身代わりという犠牲の先にあるもの(後編)





ちゃぷちゃぷと波は静かに揺れていた。
空を仰げば、大きな月が船を見下ろしている。
見張り台には、考古学者が少し冷めたコーヒーを啜りながら遠く水平線を眺めている。雲ひとつない空が心地良いのかその表情は穏やかだった。もちろんその心の奥底には、どうにもすっきりしないのが本心だが、年の功か、それは表情には出していなかった。
せめて、と思い、本来ならこの夜の当番はコックの予定だったのを、かなり体力を消耗しているからと、自分から買って出たのだ。

コトンとカップを手摺りに置くと、そのままカップの隣に腰掛け、まだ明りのついているラウンジを見下ろした。
いつもいつも遅くまで点いているその明りは今はいつもと違う明るさを灯している。







「もう、寝ろよ・・・、サンジ・・・。」
「大丈夫さ、ルフィ。まだこの子だって寝付けないみたいだし・・・。」

少し離れた簡易ベッドで小さく丸まっている少女は一見寝ているのかと思われたが、よく見れば俯いているため気が付きにくいが、今だ落ち着かないのかきつい眼差しを解けないでいた。

「でも・・・。」

お前は・・・・、そう言葉を口にしようとしてルフィは口篭った。
どうにも言えない。
謝る事さえ出来ない、いや、謝る事ではないのだろう、昼間の出来事。






コブラ海賊団に襲撃されて、簡単に激破できると踏んでいて見誤った。そして捕虜となり。
牢代わりの倉庫で犯されそうになったナミ達の代わりに、サンジがいいように弄ばれた。
最終的には、相手の海賊団を壊滅に追いやることができたが、いろんな意味で後悔が止まらなかった。
それは、ルフィだけでなく、誰もが同様らしいが・・・。
だからといって、敵の海賊団から逃げ出す方法は誰もその場では思いつかなかったものまた事実で。





その夜の食事は、「大丈夫!」と連呼するサンジをチョッパーが治療している間に、ナミが用意した。
できた料理にサンジは、「ナミさんの手料理〜vv」と、くねくねと喜んではいたが、その表情は本心から喜んでいるとは見えなくて、ナミは泣きそうになった。
誰もが文句一つ言わずにいつより味気ない料理を食べた。







食事もほとんど口をつけない様子の少女に、サンジがなんとか声を掛けてほんの少しだがスープは飲んでくれた。
名前もポツリと教えてくれた。


彼女の名前はメイといった。
最初は敵の中心人物と思われた少女をルフィは実は奴らの捕虜と判断し、彼女を助けた。
何も考えずいつものカンというやつだったが、大抵それは外れたことがない。
実際にロビンも最初は敵だったのが、今は大事な仲間の1人である。

が、今回助けた少女を以前のロビン以上に認める気には誰もがなれなかった。
それは、サンジの傷が癒えるどころか塞いだかどうかもわからないほど、つい先ほどのことなのだから。
当のサンジは何も言わないまま静かに時間を過ごしていた。
ほんの少しだけ、食事の後に睡眠を取ろうとしたのだが、魘されて1時間もしないうちに起きた。
もちろんそれは男部屋での出来事でまだ他の者はラウンジにいた時だったのでほとんどの者は知らないが、それを目の当たりに見たチョッパーとゾロは苦渋の表情を隠すのに苦労した。
癒えるわけがない。
ほんのつい数時間前の出来事なのだ。
男のプライドを溝に捨てたあの行為。
ただでさえプライド高いコックには死ぬほど辛い出来事だろう。
が、特に女性を大切に慈しむコックにはそれでもナミやロビンが下種な男達に犯されることがどうにも耐えられないことだったのだろう。
彼女達の為に何食わぬ顔をして、彼は溝に足を踏み入れた。


ただゾロは、男達にいいようにされている彼を見ていることしかできなかったのが、何よりも辛かった。いや、ただ見ているだけでなく彼の男達を挑発する芝居に乗ったのだ。例えば彼が大きな罪を犯したというのならゾロも同罪と言えるぐらいの贖罪の気持ちはある。
あの時の。
船長の悔しがる顔が今でもすぐに思い出せる。ナミやロビンが俯いたまま顔を上げられない様子が忘れられない。チョッパーとウソップのすすり泣く声が耳から離れられない。





