すれ違う思い 重なる思い After2




「島が見えたぞ〜〜!」
昼食を終えて一服していたところに、拡声器からウソップの声が船内に響いた。
その声に、片付けを終えてカウンターで煙草をふかしてしたサンジの顔に一瞬、緊張が走る。
ロビンと、今度の島に着いた後の留守番の時にゾロと話をすると約束した。 島に着くまでの間、夜に酒を交わすことなく、また昼間も大して二人きりになる時間がなかったからかもしれない。いや、きっとそういうことではないだろう。サンジの気持ちの問題だろう。
ゾロの方はと言えば、相変わらずで、トレーニングをしているかそれともゴロゴロと惰眠を貪っているか、そのどちらかだ。たまにルフィ達の遊びに引っ張られる事もあるが、今回は上手くかわしていたようだ。
ただ、やはりサンジの何かを察したのだろうか。自分からはサンジに近寄ろうともしなかった。

そうこうしているうちに、接岸の準備に駆り出された。

島は、人々が暮らしておりそれなりに栄えているようで、船は街から離れた岩陰に隠される。街の繁華街には、海岸沿いに15分程歩けば着くような場所だ。
まずは、とナミとウソップが街に偵察にと船を降りた。
夕食までには戻ってくるということで、サンジはいつも通り、全員分の食事を用意しようと時間を確認してから、キッチンに入った。
「あ〜。これ、もう使っちまわないといけねぇな・・・・。」

冷凍していた肉を手に取る。
冷凍だから日持ちはするが、それでも美味しく食べるならある程度の期間で消費しなくてはいけない。船に付けられている冷蔵庫は業務用程の大きさと機能を持っているから、品質にさほど心配はないが、せっかく島に着いたのだ。古いのから片付けなくては、新しい食品も仕舞うことができない。
手にしていた海獣の肉は、ルフィも満足できるような結構な量があった。

「さて、何にしようかね・・・。」

料理に没頭しないと、脳がついつい余分なことを考えてしまう。島が見えたとウソップの声を聞いてから落ち着かず、先ほどから必要以上にキッチンの中をうろうろと歩き回っている自分に内心叱咤する。
まずは夕食だ、と海獣の肉の他にもいろいろと冷蔵庫から食品を取りだした。

「ねぇ。サンジくん!」

冷蔵庫に顔を突っ込む状態で座り込んでいたサンジのすぐ後ろから、可愛らしい声が届いた。
突然の事でびっくりして、庫内の棚に頭をぶつける。

「っっつ・・・・。」
「あ、ごめん。驚かせた?」

こぶになるほどではないが、ちょっとジンジンする頭を擦りながら、サンジは冷蔵庫の扉を閉めながら立ち上がった。

「あれ?ナミさん。もう帰ったの?気付かなかったよ・・・・。」

夕食の献立を考えるのに集中するようにしていたからか、やはり気の許す仲間だからか、サンジはまったく気付かなかったと苦笑した。

「うん。なんか一生懸命考えてたの?ブツブツ言ってたわよ。」
「あ〜。夕食をさ、せっかく島についたから片付けたい物を使ってちょっと豪勢にしようかって、考えてたんだ。」
「あ?そうなの?ごめん。」

サンジの言葉を受けて、ナミは手を合わせて頭を下げた。

「え?」
「あのね・・・。」
ナミが、ちょっとだけバツが悪い顔をする。

「島の情報を集めてる時に寄った宿でね。実はキャンセル空きの部屋ができちゃったんですって。で、折角だから安くするから泊まらないか?って言われて・・・。レストランの仕入れとかもしちゃった後だからもったいないって言うし。で、交渉したら、かなり安く泊まれることになって。」

それはきっとナミの手腕が発揮された内容なのだろう。
サンジには申し訳なさそうだが、それでも、してやったりと舌をペロリと出した。

「通常、10万ベリーする部屋が2万べりーよ!半額以下よ、半額以下!!もちろん、最高級のホテルで!!」

サンジが「すごいね。」と言った途端、ナミは自慢気に胸を張ってVサインをする。
一体どんなホテルで情報収集しようとしていたのだろうか。そして、宿泊とは。
しかし、こんなチャンスでもない限り、豪勢な時間は過ごせないだろう。何せ、自分達は海賊なのだから。

「じゃあ、ナミさんとロビンちゃんは、ホテルで食べるってことで、晩飯はいらないんだよね?」

状況から言って、きっとナミ1人ということはないだろう。麗しの考古学者も一緒だろうということは推測できた。
と、ナミがフフフと笑いを溢した。まだ、話は終わってなかったらしい。

「実は、2万ベリーっていうの、1部屋分だけじゃないのよ♪」
「え?」

ナミはさらに大きく胸を張った。

「3部屋分で2万ベリーなの!すごいでしょ!!」
「・・・・・さすがナミさん・・・。」

いつもの「素敵だ〜v」という声さえ出ないほどあっけにとられた。
ホテル側からすれば、かなりの赤字になるだろう。キャンセルよりはマシだと言ってもこの額では、きっと大きな赤字は免れない。別の客に出会えばよかったか、それとも、いっそのことキャンセルのままの方が良かったのでは、と今頃悔やんでいるのかもしれない。
とはいえ、こちら側からすれば、願ったりかなったりというところだ。素直に喜んでいいことだろう。
でも、そうすると晩飯はどうなるのだろうか。

