スキャンダル ――1――
バサッと、音がしたと同時に雑誌が床に落ちた。
そして、そこにはワナワナと手を震わせて、男が固まったように立っている。
近くにいた友人が『どうした?』と、顔を覗かせた。
と・・・、
「なんだ、こりゃ〜〜〜〜!!」
大声で叫んだ男、若林源三は、その友人であるヘルマン・カルツの襟ぐりをつかむ。
「ゲ・・ゲンさん、日本語で叫ばれても・・・・」
「たしか、明日から休みだったよな!!何日間だった?」
すごい形相の若林に聞かれて、カルツは一瞬、ビクつく。
「(ひえ〜〜〜〜っっ)・・・えっと・・、た・・たしか、明日から3日間だったが、どうした?お前、オフも自主トレするって言ってたのに・・。何かあったのか?その雑誌か?」
ピクンと若林の眉が動く。が、
「な、何でもねえよ!!俺、これからちょっと日本へ帰るわ。後、頼むな!」
簡単に言うと、片付けもせずに早々とロッカールームを後にした。
「どうしたんだ、一体?何が書いてあったんだ、この雑誌・・」
そう言って、カルツはついさっきまで『日本から送られてきたんだぜ』と言って若林が喜んで読んでいた、彼の日本の仲間が載っている雑誌を拾った。
それにしても、若林のこんな反応は初めてで、つい雑誌の中を見てしまい、カルツは思わず後悔する。
(見なかったことにしよう・・・)
ジュビロ磐田の練習場。
もう日も落ちかけ、ロッカールームでは皆、帰り仕度をしていた。
「おい、岬。どうする?表、報道陣がいっぱいだゾ。」
石崎がドリンクを飲みながら、話しかけた。
「困ったなぁ。本当に話すことなんて、何もないのに・・・。」
かばんにシューズを詰めていた岬は、困惑した顔で言った。
石崎の隣から浦辺がひょこっと顔を出す。
「まァ、仕方ねぇんじゃないの?あんな写真、週刊誌に載っちゃあ・・・。もてない俺らとしては、羨ましい限りだゼ!」
岬は下から覗くように浦辺をニラむ。気づいた石崎が浦辺を突つく。
「す、すまん。悪気はないんだが、ただやっぱり、ホラ、なかなかないだろ、アイドルさんと一緒にお食事って・・。」
浦辺はちょっとすまなそうに言う。
ふぅ、と岬は息を吐いた。
「だから、前にも言ったろ。あれは、スタッフの人達と皆で食事に行った時、彼女を送って行っただけだよ。」
そんなやりとりをしている間にも、
「おーい、岬!記者会見でも開くかぁ?」
なんて、ジョークが離れた所から飛んでくる。ドッと笑いが起こる。
「もう!他人事だと思って・・・。」
岬は今日、何度目かのため息をついた。
事の発端は、2週間前にさかのぼる。
アイドル歌手で人気急上昇中の優子を使った、あるTV番組の企画。『優子の突撃レポート!』と称して、今、注目されているスポーツ選手を順に紹介していく、というものがあった。
サッカー界からは、1年のブランクを経てJリーグデビューを果たした岬 太郎が的になった。
元々彼女がサッカーファンと言う事で話もはずみ、番組としては上手く収録も出来、それで事は終ったと思われた。
しかし、いつもはすぐ解散されるのが、その日は突然、優子の方から「食事にいきませんか?」と声を掛けられ、特に断る理由もなかったし、マネージャーやその他のスタッフも一緒だったので、岬もなんとなくOKしたのだった。
食事としては、よくある焼肉屋で、たしかにおいしく・・・。
ただ気になったのは、優子のお酒の飲みっぷリだった。回りも驚くぐらいいつもより多量のビールを飲んでいた。
当の本人は
「自宅マンションが近いから、大丈夫よ!」
なんて言いながら、しまいにはチャンポンまでして、テンションもかなり高かった。
岬はというと、ビールをチビチビと飲むだけで、
「だめよ〜、岬く〜んvvもっと飲まなきゃあ!」