ゾロは今だ遠く会話を交わすこともできない、船長とコックを遠目に見やった。
お互いを牽制しあっているわけでもないのに、妙な緊張感を持ってして座っている。

グビリ
と喉を鳴らして酒を瓶ごと喰らうが味がまったく感じられない。
夕食の時も同様だった。ナミが作ったのだからいつもより旨くないとか、まずい、とかそんなことを思ってもいいのだろうが、そんなことさえ思い浮かばなかった。
そういえば、いつもはうるさいぐらいに食事に喰らいついている船長は今日は食事中も静かだった。













「レディじゃねぇんだ。こんなのは、大した事ねぇ。戦闘で骨折った時の方がよっぽどか痛ぇよ。」

サンジの治療は男部屋で行われた。
治療中、チョッパーが泣きそうな顔をしているのに、そう声を掛けて笑っていたサンジをゾロはチョッパーに包帯を渡しながら見ていたのを思い出す。
その通りだと思う。女じゃないんだ。女だって、海賊をしていればこんなことはあるかもしれない。
それを悔やむことはまったくないとは言い切れないだろうが、それでも誰だって覚悟を決めて海賊船に乗ったはずだ。
だから、いつまででもウジウジと気にして、後悔することはまったくないはずだ。
それが、どうしたことだろう。
本人はいたって平気な顔をしているのに、回りの誰もが彼のことを腫れ物に触るかのごとく対応に困っている。
こんなことではダメだ。
いつもなら、冷静に物事を判断できるはずの自分でさえ今だ動揺を拭えなかった。
そして、それ以上に複雑に纏わりつく感情がゾロにはあった。


女性に見せられる傷ではないので、いつもはナミが手伝う事の多い治療も今回はそのままゾロが手伝ったのだが、それすらサンジは「うざってぇ!」と元気にやり過ごしていた。もちろんそれは空元気だったのかもしれないが。
が、やはり痛いものは痛い。
チョッパーが消毒液を塗ると「イテテテテ・・・。」と声を漏らす。
まずは撃たれた肩からだが、これは弾が貫通していたのが幸いした。場所も神経からは離れていたために、今後に支障がでることもないと判断された。
そして。
通常ならセックスに使われることのない場所もかなりの傷を負っていた。それは、無理矢理に複数の男達にいいようにされ、強引に事が行われたせいであるが、その傷が元で感染症になってもいけないということで恥かしがるサンジを無理矢理チョッパーは治療を行った。


「やめろってぇぇ〜〜!!大丈夫だからよ。んなとこ触るな!!」
「ダメだよ、サンジ。・・・・きちんと治療しておかないと。裂傷、かなり大きいんだから・・・・。雑多な菌が入ったら大変だよ。・・・お願いだよ、治療させて・・。」

泣きそうになりながらも医者としての指名を果たさんと、チョッパーは半ば強引にサンジの肢に手を伸ばした。

「ちょっとゾロ。悪いけど、サンジの肢、押さえててくれるかな・・。」
「わかった・・・。」

直視するのは憚れたため、顔を背けてゾロはサンジの太腿に手を掛けた。

「・・・っっ!!」

特に痛みを感じる場所ではなかったはずなのだが、咄嗟にサンジの身体が跳ねた。
お互い気づかないふりをしてやり過ごすが、内心ゾロはあの反応に背中に汗が流れた。


感じて・・・・る?
いや、強姦されたも同然なのだ。どちらかといえば、嫌悪感からくる反応だろう。


そう解釈してゾロはそのままサンジを押さえ込んでチョッパーの治療が終わるのを待った。
その後、疲れたのか、そのまま寝入ってしまったサンジに暫くは誰かがついていた方がいいということで、ゾロはそのまま男部屋にいたのだが。

