すれ違う思い 重なる思い11




振り返った二人の後ろに船長のゴクが厭らしい笑みを浮かべて立っていた。
思わずサンジは身構える。
ゴクは、手にした酒をビンごとグビリと煽り、口から滴った雫を腕で拭う。

「仲間を失った哀れ者同士、意気投合したかぁ?それとも何だぁ?さっきの延長戦でもやろうってのかぁ?」

デュナミスを見て、それからゆっくりとサンジに視線を移す。舐めるようなねばついた視線に、サンジは歪んだ顔を隠しもせず睨み返す。そんなサンジにも平然と、ゴクはニヤリと上げていた口端をさらに釣り上げた。

「そういやぁ、今回の戦闘では女が手に入らなかったが・・・・・。代わりが見つかったな・・・・なぁ、デュナミスよぉ?」

ゴクの言葉にデュナミスがピクリと肩を震わす。

「金の髪に白い肌・・・。充分にそそるじゃねぇか?なぁ?」

ゴクが相槌を求めて振り返れば、そこにはいつの間にか数人の部下が立ち並んでいた。誰もが戦闘で昂ぶったまま収まらない衝動を抱えているのがその眼から見えた。欲望がありありだ。誰かが、ゴクリと唾を飲み込む音がした。
くだらねぇと、サンジは内心舌打ちする。

まぁ、海賊っちゃそういうもんだけどよ・・・・。生憎、はい、どうぞ、と言うほどの奉仕精神はもちあわせちゃいねぇよ。

心で呟いて、サンジは咥えていた煙草を噛み潰した。

いっそのこと、ここで戦闘に雪崩れ込むか、と靴をトントンと鳴らす。
が、隣にいる男はサンジの内に湧きあがった闘気に気づいただろうに、穏やかな顔をしてサンジの前に一歩進み出た。
冷静でいられるのはこの船に長いこといるからか。発する口調も落ち着いていた。

「悪いが、こいつは俺のものだ。今、口説いたところだ。こいつが欲しければ、俺を倒してからにしてくれ。ま、俺に勝てる奴がいればの話だが・・・・。」

腰に下げている剣に手を添え、ゴクの後ろに並ぶ面々からの欲望の眼差しを真正面から受けた。
デュナミスからの挑発ともとれるセリフに、船長以外の連中は皆、思わず舌打しながら後ずさる。

「ククク・・・・。」

咽を鳴らして笑ったのは、船長のゴクだった。

「てめぇら、残念だったなぁ〜。この金髪別嬪さんは、デュナミスのもんだとよ!」

咋にがっかりしている連中を尻目に、ゴクは脇に抱えている男の肩を抱き寄せた。今更ながらに、その存在にサンジは気づく。

「彼はゴク船長の専属の相手だ。」

ボソリとデュナミスがサンジに告げた。
と、同時に対抗するように、デュナミスはサンジの肩に手を添える。サンジは、ふぅんと声に出さずに煙で返事をした。煙草は噛み潰してしまったが、まだ返事に値するほどしっかりと煙が舞い上がる。

「そういうことだ。悪いが、サンジには指一本触れさせない。もっとも、サンジ自身もさっき見たとおり、相当の手練れだから俺が守るまでもないがな・・・・。」

冷ややかに細めたデュナミスの目に、部下共はさらに一歩下がった。
ゴク船長は、そんな言葉を無視するかのように、笑いを止めなかった。

「そういやぁ・・・。」

何かを思い出したように、酒ビンを持ったまま顎に手をやる。

「同じ金髪に白い肌・・・・。男ではあるが、似てるっちゃあ、似てるな、ソフィアに。まだ忘れられねぇか。まぁ、あんな上玉はそうそういねぇからそれも致し方ねぇか。」

ゴクの言葉にデュナミスが強張るのがサンジにも彼の手を通してわかった。

「昔は、お前もどうすることもできなかったもんなぁ〜〜〜。今度は、せいぜい守ってやれ・・・。」

ググッとデュナミスの手に力が入る。思わずサンジは掴まれた肩に痛みを覚え、顔を顰めた。一度噛み潰した煙草がさらに潰れる。

「あぁ、いや・・・・。強いようだからなぁ、そんな必要はねぇか、その別嬪さんには・・・。」

厭らしい笑みを変えることなく、ゴクは笑いながら去っていった。それに釣られるようにして、他の連中も酒を飲みなおそうとそれぞれに散っていく。
遠くから賑やかな笑い声は引き続き届くが、また最初のように、二人の回りには静けさが戻った。

