すれ違う思い 重なる思い25
「いや、まだだ。」 デュナミスに答えたサンジは、チラリとゾロを見やった。 先ほどのやりとりでの誤解を解くつもりはないが、それでもゾロには伝わったはずだ。 案の定、ゾロは一瞬、意味がわからず片眉を上げた。が、すぐになるほど、と言う表情を見せてからニヤリと笑う。 そして、何を思ったのか、サンジに向かって刀を振り上げた。 ビュオッ ヒュッ 一振り、二振り。 右へ、左へ振り回される刀の素早さにサンジはただ避けるしかなかった。右へ左へ身体を捩る。 「サンジッ!!」 デュナミスが叫ぶが、サンジはデュナミスが割り込まれないように上手く移動しながらゾロの刀を避けていく。 と、サンジはバック転を数度繰り返し、大きく跳躍した。 タンッ そのまま着地したのは、ゴクと麦わらの一味の間。ルフィのすぐ横だった。 ダンッ ゾロもサンジに続いて彼らの中に割って入った。 突然現れたゾロとサンジに誰もが驚いた。戦いながら現れる二人は、ルフィ以上に予想外だったのだろう。 「止めろっ!サンジッッ!」 デュナミスも慌てて叫び、手元に落とした剣を拾って、二人の元へと走り出した。ゴクは、それをチラリと横目でみつける。 「てめぇも動くな、サンジ!」 ゴクがドスの聞いた声で叫んだ。途端、サンジの動きがピタリと止まる。 と、そこへゾロの刀が横から襲いかかる。 「サンジッッ!!」 デュナミスが叫んだ。 咄嗟にサンジは身体を屈めて、ゾロの刀を避けた。斬撃としての威力の大きな振り。まともに受けたら一発であの世行きの威力。 ガキィィン その大きな衝撃は、サンジを通り越して、ゴクの大斧を弾き飛ばした。あまりの威力に重量のある大斧も、大空に舞い上がる。 と、いつの間にか、目の前にルフィがゴクの前に立っていた。 「な!?」 「ゴムゴムのガトリングッッ!!」 バキイイイィィィッッッ 大斧の後を追うようにゴクもまた空を舞った。 「な・・に・!??い・・・・ったい・・・いつの・・・・・間にぃ・・・!??」 驚愕に目を見開いたまま、ゴクが吹き飛ばされた。 全てのことが一瞬で、デュナミスはただただ呆然としていた。 「は・・・・早い・・・・。」 ゴクがルフィに吹き飛ばされる前。 斬撃でゴクの大斧を弾き飛ばしたゾロは、その勢いのままルフィを捕えた鎖を切った。サンジは、避けた態勢から素早く移動し、ナミを掴んだゴクの腕を蹴りあげていた。そして、緩んだ腕から素早くナミを抱きあげる。ナミも承知していたのか、何の躊躇もなくすんなりとサンジの腕に抱きついた。ルフィもまた、ゾロが鎖を切ってくれるものとわかっていたのか、対応は素早かった。 「何で、海楼石の鎖が切れるんだ・・・?鉄よりも強度は強いはず・・・・。普通は鉄でさえ、切れるものじゃないのに・・・。」 「まぁ、海軍仕込みの品だったら、俺でも切れねぇが、こりゃあどう見ても粗悪品だろ。それなりに効果はあるだろうが、強度が弱いのは、一目でわかる。」 デュナミスの呟きにゾロが独り言のように答えた。 呆然としていたのは、ゴクも同様だった。 ダンと甲板に叩きつけられて意識は朦朧としたままだろうが、デュナミス同様、愕然としていた。いや、ゴクだけでなく、ゴク海賊団の誰もがあっけにとられて誰一人、動けなかった。 「な・・・・・なんだ・・・・こいつらは・・・・・・!?」 卑怯なやり口で今までのし上がってきたのだろうが、本当の強さというものに出会ったことがなかったのだろう。目を見開いてワナワナと震えている。 「ち・・・・くしょう・・・!!・・・・おい・・・・誰かいないか!?こいつらをやっつけろ!!・・・ロアッッ!ロアはどこだぁぁ!!」 思うように身体が動かないのか、部下達に声を掛ける。 