なんて、彼女に注がれてはいたが、(アイドルもストレスが溜まる、大変な仕事なんだなあ。)なんて笑って見ていた。
案の定、優子は立っているのがやっと、という感じになってしまい。
回りが車で送るというのを、彼女は
「近いんだから、歩いて帰る!岬くんっ、送って!」
と言い出し、アイドルという事で多少の我侭が許されると思っているのか、今回の我侭もガンとして通そうという態度だった。しかも、挙句の果てには泣き出してしまった。
もう、こうなったらお手上げ!と、マネージャー達は肩を落とす。回りの目もあったが、岬が送って行く事になってしまった。
マネージャーの、
「くれぐれも、間違いのないように!」
という一言には内心ムッとしながらも、(仕方がないなぁ)とため息をつき、肩を貸しながら立ちあがる。
しかし、彼女は必要以上にくっついてくるし、マネージャー達の視線も気になるので、
「ほら、しっかりして下さい。」
となんでもないように話しかけながら、彼女を支えて歩き出した。
(まいったなあ、なんでこんな事・・・)と思いつつも、
「え〜〜〜と、茶色のマンション・・・。あっ、ここだ。ほら、優子さん、着きましたよ。」
と、マネージャーに教えてもらったマンションの前に立つ。
岬はなんとなくホッとしたが、優子は半分、ボ〜〜ッとしたままだった。
「あ〜〜〜、ありがと〜〜〜う。う〜〜んと、部屋〜〜に寄ってく〜〜〜?」
しかも、余計にくっついてきた。
あまりの積極性に驚きながら、
「いいえ、明日も練習があるし、僕はこれで・・。後は自分で帰れますよね。」
と、肩にかかった彼女の手を外そうとした時・・・。
「・・そっかぁ、残念ん〜〜。じゃ〜あ、これ、送ってくれた・・お礼〜」
突然、さらに接近したかと思ったら、グッとあいてる方の手で岬の顔を寄せて。
「―――――」
ディープキス。
あまりの突然の出来事に、岬は肩にかかっていたスポーツバッグを落としてしまった。
そっと離れた彼女は、
「おやすみなさ〜〜〜いvv」
と、ふらつきながらもニッコリしながらマンションに入っていってしまい・・・。
岬はしばらく固まったまま、彼女が入っていったマンションの入り口を見つめていた。
(どうしよう・・・。絶対、何か言われる・・・)
その光景を、誰がどうやって撮ったのか、週刊誌に載ってしまったのである。
次の日からは、彼女の事務所から怒りのTELはくるわ、彼女のファンからはもちろん、岬のファンからもTELやFAX、果ては「別れて〜」と嘆願書の署名までくるようになってしまった。
そして、忘れてはならないのがワイドショーの類の報道陣達・・・。
やはり、相手が今人気絶頂のアイドルともなれば、その報道陣達は所かまわずやって来た。
週刊誌が発売されてからすでに1週間程たつが、未だに報道陣達やファンからの攻撃は途絶えなかった。
当の優子はというと、全然気にも止めない様子でインタビューに答えており、すでに彼女気取りだった。
しかし、そんな状態もいつか時間がたてば、皆忘れてしまうだろう。
そう判断して、岬はそ知らぬ顔を決めこんだ。なんとか今のところ上手く報道陣もかわしているし、もちろんプロだから試合に影響する、なんてこともない。
しかし、岬は大事なことに気がついていなかった。
コメント:続くほど長い話ではないのだが、やってみたかったのvv
まあ、岬くんもサッカー界のアイドルなので1つぐらいこんな浮いた(?)話があってもいいのでは?
アイドル『優子』ってのがねえ、逆ナイス?週刊誌発売のタイミングも素人なのでいいかげん・・・。
初の小説がこんなんでは〜〜(滝汗)お許しを〜m(__)m・・って誰に謝ってるんだ?いえ、もちろん源岬ファンにですハイ。