「・・・・・ぅうっ・・・・。」

寝苦しいのか、魘される声に気が付いた。
咄嗟に起こした方がいいか、次に少女を見ると言って出て行ったチョッパーを呼んだ方がいいか思案していたが。

「・・・・・ああああぁぁぁっっ!!!」

サンジが声をあげて飛び起きた。

「・・・・!」
「大丈夫か!魘されていたぞ。」
・・・・・・はぁはぁはぁ・・・。」

ゾロの問いかけに答える余裕もなくサンジは息を吐いていた。

ガバリ、と勢いのあるそれにゾロは驚いたが、何よりも気になったのはその声。
まるであの男達に攻められて、不本意ながらサンジも吐精した瞬間と同じ声で。
耳を疑った。
違うだろう、とゾロは思った。
普通、強姦された場合、セックスに対して嫌悪感しか湧かないだろうが。下手すりゃ、男に触れるだけでもダメになるもんじゃねぇのか?
わずかしかない知識を思い出してもゾロには、サンジの反応は理解できなかった。
と、同時に。
自分の下腹部に熱が灯るのも頭の隅で気が付いた。
誰に聞こえず舌打ちをする。
あの声に。あの姿態に。己は反応してしまったのだ。
サンジから預かったジッポで拘束された手の縄を焼きながら、目は男達とサンジから離さなかった。いや、離せなかったというのが正解なのかもしれない、と後で思った。

艶を帯びた肢。ピンク色に染まった胸。苦悩の中にも男の欲を引き出させる表情。つっぱった爪先。
どれもこれもが頭から離れなかった。
目の前で繰り広げられるショーに己の下半身は膨らんでいた。もちろんそれは誰にも知られずに済んだのだが。



今も努めて冷静さを装ってはいるが、いつその仮面を剥がれ落としてしまうかわからなかった。
このままではいけない。
そう思い、ゾロは水を取ってくると言って男部屋を出ようとしたその時。
天井からチョッパーの食事に呼ぶ声が聞こえた。
内心ホッとしたが、少し落ち着いたのか。

「・・・俺も一緒に皆と食べる。」

そう呟いたサンジに、わからないように汗を流して一緒にラウンジへと入った。
結局、皆と一緒に食事を取ったサンジは、その後再度休もうとしたが、それでもまた魘されて。





そして、今また重苦しい空気の中、静かに時を過していた。












カタリ


サンジが椅子から立ち上がった音がした。それはとても静かな音だったが、部屋の中そのものが静寂につつまれていたので、誰もが振り返るほどその音は響いた。
ゆっくりとサンジがメイに近づく。

ビクリ

軽く震えるメイにサンジは手を伸ばした。

「大丈夫・・・。何にもしないよ・・・。」

軽く頭を撫でると、その横に座りなおした。簡易ベッドになっている上で静かに2人座る。メイは膝を抱えたままだった。
それでもサンジが傍に来ることを嫌がらないのは、食事の時から努めてメイに優しくしてくれたからなのだろう。

「怖かった?」
「・・・・?」
「俺も怖かったよ・・・。」

話の内容を咄嗟に理解したゾロはもう一度口へとあてていた瓶の持つ手を止めてしまった。
瞬間ルフィも意味を悟ったのか、ガタリと椅子から立ち上がると、静かにラウンジを出て行ってしまった。
そのまま一緒に扉の向うへ出て行けば良かったのが、呆然とそれを見送ってしまった為、タイミングをはずしてしまった。
チッと舌打ちする声がゾロの耳へ届いた。
やはり。
と思い、立ち上がろうとしたその時。

「待て・・・。」

意外にも、止められた。「出て行け!」と言われると思ったのに、逆にここに残れとサンジは言う。

「いいのか?」
「誰かが受け止めてやらないとな・・・。メイちゃんは俺が受け入れる。が・・・テメェは俺の恋人なんだろう?しっかりと受け止めろ!」

ニヤリと笑うサンジとその横に座り込む少女に目をやる。見た目にはかなりしっかりしていると思われた少女は、まだ10歳を超えたばかりだとポツリと溢した。
誰が恋人だ!と悪態をつきたくなるが、あの三文芝居に乗った段階で、サンジはゾロを道連れにすることを決めたのだろう。途中何度となく交わされた視線を再度寄こす。

俺に凭れ掛かるのさえ嫌がったくせに!