僅かに残った部下達が、ハッとし、慌てて目の前のルフィ達に襲いかかる。が、頼りになるはずのロアは現れない。ルフィに倒されたことをゴクは知らなかった。いや、他の幹部も来なかった。主だった連中はいつの間にか、倒されてしまっていたのだろう。ゴク海賊団は、やはりルフィ達の敵にはならなかった。 ルフィのすぐ後に同じく鎖を切ってもらったロビン、そしてウソップ達もすぐに戦闘態勢に戻ったため僅かな部下達もあっけなく倒されていった。 ルフィは、目の前の雑魚連中をぶっとばすと、ゆっくりとゴクの手前に近づいた。残りはこの船長、ただ一人。 まだ吹っ飛ばされた衝撃からわずかに戻れないゴクは、目の前の少年を下から睨み上げる。 「てめぇも、もう、おしめぇだな・・・。」 抑揚のない声でルフィが告げる。 パキパキと指を鳴らす音が妙に響いた。 「待ってくれ、ルフィ!」 横からサンジが割って入った。チラリとルフィは声の主に目をやる。 「止めは、こいつに取らせてくれ。」 ただただ麦わら海賊団の見事なチームプレーに見惚れるしかなかった剣士が、漸く落ち着きを取り戻したのか、サンジのすぐ脇に位置していた。 「なんだ?おめぇは・・・?」 ルフィがキョトンと首を傾げる。 「デュナミス・・・・ゴク海賊団の剣士だが、ずっとゴクを倒すためだけに生きてきたんだ・・・。」 サンジが簡単に説明をすると、デュナミスはコクリと頷いた。 不本意な形だが、贅沢は言ってられない。今が、ゴクを倒す最大のチャンスなのだ。 「ん〜〜〜。」 ルフィが腕組みをして、さらに首を傾げる。緊張感がまったく感じられない。 と、ゴクがニヤリと笑った。 「伏せろ!!」 叫んだのは、ゾロだったか。 バシュッ 突然、辺り一面、煙が立ち上がった。一瞬にしてゴクを中心に真っ黒な煙に覆われ何もわからなくなる。 煙に巻き込まれたのは、ルフィとサンジと、デュナミスだった。 と、煙の中から飛び出て来た人物がいた。 「ルフィ!!」 弾き飛ばされたのだろうルフィをゾロが全身で受け止める。 と、コロンと足元に何かしらビンが転がった。ルフィはゾロに抱きかかえられようにして、ぐったりとしている。 煙の方に目をやれば、まだ、煙はもうもうと拡がっていく。 「毒煙だ!!吸うな。5分と持たないぞ!!煙から離れろ!!」 煙の中から、叫んだ声はデュナミスのものだった。 慌てて、誰もがその場から離れる。 「ルフィの足元にあるのは、解毒剤だ!!チョッパーすぐにルフィにそれを・・・・ゴホッッ!!」 デュナミスの言葉の後に続いたのは、サンジの声だった。 「サンジくんっっ!!」 ナミが叫び声を上げた。だが、近寄ることができない。 と、ガツンガツンと足音が煙の中から響いてきた。 「おっと、残念・・・・。麦わらを遣ろうかとおもったが、解毒剤を取られちまったか・・・。やるじゃねぇか・・・サンジ。それに・・・・・。」 懐に隠し持っていたのだろうか。マスクをつけたゴクが、足元はおぼつかないまま、ゆっくりと煙の中から現れた。 何故か脇腹に剣が刺さっていた。 ゴクは脇腹を押えてふらふらと前に進む。左手で刺さった剣のすぐ上を押さえているが、血がドクドクと溢れ出してきていた。 「ちくしょう・・・・。毒のことを知ってるからすぐに逃げ出すと思ったのにな・・・。こんな傷をつくられちゃあ、マスクの意味がねえじゃねぇか・・・・。」 ゴクに刺さった剣は、デュナミスが手にしていたものだった。 ゴクが毒煙の弾を足元に投げつけた瞬間。デュナミスは咄嗟に逃げることもせず、ゴクに剣を突き刺したのだ。煙の毒に犯されるのを覚悟で。 そして、サンジはルフィを蹴りだし、剣を突かれて倒れそうになったゴクの懐から解毒剤を盗み出し、ルフィの元へと投げたのだ。 