過去と今と未来と2−3
カチンとスプーンが皿に当たる音が響いた。とても小さな音だったがそれに気づき、マリアが振り返る。 「ありがとう・・・・・。ご馳走様でした。」 「まだ、残っているわ・・・。」 苦笑しながら水を差し出すマリアにサンジは笑みでごめん、と謝る。 「なんか・・・、あまり喉を通らないんだ・・・。後でまた、貰うから・・・・・悪いけど、机に置いてもらっていい?」 マリアを見るサンジの顔に皿を受け取ろうとしたマリアの手がその頬に触れる。 ん?とサンジが不思議そうに見上げる。 慌ててマリアは手を引っ込めた。 「ごっ・・・・・ごめんなさいっっ!!あんまり、貴方の瞳があまりに悲しそうだったから、つい・・・・・っ。」 頬を染めて後を向いてしまう。 「ありがとう・・・・優しくしてくれて・・・・嬉しいよ。何処の誰だがわからない俺に・・・。」 ポツリと俯くサンジにマリアが慌てて、首を振る。 「ご・・・・ごめんなさい。・・・・・そんなこと言わなくていいからっ・・・。」 つい謝るマリアにサンジが顔を上げる。 「貴方の名前はサンジ・・・。この島にはロイという人と一緒に来たの・・。ううん、ちょっと違うのかしら。嵐に会って、乗っていた船が難破して、この島になんとか辿り着いたっていうのが、いいかしら。」 マリアの説明にサンジの目が見開かれる。 「君はどうして僕のことを知っているんだ?赤の他人だろう?」 小さく頷くマリアにサンジは不思議そうな顔をする。どうして赤の他人にそこまで優しいのだろうか。ここはどう見ても病院ではない。階下から聞こえてくる声から察するに何かしらの店だとはわかるが。 「貴方と一緒にいたロイっていう人。その人は、確かにもう亡くなってしまったけど、でもこの島に着いた頃は意識はあったの。少しずつだけど、話をしたわ。それぐらいしか、私にはわからないけど。聞きたい?」 優しい笑みをするマリアにサンジは素直に頷いた。 マリアの話は、確かにこの島に着いてから先ほど目を覚ますまでの僅かなものでしかなかったが、それでも記憶のないサンジには、ありがたかった。多少なりとも、自分のことがわかる。 自分がどういった人間で、どうしてここにいるのか。そして、まったくの一人ぼっちではなかったのだと、知ることができる。・・・そのロイも無くなって、今は一人ぼっちになってしまったのだが・・・。 この島に漂流したのはほんの1週間前のことだったわ。 この島の周辺は普段は穏やかなんだけれど、少し離れた海域は大きな嵐がたびたび起きるの。よく漂流物や漂流者が浜辺に流れ着くわ。よほど嵐が大きいらしく、大抵の方は亡くなった状態でこの島に着くけど、それでも助かる人もたまにいるわ。貴方もそんな一人ね。 ロイも確かにこの島に着いた時は、息があったけど大きなケガをしていて、助けた時は、あまり状態は良くなかったの。それでも、貴方のことがよほど大事だったのね。私が貴方達を見つけたのだけれど、その時もロイは貴方を大事そうに抱えていて、そして病院へ連れていった後も、何度も貴方のことを聞いてきたわ。自分の方がよほど酷い状態にも関わらず。 ロイも自分の先のことを予感したのかしら。あまり良くはなかったけど、貴方のことを頼むって、いろいろ話をしてくれたわ。 自分の名前がロイというのと、貴方の名前がサンジっていうこと。 ちょっと驚いたけど、二人は恋人同士だってこと。 2人ともコックさんで、昔は同じレストランで働いていて、今は奇跡の海を探して旅をしているんだってこと。 2人は悪い海賊に追われているってこと。 本当に簡単なことだけだけれど、それでも一生懸命に話してくれたわ。 でも・・・。 でも、何故かしら。 ロイは貴方が目覚めたら謝りたいって言ってたわ。ケンカでもしたのかと思ったけれど、理由は教えてくれなくて。 それでも、何度も何度も、貴方に会いたいって。会って、謝りたいって。 そう言って、息を引き取ったわ。 辛い話で、ごめんなさい。 何があったの・・・? ごめんなさい。覚えていないわよね。 大事な人を亡くして、そして何も覚えてなくて、・・・・・・辛くないわけないのに。 ごめんなさいね。 マリアはそう涙を溢した。 サンジがコクリコクリと、相槌を打ちながら聞いていた。 静かに聞いていたが、とても不思議な感覚だった。 どうしてマリアが泣くのだろう。 本来なら、ここで泣くのは通常なら自分なのだろうに。 涙が出ない。 覚えていないから? 大事な恋人だという人間が無くなったというのに、どうして涙も出ないのだろう。そんな薄情な人間だったのだろうか、自分は。 ただただサンジは窓から見える空を見上げるしかなかった。 何か口が寂しいなぁ。 声にならない呟きが漏れた。 |
今回短めです。・・・なんか、先が読めるなぁ〜〜。
2006.10.18.