過去と今と未来と3−3
「ゾロ・・・ゾロ・・・・。僕のこと・・・好き?」 「あぁ。」 「サンジよりも僕が好き?」 「あぁ。」 「もうサンジのこと、何とも思っていない?」 「あぁ、心配するな。JJ。」 何度となくJJはゾロに確認をする。 ゾロはそれに答える。 ゾロの返事を聞いてほっと安心すると、改めてJJはゾロの胸に顔を埋めた。 ゾロはJJのくるんと癖のある細い髪を優しく梳く。 優しく抱きしめると、JJはまるで猫が喉をゴロゴロと鳴らすように幸せそうに喜ぶ。 一頻りゾロの胸に頬をこすりつけると、ひょこんと顔を上げ、さらに愛を確かめるべく、強請る。 「ゾロ・・・・抱いて?」 「今からか?」 「うん。ゾロが不寝番でしょう?どうせ、今夜は敵襲もないだろうし、もう、誰も起きてこないよ。」 見上げれば、上る月も天空高く輝いている。確かにこれだけの月明かりならば、敵襲もないだろう。 誰もが寝静まり、起きる事もないだろう深夜。 不寝番というゾロに、夜食と不寝番にはいけないといいつつ酒を持ってきたJJは、いつの間にかゾロの身体にぴったりとくっついて離れそうにない。 ラウンジ裏の壁に凭れながらお互いの身体に寄り添って酒を飲んでいたが、結局・・・。 「その根拠はどこにあるんだ・・・。」 はぁ、とため息を吐きながらも、ゾロは服の中に手をいれ、JJの脇を撫でる。 さらりとした肌触りは、男を魅了するだけの柔軟さと艶やかさがあった。まだ成長途中であるのも関係しているのだろうか。 同じ男なのに、筋肉で固められた自分の肌とこうも違うものなのか、とゾロは思う。 まるで男を魅了して止まない魔性の女の肌のようだ。 しかし、ゾロは似て非なる、もう一つの魅了する肌を知っている。 筋肉がついてもはや丸みもないが、それでも触るとその抱き心地に魅かれてしまう美しく弾力のある肌。 今はもう触れるどころか、近づくことさえないが。 今だ忘れることのできないもう一つの魅了して止まない身体を忘れるべく、ゾロはまだ成長途中の割りに成熟している身体に没頭することにした。 一頻り情を交え、だるそうな身体をそのままにJJはその場に寝入ってしまった。 「風邪引くだろうが・・・・。」 他の仲間と違い、頑丈にはできていない彼に毛布を被せる。 自分は今だ身体が火照っている。 冷めやらぬ熱を冷やそうと空を仰ぎ見たその時、遠くからカタンと音がした。 誰かが、トイレにでも起きたのだろうか。 そう思い、そっと壁に隠れながら、音のした方向を覗く。 目を細めて見れば、船首に月にも増してや輝いている髪を靡かせた男が立っていた。 声を掛けてどうする・・・。 すぐに誰だかわかったが、声を掛けることは憚れた。 自分がここにいるのを知られたくなかった。例え彼が、今夜の不寝番がゾロと知っていてもだ。 そのことを知っているか知らずか。スラリとした背は、ゾロ同様に誰もを拒絶しているようにも見えた。 何をするでもなく、静かに海を見つめている。ただ、その手には昔は常に握られていた煙草はない。 ゾロも何をするでもなく、やはり静かに彼の背中を見つめるだけだった。 少し痩せたか・・・。 彼に肌に手を伸ばしたのは、もう半年以上も前のことなのに、離れた位置にいてさえそんなことに気が付く自分に苦笑する。 声が漏れてしまったのだろう。 突然、くるっと金の髪の男、サンジが振り返った。思わず目があってしまう。 見つからない方が有難かったが、気配を殺していたわけではない。気がつかれても仕方ないと、ゾロは今更ため息を吐いた。 サンジの方も、ゾロを見つけたその顔にバツが悪そうな表情が浮かんでいる。 「悪ぃ・・・・。邪魔するつもりはねぇよ・・・。すぐに部屋へ降りる。」 聞こえるか聞こえないかの声量でサンジが唇を突き出して話すと一歩足を踏み出した。 コツコツと足音が月夜に響く。 妙なことに気が付いたしまった。 先ほどゾロが物音に気が付いた時には、足音は聞こえなかったはずだ。 ・・・・・・・もしかして、ずっとそこにいたのか? そう気が付いて、思わず赤面した。 つい先ほどまでの自分を思い出す。 JJとの情交。 夜だからと、結構声が出ていたような気がする。 情事につきものの厭らしげな音も響いていたような気がする。 もちろん寝ている連中を起こさない程度には気をつけていたが・・・。 二人の情交の様子をサンジに聞かれていたのかと思うと、居た堪れなくなった。 かといって、改めて考えれば、今はゾロの恋人はJJであって、過去がどうであれ、サンジではないのだ。遠慮する必要は無いはずだ。 それでも、心の中に後ろめたさが湧き上がるのはどうしようもない。 顔を片手で覆ったまま何も言わないゾロをどう思ったのか、男部屋への扉に手を掛ける前にサンジは一度顔を上げて、笑った。 「気にするな・・・。俺は何も見ていないし、何も聞いていない。」 サンジのまるで自分は関係ない、どうぞ、二人で好き勝手やってくれ発言にゾロはさっと顔色を変えた。 思わず、深夜というのも忘れて足音を響かせてサンジの傍まで寄る。 サンジとしては気を利かせたつもりだったので、突然のゾロの行動に目を丸くする。 「どうし・・・。」 た。そう言葉を継ごうとして、グイッと腕を掴まれた。あまりの握力に思わず顔を顰める。 「確かにな!てめぇは関係ないよな!俺がJJをどう抱こうが、JJをどんな風に啼かそうが!」 