すれ違う思い 重なる思い24




「クッソ〜〜〜!!船長ってのは、どこにいるんだっっ?!」

ルフィは、当りを見回す。その間にも次々と襲ってくる敵は遠慮なくぶっとばす。

ダダダダダダ

階段を駆け降りる。船室の方へと向かうが、やはり目の前に現れるのは、雑魚とも言える連中ばかりだった。

「ん?」

と、いきなり通路のど真ん中にひょろっとした男が立ち塞がった。

「なんだ?てめぇ?」

ルフィの目が険しくなる。

「麦わらのルフィ・・・。懸賞金3億ベリー・・・。見た目はそう大したことのないように見えるな。」

独り言を呟いたのだろか。ルフィの問いには何も答えない。

「だから何だよ、てめぇは・・・。あ、もしかして船長のゴクってやつか?」
「ゴク船長はここには、いない。残念だな。どのみち、貴様はここで消える運命だ。どうでもいいか・・・・。」

ダラリと両手を垂れ下げているが、その右手には長い剣が握られていた。
一見やる気がなさそうに見えるが、外見と違い、戦う気配はビンビン伝わってくる。

「俺は船長のゴクって奴に用があるんだ。どけ!」

ルフィも目の前の男の言葉は関係ない、と怒鳴るが、やはり、通してもらえないらしい。グッと拳を握り、足を踏ん張り身構えた。

「貴様はゴク船長に会うことはないだろう。ゴク船長に会う前に、俺が貴様を倒す。」

言葉が終わると同時にタンと目の前の長身の男が跳躍した。
ぶうん、と振り下ろされる剣はスピードが速い。

「っっ!!」

長い剣がルフィに向かった真っ直ぐ伸びてきた。狭い通路のため、大きく左右に避けることができない。咄嗟にルフィは身体を捻り、後へ避けた。と、前に突進しながら連続攻撃がルフィを襲う。

「うわっ!・・・・・ここ狭くて戦いにくいなぁ〜〜。」

声はのんびりとした空気を持ってるが、それなりに間一髪で避けるばかりだ。ルフィとしては、この場所自体が苦手な部類になるのだろう。
相手は、剣が長い割に、剣捌きが上手い。一見、不利な状況なのに動きがいいのは、やはり自船ということで慣れているからだろう。

ビュッ    ビュッ   ビュッ


兎も角、広い場所に移動しようと、ルフィは甲板目指して走り出した。











ガキィィィィィィィンン
ザンンンンンッッッ


剣と刀がぶつかり合う音がサンジの耳に強く響く。

「ッッ!」
「チッ!」

お互い一歩も下がらず、ただ只管、剣のぶつかる音が辺りに響く。
ゾロの片刃とは違い、デュナミスのは両刃の剣。サンジには、見た目以外の違いはわからないが、それでも双方、自分の持っている剣を活かし、誰が見てもわかるほどめったに見られない勝負をしている。


単純に実力だけで考えば、デュナミスの方が圧倒的に不利だと思ったが、それを補っているのは、やはり、精神力か。


ゾロは最初から三刀流で戦っている。それだけで、ゾロがどれだけ本気なのかもわかる。
剣士としての礼儀であるのも当然だが、それだけでなく、デュナミスの気迫がゾロを本気モードにしているのだろう。

最初で最後の・・・・ゴクを倒すチャンスなのだ。これが失敗したら、もう二度とチャンスは巡ってこないだろう。
そして、ゾロを倒して、サンジをこの手に入れる。その想いがデュナミスから溢れてくるのが、サンジにもわかった。

サンジは二人に集中しながらも、辺りに気を張り巡らせた。絶対、この勝負に水を差すはずだ。あの卑怯な男ならば。
それが証拠にこの戦闘時に姿を隠している。麦わら海賊団の船長、ルフィとの勝負から逃げているのもわかっている。



いつ出てくる。


早く出てこい。
姿を現したら、俺が・・・・・・。



二人の勝負が気にならないわけがない。
サンジにとって、最も大切な男達の、剣士としての勝負なのだ。
だが、今は、二人を見届けるのがサンジの本当の役目ではない。サンジは、二人の勝負とは別の所に、精神を集中する。



どこだ・・・奴は・・・・。





「きゃあああああああ!!」

突然、遠くから悲鳴が聞こえた。


あの声は・・・・・ナミさんっっ!?



