永遠の思いはあるのか3




サンジは誰にもわからないようにシンクを向いて、ため息を吐いた。


やっぱりな・・・・、と思う。

やっぱり、ナミさんはゾロのことを好きだったのだ。
ふ、とした時に気が付いた視線。

それはいつのことだったのだろうか・・・。












敵襲も嵐もなく穏やかな航海が続いていた。
サンジはいつものように、「おやつの時間だ!」と船長達に声を掛けて。
女性陣には、熱めのコーヒーとともにみかんで作ったジャムをかけたシフォンケーキをサーブした。

「どうぞ・・・。ナミさん自慢のみかんをたくさん使わせてもらったよ。」
「んんっ・・・。ありがとう、サンジくん。」

船首でパラソルの下で静かに本を読んでいたナミだが、大好きなみかんを使ったとあって、すこぶるご機嫌の様子で返事をしながら、読んでいる本を閉じた。
笑顔がいつになく可愛いと思ってしまった。
サンジの作ったケーキにフォークを刺す。
「おいしい」の言葉にサンジも笑みが零れる。


そして、相変わらず寝腐れているこの船の極潰しの剣士のところにも、一つ持っていく。
見た目を裏切り、意外にも甘いものも好きらしく、残したり誰かにあげたりもせずに律儀におやつまで食べる剣士にサンジは好感を持っておやつを差し出す。

「ホレ、ナミさんのみかんのジャムをたっぷりとかけてあるが、くどくないように甘さを調節してある。食べれるだろう?」
「あぁ・・・。」

寝ているかと思いきや、すぐにのそりと起き上がり、ケーキが乗った皿を受け取る。
意外にも行儀良く、きちんと座りなおして、フォークをケーキに刺した。

「どうだ、うめぇだろう?」

ニヤリと自慢げに口端を上げてみせるサンジに小さく「あぁ。」と相槌を打つ。
表情は変わらないように見えるが、その跳ね上がった眉が機嫌の良さを伺わせた。どうやら口にあったようだ。

「そりゃあ、サンジくんの腕もだけど、私のみかんを使ったんだから、おいしいに決まっているわ、ね。サンジくん!」

いつの間に傍に来たのか。
ナミはサンジの横に立ってゾロを眺めていた。

「ありがとう、おいしかったわ。」

そう言って、サンジが持っていたトレーに空になった皿を乗せる。

「そりゃあもう〜〜〜〜、ナミさんのみかんは世界一だからねぇぇ〜〜〜〜〜vv」

くねくねとしながらもバランスよく皿を受け取る。
そのままナミは元いた場所に戻るかと思えば、その場に座り込んで、ゾロに声を掛けた。

「ね、ゾロ。おいしいでしょう?」

そういうナミの顔は、暖かい笑みを湛えていて。
作ったのがまるで自分であるかのようにゾロへと向けられる笑顔。

「・・・・まぁな。」

そう溢してゾロは、もくもくとケーキを口に運ぶ。
それを暖かい眼差しで見つめるナミ。

その空間に居るのが、なんだか居た堪れなくて、まるで二人の邪魔をしているようで、サンジは踵を返した。

「喰ったら、皿、きちんと返せよ。」
「あぁ・・・。」

振り返りざま、捨て台詞を残して足早にキッチンに帰る。

あいつ等、ケーキ足りたかな〜〜。

ケーキが出来上がるのをサンジの後でずっと待っていて、出来上がったとたんに手を伸ばしてきた船長達を思い出して、心の中で呟いた。
キッチンへ上がる階段を上がりきる頃に耳に入った言葉が後から追いかけてきた。

「もうっ、ゾロ。ほら、コーヒー零れているわよ。あんたも、結構だらしないわね〜。」

ナミの声音を聞いた瞬間にわかってしまった。
ナミのゾロへの気持ち・・・。





へぇ〜〜〜〜〜、ナミさん、もしかして、ゾロのことが好きなのか?
あいつ、藻類だし、ものぐさだし、根腐れ剣士だし、極潰しだし、・・・・・・・・それでいて、戦闘になると船長に負けず劣らず頼りになる。真っ先に敵に向かって行く。
それでいて、以前、船長に宣言した『負けない』という言葉通りに勝ち進み、さらなる高みを目指している。ひたすら己の道を突き進む高潔さがある。
それに自信があり、それでいてその自信を伴うほどの実力があるのもまた事実だ。
見た目も、強面ではあるが、悪くない、いや、どちらかといえば格好いい方の部類に入るだろう。それに、女性の母性本能をくすぐる一面もあるようだ。
島につけば、いろいろな女性に声を掛けられる事もしばしば。
大抵は、腰に下げられている刀の所為で、一般女性ではなく、その手の女性ばかりなのだが。それでも、モテルのは、確か。
そうだよな・・・・・格好いいよな、確かに。




サンジはそれから、なんとなしに二人を目で追うことが多くなった。
気が付けば、確かに二人は接触が何かと多い。

そういえば、ナミさん、戦闘の時、よくゾロに助けられてるもんな。
本当は自分が助けたいのだが、何故だか、ゾロに先を越されてしまう事がほとんどだ。
助けられた時のナミさんのゾロを見つめる目。
口では、『乱暴にしないでよ』と言いながらも、頬を染めている。
悪態をつきながらも、手がゾロに縋っている。
ゾロは戦闘に夢中で気がついていないのだろうが、あの時のナミさんの安心しきった瞳。
女性なら、誰だって靡くだろう。




















後を振り返ることなく、二人の様子を探る。
今だナミの告白に返事をしないゾロだったが、背中に感じる視線は暖かいものだった。
流しを掴んでいる手に力が入った。



まぁ、いいか・・・、ゾロなら。
なんだかんだ言っても信頼における仲間。
大事な大事なナミさんだが、ゾロなら大事にしてくれるだろう。
ゾロの本心は聞いたことはないが、でもナミさんなら大丈夫だろう。
性格的に淡い恋心を、っていうタイプではないだろうが、それでも仲間を大切に思う様を見ていれば愛する者を無碍にすることは決して無いだろう。
きっといい恋人になれて、きっといい夫婦になれるだろう。そして、いい子どもに恵まれて、家族で海賊って言うのも悪くないかも。



時々、二人でしていた酒盛りがなくなるのは、非常に残念だが致し方ない。
ゾロとは、ケンカが中心であるがそれでもお互い信頼の置ける仲間であることは、夜の酒盛りの場の雰囲気で確認済みだ。言葉では表したことはないが、それでも、本当に嫌いならば、二人きりで酒を交わす事はないだろうことは、サンジでもわかる。
同じ歳ということでライバル心剥き出しで争うことが多かったが、それでもいい仲間で、一緒に戦っていける仲間で、信頼の置ける人間だ。
酌み交わす酒は美味しく飲むことができ、語る言葉は多くは無いが、心地良い空間を作り出していた。

それが、今度から、ゾロとナミの二人で交わされることになるだろう。
友情の言葉が、愛情の言葉に変わり。
バカがつくほどの大笑いが、優しい笑みに変わり。
握られる握手は、包み込むような抱擁に変わる。




いいや、二人が幸せなら。







サンジはタバコの煙を吐き出して、キッチンの窓から見える月を眺めてゆっくりと部屋を出ようと足を進めた。






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06.07.13

進展したような、後退したような・・・?