ニヤリと笑うと、ゆっくりと2人に近づいて、サンジの横に並ぶように座った。
それを見届けてサンジは再度メイに声を掛ける。

「言ってごらん。楽になるから・・・。もう、辛い事なんて何もないよ・・・。君を苦しめた海賊はもういないし。俺もこの緑のおじちゃんも誰にも言わないから。・・・言うと楽になるよ。誰も君のこと攻めないから・・。」
「誰がおじちゃんだ!」
「テメェは黙っていろ!」

サンジの一喝にゾロは今回は黙るしかなかった。
2人を見上げる瞳はすでに涙で濡れていた。

「私・・・・・。」
「・・・何?」
「おねえちゃんが死ぬのを見ていたの・・・。」

それはこの小さな少女には重過ぎる出来事だった。









メイがコブラ海賊団に捕まったのは約2年前の出来事だった。
メイは家族ぐるみの劇団運営をしていて近隣の島々を回っては興行を行っていた。両親と祖父母と姉が2人に弟が1人。
小さな小さな劇団だったので、大した芝居は出来なかったのだが、それでも一度興行を行った島では、その小さな劇団は歓迎され、危険な海でも省みずお客のためだと島から島へと渡っていた。

それが、何を血迷ったのか、大してお宝があるわけではないのにコブラ海賊団の目に留まってしまったのだ。
海賊の襲撃という出来事に抵抗する力もなく、ただただ喚き叫ぶしかない家族達。
「せめて娘は、息子だけは・・・。」
そう言って事切れた両親と祖父母。
子ども達は捕虜として掴まってしまった。とはいえ、まだ小さな男の子は役に立つはずもなく両親と一緒に海の底へと沈んでいった。
捕虜とはいえ、命だけは助かったメイとその姉達だったが。
年頃の姉2人は、やはりコブラ海賊団のいいように性奴隷扱いされた。
年齢的に言えば、メイもやはり命を奪われただろうはずが、長女の機転でその身体に剣を振り下ろされる事だけは免れた。

「こんな小娘、使えねぇな・・・。」
「そうですねぇ〜。どうしますか?」

そんなやりとりを聞いた長女は言った。

「この子はお芝居の天才。きっと何かの役に立つわ。海軍だってこの子がいれば騙せるから!もしかしたら海賊だってことも誤魔化せるかもしれない・・・。だから命だけは奪わないで!」

男どもに服を破られ、無理矢理足を開かされ、それでもメイの姉は訴えた。
両親を失い、祖父母を失い、弟を失った娘達は、これ以上家族が亡くなるが耐えられなかったのだろう。

「だったら、3人まとめてこの船でこき使ってやる。おねぇちゃん達はせいぜいこいつらに奉公してくれよ。おい、チビ、てめぇはその芝居とやらで俺達にお宝を運んで来い!」

ガハハと大口を開けて笑うへび顔の船長に誰も逆らう事はできなかった。
今までも投降する振りをして、敵を倒したりと卑怯な手を使う海賊団だったが、メイが加わることにより、さらにその卑怯さに拍車がかかった。

メイはいつも、戦いが終わると泣きながら、姉達の傍へと行こうとしたのだが、海賊団の男どもはそれを許さなかった。
戦闘により昂ぶった体と精神を冷ますため。メイの姉達は性奴隷としての働きを余儀なくされた。しかも、戦闘がない時でも、暇を弄ぶ男は時々うっぷんを晴らすかのごとく彼女達を苛めた。
メイが姉達の傍に寄れるのは、そんな彼女達がボロボロの雑巾のようになった後だった。
それでも。
いつか必ずこの地獄から抜け出せる。両親や祖父母、弟の分まで生き延びなくてはいけない。
そう自分達を励ましたのだった。


彼女達がコブラ海賊団に捕まってから半年が過ぎようとしていた。

いつものようにメイが敵を油断させるがごとく、作戦に加わり、ルフィ海賊団を捕らえた時のように相手を襲撃したときの事だった。
襲った商船には多数の美しい娘達が乗り合わせていた。その商船は、客船をも兼ねていたのだ。
数多の着飾った美しい女性を捕まえて、コブラはご満悦だった。

「もう、前に捕まえた女には用はねぇな・・・。新しい女が手に入った。」
「でも親分、新しい女どもは、売ったりはしないんですかぃ?」
「あぁ?もちろん売るに決まっているだろうが!が、いいかげん飽きたからなぁ〜?売る前にちぃと味見しようじゃねぇか・・・。」