そもそもが、たった1人対1人の勝負ではない。海賊同士の抗争だ。
サニー号を襲っている連中も確かにいる。ゴク側もサニー号を襲う組と、ルフィ達を迎え撃つ組と、確か二組に分かれているのは知っている。
が、サニー号を襲う組には、大した輩はいなかったはずだ。それは、襲い行く連中を見ていて確認している。
ルフィ達の様子も、見る限りよくある戦術でこの船と戦っていたはずだ。
それは、ルフィとゾロ・・・・・そして過去であるならば、自分が、敵船に乗り込み。女性陣、ウソップ、チョッパー、が自船を守りながら戦い。フランキーは主に舵を扱い、ブルックは、状況によりウソップかフランキーを補佐する。
そんな、パターンが大抵の麦わら海賊団の戦い方だったはずだ。

それが、変わっていないならば。
今、ルフィとゾロがこちらの船にいるならば、自船にはほとんどのメンバーがいるはず。
だから、問題も大してないはず、と高を括っていた。

でも・・・。

でも、もしかしたら・・・・・・ゴク??



デュナミスとサンジがいつかはゴクを倒そうとしていることは、ゴク自身、端から知っている。
そして、この戦闘。
ゾロとデュナミスの戦いにゴクが水を差すことを想定していて、それを待っていることを最初から読んでいたとしたら・・・・。




「しまった!!ナミさんっっ!!」


サンジはナミの名前を叫ぶなり、突如走り出した。
まるで、二人の勝負のことを忘れたかのように。


後方で二人を見守っていたと思っていた男の突然の変化。
それをデュナミスもゾロも気付いた。

「どうした!?サンジッッ!!」
「クソコック!?」

サンジの慌てぶりに戦っていた二人は、お互い目を合わせてぶつかり合っていた刀を双方から離して、お互い飛び下がった。
「チッ。どういうことだかわかんねぇが、さっきのナミの悲鳴といい・・・・・何かあるな。」

回りを見回すと、自分とデュナミスが勝負をしていたことで、他の連中はサニー号を襲うことに集中していたようだ。倒れている者以外は、甲板には誰もいなかった。
ゾロも自船に戻るしかないと判断する。

「クソッ!」

一歩遅れてゾロも二人の後を追いかけた。











「うぅぅ・・・・・。」


サニー号の前甲板。
首根っこを掴まれた、という状態でナミはゴクに捕まっていた。
大柄な男なだけに、ナミの足は浮き、まさに吊られた状態だ。首も締まっていて息もロクにできないようで、苦しげな表情が浮かんでいる。

「うっ!」

ナミはゴクの腕を掻きむしるが痛くも痒くもない、とばかりに更に首が絞められた。
そのゴクを取り囲むようにして、麦わらの面々が二人を見つめている。どう攻撃を掛けようか思案しているようだ。
ロビンが腕を組み、技を仕掛けようとした。
が。

「おっと!そっちの姉ちゃん!動かないでもらおうか!!能力者なのはわかってるぜ?」

ニヤリと笑い、ゴクは手にしていた斧をナミの胸にプスリと突き刺す。先端が綺麗な肌に埋もれ、プツリと血玉が浮き上がった。

「技掛けられちゃあ、間違ってこのお譲ちゃんの胸をブスリとやっちまうかもよぉ〜?」

ガハハハハと大声で嘲笑う。
クッとロビンの動きが止まる。
誰もがどう対処しようか考えあぐねているところだろう。

「おい!海楼石の鎖があったよな。それをこいつらに繋げ。」

すぐ後ろにやってきた幹部の一人が、普段から戦闘時には持っているのだろう。ジャラリと鎖を懐から持ち出した。
そのままジリジリとロビンの前に足を踏み出す。

「さぁ、大人しく捕まってもらおうか?」

ロビンは目だけで回りを確認すると、すんなりと両手を差し出した。拒否をするつもりはないようだ。
ここで拒否をすれば、ナミはあっけなく、ゴクの斧でザクリだろう。
それよりも、今ここにいない面々、ルフィとゾロ。彼らに任せた方が得策だと考えたようだ。
もっともルフィなどはなにも考えず突進してくることが想像できたが、ゴクの不意を作れるならそれでいいだろう。自分は鎖に繋がれても、まだ動きの素早いブルックや正確にゴクだけを狙えるウソップがいる。
そのロビンの考えが仲間にもわかったのだろう、誰もが手を出さずにゴクとナミを見つめている。

