すれ違う思い 重なる思い18




結局、サンジが解放されたのは深夜も過ぎて、明け方のことだった。

「あ〜〜〜〜〜〜。」

頭がくらくらする。
何か薬を使われたことは覚えているが、犯されている最中は飛んでてよく覚えていない。
サンジを散々甚振った連中は、自分達の欲求が満たされると満足したようで、サンジをそのままに早々に部屋を出て行った。

外は静かだった。
サンジは、床に横たわったまま体を動かすことができなかった。




コトン

小さな音がしたと思ったら、ギィと扉の開く音がした。
重い頭をなんとか横にずらして動かすと茶色いブーツが目に入った。誰かが、この部屋に来たようだ。

そういえばこの部屋って・・・・何処だっっけ?

ゆっくりと手をつき頭だけ起き上げる。

「・・・っっ。」

ぼんやりとする頭をなんとか思考をめぐらそうとブンブン振った。と、ぐらっとした。

「大丈夫か?」

倒れる瞬間、頭を抱えられた。傍で聞き覚えのある声にゆっくりと顔を上げる。

「デュナ・・・ミス・・・?」
「大丈夫か、サンジ・・・。」

同じ言葉を繰り返して心配するデュナミスにサンジは微笑んだ。

「あぁ・・・大丈夫だ。こんなのへでもねぇよ・・・・。」

言葉と反対に動きの悪いサンジにデュナミスが顔を顰める。
しかし、少しずつ頭がクリアになってきたおかげか、緩慢ではあるが漸く上体を起こすことができた。デュナミスが手を伸ばし、それを支える。
サンジの体にはシーツが掛けられてはいたが、服は纏っていなかった。

「ほら、水だ・・・。」
「サンキュ・・・。」

差し出されるコップに、素直に口に付けた。
デュナミスに支えらて、両手でコップを持つ。零れながらも水を飲み干すと、サンジはギュッとデュナミスに抱きしめられた。
コップがコトンと床に転がる。

「もう二度とこんな真似をするな!」
「・・・・・。」

一晩、大勢の相手をして疲れ果て、しかも汚れている体。それらに気づかない振りをして、デュナミスはサンジを抱きしめた。

「汚れちまう・・・・。」

サンジの言葉にデュナミスは顔を顰めた。

「構うもんか!!」
「デュナミス・・・。」

サンジの肩に何か温かいものが感じられた。それが肩から背中へと伝わっていく。

「デュナミス・・・泣いてるのか?」
「・・・・。」

何も答えないのが答えだ。

「悪ィ・・・・心配かけたな・・・・。」
「・・・・サンジ。」

肩口でボソボソと声が小さく響いた。

「もう二度とこんなことをしないでくれ。」
「・・・・。」
「サンジが助けようとしても、身代りになったとしても・・・・結局こうなるんだ。誰も助けられない!襲われた連中は、みんな殺されるか犯されるかどちらかなんだ。例えサンジが身代りになったとしてもそれは一時だけだ!結局、何も変わらない。奴らを倒さない限り、何も変わらないんだ・・・・。」
「・・・・・そっか・・・そうだな・・・・・。」

サンジも助けたかった女性らを結局助けられなかったことが悔しく、また、約束を守らなかったゴクには怒りが湧きあがった。しかし、それは荒れ狂うものではなく、静かな静かな怒り。
いつもなら、烈火のごとく怒り狂って、暴れているだろう。しかし、今回は暴れ回らないのは、静かな怒りに転じたのは、目の前の男の所為だった。サンジは、これ以上、彼を困らせたくなかった。

「もっともっと強くなって、いつかヤツを倒す。それまでは、サンジも辛抱してくれ!」
「デュナミス・・・・。」

流れた涙は隠してももう仕方ないと思ったのか、デュナミスは濡れた顔を離してサンジを見つめた。
サンジもまたデュナミスを見つめる。
お互いの顔を真正面から見つめあう。
同士とか、同胞とか、仲間とか・・・・そんな言葉だけでは言い表せないような感情が湧きあがった。
サンジを好きだと言ったデュナミス。
別に思う人がいると言って、デュナミスの心を受け入れることができなかったサンジ。
お互いの感情が重なることがなかったはずなのに、今は、お互いの瞳が、お互いの視線が重なった。


ゾロ・・・・・。


大切な想い人の姿が頭を過るのに、サンジはデュナミスの瞳から目を離すことができない。



デュナミス・・・・。



ゾロとは心を通わせることなく別れた。しかし、心の奥底では彼の事が好きな事には違いない。
それなのに・・・・。
心の中にいた人物がぼんやりとぼやけて消えていく。そのまま薄らいで陽炎となった姿は、今度は目の前の人物にすり替わった。


俺は・・・・。



サンジは瞳をすうっと閉じて俯むこうとした。
が、デュナミスがそれを許さない。


「サンジ・・・・。」


低く心地よい声。優しい音。
ゾロとは違うはずなのに、目の前の男の声がサンジの心に入ってくる。


逃げられない。


デュナミスに両手で頬を包まれた。
そして、デュナミスの顔がそっと近づいて。
サンジは逃げられなかった。
そのまま、お互いの唇が重なる。

深くはなかったけど、それは紛れもなく愛情を持った口づけで。


あぁ・・・。囚われていく。


体はここの海賊団に。想いは目の前の男に。
サンジには抗うことができなかった。
徐々に深くなる口づけをサンジは自分の意思で受け入れていった。
優しい口づけ。心が温かくなる抱擁。

サンジの態度にお互いの心が通い合ったと感じたのだろうか。
デュナミスは、そっと唇を離すと優しい笑顔をサンジに向けた。
サンジは、なんだか居た堪れないような恥ずかしいような、どうしてよいのかわからず、すっと下を向いてしまった。

「どうした・・・サンジ?」
「あ・・・・いや。俺・・・・汚いし・・・・いいようにやられちまった・・・。」

何を言っていいかわからず、適当に答える。
しどろもどろなサンジにデュナミスはクスリと笑った。

「こんな稼業だ。気にしないよ。それより、体がまだ辛いだろう。体拭いてやる。」

いつの間に持ってきていたのだろう。水に浸したタオルを持ち出してくれた。

「いや、いいっっ!!自分でやるからっっ!!」

恥ずかしげに足元にあるシーツで体を隠す。そんなサンジにデュナミスは更に笑う。

「それだけ元気があれば大丈夫だな。使われた薬もたぶん、後に残らないやつだ。」

恥ずかしがるサンジをデュナミスは丁寧に介抱した。















数日後、サンジを犯した連中がしばらく医務室から出られない状態でとある部屋で倒れているのを見つかったのはちょっとした噂になった。



10.01.31




           




新年明けてからかなり経ってからの更新ですみません。今年も亀でいきたいと思います。