理不尽な怒りだと頭ではわかっている。 だが、言葉が止まらなかった。感情が暴走しそうだ。 強く掴まれた痛さにサンジが腕を振り払おうとしたのを、ゾロは許さなかった。 屈んでいたサンジを引き上げて、マストにダン!と押し付ける。 そのまま身体を密着させ、サンジを逃がさない。 「てめ・・・・・何す・・・。」 目の前にある男の表情は突然のゾロの行動に怒りを表しているのに、ついその顔に見惚れてしまった。 思わずじっと見つめる。 どれだけの間、この男の傍に寄ることがなかっただろう。 頭の中は真っ白のまま、ゾロは自然と身体が動いた。 サンジは何が起こっているのかわからないまま呆然とゾロを見つめている。 ゆっくりと顔が近づいた。 何もわかっていなのか、サンジも逃げることがなかった。 二人の距離がさらに近づき。 唇と唇が触れ合うその瞬間。 後ろから引き止める声にゾロは我に返った。 「ゾロっ!!」 弾かれるように振り向くと、月を背に階段の上で立ち尽くすJJがいた。 二人して見上げるがJJの表情が逆光でわからない。しかし、顔を見なくともJJの感情ははっきりと手に取るようにわかった。 固まったまま離れることのない二人にJJは再度ゾロの名前を呼び、転がり落ちそうな勢いで階段を降りてくる。 ダンダンと他の者までも起きてくる勢いで駆け下りてくるJJに、ゾロははっとして強く握り締めていたサンジの腕を開放した。 サンジはまずいと思ったのかそれとも単にゾロから逃げたかったのかわからないが、開放と同時に慌ててその場を逃げるように男部屋への扉を開けて降りていってしまった。 何も言わずに・・・。 ただ黙って消えてしまったサンジを呆然と見送っていたら、今度はゾロがJJにマストにガンッと押し付けられた。 後頭部を打ったが、それがどうでもよくなるほどのJJの様子にゾロは詫びを言う。 「すまん。起こしちまったか・・・。」 「ゾロッ!!ゾロっ!!そんなこと言うの!!僕が起きちゃいけなかったの!!」 「そういうわけじゃ・・・。」 ゾロの胸に縋り付くJJに悪かったとJJの頭を撫でる。 着ているシャツが滲みてきている感触でJJが泣いているとすぐにわかった。 「ゾロはやっぱり・・・・・サンジのが好きなんだ・・・。」 「ゾロは僕のことなんか、どうでもいいんだ・・・。」 JJの呟きに罪悪感が湧き上がってくる。 あれから、まだお互いの温もりが冷めていないぐらいにしか時間は経っていないのに。 ゾロの行動はJJを裏切ったと思われて仕方がないのかもしれない。 「そうじゃない・・・・。」 「だって今・・・サンジとキスをしてた。」 「していない。」 「ウソ!」 「本当だ。キスなんてしていない。」 ゾロの内の感情は別にして、サンジとは何もなかったと言っても差し支えないだろう。まだ、未遂だ。 「だったら何を・・・。」 「・・・・。」 涙で濡れてしまっているJJの顔を両手で包み込み、上げさせる。 濡れ濡った瞳に唇を落とし、ギュッと抱きしめた。 「どうやらあいつ、ずっとそこにいたみたいで、俺達が後ろで何やっていたか感づいたらしいんだ。だから、誰にも言うなと釘を刺しておいた。」 先ほど見つけた時にサンジが立っていた場所を顎で指す。 JJは意外な答えに一瞬、キョトンとした顔を見せる。 「何?覗き?」 「そういうわけじゃないみたいだが・・・。起きていたら、俺達が始めちまったみたいで部屋へ戻るタイミングを外しちまったらしい・・・。」 適当に答えるが多分間違っていないだろう。 「別にいいじゃない・・・。みんな知っていることだし。」 「それでも、やっぱ分別は付けておかないとな・・。路上でキスするのとはまた訳が違うだろうが。」 昼間時々、JJが強請ってキスをする場面を誰もが見ている。もちろん、キス止まりだが。 二人は恋人同士なのだ。何を遠慮することがあるのか。 今更、とJJは笑うが、内容が内容だけにゾロの言う事ももっともかもしれない。 「そうだね・・・。ごめん。」 今泣いたカラスが・・・じゃないが、ゾロの言葉に安心したのか、JJはすっかりと機嫌が戻った。 「ね・・・・。目が覚めちゃった・・。もう一回しよ?」 下から見上げる瞳はもうすでに違う色で濡れている。 行為のあとにそのまま寝てしまったままだから、JJはシャツを羽織ったままで、下は何も穿いていない。 艶を含んだ身体をくっつけられればどうしても反応してしまう。 それに。 結局、何もできなかったのだが。 ゾロはあの時、見つめ合ったサンジの瞳に己の中から湧き上がってしまった熱を冷ますことが出来なかった。 ぐいっと腕をとり、一度、情を交えた場所へと足早へ戻っていく。 その足音にも誰も起き出さない様子を見ると、知らない振りをしてくれているのか、ただ単に本当に起きないのかわからなかったが、みんなに感謝だ。 素早く戻ると、改めてJJを組み敷いた。 「クソッ!」 ゾロの呟きはJJには愛欲を止められない己に叱咤したように聞こえただろうが、ゾロにはどうすることもできない湧き上がる理解不能の感情に舌打ちした。 JJのことを愛しているんだ。ただ単なる性欲ではないんだ。 己に言い聞かせるようにゾロはJJの身体を貪った。 頭の隅から、見つめあった青い瞳を追い出すことが出来ないまま。 |
なんだかゾロも私も中途半端・・・・。
2007..4.26.