「来いっ!」
「あっ。」

鎖を繋いだ男がロビンを自軍に引き寄せた。よろけるがなんとか床へ倒れるのを踏ん張る。それでも、ロビンはゴク船長の傍へ引き寄せられた。ジャラリと鎖の音がする。
これで人質と言える人間が二人に増えた。

だが、大丈夫。ルフィもゾロもいる。仲間はまだいる。息もぴったりだ。仲間への信頼度も高い。誰もが大丈夫だと信じている。
ただチャンスを待つのみ。そう考える。
誰もが固唾を見守るが、いつでも動けるように神経を張り巡らせた。












「チッ。ナミさんが掴まっちまった。」

サンジはサニー号に飛び移り、しかしゴク達からわからない位置から状況を確認した。
隣にデュナミスも並んで潜む。

「てっきりこっちの勝負に割り込んでくるかと思いきや、こういう行動に出たか・・・。予定外だな・・・。」

ギリリと歯ぎしりをするが、後の祭りだ。

とコツコツと足音が近づいてきた。

「てめぇら、俺達を食い止めておいて・・・こういう狙いがあったのか。」

ゾロは、サンジもデュナミスもこの作戦に一枚噛んでいると読んだようだ。
内心、サンジは舌打ちするが、誤解をとくつもりはなかった。ゾロと手を結ぶつもりはない。このまま、誤解させたままで充分だ、とデュナミスの腕を肘で突いた。
デュナミスも承知したようで、近づくゾロに改めて剣を向ける。

「それ以上寄らないでもらえるかな。ここで騒ぎを起こしたら、彼女があっという間に死体になっちまうよ。」

真正面に立ちはだかり、ゾロの進路を絶つ。

「チッ。ルフィの奴、何処行っちまったんだ・・・・。」

ポツリと溢した言葉は、そのままサンジの心の中でも呟かれていた。




ドコココォォォォォォォンンンン!!!


ゾロの思考が伝わったのか。タイミング良く(?)真後ろから、誰かが飛んできた。いや、吹き飛ばされたようだった。

「ルフィ!!」

真っ先にそれを確認したのは、サンジだった。デュナミスも驚きを隠せないようで固まっている。
と、ゾロがガキィとデュナミスの剣を弾き飛ばした。
ビィィィンと飛ばされた剣が床に突き刺さった。

「っっ!」
「剣士はいかなる時も油断はしちゃならねぇんじゃねぇのか?」
「ぅ・・・・。」

極悪な笑みを浮かべてゾロはデュナミスの喉元に刀を向けた。
とすぐに飛びずさる。

ヒュッ

サンジの足がゾロの脇を狙って振り上げられた。

「チッ。てめぇ、クソコック!!」

ズザザザと態勢低く、飛び下がる。

「止めろ、ゾロッ。下手に手を出すな!!あの船長、何か仕掛けるぞ!」
「だったら、ルフィを止めろよ!」

ゾロの言葉に、先ほど、吹き飛ばされて宙を飛んだルフィの流線を追った。

「あんのバカ・・・・。」

ゾロが額に手をあてて唸る。
サンジも飛ばされたルフィを見て、肩を落とした。

気がつけば、ルフィはゴクの部下にあっけなく掴まっていた。
ナミを助けるチャンスをどうやら無駄にしたらしい。
誰もがルフィの登場に驚きはしたのだろうが、二段構えの人質と飛ばされたルフィの着地点が悪かったのか。いつの間にか、力なくふにゃふにゃ状態で相対するゴクとウソップ達の間に倒れ込んでいた。
仲間も「あ〜あ〜。」と叫んでいるらしい、誰もが力なく脱力しているのが見て取れた。
海楼石製に鎖でぐるぐる巻きにされて倒れ込むルフィ。
いよいよウソップ達も手を上げるしかない状況に陥ってしまった。



「麦わら海賊団は・・・・期待外れだったな・・・。残念だよ、サンジ・・・・。」

ゾロに聞こえないように、デュナミスがサンジの耳元で呟いた。
もはや、麦わら海賊団では、ゴクは倒せないと判断したのだろう。
せっかくのチャンスがチャンスにさえならなかった。そして、ゾロとの勝負も決着がつかないまま。


だが。
サンジは目を閉じた。


「いや、まだだ。」

一旦は閉じた目を開いてサンジはデュナミスに答えた。



10.06.04




           




戦闘シーンは特にダメダメですね・・・。すみません・・・。