すれ違う思い 重なる思い23
「うおおおおおおおっっっ!!」 「うおりゃあああああああ!!」 敵船に乗り移ったものの、二人して囲まれてしまった。 が、そんな海賊の輪を崩してどんどん進んでいく。 「ルフィ!!」 「何だ?ゾロ!」 背中合わせに立ち、敵を見ながら会話をする。 「二手に分かれるぞ。船長を頼む。」 「ゾロ・・・・。お前まさか・・・・。」 ルフィがゾロを振り返ろうとした瞬間、刀を振り上げた男が襲いかかってくる。しかし、難なく敵を見もせずルフィはぶっ飛ばした。 「サンジを・・・・?」 ルフィの困惑にゾロは真っ直ぐに船長に視線を合わせた。 「クソコックは俺に任せろ。」 「でも、おめぇ、さっきあいつのペンダントを!?」 「悪いようにはしねぇ。俺を信じろ!!」 二人して上を見上げた。 大勢の襲ってくる海賊達の隙間からチラチラと上階に立つサンジが見え隠れする。その横には、ずっとサンジに連れ添うように剣士が立っている。 二人は戦闘には加わらず、ずっと下で戦っているルフィとゾロを眺めていた。それとは別に、わずか離れた位置にいたはずの船長の姿はすでになかった。 「わかった・・・・。ゾロ、サンジを頼むぞ!」 ルフィはポンとゾロの肩を叩いて、腕を伸ばした。マストの上部を掴み、ビヨーンと伸びる。 「うしっ!」 そのまま飛び上がっていった。ルフィの姿は、後部の方へと消えていく。船長のゴクを捜しにでも行ったのだろう。卑怯な手を使うと言っていたが、単純なルフィにはそんなものは関係ない。 「龍巻きっっ!」 バラバラに分かれ、一人になったゾロに襲いかかる連中を簡単に吹き飛ばす。 タンと跳躍し、近くにある手摺に飛び乗る。そのまま上の甲板へと順に飛んでいき。ゾロは、上階へと向かった。間々に振り下ろされる刀、飛んでくる銃弾は両手の刀で弾いた。 どこから湧いてくるのか次々に表れる敵。止まらぬ勢いのまま、襲いかかってくる敵をなぎ倒していく。 徐々にサンジに近づいてくるゾロに、少しずつ見えてきたサンジの表情は困惑している。 彼は一体、ゾロを、麦わら海賊団をどうしたいというのだろうか。サンジは一歩も動かないし、見え隠れする表情からは何もわからない。 「だったら、直接聞くまでだ!!」 ガチリと刀を咥え直し、進むスピードを速める。 相当実力を持った海賊団だと聞いていたが、なるほど、確かにそれなりに強い連中だ。だがそれでも、ゾロの、麦わら海賊団の敵ではなかった。 「うおおおおっっっ!!」 ガキィィン! バタンッッ!! 向けられた銃は斬撃で弾き、振り下ろされる剣には、刀で受け止め払う。 飛び交う弾を掻い潜り、バタバタと敵を倒して、柵を飛び越えて、真っ直ぐに上を目指した。 ダダダダダダ・・・・・・。 ダンッッ!! 着いた。 漸く、サンジのいるフロアまで辿りついた。 「ハァハァハァ・・・。」 ここにたどり着く前にかなりの人数の敵を倒した。それなりに体力は消耗した。が、まだこれからが本番という雰囲気が漂っている。ゾロもまたそう感じていた。 「ゾロ・・・・。」 サンジがポツリと小さな声で目の前の男の名前を溢した。 ゾロは顔を上げた。 目の前にはずっと探していた男が立っていた。 久しぶりに名前を呼ばれた。1年ぶりに聞く声だった。 その声音だけを取れば、何も変わっていないように思えた。 が。 何もかもがすっかりと変わってしまったのだろう。 今、こうして対峙しているのが、その証拠だ。 昔は一緒に隣に並んで、または背中合わせで戦っていたのに、どうして今は向かい合っているのか。自分は刀を翳しているのか。 その答えをサンジの口から聞きたかった。 「クソコック・・・いや、サンジ。てめぇ、どうしてこの船にいる?」 「っっ・・・・・。」 サンジは言葉に詰まる。 目の前の魔獣に、今までなら怯むどころか、一緒に戦っている時はは高揚感すらあったのに、ケンカの時も楽しんでいたのに、今は目の前の男の視線にすら身体が震えて止まらない。 それは、決して男から発せられる気に恐怖を感じているからではない。そう思うのに、サンジの身体は震えが止まらなかった。 一体どうして・・・。 コツ 隣に立っていたデュナミスが、何も言えないサンジに変わって一歩前に足を進めた。 「貴様が麦わら海賊団の剣士。ロロノア・ゾロか?なるほど、恐ろしいまでの気を発してるな。」 別の男に名前を呼ばれ、ゾロの眉がピクリと動いた。今初めてその存在に気付いたかのように、サンジの隣にいる男に目を移す。 「誰だ?てめぇ・・・。」 跳ね上げた眉のまま、それでも目を細めてゾロは刀を握る手に力を入れる。 ゾロの本能が、この男から気を許すなと訴えている。 が、隣にいるサンジとの関係が気にならないと言えば嘘だ。