「大丈夫か・・・・?顔色が悪いぞ・・・。」

サンジが顔を覗かせて、様子を伺う。
大して時間が経ったわけではないのに、暫くの間呆然としていて我に返ったように、デュナミスはハッとした。

「悪い・・・・大丈夫だ。」

力が相当入っていたが自分でもわかったのか、ぎこちなくサンジの肩に置かれていた手を外した。

「多少、痛かったが・・・・別にどうこうなったわけじゃねぇ。大丈夫だ。」

ゆっくりと肩を擦りながら、サンジは苦笑した。潰れた煙草は、手摺りでギュッと潰して火を消した。

「あの時の話をされると我を忘れそうになる・・・。」

「いいんじゃねぇの?」
「サンジ・・・・。」

今更ながら思い出したように、サンジはニューウェイ号で負傷した右手を持ち上げた。デュナミスが巻いてくれた布には薄っすらと血が滲んでいるが、その染み具合から察するに大した傷にはならなかったようだ。

「『憎しみからは何も生まれない。』そんな聖者のような言葉を吐くほど、俺もできた人間じゃねぇ。それが力にになるのならそれもありだと思う。俺だってさっきまで仲間だった連中のことを思うと、勝ち目がないとわかっていても暴れたくなる。それに・・・・。」

サンジは布の巻かれた右手を己の口元に持っていき、まるで見せ付けるようにキスを施した。

「あんたは、人を思いやる気持ちも持ち合わせている。鬼や悪魔になったわけじゃねぇ。それぐらいは、俺にもわかる。」
「そうか?」
「あぁ、船を襲われた連中がなぶり殺しにされるのを平然と見ている冷徹さも確かにあるが、それでも、さっき俺を庇ったように人を守ることもできる。」
「守るのは気に入った人間だけだ。」
「この海では、それで充分。」

ニッとサンジは笑った。釣られてデュナミスもサンジに笑い返す。
初めてお互いに笑顔を見たような気がする。

「彼女、ソフィアさんって言うのか?」
「あぁ・・・・。」
「美人だって?そんな、彼女に男なりとも似ているって言われたら光栄だなぁ〜。」

揄ではなく、明るくサンジは笑った。

「そうだな・・・・。見た目が似ているってわけじゃないが・・・・・雰囲気が、似ている。」
「雰囲気?」

話をしながら、今度は、デュナミスがサンジの右手を取った。サンジはよくわからないまま、デュナミスにされるがままに任せている。

「あぁ・・・・。金髪、白い肌。見た目で似ているのはそれだけだ。彼女の髪は長かったし、顔立ちが似ているわけじゃない。だが、どんな辛い状況でも、例えその心の中に苦しみや憎しみを持ったとしても・・・・・。一時は涙を見せても、最後は笑っていた。今のサンジのように、困難を乗り越えていこうとする強さを持っていた。だから、雰囲気が似ているのかもしれない。」
「誉め言葉と取っていいのか?」
「もちろんだ・・・・。」

穏やかに応えるとデュナミスは、サンジの右手を己の口元に持っていき。・・・・そっとキスを施した。
されるがままだが、サンジの頬が赤く染まる。

「サンジ・・・・・。」

デュナミスがサンジの手を口元に持っていったまま、デュナミスはサンジを見つめた。

「さっきの言葉、本気と受け取って欲しい。」
「・・・・?」

デュナミスの瞳は真剣だ。

「俺のものになってくれないか。」
「・・・・・・・な!?」







先ほどまでは、一緒にゴクを倒す仲間として、サンジを求めたのに・・・・。
ほんの僅かの間に、どうしてこんな話になってしまうのか。
突然の展開にサンジは戸惑う事しか出来なかった。


09.09.30




           




次回くらいゾロを出したい〜〜!!(あ〜、マジ時間欲しい)