「でね、せっかく夕食の準備してくれるところ、悪いんだけど、みんなでホテルのレストランで食事をすることになったの。折角食事込みの金額だもの。いっぱい食べて得しなきゃ!」
「・・・・そうだね・・・。」
「ごめんね、サンジくん。でも、たまにはゾロと二人きりで楽しく夕食過ごしてねvv」
「え?俺は留守番!?」
「そうよ、留守番必要でしょ?」
「・・・あ〜〜〜。」

手を合わせて謝る顔でウィンクをする。
怒れるわけないじゃないかと、サンジは苦笑した。

ホテルが3部屋分と聞いて、一瞬、自分もホテル側に入ってるのでは?と期待したが、やはりそうではなかった。留守番組は、予定通りらしい。
ナミとロビンで1部屋。後は、男連中は、5人で2部屋、3人と2人か。まぁ、悪くない割り振りだろう。

と、考えていたら、遠くからウソップのナミを呼ぶ声が聞こえた。
ウソップもめったにないホテル宿泊ということで興奮しているのか、トーンが高いのが遠くてもわかった。

「あ、ウソップ?ごめんごめん。すぐ行くわ!」

自分を呼ぶ声にすぐに気が付いて、ナミは扉の方に向かって大声で返事をした。
サンジが手にしていた食材を見て、また申し訳なさそうに「ごめん。」と謝った。

「あぁ、これ気にしなくていいよ。明日、帰ってきたらルフィが食べれる様にだけしておくから。」

ニッコリと笑みを返すサンジにナミもほっとした表情を見える。
せっかくのホテルを堪能しなければもったいない。
サンジは食材を流しに置いて、出て行こうとしたナミに改めて声を掛けた。

「気をつけて!ホテル、楽しんできてよ。」
「うん!ありがと、サンジくん。」

と、扉を出て行く時に、何を思い出したのか、ナミはふと、振り返った。

「サンジくん。」
「何?ナミさん。」

扉を手にナミは先ほどのホテルの話の時とは違う、穏やかな笑みをサンジに見せた。

「私、サンジくんのこと、大好きよ。まだいろいろと心の傷がいやされてないかもしれないけど、でも・・・・サンジくんも幸せになる権利あるんだから!!絶対幸せになってね。」
「ナミさん・・・。」
「それが、ゾロとどんな関係になってもよ!」
「・・・・・うん・・・・ありがと。・・・・・。」
「じゃ、行って来ます。」
「行ってらっしゃい。」

軽く手を振ってナミは出て行った。
扉の向こうから、「待たせてごめん。」とナミの声が小さく届く。このまま、みんなでゾロゾロと船を降りて行くのだろう。自分とゾロを残して。

ナミが出て行くと、サンジは懐から煙草を一本取りだした。ゆっくりと火を点けて煙を吐き出す。
煙草を吸うと、肺に入った煙草の煙が自分を落ち着かせてくれる。

ナミの言葉は、自分の幸せを願ったものだ。嬉しくないはずがない。でも、自分とゾロの関係は、どうなるんだろう。
ただ、このままではいけないのだろう。ロビンとも約束をしたのだ。ゾロと話をしてみると。ゾロとの今後のことを考えると。
いつまでもゾロの優しさに甘えて、二人の関係をはっきりさせないわけにはいかないだろう。ゾロがいつまででも待っていてくれると言ったとしても。

煙草を咥えたまま、サンジは流しに置いた溶けかかった固い肉を見下ろした。

「まぁ、まずは食事の用意からだな・・・・。せっかくだ、この肉、煮込んでおいて、今夜の分と・・・明日ルフィが帰ってきたら食べさせるか・・・。」


煙草を一本吸い終わると、サンジは改めて食材に手を伸ばした。



あらかた料理を作り終えると、それを知っていたとばかりのタイミングでゾロが部屋に入ってきた。

「メシか?匂いが外まで届いたぜ。」
「あぁ、もう少しでできる。食べるか?」

サンジがレ―ドルを手にゾロを見やると、汗が滝のように流れてるのに気付いた。

「あぁ?何だ!その汗は!!シャワー浴びてから来い!!」
「いいじゃねぇか。いつもより多めに錘振ってたから腹減ってんだよ。」
「レディ達がいなくとも、そんな状態じゃあメシは食わせられねぇ。どうせ、メシが冷める前に戻ってこれるだろうが。行って来い!!」

サンジがシッシッと手を振ると、ゾロは面倒くさそうにしながらも、「しょうがねぇな。」とまたシャワーを浴びに出て行った。
彼も、みんなが出て行って今夜は二人きりだと言う事がわかっているのだろう。何も聞かれなかったし、早く食事をしたがった。


「やっぱ、今夜だよな。話をするなら・・・・。」

サンジは、懐から改めて煙草を一本取りだすと、火をつけて煙を吐き出した。


10.10.29




          




あまり進みませんでした・・・。すみません。