り出した。
それは最後方にいるゾロとサンジを考慮してなのか、全力疾走ではなかったが、それでもかなりの速さで。

そして、目に見えぬとも怒りの頂点に達しているルフィのためか、大型船の割りにあまり時間が掛からずに甲板に出ることが出来た。
ナミが素早く後ろで勾留されているメリー号を見つけ、乗り込む。
ウソップもチョッパーもロビンも、みんな、次々にナミに続いた。
ルフィが甲板で暴れ、最後にゾロとサンジがメリー号に戻ったのを見届けると、対峙した敵船の船長に向き合った。



「どうしようもねぇ最低な奴等だな、お前らは・・・。」

視線だけで相手を射殺さんとばかりの殺気を振りまいていた。

「あぁんん?なんでだぁ?俺達がどう闘おうが、捕虜をどうしようが、俺達の勝手だろうが!」

下品な笑顔を曝してすぐ横に立っている少女に目を流した。
ヘビの顔をした船長の横で少女は笑みを歪めている。
この少女も元は捕虜だったのだろうか?
ルフィは少女に目をやった。チラリと一瞥するとコブラに視線を戻す。

「この子も捕虜なのか?」
「あぁ??だったらどうした?」
「だったら助けるまでだ!」

そう大声で叫ぶとグィィンと腕を伸ばした。
自分に攻撃が向かってきたと思ったコブラはルフィの腕が違う方向へ向いたのに驚いた。

「なにっ!」
「きゃぁっっ!!」

伸びた腕はそのまま少女へと巻きつく。
バチンという音と共に少女がコブラの視界から消えた。

「なんだぁ!!」

遠くで叫び声が聞こえる。

「きゃああああっっ!!」

どうやら声はメリー号の方から聞こえてきた。



メリー号に戻った者が一斉に何事かと声のした空を見上げた。
空から少女が降ってくる。
またルフィかと内心誰もが思ったが、その少女に見覚えがあるし、ルフィの天性の感を皆は信じている。
彼女もまた、コブラ海賊団の囚われ人と咄嗟に理解した。

少女はゾロ目掛けて落ちてくる。
受け止めようと腕を伸ばしかけたその時、脳裏に先ほどのサンジの苦痛に歪む顔が浮かんだ。
最終的にサンジが自分から言い出したこととはいえ、掴まったのはコブラの作戦からだ。そして、その作戦の中心人物といえるこの少女。
自分達が甘く見ていたことを棚に置いて、ゾロは全ての原因がこの少女にあるような気がしてならなかった。そんな言い訳などしたくはないのに。

躊躇するゾロに気がついたサンジが咄嗟に横から手を伸ばす。

ずっとずっとゾロに肩を貸してもらい一言も会話を交わさなかったはずのサンジがここに来て、一瞬いつものくそコックとばかりにゾロを罵る。

「バカ藻っっ!!何ぼーっとしてやがる。」

ギリギリでメリー号の甲板に叩きつけられることを免れた少女をサンジはまだ治療もしていない傷だらけの身体で抱きしめていた。
少女は一体何が起きたのかわからないままに身体を震わしていた。











ゾロが気が付いた頃には、コブラ海賊団はすでにルフィ海賊団の船長によって壊滅していた。





06.01.17.


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コメント:終わる予定が終わりませんでした。次回、終わります。・・・アイタタ。(汗)