この海賊船にサンジがいることに気付いた瞬間からずっとサンジの隣に立っている男。 男から視線を外さないまま、サンジもチラリと視界に入れた。 過去、一緒に旅をし、一緒に戦い、想いを伝えた男は、今は目の前に立つ剣士の隣に立つことを常をしているのか。身体を震わせながらも、決して下がることなく、男の隣にいるのが自然なように振る舞う。 「俺は、デュナミス。訳あってこの船で剣士をしている。」 「この海賊船の連中はみなクズ共だと聞いていたが、てめぇもそうなのか?他の連中とは違う匂いがするが・・・。」 「訳あって・・・と言ったろう?だが、今はそっちの海賊船を襲撃したクズ共と一緒に貴様を倒そうと思っている。」 「・・・。」 デュナミスは腰に下げていた剣をスラリと抜き取った。 「ディル!!」 それに気付いたサンジが思わず隣の剣士の名前を呼んだ。 ゾロは、ピキリと額に青筋を立てた。 「クソコック!!てめぇも、俺達を襲おうっていうのか!?おい、どういうつもりだ!!」 「ゾロ・・・・。」 ゾロの叫びにサンジは一瞬、顔を歪めた。が、すぐにそれは、過去いつも見せていた不敵な表情に変わった。 「そうだと言ったらどうする?海賊同士だからな。理由はいらねぇだろう?俺達は、麦わら海賊団を襲撃する。」 「てめぇらが俺達を襲おうってんなら、最初に言った通り・・・。返り討ちにするまでだ!!」 一瞬見せた表情は何だったのか?それがゾロにはわからないまま、サンジはゾロに向かって口を開いた。 ゾロもまた、そのまま返答する。 だが。 何だ、一体? 平静に見せるが、心の隅に感じる違和感。昔、仲間として一緒に過ごした男はこんな奴だったか?それとも、やはり、この1年で変わってしまったのだろうか。 しかし、変わった理由もこの1年どうしていたかも。自分に起きた様々なことを簡単に明かすような男ではないことをゾロは知っている。 何度も何度も己の気持ちを伝え、それをなかったようにする男。それ以前にも、元々、奴の性分なのか、表向きはおちゃらけた面ばかりを見せているが、いつも回りに気遣い自分の苦労を回りに見せようとはしなかった。 キッとゾロはサンジを睨みつけた。 「そう簡単にいくか?この船の船長は卑怯なことで有名だぜ?それでなくとも実力もある。てめぇに倒せるか?」 ニヤリと笑う顔は、昔何度も見せたものと寸分も変わらない。見た目は何も変わったように見えないのに、何かが違うような気がした。 サンジは睨みつけるゾロに言葉を続ける。 「そうそう、その前に。ゾロ!てめぇは、先にこの男を倒さなきゃいけないんだぜ?ここまで相当暴れ回ったんだろう?てめぇにこの男が倒せるのか?こいつも結構やるぜ。」 サンジの言葉と同時にデュナミスは、手にしている剣を前に突き出した。先ほど昇った朝日はとうに高い位置へと動いており、デュナミスの持つ剣に鋭い光りを与えている。 ゾロはもう一度、サンジの横にいる男に視線を動かした。 「サンジ・・・。」 デュナミスが顔をサンジに寄せる。 「ロロノアを倒してもいいな。」 「あぁ、構わねぇ。あいつを倒したら、ご褒美をくれてやるよ!」 言葉の内容とは裏腹に、声は甘さを含んでいる。サンジはデュナミスの肩を抱き寄せる。デュナミスもまたサンジの腰に腕を回した。 まるで見せつけるように交わされるキス。 それは紛れもなく恋人同士がするもので、ねっとりと絡みつくようなキスだった。 「・・・・っっ!」 目の前の光景にゾロの頭は沸騰した。 この海賊船に気付いた瞬間から。この二人を視界に入れた瞬間から。口で説明されなくともわかった二人の関係。 何故!? 自分がサンジに想いを寄せた時は、その気持ちさえ否定されたのに。 同じ剣士でも、この男だったらいいというのか・・・。 ――――――――――――――――――― 『・・・・・・俺の知っている剣士は・・・・・。ロロノア・ゾロは、ただ只管真っ直ぐ目標に向かって突き進む男だ。友との約束を果たす為に、世界一の大剣豪を目指して、がむしゃらに剣の道を進んで行く男だ。こんな薄汚れた感情に囚われている余裕はないはずだ。』 『それが、ロロノア・ゾロだ。』 ――――――――――――――――――― サンジの最後の言葉を思い出す。 あれは、サンジなりにゾロのことを考えての言葉だったと今では思っている。サンジ自身がゾロのことを嫌ったわけでも何でもない。サンジなりの、ゾロへの精一杯の愛情だ。 だからこそ、今度会う時は、YESにしてもNOにしても彼の本心を口にしてもらえるように強くなると決めたのだ。言葉にしなくても信じあえる仲になるべく努力もしたのだ。 それを話した時、ルフィも笑って「それでいいんだ。」と言ってくれたのに。 