下品な笑い声とともに涎を垂らさんばかりに、海賊団の男達は怯える新しい捕虜となった女性達に手を伸ばした。

「親分、じゃあ、この古〜〜い、女はどうしますか?」
「あぁ、好きにしていいぜ?いっぺんお前犯り殺してみてぇっていってたじゃねぇか?女が死ぬまで犯ってみな!」

そうやり取りするのをメイは扉の向こう側で聞いていた。
このままでは、姉達は殺されてしまう。
そう、幼いながらにも理解して、男達が来る前に姉達のところへと走った。

「逃げよう、お姉ちゃん!殺されちゃうっ!!」

そう姉達の腕をひっぱるが姉達の脚には足枷が嵌められたままだった。
そこへやってきた男達。
メイには彼らが恐ろしい獣の大群に見えた。
必死に男の腕にしがみ付いて止めようとするのだが、それは反って男達を喜ばせるだけだった。
次々と男に蹂躙される姉達。その身体には刃物が突き立てられ、そのままいいように犯された。
息を引き取る瞬間でさえ獣達はその身体を突き上げていた。
メイはただただ泣き叫ぶしかなった。
姉の最後の言葉を耳にしながら。

「メイ・・・・。貴女は私達の分も生きるのよ・・・・・。」





「それから何度も何度も同じ事が繰り返されたわ。」
「新しい女の人が来るたび、それまでいた人は殺されるの。」

ぽろぽろ涙を溢し、肩を震わせながら、まだ幼さの残るメイはポツリポツリと呟いた。

「新しい人が来るたびに、今までいた人が殺されて・・・。お姉ちゃんも、殺されることなかったのに・・・・。」

新しい捕虜が捕まるごとに殺される彼女達を思って、掴まったばかりの人達を心の中で憎み、しかし、また新しい捕虜が来ると、その人を哀れみ。
少女の心はボロボロになっていた、がどうすることもできないのもまた事実。
そして、自分の保身の為には、卑怯な海賊に加担するしかなかった。姉達の最後の言葉だけを糧にして。












ヒクヒクと嗚咽を漏らして蹲る少女にサンジがゆっくりと手を伸ばし、手入れもされず痛んでいる髪を梳いた。
最初、ビクリと驚きを隠せなかったが、サンジのその優しさの篭った手の動きにしだいに体の緊張も解れたのか、サンジに凭れ掛かかる。
それを暖かな笑みをもって、包み込むサンジに隣でそれを眺めていたゾロは困惑した。


メイを受け止めるから、お前は俺を受け止めろ・・・・と。


そうサンジはゾロに言った。
今のサンジの行動を見れば、メイの血を吐くほどの告白を聞き、それをまだ完全とはいかないだろうが、メイの心の苦しみを溶かしているのだろう。
だったら。
サンジがゾロに求める『受け止めなければいけない苦しみ』は・・・。


まだ昨日の出来事にさえならない、拷問といっても過言ではない、男達とのセックスのことか・・・。
表だっては大した事はない!と豪語していたのだが、実はその心の内では苦しみの嵐が吹き荒れているのだろうか。
誰にも言えないくらい。
ましてや、ナミやロビンには自分から身代わりになると言った手前、そして女性相手には、吐き出すことはできないだろう。
だが。
このプライドの高い。いつも相手には負けまいと肩肘張っている自分に何故?
いや、逆か?
お互いをライバル視しているのは確かだが、その分お互いを認めていることもまた事実。
だから?
船長ではなく、自分を『受け止め口』にしたのか?


思案に暮れているゾロに気が付いたのか、サンジがゾロを見上げた。
その手は疲れ果ててすでに眠ってしまったメイの頭を今だ撫で擦ってしたのだが。


「ゾロ・・・・。お前、あの時、後ろで縄を焼いていた時でさえ、目を外さなかっただろう。・・・・だからだ。」
「・・・・・・。」
「お前なら、この忌まわしいともいうべき出来事も、昇華してくれると思った。」
「・・・・・・そうか・・・。」

ただ返事をするのみだったが、それでもサンジにはゾロがそれを理解し、また、一緒に昇華してくれるものと考えたのだろう。
ゾロもまた、サンジと一緒に、いつの日か、今日の日の出来事を笑って終わらせるようになりたいと思った。
サンジの呻き声に下半身が反応を起こしたことにはとりあえず目を瞑り。

出来事を封印するのではなく、傷にするのではなく。
一緒に昇華していこう。
ゾロはそう決めた。






お互いの心がこの先、どこへ向かうかもまだわからないままに。








END



06.01.26.


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