煙の中心にデュナミスとサンジが倒れているのが薄く見て取れた。拡がって薄くなっていく煙。だが、だからといって毒の威力がすぐに消え去るわけではない。 だれもが、じりじりと煙の外へと後ずさる。 二人は倒れたままだ。 ゴクもまた、彼の命の火も小さくなっているだろうが、その手には同じだろう毒煙の弾が二つ、三つ、手に握られている。 また弾を投げつけられたらたまったものじゃない。 ゾロは、剣圧で煙を吹き飛ばそうとしたが、その前にゴクをどうにかしないといけない。 すぐに煙の外へ蹴りだされた船長だったが、それでもやはり煙をしっかりと吸い込んでしまったのだろう。身体がピクピクと痙攣していて、チョッパーが慌てて人型になる。解毒剤を手にしてルフィを抱きあげた。 「ルフィを先に医務室に連れていく。すぐにサンジも連れてきて!!」 「わかったわ!」 叫ぶなり、ルフィを抱いて医務室に向かって走り出した。幸い、風の向きがよかったのか、医務室の方には煙が流れていない。 「早くしねぇと、サンジが!!」 ウソップが叫ぶが、まだ毒煙を手にしている男が傍にいる。そして、サンジの回りにはまだ煙が残っている。 と、ガフッとゴクがマスクの中で血を吐いた。 脇に刺さった剣をズルッと抜き取り、大声で吠えた。 「ちくしょう!!・・・・・解毒剤を・・・・取られ・・・ちまった・・・し・・・・俺もこれまで・・・・・か?」 解毒剤を取り返しようにも、その薬はチョッパーが持って行ってしまったし、今のゴクにはそれを追う力さえ残っていないのだろう。足元が覚束ない。 「こうなったら!!みんな・・・・道連れに・・・・してやるぅぅ!!」 大きく振りかぶり、弾を甲板に叩きつけようとした。 ゾロが咄嗟に斬撃を放とうとしたが、ロビンがそれを止める。 「ダメよ!すでに広がりつつある毒煙が、衝撃でさらに広がる。」 と、ゆらり、とゴクのすぐ後ろに人の影が映った。 「!!」 ドゴオオオォォォォォ ものすごい勢いでゴクが後から吹き飛ばされた。手に毒煙を持ったまま。 最後の気力を振り絞って、サンジがゴクを蹴り飛ばした。 彼はそのままサニー号を離れ、遠く海に落ちて行った。ドボンと飛沫があがり、そのすぐ後に、ゴクが落ちて行った海に黒い煙が湧きあがった。モウモウと禍々しい煙が空へ向かって上がって行く。弾がはじけ、毒煙は上がったが、距離からしてここまで届かないだろう。 ゴクを蹴り飛ばしたサンジは、ふらふらと二、三度身体を揺らめかせ、そのままバタリと甲板に倒れた。 「サンジィィィ!!」 ウソップが叫び、走り出す。 「まだダメ!!」 ロビンが手を咲かせ、今度はウソップを止めた。 「だが、サンジがっっ!!」 ウソップは後を振り返る。 ロビンは目を細めて、ゾロに言った。 「ゾロ。闇雲に剣を振ってはダメよ。わかる?」 「わかった・・・・。」 ゾロはロビンの言わんとしたことがわかった。一瞬目を瞑る。 今度はゆっくりと目を開けると、風向きを考え、押さえた剣圧で煙を吹き飛ばした。 「さすが!」 毒煙が旨い具合に消えて行く。禍々しい色をした煙は無くなった。もう近付いても大丈夫だと判断されて、慌てて誰もが走り出した。 「サンジくんっっ」 「サンジィィィ!」 「サンジさんっ!」 みんな一斉に倒れた二人のところに駆け寄った。 「早く、二人を医務室に!」 ロビンが顔を医務室に向けた。フランキーがデュナミスを抱え上げ、ウソップがサンジを抱きあげた。 ブルックは医務室のドアを開ける。 ナミやウソップがサンジの名前を何度も泣きながら叫んだ。 ゾロは剣を手にしたまま、呆然と甲板に佇んだままだった。 |
10.06.28
久しぶりの更新です・・・・。漸く苦手な戦闘シーンが終わりました〜vあと、少し!←本当か?