なのに。 自分は心身共に成長を果たしたと自負しているが、この男はそうではなかったのか。単にゾロのことを嫌って船を降りたというのか。 そして、自分とは違う剣士に心を開いたというのか。 いや、とゾロは首を振った。 最初、サンジに自分の気持ちを告げた時のことを思い出す。 サンジの性格からして、いい答えを期待していたわけじゃなく、ただ自分の気持ちを知ってもらいたくて己の気持ちを告げたのだ。 それは、今も変わらない。 サンジが船を降りた理由が『ゾロの剣の道の妨げにはなりたくない』ということなら、それが恋愛感情からくるものではないにしても、ゾロへ好意を持っていることに他ならない。 ならば、それでいいじゃないか。 サンジが生きていると信じることができるようになってから、サンジからのいい答えを全く期待していなかったわけではない。一から始めれば、きっと今までと違ういい関係が築けるとも信じていた。 でも、その想い自体がそもそも間違いなのだ。 彼が、生きて傍にいてくれる。一緒に戦ってくれる。それだけで充分だ。最初は、サンジへのいい返答なんて期待してなかったじゃないか。 ゾロは深呼吸した。 大丈夫だ。 目の前のサンジの恋人らしい剣士とも平常心で戦える。 もし、彼に勝つことができたならば、サンジをまたサニー号に迎えよう。その時、手負いの彼が傍にいようとも関係ない。 チャキリとゾロは刀を構えた。 一旦は湧きあがりかけた嫉妬の炎はゾロの瞳から消え去った。 冷静に刀を構えるゾロに、サンジの方がうろたえる。 真正面から見つめるゾロの瞳にゾクリとする。 途端、船を降りる時、ルフィと交わした言葉がサンジの脳裏に蘇った。 ――――――――――――――――――― 「サンジ!!」 「なんだ?」 「もし!もし、お前が船を降りて離れてしまってもゾロの気持ちが変わらなかったら、その時は!!」 「その時は?」 「今度は、ゾロの想いを受け止めろ!いいか?これが条件だ。その条件が呑めないようならお前がこの船を下りるのは許可できねぇ!!」 「ルフィ・・・・。」 ――――――――――――――――――― サニー号と接触した際に感じた気は何だったのか。 そう思えるほどに今のゾロは、目の前の剣士に集中している。 ディルとの仲を見せ付けて、ゾロの動揺を誘おうとしたが、それは何の効果もない。 やはりな。 そうでなくっちゃな。 そのために船を降りたんだもんな。 それが、『ロロノア・ゾロ』だよな。 ディルとの仲が深まるにつれ、秘かに膨れ上がった自分のゾロへの思い。 一時は、ゾロとの関係が深まるのを恐れて船を降りたのを後悔した。 だが、そうだ。これで良かったのだ。 ディルとキスを交わしながらも、サンジの中で燻っているゾロへの思いは、封印、いや、抹消しなくてはいけない想いだったのを思い出す。 サンジは口端を上げた。それが自嘲の笑みだと自分でもわかるが止められない。 「サンジ・・?」 隣でデュナミスが心配そうな顔をする。 が、無用だ、とサンジは切り据てた。 「ロロノア・ゾロを倒すんだろう?動揺を誘うと思った折角のキスも効果がなかったが・・・・、まぁ、ゴクを倒すための切欠にすぎないし・・・。どうせ、負けないんだろう、てめぇは。」 「あぁ。奴を倒す。そして、ゴクも倒す。」 「頑張れ。」 サンジは一歩下がった。 それが、合図かのように、デュナミスはタンと跳躍した。 ゾロに向かったデュナミスを眺めながら、サンジは懐から煙草を取りだした。 きっとデュナミスはゾロに勝てないだろ。 サンジとデュナミスのキスにも冷静だった男は、きっと以前よりも強くなっているだろう。 元々、サンジが知っている段階での実力でさえ、デュナミスはゾロに勝つ勝機は少ない。それ以上に強くなっているだろうゾロに勝つ可能性はほとんどないだろう。 だが、もう一つの目的のため、敢えて勝負をしなくてはいけない。デュナミスのもう一つの目的、ゴクを倒すために。 だからこそ、止めない。 もちろん剣士としての勝負もある、止められるわけがない。 サンジは大きく煙を吐き出すと、下甲板を見下ろした。 ルフィはきっと船長のゴクを倒すためにゾロと分かれたのだろうが、卑怯者のゴクは姿を隠しているのだろう、ルフィが暴れながらキョロキョロしているのが、視界の端に映った。 「まったく・・・・・。バカ正直だよな、ゴムは。」 船長のゴクを見失い、兎も角襲ってくる連中を跳ね飛ばしているようだ。 「さて、ゴク船長はどこから現れるのやら・・・。」 きっとまずは、ディルと戦っているゾロを狙うだろう。 サンジは床をトントンと靴で叩いた。 |
10.05.19
あとちょっとあとちょっとあとちょっと・・・・・。本当かな・・・・。