永遠の思いはあるのか15




メリー号の甲板に、倒れた男が引き上げられた。



死んだと思っていた。
生きていると信じていた。
二つの相反する思いをずっと心の奥底にしまい続けていたが、それが今、外へと噴出しだした。

今もなお、死んだように眠っているのが、憎らしかった。



ナミは倒れた男のすぐ横に座り込んで黙ったまま涙を流している。
それを見守るようにして皆が回りを囲んでいた。
サンジもその輪には加わっているのだが、何故か一歩外に足が引いてしまう。
本来なら、誰よりも喜び勇んで抱きつきたい気持ちが湧いている。
が、自分はその立場の人間ではない。
ゾロの生還を、ゾロの帰還を、誰よりも喜んで涙を流す人が彼のすぐ横にいる。

ゾロが行方不明になって、生死がわからなくなって。
彼女が一人きりで全てを背負わなければならないと分かった時、一生、彼女を支えると誓ったのだ。
だから、今も涙を流しながら彼の横に位置するのは自分ではなく、彼女なのだ。





ナミはゾロの横に膝をついた。
今だ眠るように気を失ったままだ。ゾロのことだ。いっそ寝ているのかもしれない。
ナミは、嬉しくて憎らしくて、なんだか彼を殴りたくなった。



ゴン!!


大きく振りかぶって拳を落とした。
大きな音がした。
それは、とても気がすっきりするほどに辺りに響いた。

そして、やはり過去を思い出させるほどに殴られた男も、それを切欠に目を覚ました。

「あ"・・・・・・・?朝か?」

最初に口から発せられた言葉も相変わらずで、まるでついさっきまでも一緒にいたかのような錯覚を起こす。
が、そうではなく、それなりの年月が経っているのは、目を覚ましたと同時にわかる彼の顔でわかった。
行方不明になる前とは違う。
かなりの戦いと旅を経験してきたのだろう。
彼が今までどこにいて、どういう生活をしてきたのかはわからないが、大人になりきる前の顔ではなく、すっかりと一人前の男として、大人としての風貌がそこには備わっていた。

しかし、それはお互い様で。
自分達もかなりの経験を積んできた。
海賊として追われ、戦い、旅をしてきた。
それ以外にも、人間として感動する瞬間と成長する経験をした。
このかわいい息子を手にいれるという経験。
しかし、幼子を連れての海賊家業は並大抵の苦労ではなく。


「ゾロオオッッ!!」

ゾロが目を覚ました瞬間、ナミは堪えきれない思いが溢れて思わず抱きついてしまった。

突然の状況に頭が着いてこれていないのか、キョトンとした顔で周りを一巡する。
見慣れた、しかし、見慣れない輪郭に変わった仲間達を認識するとゾロは破顔し、抱きつくナミの肩に手をやった。
別れていた恋人が再会したような行動に一瞬サンジの顔が歪みかけるがそこは耐える。

「ゾロ・・・。久しぶりだな・・・。」

まるで別れてから然程立っていないかのように船長が笑う。

「久しぶりだな・・・。ルフィ・・・。」

ゾロも船長に答えた。
お互いにニッと笑い握手を交わす。
死んだと思っていた仲間にまた会うことができて、これ以上の喜びはないだろう。ルフィのセリフは相変わらずだが、本当に嬉しそうだ。
だが、それよりも何よりもナミがずっとゾロから離れないのは、誰よりもずっとゾロのことを信じて待っていたからだろうか。
誰もがルフィに続いてゾロに声を掛けようとしたが、ナミが離れないものだからどう声を掛けてよいのか戸惑ってしまった。
しかし、ゾロは相変わらず頓着しない性格だからなのか、気にせずそれぞれに声を掛ける。

「ウソップもチョッパーも変わんねぇな・・・。いや、多少は勇ましくなったか?」
「何言うんだ、ゾロ。俺達ちゃあ、今までお前がいない分を補って余りある活躍をしてきたんだぞ!」

ゾロから話しかけられ、受け答える切欠をもつことが出来たウソップは漸く自慢げな声を上げる。そして、今や立派な男になったぞと胸を張る。チョッパーも見た目には変わらないように思えるが、強くなった。
誰もが、ゾロの抜けた穴を埋めようとこれまで頑張ってきたのだ。

「元気そうでよかったわ。」

ロビンもいつになく微笑んでいる。

「てめぇもな、ロビン。」

ちょっとだけのやりとりだが、すっかりと仲間意識は出来上がっているので、それで充分だと、お互いの表情でわかる。
ゾロは、その隣、一歩後ろにいたサンジにも声を掛けようと視線を動かした。
が、そこで改めて見知らぬ人物がいるのに驚く。
サンジの隣にちょこんと立っている子ども。

「・・・・・そのちっこいの・・・・。」

どう言っていいのかわらない、とばかりに言葉が詰まる。
当たり前だ、ゾロがいなくなってから増えたメンバーだ。
しかも、通常で考えれば、大の大人が仲間に増える分にはルフィの性格と少人数の海賊船という環境を考えれば納得はできる。
が、今、目の前にいるのは、到底、海賊船とは縁のないだろう年頃のまだ幼い子どもだった。
当の子どもの方も突然の来訪者に戸惑っているらしい。ギュッとサンジに抱きついて離れない。

「ぱぁぱぁ・・・・。」

不安そうな顔をしている。しかも、ゾロの顔が怖いのか、ちょっと涙目だ。

「大丈夫だ、プット・・・・。怖くないから、ほら、ママも一緒にいるだろう?」

抱きついている小さな子どもにそう笑顔で応える顔はまるで父親のようだ。その証拠に、子どもはサンジのことを拙いながらも『パパ』と呼んだ。しかも、サンジはナミのことを『ママ』と表現している。
降って湧いたような子どもにゾロはパニックに陥りかけた。

「コック・・・・・。てめぇの・・・・子どもか?」

途端に頭に踵を喰らった。

「バカヤロウ、てめぇ!!ナミさんに謝れ!!」

わからないから聞いただけなのに、どうしてこんなに怒られるのか、理由がみつからない。しかも、ナミに謝れと言う。
思わず怒鳴り返そうとした。が、そのナミが今だしがみついている。
思わずナミに話を振る。

「どいうことだかわかんねぇ・・・。説明しろ。」

ナミはまだ止まらない涙を拭い、コクリと頷いた。
サンジは、怒ったままそのプットと呼んだ子どもを抱いたままラウンジへ上がって行ってしまった。
ルフィ達は苦笑したままどう説明したものか、とお互いに顔を見合わせて思案中だ。

「あの子、プットは貴方の子なの、ゾロ・・・。」

突然の子どもの出現とそれに伴うナミの言葉にゾロは目を見開く。
過去、これだけ驚いたことはない、というくらいに驚いていた。
メリー号に辿り着くまでの苦労も、辿り着いた喜びも吹っ飛ぶ勢いだ。








再会の喜びもつかの間、ゾロには戸惑うことしかできなかった。






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07.02.17




予想通りの展開でごめんなさい。(>_<)